ここからサイトの主なメニューです

平成21年版科学技術白書 第1部 第1章 第2節

第2節 研究人材の国際流動の増大と獲得競争の激化

1  研究人材の国際流動の増大と獲得競争の激化

 イノベーションのオープン化、グローバル化の進展と並行して、研究者も国境を越えて移動し、自国以外で容易に研究活動を行うようになった。また、将来、研究を担うと考えられる留学生も増加しており、国際的な移動が活発となっている(第1‐1‐17図)。その最大の供給元はアジア諸国であるが、地理的に近い我が国よりも米国が多数の留学生を受け入れている状況にある。(第1‐1‐18図)。
 このような状況の中で、新興国を含めた多くの国々においては、科学技術によるイノベーションの創出を図るため、優秀な人材を自国に惹(ひ)き付けるための受入れ政策や環境整備を積極的に推進している。こうした動きはこれまで諸外国から優秀な人材を惹(ひ)き付けてきた米国も例外ではなく、研究者や技能者の不足への懸念から、その受入れ拡大に向けた検討を進めている。また、米国や欧州等へ人材を供給してきた中国やインド等の新興国では、自国におけるイノベーションの創出のため、海外からの自国の人材の呼び戻しを含めて、諸外国から優秀な人材を獲得する動きが活発になっている。さらに、シンガポールのように、従来から生活環境の整備も含めて海外の優秀な人材の確保に積極的に取り組んできた国も存在する。
 以上のように、近年、人材の国際流動が高まっている中で、イノベーションの創出に向け、優れた研究者や留学生を自国に惹(ひ)き付けようとする人材獲得競争が激化している。

第1‐1‐17図 高等教育における国外留学生数の長期的増加

第1‐1‐17図 高等教育における国外留学生数の長期的増加

資料:OECD“Education at a Glance”を基に文部科学省作成

第1‐1‐18図 留学生の地域間移動の状況(2006年)

第1‐1‐18図 留学生の地域間移動の状況(2006年)
注:2万人以上のみ表示した。
資料:OECD“Online Education Database”を基に文部科学省作成  

2  我が国における研究者等の受入れの状況

 我が国の研究開発力の維持・強化を図る上では、内外から優秀な人材を研究者として確保することが極めて重要であり、少子高齢化が進む中で、特に、海外から優秀な研究者を獲得する必要性が一層高まっている。また、外国人研究者の受入れは、多様な価値観や文化的背景を持つ研究者との切磋琢磨(せっさたくま)を通じて研究の活性化を促すとともに、従来の所属機関等と受入れ機関の間における組織的な交流等へ進展することも期待される。
 留学生の受入れは将来の研究者の育成という観点から重要であるが、我が国の受入れ状況は、平成15年に「留学生受入れ10万人計画」の目標を達成したものの、ほかの主要先進国と比べると低調である(第1‐1‐19図)。また、主要先進国の科学工学系博士号取得者に占める外国人の割合について見ると、米国や英国は約4割であるのに対し、我が国は約1割にとどまっている(第1‐1‐20図)。

第1‐1‐19図  主要先進国における留学生の受入れ者数の推移

第1‐1‐19図  主要先進国における留学生の受入れ者数の推移
資料:
米国:IIE“OPEN DOORS”(1994〜2006年)、ユネスコ文化統計年鑑
英国:HESA“STUDENTS in Higher Education Institutions”(1997〜2001、2003〜2006年)、ユネスコ文化統計年鑑(1983〜1996年)
ドイツ:連邦調査庁(1997〜2006年)、ユネスコ文化統計年鑑(1983〜1996年)
フランス:フランス教育省(1998〜2006年)、ユネスコ文化統計年鑑(1983〜1995年)
オーストラリア:DEST(2004年)、AEI(1998〜2000、2003、2005〜2006年)、ユネスコ文化統計年鑑(1984〜1997年)
中国:中国教育部
日本:文部省留学生課(1983〜2003年)、日本学生支援機構(2004〜2008年)

