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第1部 第3章 大競争時代における科学技術の在り方

(1)科学技術政策の更なる強化の必要性

 第1章において、IT化、グローバル化の進展や世界の勢力地図に大きなインパクトを与えているBRICsの台頭等による大競争時代の到来、我が国の急激な少子高齢化の進展等に対応して、我が国の経済成長を維持し、世界の主要なプレーヤーとして生き残ることにより、今日の豊かな国民生活を継続、発展させるためには、科学技術によるイノベーションを不断に創出していくことが不可欠であることを述べたところである。
 また、第2章第1節においては、大競争時代において、先進主要国のみならず、中国、ロシアのような新興国においても、科学技術を競争力、イノベーションの源泉ととらえ、研究開発に対する資金投入の増大を計画するとともに、大胆な研究開発システムの改革や卓越した研究人材を巡る獲得競争等を行っていることを述べた。
 このような科学技術政策の世界的な競争が生じている状況下においては、諸外国に後れを取らず適切な対策を講じていくことが不可欠であり、いったん後れを取ることがあれば、その後れを取り戻すことは非常な困難を伴うことから、これらの諸外国における科学技術政策の大きな転換に対応し、我が国としても科学技術政策の更なる転換・強化を図っていく必要がある。

(2)危機感に基づく不断の変革の必要性

 ここにおいて、米国の科学技術・イノベーション政策の変遷が我が国に大きな示唆を与えている。かつて、米国は、我が国の製造業の急激な台頭等に危機感を持ち、「ヤング・レポート」などに代表されるような強力な科学技術・イノベーション政策を展開するとともに、IT、バイオテクノロジーなど新たな産業分野への進出を積極的に行い、世界のイノベーションセンターとしての地位を確実にした。さらに、中国、インドの台頭等に対しては、第1部第2章で述べたような2004年以降の「パルミサーノ・レポート」から米国競争力法に至る流れの中で、更なる科学技術政策の大転換による競争力強化を図っているところである。
 このような危機感に基づく、絶えざる科学技術・イノベーション政策の変革が、米国をして世界のイノベーションセンターたらしめていることを我々は理解しなければならない。
 我が国の科学技術政策の展開においても、このような危機感に基づく不断の変革が不可欠である。

(3)「世界戦略」の必要性

 我が国が、科学技術政策を展開していく際に、まず留意しなければならないことは、大競争時代における科学技術政策の展開においては、グローバルな視点からの取組、つまり「世界戦略」の視点が不可欠である、ということである。
 今後の我が国の科学技術政策の展開に当たっては、現在、大きく変化しつつある諸外国の科学技術政策の動向に留意していくことの重要性は論を待たない。
 さらに、我が国が諸外国に対抗して施策の展開を行う場合、我が国の科学技術力、産業競争力の諸外国と比べた場合の国際的な水準の現状、諸外国が力を入れている重点分野や我が国と諸外国の研究者のキャリアパスの差異等を十分踏まえて行わなければ、効果的、効率的な資源投入や優れた海外研究人材の確保等は、困難となることが予想される。
 このため、我が国が今後、諸外国に対応した科学技術政策を展開していくに際しては、「世界戦略」の視点が不可欠である。

