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第1部 第2章 第1節 2 米国競争力法の制定、中国科学技術進歩法の改正等

 国際競争力、イノベーション創出重視の科学技術政策への流れを端的に示す最近の諸外国の取組の主な例を挙げると、次のとおりである。

(1)米国競争力法の制定

 米国においては、2007年8月に米国競争力法(通称The America COMPETES Act)(注1)が成立した。同法は、中国やインドの急速な経済発展等により国際競争がますます激化する中で、米国の競争力優位を確実なものとするため、研究開発によるイノベーション創出の推進や人材育成への投資促進、及びこれらのための政府予算の大幅増加を一体的に取りまとめた画期的なものとなっている。

  • (注1)The America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence in Technology, Education and Science Act

1米国競争力法の成立の背景

 近年、新興国の急速な発展や世界的な競争の激化に伴い、競争力強化の必要性が強く認識され、産業界、学会等から、競争力強化のための法案が数多く提示された。中でも、2004年の「パルミサーノ・レポート」、2005年の「強まる嵐を越える」(通称オーガスティン・レポート)による競争力強化の提案がまず議会を刺激して、競争力強化のための様々な個別提案が提唱されるに至った。そのような動きが契機となって、大統領が「米国競争力イニシアティブ(2006年大統領一般教書演説)」をまとめたことが、本法策定に大きな影響を与えた(第1−2−1表)

a)「イノベート・アメリカ」

 米国競争力法の成立に至る動きの端緒となったのは、競争力評議会(会長:サミュエル・パルミサーノ、IBM会長(当時))が2004年12月に報告した「イノベート・アメリカ」(通称パルミサーノ・レポート)である。「パルミサーノ・レポート」では「米国の競争優位はイノベーション以外にはない」と結論づけ、イノベーションを促進する環境づくりに米国社会を最適化する方策として、「教育人材」、「研究開発」、「社会インフラ」の3つの側面からの政策を提言した。さらに、イノベーションの新たな在り方やGDPや雇用の多くを占めているサービス産業に対する研究開発が不十分との認識から、「サービス・サイエンス」の振興を提案するなどにより、大きな議論を引き起こすに至った。

b)「強まる嵐を越える」

 パルミサーノ・レポートが各界において競争力強化を目的とした議論を活発化させ、上下両院、及び共和党・民主党の科学政策関係議員から全米アカデミーズに対し、21世紀の国際社会において米国が競争、繁栄、安全の面で成功を収めるよう米国政府がとるべき戦略についての検討の依頼がなされた。その結果、全米アカデミーズにより「強まる嵐を越える」(通称オーガスティン・レポート)が報告された。
 「オーガスティン・レポート」は、2005年10月、「21世紀のグローバル経済における繁栄に関する委員会」(委員長:ノーマン・R・オーガスティン元ロッキード・マーチン社会長)が取りまとめた報告書である。「オーガスティン・レポート」においては、「米国は、第2次世界大戦以降、経済的・戦略的に世界的なリーダーではあるものの、近年、市場と科学技術分野での強みが失われ始めており、包括的かつ早急な対応が必要である」とされた。レポートは中国、インドに注目し、これに対応して競争力を強化するため、初等中等教育における科学・数学教育の充実、理学・工学研究の強化、理工系高等教育の充実、イノベーション環境の整備などを提言している。

c)「米国競争力イニシアティブ」

 「オーガスティン・レポート」の発表により議会での議論は更に活発化し、この状況を踏まえて、ブッシュ大統領が2006年一般教書演説において、NSF、エネルギー省(DOE)(注2)科学局、国立標準技術研究所(NIST)(注3)の政府予算の10年間での倍増、企業への研究開発減税の恒久化、科学・数学教育の抜本的強化などを内容とする「米国競争力イニシアティブ」を発表するに至った。

  • (注2)DOE:Department of Energy
  • (注3)NIST:National Institute of Standards and Technology

