第3章 科学技術システム改革

第1節■人材の育成、確保、活躍の促進

1 個々の人材が活きる環境の形成

 日本の科学技術の将来や国際競争力の維持・強化は、我が国に育まれ、活躍する「人」の力如何(いかん)にかかっており、若手研究者や女性研究者、さらには外国人研究者、優れた高齢研究者などの多様多才な個々人が意欲と能力を発揮できる環境を形成することが重要である。以下に、各府省における主な施策について、項目ごとにまとめた。
 なお、農林水産省では、これらについて総合的に取り組み、農林水産分野における研究者等の人材育成を図る観点から、平成18年3月に「農林水産研究における人材育成プログラム」を策定した。

(1)若手研究者の自立支援

 我が国が科学技術創造立国を目指す上で、将来の研究活動を担う創造性豊かな優れた若手研究者を養成・確保することは極めて重要である。このため、研究機関においては、公正で透明な人事評価に基づく競争性の下、若手研究者に自立性と活躍の機会を与えることを通じて、若手研究者の活躍を促進することが求められている。また、大学においては、若手研究者の活躍を一層促進するため、助教の確保と活躍の場の整備がなされることが望まれている。
 総務省では、ICT分野の研究者として次世代を担う若手人材を育成するために、戦略的情報通信研究開発推進制度において「若手先端IT研究者育成型研究開発」を実施し、若手研究者が提案する研究開発課題に対して研究資金を支援している。
 文部科学省では、若手研究者の活躍を促進するために、平成18年度から、科学技術振興調整費による新規課題「若手研究者の自立的研究環境整備促進」を実施し、現在、9大学において、テニュア・トラック制(大学等において、任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験を積み、厳格な審査を経てより安定的な職を得る仕組み(第1部第1章第4節3(1)参照))の導入、自立した研究活動に必要なスタートアップ資金の提供や研究スペースの確保等研究環境の整備を支援している。
 また、科学研究費補助金においては、柔軟な発想と挑戦する意欲を持った若手研究者の育成の充実を図っており、平成18年度からは、特に「大学等の研究者の職に就いたばかりの者」を支援する種目(「若手研究(スタートアップ)」)を新たに設置するなど、約278億円の研究費を計上し、若手研究者を対象とした競争的資金の拡充に努めている。
 さらに、優れた若手研究者に対して、日本学術振興会が実施する特別研究員事業を通じ、自由な発想の元に主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与えるとともに、海外特別研究員事業などを通じ、国際経験を積み海外研究者と切磋琢磨(せっさたくま)する機会を提供することで、国際舞台で活躍できる研究者の養成・確保に努めている。
 厚生労働省では、将来の厚生労働科学研究を担う研究者の育成を推進するために、「厚生労働科学研究費補助金」の各事業に「若手育成型研究」を設置している。
 農林水産省では、優れた功績を上げた40歳未満の個人を対象に若手農林水産研究者表彰を実施し、若手研究者の一層の研究意欲向上に努めている。
 また、農業・食品産業技術総合研究機構では、若手研究者のイノベーション的研究を支援するために若手研究者支援型の研究推進事業を実施している。
 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構において若手研究者が取り組む産業応用を意図した研究開発への助成を行っている。
 環境省では、若手研究者による研究を推進するための競争的資金において特別枠を設け、若手研究者の研究支援をしている。

(2)人材の流動性の向上

 創造性豊かで広い視野を有する研究者を養成し、競争的で活力ある研究開発環境を実現するためには、研究者の流動性の向上を図り、研究者が様々な研究の場を経験することが重要である。第3期科学技術基本計画においても、大学及び公的研究機関は任期制の広範な定着に引き続き努めることとされており、各機関において任期制の導入が進められている(第3-3-1表、第3-3-2表)。また、各大学が真に優秀な人材を公正にかつ透明性を持って採用した結果として、教員の自校出身者比率が高くなることがありうるとしても、それが過度に高いことは、概して言えば望ましいことではない。各大学においては、教員の自校出身者比率に十分注意を払い、その比率が過度に高い大学にあってはその低減が図られることが期待される。

