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平成21年版科学技術白書 第1部 第2章 第1節

第1節 地球環境問題への対応と展開

1 人類が直面する地球環境問題

 ここ数十年の間に、科学技術の発展に伴って、著しい経済成長や産業構造の転換が起きた。しかし、これらの成長の影の側面として、人口の爆発、資源・エネルギーや食料の需給逼迫(ひっぱく)、気候変動・地球温暖化、水資源の汚染や枯渇(こかつ)等の地球規模の問題が顕在化している。発生源や被害地が一定の地域にとどまらず、次世代への影響も懸念されるこれらの問題の解決は、世界全体の持続的発展の前提であり、早急な対応が求められている。
 なかでも、気候変動等の地球環境問題に対する関心が世界的に高まっている。2007年には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(1)が、20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガス濃度の観測された増加によってもたらされた可能性が非常に高いとする第4次評価報告書を取りまとめており、気候変動枠組条約締約国会議においては、京都議定書の第1約束期間が終わる2013年以降の枠組みの検討が本格化している。また、2008年(平成20年)7月のG8北海道洞爺湖サミットにおいては、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも半減するという長期目標を気候変動枠組条約の全締約国と共有し、同条約の下での交渉において検討し採択することを求めることで一致した。しかし、この長期目標を既存技術の発展や普及のみで達成することは難しく、削減量の約6割を革新的な技術の開発とその導入に頼らざるを得ないとの試算もある(第1‐2‐1図)。そのため、既存技術の向上・普及だけでなく、環境・エネルギー分野の革新的な科学技術によるイノベーションと、それを支える社会制度等のシステムの改革が、我が国を含めた世界全体の喫緊(きっきん)の課題となっている。


1IntergovernmentalPanelonClimateChange

第1‐2‐1図 環境エネルギー技術の開発と普及

第1‐2‐1図環境エネルギー技術の開発と普及資料:総合科学技術会議「環境エネルギー技術革新計画」

資料:総合科学技術会議「環境エネルギー技術革新計画」

2 地球環境問題の解決に向けて

(1)世界的な「グリーン・ニューディール政策」の広がり

 前述のとおり、地球環境問題に対する諸外国の関心は高く、環境・エネルギー分野の研究開発に各国がしのぎを削っている。特に昨今、世界の経済情勢が急激に悪化している中で、米国をはじめとした諸外国では、地球環境問題等の解決に向けた新機軸として、環境・エネルギー対策の強化によって雇用の創出と需要の喚起を図り、長期的な成長を目指す「グリーン・ニューディール政策」が展開されている。
 2009年1月の大統領就任演説において、米国のバラク・オバマ大統領は、「科学を本来の姿に再建し、技術の驚異的な力を使って、医療の質を高め、コストを下げる。太陽、風や土壌を利用して我々の自動車の燃料とするとともに、工場を動かす」と述べており、環境・エネルギー分野の科学技術を重視する姿勢がうかがえる。また、エネルギー省(DOE)(1)長官には、同分野の科学者でもあるスティーブン・チュー氏が指名されるとともに、米国競争力法においてその設立が規定されていた同省エネルギー高等研究計画庁(ARPA‐E)(2)が新たに設置され、景気刺激法に伴う補正予算として4億ドルが配分されることとなった。さらに、米国では、風力発電や太陽光発電等の技術開発に年間150億ドルを投資する方針が打ち出されているほか、他の諸外国においても環境・エネルギー分野への重点投資が掲げられており、将来、白熱電球や蛍光灯からLED(発光ダイオード)照明への転換、内燃機関から電気及び燃料電池自動車への移行など、経済社会の変革が加速する可能性がある。


