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第2部 第2章 第2節 政策課題対応型研究開発における重点化

 第3期科学技術基本計画の下、「明日への投資」である政府研究開発投資の効果を最大限に発揮するためには、基礎研究の着実な推進とともに、政策課題対応型研究開発の戦略的重点化が必要である。そのため、本基本計画に基づき、第2期科学技術基本計画における重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)については、三つの基本理念への寄与度の大きさ、戦略としての継続性の要請、各国の科学技術戦略の趨勢(すうせい)、国民からの期待などを踏まえ「重点推進4分野」とし、優先的に資源配分を行い、また、重点推進4分野以外の四つの分野(エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア)については「推進4分野」として、引き続き国の存立にとって基盤的であり国として取り組むことが不可欠な研究開発を推進する分野と位置付け、適切な資源配分を行うこととし、同計画期間中の投資の選択と集中及び成果の実現に向け、分野別推進戦略(平成18年3月28日総合技術会議決定)を取りまとめている。同戦略では、政府が取り組むべき「重要な研究開発課題」として、273課題を選定し、各課題ごとに研究目標及び特に成果目標を明記しており、その中から重点投資する対象として62の「戦略重点科学技術」を選定している。現在、同戦略に基づき、8つの分野ごとに「戦略重点科学技術」をはじめとした重点投資すべき対象への選択と集中の徹底、「国家基幹技術」の研究開発実施における厳正な評価等を行いながら、研究開発を推進している。

1 ライフサイエンス分野

 ライフサイエンスは、生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明する科学であるとともに、その成果は、医療の飛躍的な発展や、食料・環境問題の解決につながるなど、国民生活の向上及び国民経済の発展に大きく寄与するものである。
 ライフサイエンス分野の分野別推進戦略においては、今後5年間に集中投資すべき科学技術として以下の17の七つの戦略重点科学技術が示されている。文部科学省をはじめ、各省では、戦略重点科学技術を中心に研究開発を進めている。

(1)ライフサイエンス研究全体を支える基礎・基盤研究課題

1生命プログラム再現科学技術

a)ゲノム科学研究の推進

 ヒトゲノムの精密解読完了の成果を踏まえ、文部科学省はポストゲノム研究の一環として、平成16年度よりゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)を行っている。このプロジェクトでは、生体分子間の相互作用などの網羅的な解析を中心に、生命活動を成立させているネットワークを明らかにすることにより、生命科学に関する基本的問題の解明、疾患の発症機構の解明、新しい治療の開発を目指している。その他、ゲノム創薬等につながるタンパク質の構造・機能解析や、個人個人の遺伝情報を活用した革新的な医療技術の開発等についても着実な推進に努めている。
 厚生労働省では、認知症、がん、糖尿病、高血圧、ぜん息等の高齢者の主要な疾患に関連する遺伝子の解明により、病気の予防法、診断法及び治療法の確立や画期的新薬の開発を目指した研究開発を推進している。また、平成14年度からは、近年のゲノム科学の急速な進展を踏まえ、医薬品候補化合物等について、迅速・効率的に安全性(毒性、副作用)を予測する基盤技術(トキシコゲノミクス)に関する研究開発を行っている。
 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ、民間活力を利用することにより、機能性RNAを解析するためのツール(インフォマティクスや高感度な定量解析技術)の開発及び機能解析を実施している。

b)タンパク質の構造・機能解析の推進

 タンパク質は生命を構成する基本分子であり、その構造・機能の解析は将来の医学・薬学、食品・環境などの産業応用に必要不可欠である。
 文部科学省では、「タンパク3000プロジェクト」などで得られた成果及び整備された基盤を最大限に活用しつつ、現在の技術水準では極めて困難であるものの、学術研究や産業振興に欠かせない重要なタンパク質をターゲットに選定し、それらの構造・機能解析に必要な技術開発と研究を行う「ターゲットタンパク研究プログラム」を、平成19年度より実施している。

c)脳科学研究の推進

 脳科学研究は、その成果を通じて、社会生活の質の向上や医学の向上、新技術・新産業の創出につながることが期待される分野である。このため、「脳を知る」、「脳を守る」、「脳を育む」及び「脳に学ぶ」領域を柱として、府省の枠を越えた多くの大学、国立試験研究機関の能力を最大限に活用した研究開発が進められている。
 文部科学省では、理化学研究所脳科学総合研究センターにおける研究を推進するとともに、科学研究費補助金等を活用し、大学等における脳科学研究の重点的な推進を図っている。また、我が国の脳科学研究を戦略的に推進するため、平成19年10月、長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について、科学技術・学術審議会に対し諮問を行った。
 厚生労働省では、パーキンソン病等の神経・筋疾患、アルツハイマー病、高次脳機能障害、統合失調症やうつ病等の精神疾患の病態解明や治療法の開発に向けた研究が進められている。