第3-3-1表 国の研究機関等の任期制の導入状況

第3-3-2表 大学の教員等の任期制の導入状況

(3)女性研究者の活躍促進

 我が国は、研究者数に占める女性の割合が欧米諸国に比べ低い状況にある。男女共同参画の観点はもとより、今後の科学技術関係人材の裾野を広げるためにも、女性研究者の活躍を促進することは重要な課題である。
 このため、第3期科学技術基本計画においては、各研究機関における、自然科学系全体での期待される女性研究者の採用目標として25パーセントが掲げられるとともに、女性研究者の活躍を促進するために様々な取組を進めることとされている。
 これを受け、文部科学省では平成18年度から、出産・育児によりやむを得ず研究活動を中断した優れた研究者が円滑に研究現場に復帰する環境を整備するため、日本学術振興会が実施する特別研究員事業に研究奨励金を支給する支援枠を創設した。
 また、平成18年度から科学技術振興調整費により、大学等の研究機関が行う研究と出産・育児との両立に関する支援のモデルとなる取組を公募し、優れた提案を支援する、「女性研究者支援モデル育成」を実施しており、現在10大学において取組が進められている。
 さらに、女子生徒の科学技術分野への興味・関心を喚起するため、女子中高生に対し、女性研究者との交流機会の提供や実験教室、出前授業等を行う「女子中高生の理系進路選択支援事業」を実施している。また、女子生徒の理工系への進路選択支援のための実践的な取組について収集・検討するとともに、社会教育関係者等を対象とした研修等によりその成果の普及を図る「女性の理工系進路選択支援事業」を実施したところである。
 内閣府では、「チャレンジ・キャンペーン−女子高校生等の理工系分野への選択−」として、女子高校生・学生等を対象に理工系分野に関する情報提供・意識啓発を実施している。
 産業技術総合研究所は平成18年4月に男女共同参画室を新設し、男女共同参画シンポジウム、女子学生向けの採用セミナーの開催などを行うとともに、育児と仕事の両立支援策として育児特別休暇の新設、研究・業務補助職員制度の拡充などを行った。
 環境省の競争的資金では、申請に当たって出産・育児期間を考慮し、年齢制限を緩和するなどの措置を講じている。

(4)外国人研究者の活躍促進

 多様な人材の活躍を促進する中で、人材の確保のみならず、我が国の研究活動の国際化、水準の向上に資するという観点から、優秀な外国人研究者が我が国に来て活躍できる環境づくりは重要である。
 しかしながら、高度技能を有する人材一般の中で外国人の占める割合が、我が国は国際的に非常に低く(第3-3-3図)、研究者についても、1万1,000人程度(注)と我が国の研究者全体の1.4パーセントにすぎない。
 「知」をめぐる大競争時代の中、米国、欧州諸国、中国などにおいて、国際的に熾烈な頭脳獲得競争が行われている状況にある。我が国としても、優秀な外国人研究者を我が国に惹(ひ)きつけるため、出入国管理制度の改正により、従来は「外国人研究者受入れ促進事業」を行う構造改革特区でのみ認められていた研究者の在留期間を3年から5年に延長する措置を全国展開し、また大学国際戦略本部強化事業により国内の研究環境の国際化を支援するなど、優秀な外国人研究者を日本に惹きつける制度の実現に向けて積極的に活動している。日本学術振興会においても、外国人特別研究員事業により海外の優秀な外国人研究者を年間約1,700人日本に招へいしている。

  • (注)法務省「在留外国人統計」において、在留資格が「教授」と「研究」の者の統計数

第3-3-3図 高度技能を有する人材に占める外国人の割合(国際比較)

(5)優れた高齢研究者の能力の活用

 産業技術総合研究所は改正高年齢者雇用安定法に対応して、最終的には65歳までの雇用を確保するための再雇用制度の導入を平成18年度に決定し、平成19年度より施行する予定である。

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