第2章 研究人材

 研究人材に関する指標は、研究費と並んで研究開発活動の状況を示す重要な指標である。研究活動に従事する研究関係従業者(注)は、研究者と研究者を支援する者(研究補助者、技能者、研究事務その他の関係者等)とに分けることができる。

第1節■研究者数の状況

(研究者数)

 研究者数については、国により対象の取り方、調査方法等に差異がある。
 フラスカティ・マニュアルでは、研究者を「新しい知識、製品、製法、方法及びシステムの考案又は創造及びそれらの業務のマネージメントに従事している専門家」と定義している。しかし、この定義はかなりあいまいなものであり、各国ともフラスカティ・マニュアルに沿いながら、研究者数の測定に当たっては、個別具体的に研究者の定義を行っている。
 このため、国により研究者数の測定方法に差異があり、国際比較には困難を伴う。日米の比較において、我が国の「科学技術研究調査」(総務省統計局)に基づく研究者数と、米国の「National Patterns of R&D Resources」(米国国立科学財団:NSF)に基づく研究者数とでは、対象の取り方に関して第2-2-1表のような差異が見られ、統計値の正確な比較を妨げているものと考えられる。
 大学等の研究者の範疇(はんちゅう)について、我が国では、教員、大学院博士課程の在籍者、医局員等からなり、日米間においては特に以下のような差異がある。

(1)教職員について

 日米間の比較が可能な1999年(平成11年)で見ると、我が国の場合には、人文・社会科学を含む大学等の教員16万9,070人が研究者とされているのに対し、米国の場合には、大学等における教職員のうち博士号を取得し、かつ研究を主業務と回答した者だけが研究者とされ、「National Patterns of R&D Resources:2002 Data Update」のTable 8によれば、11万8,000人と日本より少ない結果となっている。
 したがって、米国において研究に従事している教職員数は、日本と同様の統計をとるとすれば相当多くなるものと考えられるし、逆に、米国と同様の統計の取り方を日本に当てはめると、日本の研究者数は相当減少するものと考えられる。

第2-2-1表 研究者の定義についての日米比較

(2)大学院生について

 同様に1999年(平成11年)で比較すると、我が国の場合には、人文・社会科学等を含む5万9,057人の博士課程大学院生が研究者とされている。これは、文部科学省「文部科学統計要覧(平成16年版)」による平成11年の博士課程の大学院学生数5万9,007人とほぼ等しい。
 一方、米国の場合、大学院学生のうち、研究支援業務で報酬を得ている学生数9万1,300人(米国国立科学財団「Science and Engineering Indicators 2004Appendix table 5-28)に50パーセントの専従換算係数をかけた約4万5,700人が研究者とされることになる。したがって、米国では博士課程のみならず修士課程も含むものの、研究支援業務に携わる学生に限定し、さらに係数をかけているため、博士課程の全学生数を研究者とする日本より少なく見積もられている可能性が高い。「National Patterns of R&D Resources:2002 Data Update」のTable 8によれば6万8,026人が研究支援に従事する学生数とされている。
 このように、日米比較を行う際には、我が国の研究者数が大学を中心に多めに計測されていることに注意が必要である。文部科学省では、2002年に「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」を実施しており、その結果に基づいて研究者数が見積もられ、OECD等に報告されている。
 前述のように、研究者数の計測方法に相違があるが、大まかな傾向を見るため主要国それぞれの取りまとめ方法による研究者数を比較すると、米国(2002年:133.5万人)が最も多く、次いで日本82.0万人(2006年)専従換算では70.5万人(2006年)、ドイツ(2004年:26.8万人)の順となっている(第2-2-2図)
 我が国の研究者数全体の推移を見ると、平成16年は3.95パーセントの増加、専従換算では4.45パーセントの増加。平成17年は0.47パーセントの増加、専従換算では0.28パーセントの増加。平成18年は3.67パーセントの増加、専従換算では4.10パーセントの増加となっている。なお、平成9年に調査対象産業の拡大、平成14年に調査対象産業の拡大及び研究者の定義の変更、調査期日の変更などが行われた。昭和61年以降の年平均の伸び率は、昭和61年〜平成3年が4.29パーセント、平成3年〜平成8年が同2.94パーセント、平成8年〜平成13年が同1.47パーセント、平成13年〜平成18年が同1.78パーセントとなっている。

第2-2-2図 主要国の研究者数の推移

(人口及び労働力人口1万人当たりの研究者数)

 平成18年(2006年)の我が国の人口1万人当たりの研究者数は64.2人、労働力人口1万人当たりの研究者数は122.0人と、主要国中で最も多くなっている(第2-2-3図)。近年の推移を見ると、我が国の人口1万人当たり及び労働力人口1万人当たりの研究者数は、2000年ごろから停滞傾向にあったが、2004年からまた増加傾向になっている。

第2-2-3図 主要国における人口及び労働力人口1万人当たりの研究者数の推移

(組織別研究者数)

 研究者数の組織別構成比を見ると、我が国では産業界(企業等)が最も多く58.7パーセント、次いで大学等に36.0パーセント、政府研究機関(公的機関)が4.2パーセントとなっている。
 米国では産業界の研究者数の割合が大きいのに対して、政府研究機関の割合は我が国と並んで低い。一方、欧州では政府研究機関に研究人材が集まっている度合いが、我が国や米国と比較して高くなっている(第2-2-4図)