d)細胞・生体機能シミュレーションの研究の推進

 文部科学省では、平成15年度から、生命情報技術・先端イメージング技術により、実際の生体や細胞を用いて実施している薬剤応答解析・動物試験等のシミュレーション化を目指した、細胞・生体機能シミュレーションプロジェクトを実施している。

e)免疫・アレルギー研究の推進

 文部科学省では、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターにおいて免疫・アレルギー疾患に関する基礎的な研究を実施している。同センターと国立病院機構相模原病院は共同研究協定を取り交わしており、基礎と臨床の連携による効率的な研究の推進を図っている。

f)糖鎖の機能解析の推進

 文部科学省では、生物機能の多様な側面で重要な働きをしていると考えられている糖鎖について、科学研究費補助金、戦略的創造研究推進事業等により、大学等における糖鎖研究の推進を図っている。また、理化学研究所フロンティア研究システムにおいて、細胞を構成し、機能を支えている糖鎖構造や脂質分子からなる膜ドメイン(生体超分子システム)に着目し、生体内における情報の認識・伝達機能に関する研究を行っている。
 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ民間活力を利用することにより、糖鎖や糖タンパク質の機能の解析やその機能の活用、糖鎖の大量合成技術の開発等に向けた研究開発を行っている。

(2)「よりよく生きる」領域に貢献する研究開発課題

2臨床研究・臨床への橋渡し研究

a)橋渡し研究拠点整備の推進

 有望な基礎研究の成果を着実に実用化させ、国民へ医療として定着させることを目指し、文部科学省では、医療としての実用化が見込まれる有望な基礎研究の成果を開発している大学等を対象に、開発戦略策定、薬事法に基づく基準も満足し得る試験物質を製造するような橋渡し研究の支援を行う拠点を整備する「橋渡し研究支援推進プログラム」を推進している。

b)遺伝子多型研究の推進

 病気の原因の解明と、個人個人に応じた効果的な医療の実現を目指し、文部科学省では、対象疾患患者から血清等を収集してバイオバンクを整備するとともに、収集試料を利用したSNPsと疾患等との関連解明を目指した「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」を実施している。理化学研究所遺伝子多型研究センターでは、本プロジェクトとの連携を図りつつ、疾患原因の解明等の研究を推進している。


医療現場におけるSNPs解析システム利用の流れ
全自動のSNPs解析診断システム(凸版印刷株式会社、株式会社島津製作所との共同開発)
本システムでは、1滴の血液から45分以内にSNP判定を行うことが可能
提供:理化学研究所

c)発生・分化・再生科学研究の推進

 発生・分化・再生領域の研究は、一つの細胞が様々な組織・臓器に分化し個体を形成・維持することに関するメカニズム等の解明を目指すものである。これは、再生医療の基礎となるものであり、近年のiPS細胞をはじめとする幹細胞研究の急速な進展やES細胞の作製技術の確立などをもたらしている。
 文部科学省では、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターにおいて基礎的な研究を実施している。また、「再生医療の実現化プロジェクト」を平成15年度より開始し、研究基盤としての幹細胞バンクを整備し、幹細胞の研究者への提供、基礎研究成果の臨床応用に向けた研究を推進している。

d)分子イメージング研究の推進

 分子イメージングは生体内の分子の量や働きを可視化する技術である。
 文部科学省では、「分子イメージング研究プログラム」を実施し、国内の分子イメージング研究の中核となる創薬候補物質探索拠点(理化学研究所)とPET疾患診断研究拠点(放射線医学総合研究所)を整備し、創薬プロセスの改革及び疾患診断の高度化のための革新的な研究開発を実施するとともに、人材育成・共同研究を推進している。
 厚生労働省では、ナノテクノロジーの応用による非侵襲・低侵襲を目指した医療機器の開発を推進しており、がん等の疾患における画期的な画像診断技術、機器についても研究を進めている。なお、一部の研究については、新エネルギー・産業技術総合開発機構とのマッチングファンドを実施している。
 経済産業省では、平成17年度から「分子イメージング機器研究開発プロジェクト」を実施し、腫瘍(しゅよう)の発見と悪性度の診断をより早期に行うための、細胞の機能変化を高感度、高精度、高速に検出できる分子イメージング機器の開発を行っている。


