コラム■ 14 |
現代によみがえる源氏物語絵巻
国宝源氏物語絵巻は、12世紀に作成された、現存する我が国最古の物語絵巻である。
平成11年、科学者、美術史研究者、画家という異分野の専門家のチームにより、この絵巻を分析・復元するプロジェクトが立ち上がった。このプロジェクトが実現した背景には、分析機器の進歩があった。
従来、文化財の調査分析は調査作品を分析装置のある研究所に持ち込んで行うことが普通であったが、国宝ともなると、その保存の必要上、研究所まで移動させての調査は難しい。建造物や大きな仏像など移動不可能なものも多く、重要な文化財ほど調査されにくいという皮肉な結果にもなっていた。このため、東京文化財研究所では、持ち運ぶことのできる蛍光X線分析装置の開発に着手し、平成11年に完成したこの装置で最初に分析を手がけたのが、源氏物語絵巻であった。文化財の材質調査には三つの目的がある。使われている材料を特定することにより、同じ材料で修理すること、材料を知ることで保存に適した環境(温度・湿度等)を作り出すこと、そして、作品の技術水準を知ることで作品の価値の判断に資することである。
源氏物語絵巻に使われた材料を特定する分析は、無機材料についてはポータブル蛍光X線分析装置で、また有機材料については蛍光撮影法によって行われ、多くの発見がもたらされた。その一つが、写真1の女房の着物の文様である。有機染料によって描かれた文様は褪(たい)色(しょく)によって肉眼では見えなくなっている(写真2)が、繊維の中に残ったわずかな染料を検出する蛍光撮影法により、文様が鮮やかに浮かび上がったのである。
(写真1:竹河の段部分分析結果) |
(写真2:竹河の段部分 原画) |
(写真3:竹河の段女房部分図原画) |
資料:東京文化財研究所
また、蛍光X線分析によって、使われている様々な絵の具の種類が明らかにされた。例えば、人物の顔に使われている白色顔料は、従来知られていた3種類に加えて水銀を含む白色顔料が使われていたことが新たに判明した。人間の「おしろい」として使われていたものが日本画にも使われていることが分かった初めての例である。54帖からなる源氏物語絵巻はいくつかのグループに分かれて描かれたとされているが、そういった美術史の研究にも新たな検討資料を提供する発見である。さらに、このプロジェクトでは、分析測定で顔料や有機染料等を特定することにより、描かれた当時の色を推定し、日本画家の手による同じ材料を用いた復元模写が行われた。
現在直接目にすることができる絵からは褪色したイメージしかなかった源氏物語絵巻が、分析技術の成果を受けて、平安の時代に描かれた当時の姿そのままに21世紀の我々の前に、鮮やかによみがえったのである。
【写真4,5】
写真4:柏木三【原画】 |
写真5:柏木三【複元模写】 |
資料:徳川美術館
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