1DepartmentofEnergy

2AdvancedResearchProjectsAgency‐Energy

 そもそも、我が国は長年の研究開発の成果として、原子力発電、LED、燃料電池や太陽電池に代表される環境・エネルギー技術について、強い国際競争力を有している。例えば、地球温暖化問題を前にして、諸外国において原子力発電への関心が高まる中、我が国の企業は米国や中国等における新規原子力発電所建設への参画を果たしている。また、2009年(平成21年)2月に行われた麻生内閣総理大臣とオバマ大統領との日米首脳会談では、クリーンエネルギーや省エネルギー分野での日米協力の具体化に向けた協議を開始することや、自動車に比べ温室効果ガスの排出が少ないとされる新幹線技術等についての日米協力の方策を探求していくことで合意するなど、こうした技術は国際的に注目を集めている。さらに、世界的に需要が高まっている水に関しては、逆浸透膜等の膜技術を中心に極めて高い技術力を誇っており、我が国の水関連企業やNGO、大学等がコンソーシアムを構築するなど、連携して水ビジネスの国際展開を目指す動きが活発化している。
 しかしながら、今後、諸外国において環境・エネルギー分野への研究開発の投資が強化されることで、革新的な科学技術の開発や市場への導入、関連した新産業の創出等が起こると想定され、これまで我が国が有してきた環境・エネルギー技術の優位性が失われる可能性がある。例えば、太陽電池の生産量では、シャープ株式会社は世界第1位の座をドイツのQセルズに明け渡しており、今後も米国やドイツ、中国等の他企業の追上げが予想されている(第1‐2‐2図)。
 このような状況を踏まえると、我が国は、諸外国の動きを注視しながら、我が国が強みとする環境・エネルギー分野の科学技術を一層振興することで、国際競争力を徹底的に強化するとともに、国際社会においてリーダーシップを発揮し、地球環境問題の解決に向けて、そうした科学技術を積極的に海外に展開していくことが必要である。我が国においても、本年4月にまとめられた政府の「未来開拓戦略」において、「低炭素革命」を3つの最優先分野の柱の1つとしており、経済成長への制約を逆に新たな需要の創出源とすることを目指している。また、環境省においても、各省庁とも連携しつつ、世界的なグリーン・ニューディール政策の広がりを受けて、公共施設への太陽光発電パネルの設置等の社会資本整備、省エネ製品の消費拡大や環境関連の投資促進に加え、世界最先端の環境技術の開発と世界への貢献等を通じて、雇用の創出や需要の喚起を図ることをその内容とする「緑の経済と社会の変革」を取りまとめた。

第1‐2‐2図 国別・企業別太陽電池生産シェア(2007年)

第1‐2‐2図国別・企業別太陽電池生産シェア(2007年)

資料:経済産業省作成

(2)地球環境問題に対する我が国の取組

 地球環境問題に対する我が国の取組として、平成20年5月に総合科学技術会議が、国際的な低炭素社会の実現と、それによるエネルギー安全保障、環境と経済の両立及び開発途上国への貢献を視野に入れた「環境エネルギー技術革新計画」を策定した。同計画では、我が国における環境・エネルギー分野における短中期的・長期的な戦略の下、温室効果ガスの削減において世界をリードし、環境・エネルギー技術の開発と普及に向けた技術力の強化を推進することとしている。今後、急務とされる代表的な研究開発について以下1.〜5.に挙げる。
 また、地球環境問題の解決のためには、基礎的な段階から研究を強化すること等が必要であり、例えば、科学技術振興機構では、目的基礎研究を実施する戦略的創造研究推進事業において、戦略目標「持続可能な社会に向けた温暖化抑制に関する革新的技術の創出」の下で、気候変動緩和策となる低炭素社会実現のための様々な研究を実施しているほか、最先端の環境科学技術に関する情報発信を行っている。