PET(生体内の分子を画像化する装置)を用いて、脳内にアルツハイマー病の原因物質がどの程度蓄積されているかを調べた写真
赤色の部分には原因物質が多く蓄積されている。
写真提供:理化学研究所

e)創薬プロセスの効率化など成果の実用化を促進する研究開発

 経済産業省では、遺伝子情報を利用して新たな医薬品を生み出す「ゲノム創薬」を加速するための基盤技術の構築に向けて、我が国の強みであるヒト完全長cDNAを活用した遺伝子レベルで疾患のメカニズムを解明する技術、解明された疾患メカニズムを基に創薬を行う技術、生体内で重要な役割を担う膜タンパク質の構造情報から創薬を効率化する技術、ヒトES細胞から疾患等の研究用モデル細胞の創製などに向けた技術開発を行っている。さらに、抗体医薬品等に活用可能な新規抗体を作成するための技術開発や、抗体を高効率で精製するための研究開発を実施している。

f)民間企業と臨床研究機関の連携による新たな医療技術・システムの開発

 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ、ベンチャー等民間企業と臨床機関の有機的な連携を図り、多様な技術分野の研究成果を医療現場に届けて、患者や医療従事者の負担軽減を実現する新たな医療技術等を開発し、医療技術の迅速な実用化・普及を図っている。

3標的治療等の革新的がん医療技術

 「第3次対がん10か年総合戦略」(平成15年7月文部科学大臣・厚生労働大臣決定)や「がん対策基本法」(平成19年4月施行)を基に、がんの本態解明及びその研究成果を活かした新しい予防法・診断法・治療法の解明を進めている。
 文部科学省では、がん免疫療法や分子標的治療法等に関する、優れた基礎研究成果を臨床研究に応用するため、「革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進」を進めている。また、放射線医学総合研究所において難治性がんに対する画期的な治療法として期待されている重粒子線がん治療研究を推進している。さらに、放射線医学総合研究所が中心となって全国普及に向けた重粒子線照射装置小型化の研究開発を行い、その成果を基に群馬大学において平成18年度から小型重粒子線照射施設の整備を進めている。
 厚生労働省では、がんの本態解明の研究とその成果を幅広く応用するトランスレーショナル・リサーチ、がん医療における標準的治療法の確立を目的とした多施設共同臨床研究、緩和ケア等の療養生活の質の維持向上に関する研究、がんの実態把握とがん情報の発信に関する研究、及び地域格差の是正を目指した均てん化を促進する体制整備等の政策課題に関する研究に取り組んでいるところである。
 経済産業省では、平成17年度から、がんの超早期発見に資する分子イメージング機器の開発や、がん細胞のみをピンポイントに治療するため、「次世代DDS型悪性腫瘍治療システムの研究開発事業」を行っている。

4新興・再興感染症克服科学技術

 現在、国際的に新型インフルエンザなど新たにその存在が発見された感染症や既に制圧したかに見えながら、再び猛威をふるいつつある感染症(新興・再興感染症)の国際的な社会不安が増大している。
 文部科学省では、「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」を推進し、国内外に設置した研究拠点において新興・再興感染症の研究を推進し、基礎的知見の集積や人材養成を行っている。
 厚生労働省では、新興・再興感染症への対応、国内及び諸外国との連携を含めた感染症対策が急務となっていることから、新興・再興感染症、動物由来感染症、感染症の予防診断技術分野、実地調査、国際感染症対策の分野をより強化し研究を行っているほか、国立感染症研究所において、広く感染症に関する研究を総合的に行っている。