第2-2-4図 主要国の研究者数の組織別割合

−企業等−

 企業等の研究者数は、最近5年間(平成13年〜平成18年:ただし平成14年は見直し後の調査による)では42.1万人から14.3パーセント増(年平均の伸び率2.70パーセント)の48.1万人に増加し、一時期鈍化したがまた増加に転じている。また他の組織に比べ増加しており、産業界では研究開発を重要なものと位置付けていることがうかがえる(第2-2-5図)

第2-2-5図 我が国の組織別研究者数の推移

 研究者数を産業別に見ると、情報通信機械器具工業が最も多く、以下、輸送用機械工業、機械工業、電気機械器具工業、電子部品・デバイス工業、化学工業、精密機械工業と続いている(第2-2-6図)

第2-2-6図 企業等の研究者の産業別構成比(平成18年)

 従業者1万人当たりの研究者数を見ると、学術研究機関を除いて、情報通信機械器具工業が最も多く、全産業平均の約3.1倍であり、以下、電子応用・電気計測器工業、油脂・塗料工業、精密機械工業、電子部品・デバイス工業となっている(第2-2-7図)

第2-2-7図 企業等における従業者1万人当たりの研究者数(学術研究機関を除く上位5業種)(平成18年)

 専門別に見ると、工学が最も多く、次いで理学、農学の順となっている。工学の中では電気・通信及び機械・船舶・航空が、理学では化学の分野が多く、この3分野で企業等全体の7割を占めている(第2-2-8図)

第2-2-8図 企業等の研究者の専門別構成比(平成18年)

−非営利団体・公的機関−

 総務省統計局「科学技術研究調査」の見直しに加え、国立試験研究機関の独立行政法人化などに伴い、時系列での比較は困難である。平成18年の研究者数は、非営利団体が8,900人、公的機関のうち、国営が3,400人、公営が1万3,700人、特殊法人・独立行政法人が1万7,000人となっている(第2-2-9図)

第2-2-9図 非営利団体・公的機関の研究者数の推移

 専門別の構成比は、非営利団体では工学、公的機関のうち国営では保健及び工学、公営では農学、特殊法人・独立行政法人では工学及び理学の研究者の割合が多い(第2-2-10図)

第2-2-10図 非営利団体・公的機関の研究者の専門別構成比(平成18年)

−大学等−

 大学等全体の研究者数は、最近5年間(平成13年〜平成18年)に、人文・社会科学等を含めて28.2万人から29.5万人に増加し、4.7パーセント増(年平均の伸び率0.92パーセント)になっている。平成18年における国・公・私立別の研究者数は、私立(13.75万人)、国立(13.54万人)、公立(2.25万人)の順となっている(第2-2-11図)。ただし、研究本務者数で見ると、国立(12.9万人)、私立(12.3万人)、公立(1.9万人)の順である。

第2-2-11図 大学等の研究者数の推移

 大学等における研究本務者は、教員、大学院博士課程の在籍者及び医局員等からなるが、これを国・公・私立別に見ると、国立では公・私立と比較して大学院博士課程の在籍者の割合が大きく、私立では教員の割合が大きく大学院博士課程の在籍者の割合が小さい。公立では国立大学と私立大学の中間の値である(第2-2-12図)

第2-2-12図 大学等の研究本務者の職種別構成比(平成18年)

 学問別構成比を見ると、大学の研究本務者は、教員、大学院博士課程の在籍者及び医局員等のすべてについて、保健の割合が最も高い。それ以外の学問については、理学は、大学院博士課程の在籍者における割合が比較的高い(第2-2-13図)

第2-2-13図 大学等の研究本務者の自然科学における学問別構成比(平成18年)

 最近5年間(平成13年〜平成18年)の専門別研究本務者数の推移は、年平均の伸び率で、工学(1.89パーセント)、農学(0.74パーセント)、保健(0.54パーセント)、理学(0.27パーセント)と微増傾向となっている(第2-2-14図)。また、詳細な専門別の分野で見ると、鉱山・金属(年平均の伸び率11.74パーセント)、薬学(同3.63パーセント)、電気・通信(同2.60パーセント)、などの伸びが比較的大きい(第2-2-15図)

第2-2-14図 大学等の専門別研究本務者数の推移

第2-2-15図 大学等の専門別研究本務者数の推移(詳細)

(女性研究者)

 人文・社会科学を含めた女性研究者は年々増加し、平成18年には、10.3万人となり、研究者全体の11.9パーセントを占めている(第2-2-16図)。しかしながら、総務省「労働力調査」によれば、平成18年の年平均の全就業者数(6,382万人)に占める女性就業者の割合は41.6パーセント(2,652万人)であり、これと比較すると、依然として研究開発分野での女性の進出が遅れていると言える。各組織ごとに女性研究者の割合を見ると、企業等6.5パーセント、非営利団体11.1パーセント、公的機関12.5パーセント、大学等21.5パーセントとなっており、大学等に女性研究者が多い。

第2-2-16図 女性研究者数と研究者総数に占める女性研究者の割合の推移

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