第1‐1‐20図 主要先進国の科学工学系博士号取得者に占める外国人の割合

第1‐1‐20図 主要先進国の科学工学系博士号取得者に占める外国人の割合
 注:軸項目中の「N」は科学・工学系の博士号取得者の総数を示す。
資料:NSF“Science and Engineering Indicators 2008”Appendix Table 2‐49を基に文部科学省作成

 我が国における大学等の外国人研究者の受入れ状況についても、受入れ研究者総数は増加傾向にあるものの、内訳としては、30日以内の短期受入れによるところが大きく、より本格的な研究活動や人材交流が期待される長期受入れの実績は増えていないことが分かる(第1‐1‐21図)(1)。
 このように、我が国では、留学生の受入れや長期の外国人研究者の受入れが低調である。このため、大学等や研究開発法人においては、特色ある魅力的な研究を進めることなどにより、多様な価値観やキャリアを持つ留学生や研究者を海外から積極的に受け入れていくことが重要である。

第1‐1‐21図 期間別受入れ研究者数の推移

第1‐1‐21図 期間別受入れ研究者数の推移
資料:  文部科学省「国際研究交流の概況」


1 調査対象は国・公・私立大学、試験研究機関等である。当該調査での「派遣」とは、当該機関で雇用している研究者で、研究活動を目的として海外に渡航した者、「受入れ」とは、当該機関で雇用している(非常勤も含む)外国人教員・研究員等、及び共同研究・学会・講演会・シンポジウム等で招へい・来日した研究者と定義している。また、ここでの研究者とは、教授、助教授、助手、講師(非常勤を含む)など各機関で雇用している教員、並びに各機関と一定の雇用契約で結ばれている研究員を指す。

3 我が国研究者の国際流動等の現状

 情報化の進展や研究者の国際流動の増大に伴い、論文執筆や特許出願等も国際的に展開されるようになった。科学論文の共著の形態についても、単一機関内における共著が横ばい傾向であるのに対し、国内機関間共著や国際共著は着実にその数を増やしている(第1‐1‐22図)。特に最近の研究では、トップレベルの研究拠点間で国際共著が行われる事例も報告されており、国境を越えた著名な研究者同士のネットワークが醸成されつつある。
 こうした状況の下、我が国の研究者が国内外において様々な研究の場を経験するよう、研究者の流動性の向上を図ることは、創造性豊かで広い視野を有し、国際的な研究者のネットワークの中でも活躍できる研究者を養成する上で重要な課題となっている。例えば、海外での研究経験がある研究者の方が、ない研究者よりも、国際共同研究や国際共著論文の執筆等を行った割合が高く、論文の生産性も高くなっている。このことから、研究者の海外における研究経験は、研究者の国際的なプレゼンス(存在感)及び研究水準の向上の点においても重要であると考えられる(第1‐1‐23図、第1‐1‐24図)(1)。


1 調査対象機関は、国内の自然科学系の博士課程を有する国公私立大学等及び大学共同利用機関(計248機関)、国内の自然科学系の研究を行う独立行政法人、国立試験研究所、公設試験場、財団法人及び社団法人(計601機関)である。これらの調査対象機関に所属する研究者に対し調査を行った。配布数は15,250、回収数9,369、回収率61.4%である。

第1‐1‐22図  自然科学分野における論文共著形態の変化

第1‐1‐22図  自然科学分野における論文共著形態の変化

注:SCI:Science Citation Index(科学技術文献データベース)
資料:科学技術政策研究所「科学技術指標‐第5版に基づく2008年改訂版‐」(調査資料 No.155)

第1‐1‐23図  海外経験の有無と最近3年間における海外との関係(複数回答)

第1‐1‐23図  海外経験の有無と最近3年間における海外との関係(複数回答)

注:Nは有効回答数
資料:科学技術政策研究所「科学技術人材に関する調査」(調査資料 No.123)

第1‐1‐24図 海外経験の有無と最近3年間における論文の生産性

第1‐1‐24図 海外経験の有無と最近3年間における論文の生産性
 資料:科学技術政策研究所「科学技術人材に関する調査」(調査資料 No.123)