1.再生可能エネルギー技術等の研究開発
 太陽光、風力、バイオマス・廃棄物等を活用した再生可能エネルギーは、二酸化炭素の排出量が少なく環境へ与える負荷が小さいエネルギーとして、今後も諸外国における導入が進むと見られている。我が国においては、これまでも再生可能エネルギー導入に向けた技術開発、導入促進施策を実施しており、実環境における実証研究、設置費用の低減等を進めてきた。しかしながら、現状では既存エネルギーと比べて設備面や発電面における経済性や、安定的な電源の確保等の面において、多くの課題が残されている。例えば、住宅や公共施設等への導入が拡大している太陽光発電については、発電効率の向上や発電コストの低減、原材料供給の安定化、発電システムの適用拡大等が現在の課題となっている。また、再生可能エネルギー技術に加えて、エネルギー効率の向上等に資する技術開発の推進も必要である。
 このような状況の中、我が国においては、材料開発を含め、経済性や発電効率等の改善に資する第2世代の有機薄膜型・色素増感型太陽電池や第3世代の太陽電池、地域に即したバイオマス利用技術、風力発電の出力安定化技術等の開発とともに、エネルギー効率の向上に資する超伝導材料、耐熱材料等の開発の推進が求められている。将来的には、産業用の大規模な発電システムとしての展開や途上国の無電化地域向けの発電装置等の開発により、地球環境問題の解決に大きく貢献することが期待される。

薄膜シリコン太陽電池

薄膜シリコン太陽電池

写真提供:新エネルギー・産業技術総合開発機構

2.原子力の研究・開発・利用の推進
 近年、地球温暖化対策やエネルギー安定供給の確保の観点から、世界的に原子力への期待が高まっている。IPCCや国際エネルギー機関(IEA)(1)等の議論においては、発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電の有用性が強く認識されており、また、2008年(平成20年)7月に開催されたG8北海道洞爺湖サミットでは、首脳宣言で気候変動の懸念に取り組むための手段として、原子力計画への関心を示す国が増大している旨が指摘された。
 特に、天然資源の乏しい我が国において、エネルギー安全保障を確保しつつ、地球温暖化対策を進める上で、原子力は極めて重要なエネルギーであり、安全の確保を大前提として、原子力発電の比率を相当程度増加させること、また、核燃料サイクルを確立するとともに高速増殖炉サイクルを早期に実用化することが重要である。そのため、2030年前後からの代替需要を視野に入れた次世代軽水炉の技術開発や、国家基幹技術であり次世代の原子力発電の主役となる高速増殖炉サイクル技術の研究開発を推進していく必要がある。そのほか、原子炉からの高温の核熱を利用した革新的水素製造技術や、長期的観点から環境・エネルギー問題を抜本的に解決する核融合技術に関する研究開発等についても、引き続き推進していくことが必要である。
 また、核不拡散、原子力安全、核セキュリティ(3S)を確保しつつ、多国間の枠組みなどを通じた国際共同研究の推進や、我が国の優れた原子力発電技術を活用した国際貢献も期待されている。


1InternationalEnergyAgency

3.クリーンエネルギー自動車の技術開発
 電気自動車等のクリーンエネルギー自動車は、従来の石油燃料利用の自動車よりも二酸化炭素の排出量が少ないため、環境負荷の少ない自動車として世界的な開発競争が繰り広げられている。
 なかでも、早期の普及促進が期待される電気自動車については、その要(かなめ)である二次電池の性能向上や、簡易かつ短時間で電力を供給する技術、モーター技術、軽量化のための素材技術の改良等が更なる導入に向けた課題となっている。例えば、現在最も普及が進んでいるリチウムイオン二次電池については、短期的には大容量化を中心とする性能や経済性の向上に向けて、電池材料の高度化等に関する研究開発を推進していくことが必要である。また、中長期的には、二次電池の更なる高性能化のため、リチウムイオン二次電池の改良の延長線ではなく、新しい原理に基づく革新的な二次電池の開発が期待されるところである。

