ハイリスク研究(あるいは、ハイリスク・ハイインパクト研究等とも呼ばれる)とは、研究目標が達成されるかどうかには高いリスクがあるが、成果が出るとインパクトがあり、分野の進展に貢献するなど非常に大きな影響を与える可能性が高い研究(注1)を指す。
イノベーション創出の仕掛けとして、ハイリスク研究への試みは、特に米国において積極的に実施されている。従来から、ハイリスク研究の取組を実施している国防高等研究計画庁(DARPA)(注2)やハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)(注3)において取り組まれてきたが、2004年度以降、国立衛生研究所(NIH)や国立科学財団(NSF)においてもこのようなファンディング制度(研究資金配分制度)が設けられ、実施されている。ここでは、主にDARPAにおけるファンディング制度を中心に紹介する。
国防高等研究計画庁(DARPA)は国防総省の下部組織であり、米軍の技術優位、国家の安全保障を確保する目的で1958年に設立された。同局の立ち上げは、1957年のソビエト連邦による世界初の人工衛星「スプートニク」の打上げの衝撃、いわゆる「スプートニクショック」の対応策であったとも言われている。
DARPAは、専門の研究施設を持つわけではなく、実際の研究は公募されたプログラムオフィサーが中心となって、企業や大学の研究施設で行われており、実質的にファンディング機関に類似するものとなっている。DARPAがファンディングの対象とするのは
ハイリスク研究であって、かつ陸海空軍のいずれかの用途に特定されない研究、
喫緊の課題ではなく、中長期的に見て米軍が必要とするかもしれない研究開発である。その研究成果の代表例として、現在のインターネットの原型となったARPAnetが挙げられる(図)。
DARPAの役割

DARPAのマネジメントの特性として、組織構造のフラットさとプログラムマネージャーの裁量権の大きさが指摘される。まず、DARPAの組織構造はフラットであり、意思決定のための段階は、公募された各プログラムの責任者であるプログラムマネージャーの上は各研究室長であり、その次はDARPA長官と、3階層しか存在しない。また、プログラムマネージャーには、研究プロジェクトの立案から計画、運営、実行に至るまでのすべての過程において大きい裁量権が与えられ、強力なリーダーシップ、短期間での成果達成が求められている。
DARPAにおけるハイリスク研究は高い実績を残してきた一方で、NIH、NSF、DOE等における長期的視野に基づく基礎研究が必要とされる分野においては、審査のスコアを上げるために生産性を重視する研究が多く提案・採択されたと考えられるようになった。その結果、研究成果が分野の進展には必ずしも貢献しないのではという疑念とともにファンディング制度見直しの機運が高まり、2004年、NSF、NIHにおいてもハイリスク研究を推進する新たなファンディング制度が創設された。