このようなIT技術が高度に進展した時代の到来とあわせて、ブラジル、ロシア、インド、中国は、自国経済を開放するとともに世界経済に参加し、徐々に世界経済における存在感を大きくしている。これらの国は、その頭文字をとってBRICsと言われる。
これらの国は、外国資本の導入やエネルギー価格の高騰等により、大きな経済成長を遂げ、財・サービスの市場としてだけではなく、天然資源や財・サービス等の大きな供給主体として世界の主要なプレーヤーとなりつつある。米国の証券会社ゴールドマン・サックス(注1)が2003年に公表した「BRICsとともに見る2050年への道」(注2)は、世界中に大きな衝撃を与えた。同レポートによると、2050年の世界GDP(注3)ランキング(米ドルベース)が、中国、米国、インド、日本、ブラジル、ロシアの順になるという予測を行っている(第1−1−3図)。
各国の経済規模は、世界全体の経済規模や資源・食糧確保、さらには環境負荷等の様々な問題にも大きく左右されるものであり、同レポートも一つの予測に過ぎないものではあるが、BRICs諸国が将来大きく成長するという予想自体は特殊なものではない(第1−1−4表)。
第1−1−3図 主な国のGDPの将来推計

第1−1−4表 主要国のGDPの推移(将来推計)
(2005年価格、10億ドル)
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ここで注意しなければならないことは、これらのBRICs諸国の経済発展、特に中国、インド、ロシアの経済発展が、世界の勢力地図に与えるインパクトの大きさである。
特に中国、インド、ロシアは、大きな人口を有しており、既に政治・軍事的に大きな勢力であるだけでなく、世界で活躍する優れた研究者等の知的労働者を抱え、高い教育水準にある(第1−1−5図)。将来、米国やEUに匹敵するような次世代の大国として成長していく可能性が十分に考えられる(第1−1−6図)。
また、ロシアやブラジルは、経済面でのプレーヤーとしてだけでなく、エネルギーや食料の供給等の面においても無視し得ない存在となっている(第1−1−7表)。
2004年に米国国家情報評議会が報告した「将来の地球のマッピング」(Mapping the Global Future)(注4)においても、「中国、インドなど新興国の台頭は、19世紀の帝政ドイツ、20世紀初頭の強大な米国の出現に匹敵する劇的な地政学的変化を引き起こす」として、そのインパクトの大きさを語っている。
既にこれらの国では、IBMのパソコン部門を買収して、世界第8位のパーソナルコンピュータ・メーカーとなった、中国最大の国立研究機関である中国科学院からのスピンオフ企業の一つであるレノボ(注5)や、商用車部門で世界第5位のインドのタタ・モーターズ(注6)、2006年にインド企業として初めてナスダック(NASDAQ)に上場したインフォシス・テクノロジーズ(注7)(オフショア開発等を行うIT企業)などの世界的大企業が成長している。
第1−1−5図 米国及びドイツにおける外国人の雇用状況

(1)米国H-1B非移民ビザ取得者の国・地域別の構成

(2)米国H-1B非移民ビザ新規取得者博士号取得者の国・地域別の構成

(3)ドイツ・マックスプランク協会に在籍する若手研究者と一時滞在研究者の国・地域別構成比
第1−1−6図 主な国の将来の人口推計

第1−1−7表 BRICs諸国の鉱工業生産量の比較
| エネルギー資源 | 石炭 | 原油 | 天然ガス | ウラン鉱 |
|---|---|---|---|---|
| ブラジル | 339トン | |||
| ロシア | 164百万トン | 377百万トン | 22,308千兆ジュール | 2,850トン |
| インド | 340百万トン | |||
| 中国 | 1,398百万トン | 167百万トン | ||
| 日本 | 3百万トン | 113千兆ジュール |
| 金属資源 | 鉄鉱石 | ニッケル鉱 | マンガン鉱 | 金鉱 |
|---|---|---|---|---|
| ブラジル | 140百万トン | 45千トン | 1,554千トン | 48トン |
| ロシア | 49百万トン | 310千トン | 168トン | |
| インド | 62百万トン | 672千トン | ||
| 中国 | 117百万トン | 55千トン | 2,268千トン | 192トン |
| 日本 | 9トン |
現在のところ、これらの国の経済成長は、安価な労働力や資源に依存する部分が多いという指摘もなされているところであるが、第1部第2章第1節に述べるように、中国を筆頭に、政府研究開発投資の増加と研究開発システムの大幅な改革を強力に推進しているところであり、イノベーション創出における先進諸国の強力なライバルとなる可能性は否定できない。
前述の「将来の地球のマッピング」においても、「中国とインドは技術的なリーダーとなり得るポジションにある。ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、IT、材料技術などのハイテク分野での急速な進展が、中国とインドの将来性を高める。両国は、既にこれらの基礎研究に投資しており、既に主要な領域のいくつかではリーダー的な地位にある」としている。
なお、これらBRICs諸国に続き、Next Eleven(ネクストイレブン)(注9)等と呼ばれる国々が世界市場に登場しており、これらの国々の成長も世界経済に大きな影響を与える可能性がある。今後、BRICs諸国に加え、これらの諸国が経済及び科学技術の面においてその勢いを増していくであろうことにも注意が必要である。
BRICs諸国の中でも特に注目を集めているのが中国である。
中国の躍進は、BRICs諸国の経済の台頭の中でも目覚ましいものがあり、投資と輸出が景気を牽引(けんいん)し、2007年まで5年連続の二桁(けた)成長を達成している(第1−1−8図)。世界銀行によると、中国の名目GDPが世界経済全体に占める割合は、2005年において約5パーセントとなり、世界第4位である。購買力平価によるGDPでは、我が国を抜き、既に世界第2位となっている。また、世界全体に占める貿易額のシェアも6.7パーセントを占めるに至った。1990年にはいずれも1パーセント台であったことを考えると、その成長の急激さが見てとれる。
外資の誘致、優れた人材を活用した輸出等により、特に、製造業の発展は急激であり、従来我が国が得意としてきた家電製品などについて、特に消費者向けの最終製品を中心に世界市場で大きなシェアを占めている状況にある(第1−1−9図、第1−1−10図)。
第1−1−8図 中国の実質GDP成長率の推移

第1−1−9図 世界のGDP等に占める中国の割合

第1−1−10図 中国製造業の進展
(1)製造業売上の世界シェア

(2)製造業輸出額の世界シェア

第1部第2章でも述べるように、中国は現在、研究開発投資を急激に増加させており、民間企業においても研究開発費を増大させる動きが見られる(第1−1−11図)。さらに、中国企業には、自国内で研究開発を強化するとともに、技術を有する外国企業等を買収することでブランド力、技術力を強化しようとする動きも見られ、科学技術によるイノベーションに重点を置いた経済成長に近づいていく動きを見せている(第1−1−12表)。
第1−1−11図 中国の実施機関別研究開発投資の推移

第1−1−12表 中国の対外直接投資