電気自動車

電気自動車
(平成20年度 三菱自動車工業iMiEV 実証走行試験車)
写真提供:三菱自動車工業株式会社

4.二酸化炭素回収貯留(CCS)技術の研究開発

 火力発電所等で発生する二酸化炭素を分離・回収し、地中に貯留するCCS(1)技術は、二酸化炭素の排出量削減のための重要技術として期待されており、平成20年7月に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」においても、平成21年以降早期にCCSの大規模実証に着手することが示されている。
 これまで、地球環境産業技術研究機構(RITE)等において研究開発が進められてきたが、実用化を進めていくためには、経済性の向上のみならず、環境影響評価及びモニタリングの高度化、法令等の整備、社会受容性の確保などを含めた多くの課題があることが指摘されている。こうした中、経済産業省では、2020年までのCCSの実用化に向け、年間10万トン規模で、分離回収・圧入、貯留まで一貫したシステムの実証を行うことを目的とした「二酸化炭素削減技術実証試験」に平成20年度より着手している。今後は、分離回収から貯留に至る一連の技術の実証に加え、二酸化炭素の長期の挙動予測シミュレーション技術やモニタリング技術を確立していく必要がある。

二酸化炭素の概念図

二酸化炭素の概念図
資料提供:地球環境産業技術研究機構


1CarbonDioxideCaptureandStorag

5.地球観測や気候変動の予測
 地球観測や気候変動の予測、地球温暖化が人の健康や生態系に与える影響等の間接的な影響を含めた評価は、地球温暖化のプロセスの理解や気候変動予測の不確実性低減のために不可欠である。IPCCでは2013年以降に策定する第5次評価報告書において、地域ごとの影響評価など、更に精緻(せいち)な気候変動予測を行う予定であり、我が国としても、引き続き、予測モデルの高度化、陸域・海洋の気候変動応答プロセスの解明、長期の気候変動予測といった研究を推進していく必要がある。地球観測については、気候変動も含む観測データを全世界で共有する全球地球観測システム(GEOSS)の構築が進められている。平成21年1月には、温室効果ガス濃度分布を全球にわたり偏りなく観測する温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)が打ち上げられたところであり、観測データの解析・提供を進め、GEOSSの構築や地球温暖化対策の更なる推進への貢献が期待されている(第1‐2‐3図)。

第1‐2‐3図 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)

第1‐2‐3図 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)

・地球表面のほぼ全域を均一的に観測。
・3日間、44周回ごとに地球上の同じところに戻り高頻度に観測
資料:国立環境研究所

3 科学技術外交としての国際的取組

 資源に乏しい我が国としては、国際社会における地位の維持・向上を図るため、外交の手段として科学技術を活用するとともに、日本発の科学技術の更なる展開を図ることが重要となってきている。特に、地球環境問題を含む地球規模の問題は、一国のみの取組では解決が困難であり、各国が有機的に連携していく中で、我が国として、世界をリードする高い科学技術力を積極的に活(い)かしていく必要がある。
 このため、総合科学技術会議においては「科学技術外交の強化に向けて」(平成20年5月)を決定し、科学技術と外交を連携し相互に発展させる「科学技術外交」の一環として、文部科学省と外務省による「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」がスタートした。この事業は、開発途上国等のニーズを基に、科学技術振興機構が地球規模の問題を対象とした国際共同研究を政府開発援助(ODA)を実施する国際協力機構(JICA)と連携して推進し、地球規模の問題の解決等につながる新たな知見の獲得に加え、開発途上国が自立的に研究開発を行えるよう、その能力の向上を目指すものである。コラム6で紹介する課題のほか、世界的に水問題への関心が高まる中で、開発途上国における水資源管理・洪水・渇水被害軽減に資する情報の提供、日本型の高効率水循環システムの研究開発と普及促進、開発途上国における新興・再興感染症の制圧に向けた治療法の開発、地震火山の総合防災対策といった国際協力も進められているところであり、今後の更なる展開が望まれる。

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課

(科学技術・学術政策局調査調整課)

-- 登録:平成22年03月 --