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第1部 第3章 第4節 科学技術の成果の着実な社会還元

1 科学技術の成果還元の障害となる制度的隘路(あいろ)の解消

 科学技術によるイノベーション創出のためには、大学等の研究機関が得た研究成果を着実に社会還元していく必要がある。研究開発人材の活発な交流、研究活動の円滑な実施、産学官の連携等は、研究開発の活性化だけでなく、研究成果の社会還元にも大きな効果があり、科学技術に対する人的・物的投資の効果を高めるためにも重要な鍵である。これを可能とするため、これまでも研究交流制度、研究者の任期制、独立行政法人制度、国立大学法人制度、知的財産制度など様々な面において、制度的隘路の解消の取組が行われ、顕著な進展が見られたところであるが、いまだ様々な制度的隘路が存在しているとの指摘は多い。例えば、外国人研究者の出入国管理、出産・育児における女性研究者の勤務環境、研究機関間の移動に伴う退職金の扱い、研究費の繰越明許の活用促進、治験を含む臨床研究、研究支援者等の雇用環境、研究機関の資金調達環境などに関する様々な制度的隘路が指摘されている。その中でも、治験を含む臨床研究に係る制度的隘路解消の指摘は非常に重要である。世界で最も急速な少子高齢化を迎える我が国において、治験を含む臨床研究は国民の健康増進につながるイノベーション実現のための研究開発手段であり、その活性化は我が国にとって大きな国益をもたらすと考えられる。日本国民が世界最先端医療へ早くアクセスでき、国内医療産業の研究開発が活性化され国際競争力が向上し、国民の健康を更に増進させるためには、研究を進める上での制度的隘路を解消し、治験を含む臨床研究を推進していくことが不可欠である。

(1)臨床研究の現状

 近年、欧米との競争に加え、中国や韓国等における先端医科学の進歩や治験等の急速な環境整備により、ますます国際競争が激化している中で、世界の医薬品売上高上位100社に占める日本企業の売上高のシェアが、平成9年の14.2パーセントから平成17年には9.2パーセントに減少する等、我が国の医薬品等の国際競争力は低下している。今後、産学官の総力を結集して開発力の強化に努めることが喫緊の課題であり、そのためにも、臨床研究の推進による医薬品等の開発に向けた基盤整備が不可欠である。
 しかしながら、我が国の臨床研究は極めて低調な状況にある。例えば薬事法に基づく新薬の治験届出数を見てみると、平成5年は約1,200件であったものが、平成10年には406件と大幅に減少し、近年は500件前後で推移している。また、人を対象として治療の効果を検証したり疫学的に分析したりする研究の我が国の現状については、「The Lancet」や「The New England Journal of Medicine」などの質の高い臨床医学分野の雑誌への掲載論文の国別割合で見ると、日本は0.6パーセントを占めているに過ぎず、ScienceやNature等の基礎医学分野の雑誌における3.3パーセントに比べて格段に低くなっている(注1)
 欧米諸国では、1950年代から生物統計家(注2)の育成を開始するとともに、米国食品医薬品局(FDA)における新薬の審査体制の強化や、臨床研究現場における国際基準への早期対応、臨床研究に用いる試験物や細胞等を基準に基づいて作成する施設や体制の整備といった臨床研究への積極的投資等の結果、体制が整備され、臨床研究が進んでいる。
 我が国においても、臨床研究者や臨床研究支援人材(臨床研究コーディネーター(CRC)、データマネージャー、生物統計家等)を育成し、設備等の支援体制を整備して、臨床研究を活性化させることが喫緊の課題である。

  • (注1)福井次矢、「学術の動向」2006年8月
  • (注2)生物統計家とは、「臨床研究を実行するために、十分な理論又は実地の教育及び経験を併せ持ち、かつ当該臨床研究の統計的側面に責任を持つ統計家」のこと。生物統計学は、研究計画段階からデータ解析・報告まで、臨床研究の一連の過程で活用される。

(2)臨床研究の促進に対する取組

 平成18年3月に総合科学技術会議が決定した分野別推進戦略において、ライフサイエンス分野については、「臨床研究・臨床への橋渡し研究」が戦略重点科学技術に選定されており、また、「臨床研究推進のための体制整備」のための推進方策として、1支援体制の整備・増強、2臨床研究者・臨床研究支援人材の確保と育成、3研究推進や承認審査のための環境整備、4国民の参画の4つの取組が重要であることが指摘された。
 また、臨床研究推進のための制度改革面については、総合科学技術会議は平成18年12月に「科学技術の振興及び成果の社会への還元に向けた制度改革について」を取りまとめ、その中で、臨床研究支援体制の整備や臨床研究に関する人材の確保と育成、保険診療と研究に付随する診療が併用可能な保険制度の確立、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査体制の充実等に関して、関係大臣に意見具申を行った。
 これらに関して、文部科学省、厚生労働省、経済産業省は、平成19年4月に、我が国の優れた研究開発能力を基に、革新的医薬品・医療機器の国際的競争力の強化を図るとともに、世界最高水準の医薬品・医療機器を国民に迅速に提供することを目標とする「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」を策定し、1研究資金の集中投入、2ベンチャー企業の育成等、3臨床研究・治験環境の整備、4アジアとの連携、5審査の迅速化・質の向上、6イノベーションの適切な評価、7官民の推進体制の整備等を重点事項として位置付けた(第1−3−6図)
 この5か年戦略に基づき、厚生労働省では、臨床研究を実施するために必要な人材の確保・養成、研究計画の立案、統計解析やデータマネジメント等を行うことが期待される中核病院を10機関(平成18年度5機関、平成19年度に5機関追加)選定するとともに、臨床研究を円滑に実施することが期待される拠点医療機関を平成19年度に30機関選定している。文部科学省においては、医薬品・医療機器の開発戦略策定、生物統計家等の人材確保・登用・育成、薬事法に基づく基準も満足し得る試験物質を製造するような橋渡し研究の支援機関を、平成19年度に6機関採択するとともに、大学における臨床研究者・臨床研究支援人材の育成を行っている。また、経済産業省においても、臨床研究機関と民間企業が一体となって新たな医薬品等の開発に取り組む事業を平成19年度から行っている。
 さらに、医薬品・医療機器に対する審査の迅速化や質の向上を図るため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の体制についても新薬審査人員の倍増を目指した努力が行われている。
 このような制度的隘路の解消に向けた取組が、関係省庁の協力の下、今後も継続的に行われることにより、臨床研究推進のための体制整備が整備され、我が国の治験を含む臨床研究が推進されることが期待される。

第1−3−6図 革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略の概要

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