第1−2−1表 米国の競争力強化に向けた主な取組の提案の概要

  「イノベート・アメリカ」
競争力評議会
(2004年12月)
「強まる嵐を越える」
全米アカデミーズ
(2005年10月)
「米国競争力イニシアティブ」
大統領府
(2006年2月)
教育人材
  • 「国家イノベーション教育戦略」策定
  • 次世代イノベーターの触発
  • 世界経済で成功する功労者の育成
  • 年間1万人の科学・数学教師を採用
  • 夏期講座を通じた訓練等による教員25万人の技能強化
  • 大学学位取得等を目指す生徒の拡充
  • 初等中等教育における理数教育強化
  • 職業訓練の強化
  • 有能な研究者へのビザ発給増
研究開発
  • 先端的・学際的研究領域の再活性
  • 起業家を生む環境の活性化
  • リスクを厭(いと)わない長期的投資の強化
  • 長期的基礎研究に対する連邦予算の毎年10パーセント増加
  • 有能な若手研究者に対する研究助成
  • 「全米先端研究装置・施設整備局」設立
  • 「大統領イノベーション賞」の設立
  • NSF・DOE・NIST等の自然科学分野研究予算を10年間で倍増
社会インフラ
  • イノベーション成長戦略に対するコンセンサスづくり
  • 21世紀の知的財産戦略体制の構築
  • 米国の製造業の能力強化
  • 健康産業を試金石とした21世紀イノベーション基盤の構築
  • 新興の知識経済の基盤となる特許制度の構築
  • 研究開発に対する強力な税控除の立法化
  • 米国を本拠地とするイノベーションのための税制優遇措置
  • ユビキタスブロードバンドアクセス
  • イノベーション環境の整備
  • 研究開発費の減税
  • 効率的な知的財産保護

  • 資料:科学技術振興機構 研究開発戦略センター資料を基に文部科学省作成

2米国競争力法成立の過程

 米国競争力イニシアティブの発表は多くの議員の関心を呼び、競争力強化に資する多数の法案が第109議会(2006年)に提出された。これら多数の法案を踏まえて、第110議会(2007年)において、上院では「米国の技術・教育・科学における卓越性に関する意味ある促進機会の創造法」が、下院では「2007年21世紀競争力法案」が提出され、2007年7月には上下両院協議会により、米国競争力法として取りまとめられて成立した。同法は8月9日に大統領が署名し発効している(第1−2−2図、第1−2−3図)

第1−2−2図 連邦議会における米国競争力法の成立過程

  • 資料:科学技術振興機構 研究開発戦略センター

第1−2−3図 第109議会で提出された諸法案

【教育・研究】

【ビザ(頭脳獲得)】

【税制】

【知的財産権】

  • 資料:科学技術振興機構 研究開発戦略センター

3同法の主な内容(注4)

 同法は、「米国競争力イニシアティブ」で掲げられたNSF、DOE科学局、NIST等の研究関係機関の予算増額の更なる加速のみならず、理数系教育や科学技術への理解増進、サービス・サイエンスの振興、ハイリスク研究の促進など、その構想は多岐に及んでいる。その主な内容を以下に示す。

  • (注4)http://crds.jst.go.jp/kaigai/report/TR/US20071002.pdfに基づき作成

a)国家科学技術サミットの召集

 産業界、州政府、連邦政府をはじめとした各界の科学技術に関係する代表者を集めて、米国の科学・技術・工学・数学分野における活動の健全性や方向性について、政府横断的に検討を進める。大統領はサミット終了後、今後5年間の連邦政府による研究プログラム及び技術プログラムの方針についての報告書を議会に提出することとなっている。

b)研究関係機関の予算の大幅増

 NSF、DOE科学局、NISTの予算の大幅増額を行うことを規定している。詳細については第1−2−6図に示す。

c)ハイリスク研究の促進

 科学、技術、工学、数学に対して資金配分を行う連邦政府機関は、毎年、基礎研究予算に占めるハイリスク研究への配分比率の目標値を設定し、その結果とともに議会に報告する。また、エネルギー技術に関する長期的かつハイリスクな技術課題に取り組むため、エネルギー省内に高等研究計画庁(ARPA-E)(注5)を新設する。

