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コラム■ナンバー15

匠の技の結晶「万年時計」に見る科学技術

 「からくり儀右衛門」の異名で知られる幕末の技術者、田中久重は自分のからくり技術の総決算として、和時計の最高傑作「萬歳自鳴鐘」、通称万年時計を1851年に製作した。江戸時代の不定時法では、日出(にっしゅつ)と日没を基準として昼夜を各6等分して「一刻」とするため、昼と夜、季節によって「一刻」の時間の長さが変化していく。従来の和時計は、季節によって表示板を変更する必要があった。しかし、この万年時計は一年に一度ゼンマイを回すだけで、時刻を表示する駒を季節に対応して自動的に動かし、一年中使える画期的な物であった。

萬歳自鳴鐘(万年時計)

不定時法による時計表示

虫歯車
虫歯車の動作比較実験結果

 万年時計は、天頂部がプラネタリウムになっており、その下に割駒式和時計、24節気記入盤、七曜と時打ち数の表示、十干と十二支による日付表示、月齢の表示、洋時計の六つの各種表示面がある。田中久重は旺盛なチャレンジ精神で、幕末に西洋から伝わる新しい知識や技術を利用し、江戸時代の人々が必要とする「時」と「暦」に関するあらゆる情報を、ゼンマイ仕掛けで1年間、自動的に表示しようとしたのである。全体が連動して動く機構の独創性やアイデアだけでなく、漆工や螺鈿、彫金などの美しい装飾を合わせ持つ万年時計は、正に「匠の技」の結晶である。
 万年時計は、江戸時代の不定時法に対応するために、時刻を示す駒が自動的に動き、時間間隔を変化させている。
 これを実現しているのが虫歯車である。通常の歯車とは大きく異なり、八つの歯の取付け角度や間隔は一定ではない。そこで虫歯車が実際にどのような動きをするのか、現代の天文学の知識によって昼夜の目標とする動作を満たす歯車を設計・製作し、さらに実物の万年時計に使われている虫歯車を模して製作した歯車の比較実験をすると、虫歯車の動作は、反転のタイミングで若干ズレがあるものの目標とする動作との誤差は小さく、歯車の回転も滑らかであることが実証された。
 職人であった田中久重が、高度な天文学の知識を理解し、ほぼ手作業で万年時計を実現したことは驚異的であり、田中久重の知識・技術レベルの高さが分かる。
 進んだ西洋の知識や技術を、闇雲に導入・利用したのではなく、日本の人々の生活や文化に合わせて作られた万年時計。季節の変化や、自然の時の流れに沿って時刻を表示する万年時計の技術は、改めて現代の我々に心の豊かさと科学技術の関係を問いかけている。

資料: 文部科学省 特定領域研究「江戸のモノつくり」研究班報告書
写真提供: 国立科学博物館

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