 我が国の研究者の国内外の流動性を見ると、これまでに異動した経験がある者の割合は66.1%と過去の調査結果に比べて増加しているものの、そのうち海外勤務経験のある者の割合は10.6%にとどまっている(第1‐1‐25図)(1)。また、すべての回答者のうち、近い将来海外で研究を行う予定のある者は2.0%と非常に少なくなっており、我が国の研究者の内向き志向が鮮明に表れている(第1‐1‐26図)。


1 平成17年度中にJSTPlus(科学技術振興機構が提供する、JST Online Information Systemsに含まれる科学技術全分野に関する文献情報データベースファイルの総称)に登録された論文の第一著者及び第二著者を研究者とみなし、うち2,000名を民間企業50%、大学等30%、公的研究機関等15%、その他機関5%の割合となるよう層化無作為抽出を行った。有効回答者数は1,036名、回収率51.8%である。

第1‐1‐25図 これまでの経歴における異動経験及び海外勤務経験の有無

第1‐1‐25図 これまでの経歴における異動経験及び海外勤務経験の有無
注:年度は調査時期
資料:科学技術政策研究所・文部科学省「我が国の科学技術人材の流動性調査」(調査資料 No.163)


第1‐1‐26図  近い将来、海外で研究を行う予定の有無

第1‐1‐26図  近い将来、海外で研究を行う予定の有無
注:Nは全回答者数
資料:科学技術政策研究所・文部科学省「我が国の科学技術人材の流動性調査」(調査資料 No.163)

 また、我が国の研究者の海外への派遣状況について見ると、派遣研究者総数は増加傾向にあるものの、その大半は30日以下の短期派遣者となっている。より本格的な研究活動や人材交流が期待される長期派遣者はごく一部にとどまっているだけでなく、近年は減少傾向にある(第1‐1‐27図)。また、地域別に見ると、アジアへの短期派遣者の増加や欧州、米国への長期派遣者の減少が顕著である(第1‐1‐28図)。

第1‐1‐27図  期間別派遣研究者数(短期・長期)の推移

第1‐1‐27図  期間別派遣研究者数(短期・長期)の推移
資料:文部科学省「国際研究交流の概況」 

第1‐1‐28図 派遣研究者数の地域別の推移

第1‐1‐28図 派遣研究者数の地域別の推移
 資料:文部科学省「国際研究交流の概況」

 さらに、我が国における国際共著論文の割合は、依然としてほかの主要国等を下回っている。(第1‐1‐29図)。

第1‐1‐29図 我が国及び諸外国における国際共著割合の推移

第1‐1‐29図 我が国及び諸外国における国際共著割合の推移
 資料:科学技術政策研究所「科学技術指標‐ 第5版に基づく2008 年改訂版 ‐」(調査資料 No.155)

 また、内向き志向は、研究者のみならず学生にも見られている。日本人学生の海外留学の状況を見ると、平成11年ころまでは増加傾向にあったものの、近年は伸び悩んでいる(第1‐1‐30図)。加えて、前述したとおり、米国では科学工学系の博士号取得者の約4割が外国人であるが、その内訳をアジア諸国について見ると、我が国が200人規模で横ばい傾向にあるのに対し、韓国、インド等は我が国の5倍以上、中国は15倍以上へと、その規模を拡大している(第1‐1‐31図)。

第1‐1‐30図  日本人学生の海外への留学の推移

第1‐1‐30図  日本人学生の海外への留学の推移
資料:文部科学省作成

第1‐1‐31図  米国の科学及び工学系の博士号を取得した外国人数(アジア諸国)

第1‐1‐31図  米国の科学及び工学系の博士号を取得した外国人数(アジア諸国)
資料:NSF“Doctorates awarded 1996‐2005”を基に文部科学省作成

 このように、我が国の研究者の海外への異動や派遣は低調であり、国際的な流動性の高まりの中で、我が国の研究者が国際的な研究者のネットワークから取り残されつつあることが懸念される。

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課

(科学技術・学術政策局調査調整課)

-- 登録:平成22年03月 --