  • (注5)ARPA-E:Advanced Research Projects Agency - Energy

d)イノベーションの阻害要因の調査、サービス・サイエンスの振興

 大統領府科学技術政策局は、全米アカデミーと連携して、イノベーション創出能力に影響すると考えられる、ビジネスや財政における新たなリスクを同定・緩和する手法を検討するための調査を実施する。また、連邦政府においては「サービス・サイエンス」に戦略的に対応することとし、全米アカデミーを通して、連邦政府が実施すべき「サービス・サイエンス」に関する研究・教育・トレーニング支援を実施することとしている。
 ここで「サービス・サイエンス」とは、コンピュータ科学、事業研究、産業工学、ビジネス戦略、経営科学、法学等を統合した新興学問分野として定義されている(注6)

  • (注6)米国における具体的取組については第1部第2章第2節3(1)を参照

e)理数系教育、科学技術への理解増進

 米国の競争力強化には、良質な教育が必須との認識の下、全学生が高等教育機関での教育を受けるべきであり、教師の質の向上、研究成果に基づいた効果的な科学・技術・工学・数学分野の教育を支援する。

f)若手研究者・女性等の活用

 若手研究者に対する初期キャリアグラント、フェローシップの支援等を行う。

g)製造技術の支援

 地域における産学連携事業の推進、製造技術に関する共同研究の支援を行う。

(2)中国科学技術進歩法の改正

1中国の科学技術政策の展開

 近年の中国の科学技術政策においては、「科教興国(科学技術と教育によって国を興すこと)(注7)」や「科学的発展観(科学技術及び科学的思考等により、中国の持続的発展を実現する理念)(注8)」、「自主創新(独自のイノベーション)」(注9)に代表されるように、科学技術の発展・イノベーションの創出を重視する基本的政策がとられている。
 計画経済から市場経済への転換に向けて経済発展に取り組んでいる中国においては、1993年に「科学技術進歩法」を制定して科学技術振興に取り組んできたが、「自主創新」の奨励をより明確に規定し、各種制度の整備・優遇政策の実施を内容とする同法の大幅改正を2007年12月に行った。
 現在、中国における科学技術政策は、国の全体計画として、具体的内容や実施事項を定める「五ヵ年計画」及び、科学技術政策の方針を示す「国家中長期的科学技術発展計画(2006年〜2020年)」の下で実行されている。「国家中長期的科学技術発展計画」においては、「科学的発展観の貫徹」「科教興国・人材強国戦略」「自主イノベーション」を基本方針とし、短期的及び中長期的に投資する分野を定めている(注10)
 中国における科学技術政策の特徴として、米国型の競争的システムをいち早く取り入れ、不断の研究開発システム改革を行っていることは注目に値する。
 例えば、競争的資金の大幅な導入、国立研究所からのスピンオフ企業の設立などの結果、米国型の競争的システムの導入が進んでいる(第1−2−4表)。政府研究開発投資の急激な伸張と併せて、このような優れた研究開発システムの構築に成功していることが、中国をして「世界のイノベーションセンター」の候補となる可能性を高めていると言えよう。

  • (注7)「科教興国」は、1995年に朱鎔基前国務院総理が提唱した。
  • (注8)「科学的発展観」は、2003年の共産党全国代表大会で明示された。また、中国共産党の指導方針として2007年に党規約に盛り込まれた。
  • (注9)「自主創新」の考え方は、第10次五ヵ年計画にも盛り込まれている。
  • (注10)資料:科学技術振興機構 研究開発戦略センター 海外動向報告書

