前述のように諸外国では大競争時代に備えて、研究開発システムの改革とイノベーション創出に資する政府の研究開発投資の拡大等を着実に行っている。米国、中国等に比べ、資源・人口等の物量面において優位に立てない我が国がこれに対抗するためには、研究開発の活性化・効率化によるイノベーションの創出を行っていくことが必要である。
しかしながら、我が国の科学技術を巡っては、アジア諸国の科学技術への投資の急増及び研究・技術水準の急激な上昇による比較優位の縮小、我が国の人材基盤の脆弱(ぜいじゃく)化の懸念、、サイエンス型産業や第3次産業における国際競争力の低迷、技術経営等を巡る「出口戦略」面の弱点など、様々な課題が山積している。このため、今後、研究開発システムの改革等を推進していくには、このような課題の解決を念頭に置きつつ行っていく必要がある。
我が国の平成18年度の名目国内総生産(GDP)は約512.0兆円で対前年度比1.6パーセント増となる中で、研究開発投資は主に民間企業部門で増加したことにより約18.5兆円で同3.5パーセント増と7年連続で増加し、GDPに占める研究開発投資の割合は前年度から0.07ポイント伸びて3.61パーセントとなった。また、平成19年の研究者数は6年連続で増加し、研究補助者、技能者等を含む研究関係従事者全体でも4年連続の増加となった。
このように、我が国の研究開発への資源投入がわずかながらとはいえ増加していることは科学技術創造立国を目指す我が国として望ましい方向である。しかしながら、現在、世界のトップランナーである米国やEU諸国はもちろん、BRICs諸国等においても科学技術によるイノベーションを重視し、研究開発への資源投入の拡大を目指しているところであり、特にアジア諸国においては急速な拡大を続けている。
また、研究成果の面でも中国の論文数占有率が近年大幅に増加するとともに、特許出願件数でも中国や韓国の存在感が増すなど、アジア諸国の世界シェアが拡大しつつある。
さらに、産業競争力についても、1980年代には我が国が国際的に優位にあったハイテク産業の世界シェアでは、近年中国が急伸する一方で、我が国の世界シェアが低下傾向にあるなど、アジア諸国の躍進が著しい状況にある。
以下では、研究開発への資源投入(研究費、研究人材)、研究開発のアウトプット(論文、特許、技術貿易)及びハイテク産業の産業技術力及び分野別の科学技術力等について、科学技術に関する指標及び関連データによる主要国間の比較等を行うことにより、我が国の科学技術活動の現状を概観することとする。
購買力平価で見た各国の研究費のおおよその規模及びその傾向を概観すると、米国が42.8兆円と他国を圧倒し、次いでEU-27の31.0兆円(EU-15では30.2兆円)、次いで我が国の18.5兆円、中国の17.9兆円、ドイツの8.3兆円となっており、フランス、英国、韓国がほぼ同水準となっている。
これまでの推移を見ると、米国は大幅な増加傾向を見せており、またEU-27も増加傾向にある。我が国も増加傾向にはあるものの、その伸びは米国やEU-27には及ばず、近年その格差は大きく開きつつある。一方、中国の研究費が驚異的に伸びてきており、2006年度(平成18年度)においては、我が国とほぼ同等の研究費となっている(第1−2−14図)。
第1−2−14図 主要国等の研究費の推移(購買力平価換算)

さらに、主要国等における近年の研究費の伸びの状況をより明確に比較するため、物価の変動による影響を取り除いた実質研究費について、2000年度を100とした指数を用いて比較した。
この10年程度の動向を見ると、主要国の中では我が国は堅実に伸びているが、中国、韓国のアジア諸国が急速な伸びを見せていることが分かる(第1−2−15図)。
第1−2−15図 2000年度を100とした主要国等の実質研究費指数の推移

次に、各国の経済規模の違いを考慮した研究開発投資の水準、つまり各国の国全体としての研究開発への注力の程度を比較するために、国内総生産(GDP)に対する研究費の比率を見る。1990年代に入って主要各国で比率の低下が見られたが、我が国や米国においては1995年度(平成7年度)から、ヨーロッパ諸国においてもやや遅れて増加に転じている。我が国は、依然として主要国中で最高水準を維持しており、2006年度(平成18年度)における研究費の対GDP比は3.61パーセントとなっている。しかしながら、中国及び韓国が他の主要国等に比し急激に伸びている(第1−2−16図)。
第1−2−16図 主要国等の研究費の対GDP比の推移

我が国の研究費総額を経済規模との対比で見れば諸外国よりは多いが、その負担者の区分で見ると約8割を産業部門が負担しており、諸外国より政府負担の割合は低いものとなっている(第1−2−17図)。このように我が国の研究費を負担面から見ると、経済規模に対して政府が負担する額は決して大きくなく、民間企業の努力によって支えられているところが大きいことが分かる。
購買力平価換算により主要国等の政府研究開発予算額の推移を見ると、2000年(平成12年)以降、我が国の予算額がほぼ横ばい傾向で推移しているのに対し、中国や韓国、米国等が大幅に予算額を伸ばしており、特に中国の伸びが著しい。また、予算規模においても、我が国の3.5兆円(2007年度(平成19年度))に対し、米国が17.1兆円(2007年度(平成19年度))、EU-27が12.1兆円(2005年度(平成17年度))、中国が10.1兆円(2006年度(平成18年度))となっており、主要国等との格差が拡大している状況にある(第1−2−18図)。
第1−2−17図 主要国等における研究費の組織別負担割合