(3)「よりよく食べる」、「よりよく暮らす」領域に貢献する研究開発課題

5国際競争力を向上させる安全な食料の生産・供給科学技術

a)食料分野、環境分野における微生物・動植物ゲノム研究

 ゲノム科学の発展に伴い、植物ゲノムの構造・機能解析も進展しつつあり、これらの成果を基に植物機能をコントロールすることにより、食生活の向上等に資する植物の開発が期待されている。
 文部科学省では、理化学研究所植物科学研究センターにおいて、シロイヌナズナ等のモデル植物のゲノム機能の解明を通じ、植物の量的、質的な生産力を向上させる研究を推進しており、研究水準も欧米と肩を並べるに至っている。
 農林水産省では、イネゲノムの完全解読等のこれまでのゲノム研究の成果を国民へ還元するという視点を重視し、新需要の創造、食料生産技術の革新、世界の食料需給の安定という3つの出口を目指してゲノム研究を総合的に推進している。具体的には、遺伝子組換え技術や体細胞クローン技術等を活用して、抗病性や経済形質に優れたブタや医療研究用モデルブタの開発、遺伝子組換えカイコによる有用物質生産の高度化等に重点を置いた研究を実施している。
 また、食料生産技術を革新するような画期的な品種の育成などを行うため、農業上重要な遺伝子の機能解明などゲノム研究基盤の整備を図るとともに、育種期間を大幅に短縮することが可能となる品種育成技術(ゲノム育種技術)の開発に取り組んでいる。さらに、世界の食料需給の安定については、植物の環境ストレス耐性の分子的機構の解明に関する研究を進め、乾燥、塩及び低温などの広範な環境ストレスに対して耐性を有する遺伝子を活用し、不良環境においても減収の回避が図られる作物の開発に取り組んでいる。
 このほか、人工生産が困難な養殖種苗の生産技術の開発等を引き続き促進するとともに、食料自給率の目標達成のため、1輸入農産物との競合が激しい加工・業務用国産農産物について、品質や加工適性の面で画期的な特性を有する国産農産物の開発、2国産飼料の生産性や栄養分を画期的に向上させる品種・栽培技術、及び国産飼料を用いた高品質な肉等の畜産物生産技術の開発を推進するとともに、平成19年度から3規模拡大に向けて重要な課題である労力分散と大幅な生産性向上を実現するIT等を活用した低コスト栽培技術の開発に取り組んでいる。

b)食料・食品の安全と消費者の信頼の確保に関する研究開発

 食品安全を脅かす様々な事例の発生や「食育基本法」(平成17年法律第63号)の制定などにより、国民の「食」に対する関心は高く、食品の安心・安全確保は重要な課題となっている。このため、厚生労働省では、食品の安全に関する施策の充実と、食品衛生規制に必要な技術の向上のため、添加物、汚染物質、化学物質、残留農薬、微生物、牛海綿状脳症(BSE)、健康食品、モダンバイオテクノロジー応用食品等について、新しい危害要因に関する研究、規格基準策定のための調査研究、公定検査法確立のための開発研究等を推進し、その成果をリスク管理措置に反映させている。さらに、食中毒対策や食品テロのような健康危機管理に関する研究を行っている。
 また、農林水産省では、牛海綿状脳症(BSE)の制圧のためのプリオンタンパク質の性状解明・診断のための基盤技術の開発、人獣共通感染症の国内発生時における国民の不安解消と畜産業への影響軽減に資する診断や予防のための基盤技術や有害微生物の検出・低減技術の高度化等に取り組んだ。さらに、食品表示の偽造防止技術及びニュートリゲノミクス等による丸ごと食品の機能性評価手法等の開発に取り組んでいる。

6生物機能活用による物質生産・環境改善科学技術

 農林水産省では、生物機能を活用して化学肥料や農薬の使用を低減する技術の開発や、eDNA(環境DNA)を利用した土壌生物性評価手法の開発に取り組んでいる。
 経済産業省では、高機能タンパク質等の高付加価値物質を閉鎖系で生産する技術の開発や、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ、植物機能や微生物機能を活用して、工業原料等の有用物質を生産する技術や、微生物群の制御等により産業廃水等の高効率バイオ処理技術の開発を実施している。

(4)ライフサイエンス研究の体制整備に係る課題

7世界最高水準のライフサイエンス基盤整備

a)バイオリソースの整備

 バイオリソースは、生物遺伝資源の保存のみならず、新たな研究領域の活動を拓(ひら)く上で重要なものであり、国家的視点に立って開発、収集、保存、提供を進めていく必要がある。
 文部科学省では、平成14年度から、ライフサイエンス研究の基盤となる実験動植物(マウス等)や各種細胞、各種生物の遺伝子材料等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」を実施している。
 農林水産省では、ジーンバンク事業として農林水産業等に係る生物遺伝資源について、収集、保存、提供するとともに、イネゲノムリソースの整備を進め、保存・提供している。
 経済産業省では、微生物を中心とした我が国の中核的な生物遺伝資源機関である製品評価技術基盤機構において、生物遺伝資源の探索、収集、保存等を行うとともに、これらの資源に関する情報(系統的位置付け、塩基配列情報、遺伝子に関する情報等)を整備し、研究開発や産業化のための提供を行っている。
 さらに生物多様性条約を踏まえたアジア諸国との二国間協定を締結したり、微生物資源の保存と持続可能な利用を目指した多国間の協力体制(アジア・コンソーシアム)を構築するなど、アジアにおける生物遺伝資源整備を積極的に実施している。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ、難培養微生物などの未知の微生物等について、収集・保存技術を開発するとともに、生物遺伝資源の収集、機能解析等を行い、ゲノム情報に基づいた生物遺伝資源ライブラリーを構築している。