第1−2−4表 科学技術型企業の総売上上位10校(2005年)

順位 大学名 売上高
1 北京大学 264.49億元
2 清華大学 189.90億元
3 浙江大学 52.26億元
4 東北大学 34.88億元
5 中国石油大学(華東) 28.70億元
6 武漢大学 22.69億元
7 同済大学 21.07億元
8 ハルビン工業大学 19.45億元
9 復旦大学 19.07億元
10 西安交通大学 15.69億元

  • (出典)教育部科学技術発展センター
  • 資料:科学技術振興機構 研究開発戦略センター

2科学技術進歩法の主な内容

 科学技術進歩法は、科学技術を「第一の生産力」として位置付け、国家建設(社会主義の近代化建設)を行う上で、科学技術を優先的に発展させ、経済発展に寄与させることを推進する内容となっている(注11)。2007年の改正後の法律では、制度の整備、優遇政策などの面において自主イノベーションの奨励、イノベーション型国家の建設に力を注ぐこととしており、実践すべき具体的な条項が多く盛り込まれた内容となっている(注12)

a)財政、金融、税収等の施策を通じた科学技術強化

 研究開発のための海外製品の輸入等に関する税制上の優遇措置、政府系金融機関におけるハイテク産業等への優遇的な金融サービスの提供に関して規定されている。

b)ハイリスク研究への配慮と研究不正への対応

 ハイリスク研究を奨励するため、ハイリスク研究に携わった研究者が勤勉に責務を全うすれば、その研究が完了しなかった場合においても、研究者は寛容に扱われなければならないとしている。一方で、研究不正の禁止、罰則に関する事項も定めている。

c)海外にいる優れた研究者の帰国優遇措置

 国外にいる優れた中国人研究者の帰国優遇措置に関する規定であり、当該研究者に対して優先的に中国での永久居住権を付与するとしている。

d)国費に基づく知的財産権の見直しと迅速な実施

 政府資金で行った科学技術プロジェクトによって得られた知的財産権については、国家の安全、国家利益又は重大な社会公共利益に影響するものは国家に所属するが、その他のものについては研究開発を実施した者に付与されるとしている。
 また、それらの知的財産権については、まず中国大陸部での使用を奨励し、国外組織又は個人が独占実施する場合に、そのプロジェクト管理機関の許可を経るという規定になっている。

e)企業主体のイノベーションシステムの構築

 企業によるイノベーションを奨励するための規定であり、企業の研究開発税制に関する優遇措置や自主的な研究開発テーマの選定を奨励することが規定されている。

f)科学技術資源の共有化の促進

 希少な生物種資源・遺伝資源など科学技術に関連する資源について出国管理制度の実施を規定している。

g)大型設備導入規定

 大型の科学機器や設備の購入・建設計画をイノベーションにつなげるべきものであることを規定している。

(3)英国:省庁再編による「イノベーション・大学・技能省」の新設

 英国における科学技術によるイノベーションに向けた取組の代表例としては、ブラウン政権による2007年6月の省庁再編における「イノベーション・大学・技能省」の新設が挙げられる(第1−2−5図)。旧貿易産業省にあった旧科学・イノベーション庁の機能と旧教育技能省にあった高等教育・技能部門を統合して「イノベーション・大学・技能省」が設置されたものであり、人材育成、科学技術、イノベーションを一貫して担うことによる強力なイノベーション推進体制が整備されたという意味で画期的と言える。
 イノベーション・大学・技能省の主な取組としては、高等教育と継続教育の発展による人材育成、世界最高水準の研究基盤の構築、大学への二元的な助成制度(運営費助成及び競争的研究資金)の維持などが挙げられる。2007年11月には、義務教育修了年齢を、2015年までに現行の16歳から18歳に段階的に引き上げる方針を示している。

第1−2−5図 英国における省庁再編前と再編後の対応

  • 資料:内閣府作成

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