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第1部 第1章 5 科学技術によるイノベーションの必要性

(1)経済成長の停滞等

 我が国は、1960年代から1970年代にかけて、年率10パーセントを超える経済成長を達成した。「高度経済成長」により、極めて短期間で米国に次ぐ世界第2位の経済大国となることを可能とした我が国の経済システムや製造業における技術力については、各国の賞賛の的であり、1980年代には、海外の日本型経営の研究者による「Japan as number1」(エズラ・F・ヴォーゲル、1979年)という著作が出版されるなど、我が国の国際競争力は世界的に高く評価された。
 しかし、1990年代に入ると経済成長は停滞し、特に、大手金融機関が破綻(はたん)した1998年にはマイナス成長を記録するなど、1990年(平成2年)以降の10年間の平均経済成長率は、OECD加盟国の中でも最低水準にとどまり、長らく我が国は不況状態にあった(第1−1−17図)。この不況による経済成長率の低迷により、人口一人当たりのGDPは、2000年(平成12年)の世界第3位から6年連続で順位を下げ、2006年(平成18年)には世界第18位までランクを落とし、ついに、OECD加盟30か国の中では半分以下の水準まで落ち込んだ。主要国の相対順位は大きな変化を示していないにもかかわらず、我が国の順位だけは急落を続けている(第1−1−18図)
 また、世界経済に占める我が国経済の比率も徐々に減少しており、我が国のGDPが世界のGDPに占める割合は、1994年(平成6年)には17.9パーセントに達していたが、2006年(平成18年)には24年ぶりに10パーセントを下回って9.1パーセント(注1)まで下落し、10年前の半分の水準にまで落ち込んでいる。

  • (注1)米国:27.2パーセント、EU:28.3パーセント、中国:5.5パーセント

第1−1−17図 1990〜2000年代における主要国の実質GDP成長率の推移

  • 資料:内閣府「世界経済の潮流 2007年秋」

第1−1−18図 OECD諸国の一人当たり国内総生産(名目GDP)の順位

  • 資料:内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算平成18年度確報」

 経済成長における科学技術によるイノベーションの貢献を示す指標として、GDPの成長率に寄与している全要素生産性(MFP)(注2)という概念がある。全要素生産性とは、生産に寄与する要素のうち、労働投入量及び資本ストック以外のすべてを考慮した生産性を意味する。その向上には、景気変動、労働の質の向上なども含まれるが、科学技術によるイノベーションの進展を示す指標として使われることが多い。
  第1−1−19図に見られるように、1995年(平成7年)から2004年(平成16年)の我が国の経済成長率の推移を俯瞰(ふかん)すると、その寄与度において諸外国に比べ比較的MFPの占める割合が少ないことが分かる。対照的に米国では、成長率の寄与度において、MFPが最大の寄与を示しており、経済成長にイノベーションが大きく寄与したことが想定される。

  • (注2)Multi Factor Productivity:MFP又はTotal Factor Productivity:TFPと呼ばれる。

第1−1−19図 主要国の経済成長率(1995〜2004)

  • 資料:EU、KLEMS(注3)
  • (注3)KLEMS:EUの資金により実施されているデータベース構築と統計分析研究プログラム。なお、KLEMSとは、資本(K (C) apital)、労働(Labour)、エネルギー(Energy)、物財(Material)、サービス投入(Service input)の頭文字となっている。

(2)我が国の国際競争力の低下

 我が国の経済規模は、為替レート換算では、いまだ世界第2位を維持し世界トップレベルにあるが、その国際競争力の低下が指摘されている。国際競争力という概念には一定の定義がなく、様々な指標の組合せにより順位をつけられていることから、その順位の上昇や下降だけを論ずることは適当ではないが、海外の調査機関においては、国際競争力を国ごとにランク付けする試みもなされており、そこにおけるランキングは世界的にも注目度が高い。
 スイスの国際経営開発研究所(IMD)(注4)は、毎年世界各国の国際競争力を調査し公表している機関の一つである。このランキングによると、1993年(平成5年)に世界第1位であった我が国の国際競争力は、2007年(平成19年)の最新ランキングにおいて、24位(注5)にまで転落している。一方、1993年(平成5年)当時、我が国と世界トップを競っていた米国は、現在も変わらずその地位を維持している。他方、中国のランキング上昇は著しいものがあり、2007年(平成18年)には、ついに我が国を抜き、シンガポール・香港に続くアジア3位の国になっている(第1−1−20図)

  • (注4)IMD:International Institute for Management Development
  • (注5)IMDのランキングは、頻繁にその集計方法を変えるので、一概に以前の順位と比較することはできないことに留意する必要がある。

第1−1−20図 IMD国際競争力ランキングの推移

  • 資料:IMD「World Competitiveness Yearbook 2008」を基に文部科学省作成
    (2007年の順位は、IMD公表(2007年5月)による)

(3)科学技術によるイノベーションの必要性

 前述の全米アカデミーズ「強まる嵐を越える」では、「競争力を示すいくつかの指標」として、米国の国際競争力を巡る様々な状況等を紹介している。以下は、これらのうち、代表的なものを抜粋したものである。

(米国経済)

 「米国にある複数の定期航空会社が、現在、航空機のメンテナンス作業の一部を、中国とエルサルバドルに外注している」
 「IBM(注6)は、最近、パソコン事業をある中国の企業体に売却した」

  • (注6)アイビーエム:International Business Machines Corporation

(比較経済論)

 「米国で1人の工場労働者を雇うコストで、メキシコでは9人を雇うことができる。米国で1人の専門的技術者を雇うコストで、インドでは8人を雇うことができる」

(K-12 教育制度)

 「最近になって公表されたある調査によると、米国の有権者の86パーセントは「国は科学及び数学に関する経歴を持つ労働者の数を増やすべきであり、さもないと世界経済における米国の競争力が低下する」と考えている」

(高等教育)

 「米国では、2000年の時点で科学技術分野の労働人口のうち38パーセントが外国生まれである」

(様々な視点)

 「我々は頭の良い人がいるところに出かけていく。現在、我々の事業活動は3分の2が米国国内で3分の1が海外となっているが、次の10年間でこの比率が逆転するだろう」(ハワード・ハイ:インテルのスポークスマン)

 「1月の収益と同じ年の12月の収益とを比較すると、12月の収益の90パーセントは、1月には存在していなかった製品によるものだ」(クライグ・バレット:インテル会長)

 「海外旅行中に見た外国の高校と我が国の高校を比較した時、将来の我が国の労働力について空恐ろしいものを感じる」(ビル・ゲイツ:マイクロソフト(注7)会長兼主任ソフトウェア・アーキテクト)

 「科学と技術が、国家の防衛及び国家経済の健全性にとってこれほど重要であったことは今までに一度もなかった」(ジョージ・W・ブッシュ:米国大統領)

 これらは、グローバル化の進展を端的に表す状況を描き出しているほか、理工系人材の育成、科学技術によるイノベーションの必要性を強調しており、日米という国の違いを超えて我が国のとるべき方向性にも深い示唆を与えているものと言えよう。
 我が国においても、大競争時代の中、少子高齢化の進行と著しい資本の増加が困難な状況の中で、我が国の経済成長を維持・向上させるためにはイノベーションが不可欠であることは、論を待たない。
 このため、我が国にとって、イノベーション創出の最も強力な手段である科学技術の強力で効果的な振興を行うことが、我が国の経済成長を維持し、世界経済における主要なプレーヤーとして生き残り、豊かな国民生活を実現するための鍵となる。

  • (注7)マイクロソフト:Microsoft Corporation

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