15年間凍結保存(マイナス20度)した個体の精子から顕微授精(左)により生まれたマウス(右)
写真提供:理化学研究所

b)バイオインフォマティクス等の推進

 近年のライフサイエンス研究の進展によって大量に生み出されているDNA塩基配列データ、タンパク質の立体構造データ、遺伝子の発現データ等のデータベースを効果的に活用する手段として、生命情報の統合的なデータベースの整備や、ライフサイエンスとIT(情報技術)との融合分野であるバイオインフォマティクスの推進が重要である。
 文部科学省では、我が国のライフサイエンス関係データベースの利便性の向上を図るため、平成18年度より「統合データベースプロジェクト」を開始し、ライフサイエンス関係データベースの統合化に向けた取組を進めている。また、科学技術振興機構バイオインフォマティクス推進センターにおいて、データベースの高度化・標準化・拡充や、ゲノム解析ツール開発等を実施しているほか、世界3大拠点の一つである国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ)をはじめとするライフサイエンス関係データベースの整備を進めている。
 厚生労働省では、医学、薬学分野の研究に必要なヒトや動物由来の培養細胞及び遺伝子の収集・保存、研究者等への提供、薬用植物の収集・保存及び提供、医学実験用カニクイザル等の繁殖・供給を行っているが、さらに平成19年度より、疾患等に関連するバイオリソースの拡充を図るための「生物資源研究」を開始した。
 農林水産省では「農林水産生物ゲノム情報統合データベース」事業においてイネ、カイコ、ブタ等農林水産物のゲノムや遺伝子の情報等を大学・民間企業等の研究者に提供するため、当該情報を統合したデータベースの整備を行っている(第2部第3章第3節2参照)。
 経済産業省では、ヒト完全長cDNA配列情報に、遺伝子の機能情報や疾患との関連情報等を付加し、国際的に急増するヒト遺伝子等に関する情報に対応した、より有用性の高いデータベースの開発及び抽出・予測のためのソフトウェアの開発を行っている。

(動物実験等の適切な実施に対する取組)

 「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」が平成17年6月に議員立法により改正され、動物実験等については、その第41条において、3R(代替法の活用:Replacement、使用数の削減:Reduction、苦痛の軽減:Refinement)の概念が明記された。
 また、動物愛護法では、実験動物と動物実験等を区別し、実験動物については、環境大臣が基準を定めることとし、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(飼養保管基準)」が平成18年4月28日告示された。文部科学省、厚生労働省、及び農林水産省では、所管する研究機関等に対して統一的な基本指針を策定し、本指針に基づき動物実験等の適正な実施を図っている。

(生命倫理の問題に対する取組)

 近年のライフサイエンスの急速な発展は、医療等の分野に革新的成果をもたらすことが期待される一方、新たに人の尊厳や人権にかかわるような生命倫理の問題を生起させる可能性がある。これらの問題に適切に対応すべく、総合科学技術会議の生命倫理専門調査会では、生命倫理に関する重要事項について幅広い観点から調査・検討等を行っている。また文部科学省、厚生労働省等においては、必要な法令・指針の整備等を行っている。
 人クローン技術に関しては、文部科学省において、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(平成12年法律第146号)によりクローン人間の産生を禁止し、同法に基づく指針により人クローン胚の作成・利用については当分の間行わないこととするなど、厳しく規制している。
 ヒト受精胚や人クローン胚などの取扱いについては、平成16年7月に取りまとめられた総合科学技術会議意見「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」において、研究目的での作成・利用を限定的に容認することとし、その適正な取扱いを確保する枠組みの整備が求められた。これを受け、文部科学省では人クローン胚の取扱いについて、科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会の下で、平成20年2月に基本的な考え方を取りまとめたところである。また、生殖補助医療研究目的のヒト受精胚の取扱いについては、文部科学省と厚生労働省が合同で委員会を開催するなど、両者が密接に連携しつつ検討を行っている。
 また、ヒトES細胞研究に関して、文部科学省では、平成13年に策定した指針に基づき、研究計画の審査等を行っており、これまでに樹立計画2件、使用計画44件(うち5件は終了)について指針適合性の確認を行った(平成20年1月末現在)。
 日本学術会議は、代理懐胎を中心に生殖補助医療を巡る諸問題について各般の観点から審議するよう法務大臣及び厚生労働大臣から依頼を受け、平成18年12月21日に「生殖補助医療の在り方検討委員会」を設置し、生殖補助医療を巡る従来の議論の整理、今後の在り方等について検討を行っている。
 このほか、ヒトゲノム・遺伝子解析研究、疫学研究や臨床研究については、人間の尊厳の尊重、個人情報の適切な管理などが必要となるため、文部科学省、厚生労働省、経済産業省等の関係省が連携して、指針に基づき、研究の適正な推進を図っている。