(4)今後の施策展開の在り方

 このような観点から、他国の状況を踏まえた上で、我が国の資源投入から研究開発の成果の実用化までを俯瞰(ふかん)し、隘路(あいろ)(ボトルネック)となっている課題を抽出し、解決していくことが必要である。
 まず、資源投入について見た場合、諸外国の研究開発能力強化への動きがまず大きな課題であり、我が国としても政府研究開発投資を質的・量的に充実していくことが重要である。
 しかしながら、急激に増加する中国等の研究開発投資に対抗するためには、あわせて、その投入に対する確固たる戦略の構築や資源の使い方の在り方の改善を行っていかなければならない。
 このため、我が国の強みであり、従来の経済成長のエンジンであったものづくり産業に関するイノベーション力の強化を引き続き推進するとともに、第1部第2章第1節で記述したような新分野における研究開発の振興を積極的に図ることにより、これらの産業における我が国発のイノベーションを展開していかねばならない。
 また、資源に乏しい我が国が、他国と競争していく上で、優秀な人材の確保が最も重要であることは言うまでもないが、少子化の進展に加え、理工系離れが指摘される今日においては、最先端の科学技術や国際競争の最前線である企業等の製品開発等を牽引(けんいん)する研究人材を着実に養成するとともに、その前提として初等中等教育段階からの理数系教育の充実にまず力を入れて取り組むことが不可欠である。
 さらに、資源投入の量的な拡大にはおのずと限界があることにかんがみれば、研究開発能力、つまり「研究開発の質」を高め、「無駄を省く」ための研究開発システム改革を強力に推進していくことが不可欠である。
 最後に、研究開発投資をイノベーションにつなげていくという部分の我が国の弱点を強化する観点から、第1部第2章第2節で述べたような研究開発の成果の社会還元の在り方について、技術経営力の強化、国際標準政策の着実な実行等により研究開発成果の社会還元に向けた取組を強化していく必要がある。

第1節 政府研究開発投資の充実

 第1部第2章第1節で記述したように、世界の科学技術のトップランナーである米国のほか、中国等の新興国も研究開発能力の強化を図る計画を策定している状況にある。
 一方で、我が国は政府研究開発投資の増加を図ってきたものの、近年は、ほぼ横ばい状態であり、急速な拡大を続ける中国等とは、対照的な状況にある。
 世界的な大競争の中、特に重要性が増していることは、社会経済に大きなインパクトを起こし、日本の経済成長を加速させる技術を育成し、実用化していくことである。しかしながら、このような社会経済に大きなインパクトを引き起こす技術については、その実用化のインパクトとは裏腹に、様々な制約要因から、短期間に実用化が困難であることが多い。
 例えば、このような事例の代表例としては、HDD(ハードディスク・ドライブ)の垂直磁気記録方式が挙げられるが、東北大学の岩崎俊一教授が垂直磁気記録方式の高密度録性を国際会議で発表したのは1977年(昭和52年)であり、現実として、この技術が大きく市場化したのは、2000年(平成12年)ごろからである。20年以上にわたる東北大学を含む産学官の連携と継続的な国の資金の供給が、巨大な市場規模(約2.5兆円)を持つ製品を生み出したと言える(注)
 また、消費電力の少なさ、寿命の長さから、普及しつつある発光ダイオードのうち、長らく実用化が遅れていた青色発光ダイオードの実用化においても長年にわたる科学研究費補助金や科学技術振興機構のERATOプロジェクトによる国の資金が大きな役割を果たしている。
 現在のように競争が激化するとともに、技術のコモディティ化の進展による投資サイクルの短縮が指摘される時代において、民間企業で中長期にわたる技術の研究開発が困難になっていくことも可能性としては否定できない。未来への先行投資という観点から、今まで以上に国の資金による研究開発を真に必要な分野へ重点化していくことも含め、充実していくことが重要となっている。
 政府研究開発投資について、第3期基本計画も、対GDP比率で欧米主要国の水準を確保することを求めており、この場合、期間中の総額の規模を約25兆円とすることが必要であるとしている(第3期基本計画期間中に政府研究開発投資の対GDP比率が1パーセント、同期間中のGDPの名目成長率が平均3.1パーセントを前提としている。)。
 毎年度の予算編成に当たっては、今後の社会・経済動向、科学技術の振興の必要性を勘案するとともに、厳しい財政事情を踏まえ、基本計画における科学技術システム改革の着実な実施により政府研究開発投資の効果を最大限発揮させることを目的として、第3期基本計画に掲げる施策の推進に必要な経費の確保を図っていくこととしている。

  • (注)平成19年版「科学技術白書」第1−1−23図

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