第1−2−18図 主要国等における政府研究開発予算額の推移(購買力平価換算)

2007年(平成19年)の我が国の研究者数は82.7万人で、対前年度比0.8パーセントの増加となった。主要国等の研究者数の推移について、実際に研究業務に専従した時間割合を勘案した専従換算(FTE換算)値(注1)で比較すると、研究者の数え方に各国で相違があり、単純な比較はできないことに留意する必要はあるが、我が国の71.0万人(2007年(平成19年))に対し、米国は139.5万人(2005年(平成17年))、EU-27は130.1万人(2005年(平成17年))となるなど主要国等においても増加の傾向にある。中でも中国の研究者数は急増しており、2006年(平成18年)には122.4万人で我が国の約1.7倍以上に達し、このままの推移が続けば、近い将来、我が国の2倍以上の規模となることも予想される(第1−2−19図)。
第1−2−19図 主要国等の研究者数の推移

世界の主要な科学論文誌に発表された論文のうち、主要国等の論文数及び被引用回数(注2)の占有率は第1−2−20図のとおりである。
我が国の論文数占有率は、1981年(昭和56年)には米国、英国、ドイツに次いで第4位であったが、1990年(平成2年)に英国を抜いて以来、第2位の地位を守り続けている。しかしながら、我が国の論文の被引用回数占有率で見ると、発行年が新しくなるほど引用される度合いは高まる傾向にあるが、主要国の中での順位は1990年(平成2年)以来、米国、英国、ドイツに次ぐ第4位にとどまっており、論文数の占有率と比較しても低い水準となっている。
また、ここ数年、中国の論文が多くなっており、論文数占有率で既に我が国と同等の規模となっている。しかしながら、その被引用回数占有率では、論文数占有率の伸びほど拡大していない。
第1−2−20図 主要国の論文数占有率と被引用回数占有率の推移

1つの論文が引用される度合いについては、相対被引用度(注3)によって比較される。第1−2−21図に示すとおり、我が国の値は1を下回る低い値で横ばいであるのに対して、英国、ドイツ、フランスは順調に値を上昇させ、高い値で安定しており、米国に迫ろうとしている。また、中国、ロシアも基本的に上昇傾向にある。
第1−2−21図 主要国の論文の相対被引用度の推移

特許出願が多くなされている国は、企業等の研究開発活動が活発であり、また、外国からの特許出願件数が多い国は、出願する外国企業等の重要な市場又は競争相手であるため、外国企業が特許権の取得に積極的に取り組んでいると考えられる。各国等の特許庁が1995年(平成7年)以降に受理した特許出願件数を比較すると、我が国は40万件前後で推移し、世界で最も大きな特許市場となっていたが、2006年(平成18年)の各国の件数は、米国が42.6万件で最大となり、以下我が国が40.9万件、中国(2005年(平成17年))17.3万件、韓国16.1万件、欧州13.5万件の順となった。2000年(平成12年)からの伸び率で見ると、我が国が3パーセント減少しているのに対し、米国は44パーセント増、欧州は34パーセント増、中国は257パーセント増、韓国は163パーセント増とそれぞれ増加しており、特に中国、韓国における伸びが著しい。また、各国等における出願構造では、我が国は欧米等と比較して、外国人の出願やPCT国際特許出願に基づく国内移行(注4)段階件数の割合が低くなっている状況にある(第1−2−22図、第1−2−23図)。
第1−2−22図 主要国等の特許庁における特許出願件数の推移

第1−2−23図 主要国等の特許庁における特許出願構造

ハイテク産業とは、製造額に対する研究開発費の割合を産業別に計算し、その値の大きい5産業(航空・宇宙、事務機器・電子計算機、電子機器(通信機器等)、医薬品、医用・精密・光学機器)とされている(OECDによる定義)。
ハイテク産業は、研究開発に多くの投資を必要とし、その製品製造過程において高度な技術力を要する。このことから、各国のハイテク産業の動向は、科学技術を駆使した産業競争力の一つの側面を表す指標とみなすことができる。
NSFの科学工学指標2008年版(National Science and Engineering Indicators 2008)によると、世界のハイテク産業総収益は、1986年(昭和61年)の1.1兆ドルから2005年(平成17年)には3.5兆ドルに上昇し、この20年間の年平均増加率は6パーセントとその他の製造業の増加率の2倍以上で推移しており、製造業全体に占めるシェアも10パーセントから18パーセントとなっている。
ハイテク産業の付加価値収益の国別世界シェアは、2005年(平成17年)(推計値)では米国が35パーセントで最も高く、我が国は16.1パーセントで第2位ではあるものの1991年(平成3年)の29.4パーセントをピークに大幅に減少している。一方で、中国が16.0パーセントとわずか0.1パーセントの差で第3位となり急速にシェアを伸ばしている。ハイテク産業別比較でも、我が国は5つの分野のうち、4つの分野でシェアを落としており、特に1986年(昭和61年)にはシェア6割を超えていた事務機器・電子計算機では、2005年(平成17年)では我が国が9.3パーセントに対し、中国が46.0パーセントを占めている(第1−2−24図)。
第1−2−24図 ハイテク産業の付加価値収益(注5)の国別世界シェア