(ライフサイエンスにおける安全性の確保への取組)

 遺伝子組換え技術は、基礎生物学的な研究はもとより医薬品の製造や農作物の改良等広範な分野において応用されている技術であるが、生物に新しい性質を持たせるという側面がある。このため、遺伝子組換え生物等による生物多様性への悪影響を防止するために必要な措置を定めた「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)に基づき、遺伝子組換え生物等の適正な利用の確保を図っている。なお、法施行後、遺伝子組換え生物等の不適切な使用等があったことから、該当機関に対して厳重注意を行うとともに、説明会を開催するなどにより法令の周知徹底を図っている。
 遺伝子治療の確立を目的とする臨床研究については、文部科学省及び厚生労働省が共同で策定した遺伝子治療臨床研究に関する指針に基づき、研究の適正な推進を図っている。

 なお、平成19年度におけるライフサイエンス分野の主な研究課題は第2−2−1表のとおりである。

第2−2−1表 ライフサイエンス分野の主な研究課題(平成19年度)

府省名 研究機関等 研究課題
内閣府  
  • 食品健康影響評価技術研究
財務省 酒類総合研究所
  • ライフサイエンス関連研究開発業務
文部科学省  
  • ターゲットタンパク研究プログラム
  • ゲノム機能解析等の推進
  • 細胞・生体機能シミュレーションプロジェクト
  • 橋渡し研究支援推進プログラム
  • 個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト
  • 再生医療の実現化プロジェクト
  • 新興・再興感染症研究拠点形成プログラム
  • 分子イメージング研究プログラム
  • 革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進
  • 統合データベースプロジェクト
  • ナショナルバイオリソースプロジェクト
理化学研究所
  • 脳科学総合研究事業
  • ゲノム科学総合研究事業
  • 植物科学研究事業
  • 発生・再生科学総合研究事業
  • 免疫・アレルギー科学総合研究事業
  • 遺伝子多型研究事業
  • 分子イメージング研究事業
  • バイオリソース事業
科学技術振興機構
  • バイオインフォマティクス推進センター
放射線医学総合研究所
  • 重粒子線がん治療研究
  • 分子イメージング研究
厚生労働省  
  • 小児慢性特定疾患治療研究
  • 特定疾患治療経費
  • 放射線影響研究所補助金
  • 毒ガス障害者調査委託費
農林水産省  
  • 低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発
  • 粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発
  • 生物機能を活用した環境負荷低減技術の開発
  • 牛海綿状脳症(BSE)及び人獣共通感染症の制圧のための技術開発
  • 安全・安心な畜産物生産技術の開発
  • ウナギ及びイセエビの種苗生産技術の開発
  • 土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発
  • アグリ・ゲノム研究の総合的な推進
  • 遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究
  • 安全で信頼性、機能性が高い食品・農産物供給のための評価・管理技術の開発
  • 担い手の育成に資するIT等を活用した新しい生産システムの開発
  • 農林水産生物ゲノム情報統合データベースの構築
  • アグリバイオ実用化・産業化研究
農業生物資源研究所
  • ジーンバンク事業
経済産業省 本省、新エネルギー・産業技術総合開発機構
  • 基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発
  • ゲノム創薬加速化支援バイオ基盤技術開発
  • 創薬加速に向けたタンパク質構造解析基盤技術開発
  • 新機能抗体創製技術開発
  • 糖鎖機能活用技術開発
  • 個別化医療の実現のための技術融合バイオ診断技術開発
  • 機能性RNAプロジェクト
  • ゲノム情報統合プロジェクト
  • インテリジェント手術機器研究開発プロジェクト
  • 植物機能を活用した高度ものづくり基盤技術開発
  • 微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発

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