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第2節■国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化

 経済や産業の活性化により持続的に経済発展を遂げていくため、また、国民が安心して安全な生活をおくるためには、重点分野に積極的・戦略的に投資を行い、研究開発の推進を図らねばならない。
 基本計画が定める重点化戦略及び「分野別推進戦略」(第3-1-4図参照)を踏まえ、平成17年度に講じられた施策は次のとおりである。

1.ライフサイエンス分野

(1)ライフサイエンスの推進
 ライフサイエンスは、生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明する科学であるとともに、その成果は、医療の飛躍的な発展や、食料・環境問題の解決につながるなど、国民生活の向上及び国民経済の発展に大きく寄与するものである。

●産業化に向けた取組等
 ライフサイエンスの産業化への取組の強化のため、関係5大臣(科学技術庁長官、文部大臣、厚生大臣及び農林水産大臣及び通商産業大臣〔いずれも当時〕)が、「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本戦略(平成11年7月)」等に基づき、高齢化社会に対応し個人の特徴に応じた革新的医療の実現及び豊かで健康な食生活と安心して暮らせる生活環境を実現するため、平成12年度から平成16年度までミレニアム・プロジェクトを実施した。本プロジェクトは平成17年7月に最終評価・助言を行い完了した。
 さらに、平成14年7月に内閣総理大臣主宰のBT(バイオテクノロジー)戦略会議が設置され、同年12月には、平成22年(2010年)を見据え、1研究開発の圧倒的充実、2産業化プロセスの抜本的強化、3国民理解の徹底的浸透の三つの戦略とこれらについての具体的な行動計画を示した「バイオテクノロジー戦略大綱」を決定した。前回のBT戦略会議(平成17年3月)以降の取組の進捗(ちょく)状況について、平成18年1月の第8回BT戦略会議においてフォローアップを行った。

●ライフサイエンスの分野別研究の推進
1ゲノム科学研究の推進
 ヒトの遺伝情報であるヒトゲノムの全解読を目指して日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国の6か国24機関が参加した国際ヒトゲノムシーケンス決定コンソーシアムは、平成15年4月、ヒトゲノムの精密解読完了宣言を行った。
 その成果を踏まえて文部科学省はポストゲノム研究の一環として、平成16年度より「ゲノムネットワークプロジェクト」を開始した。このプロジェクトでは、生体分子間の相互作用などの網羅的な解析を中心に、生命活動を成立させているネットワークを明らかにすることにより、生命科学に関する基本的問題の解明、疾患の発症機構の解明、新しい治療の開発を目指している。そのほか、ゲノム創薬等につながるたんぱく質の構造・機能解析や、個人個人の遺伝情報を活用した革新的な医療技術の開発等についても着実な推進に努めている。また、科学研究費補助金等により、大学等における基礎研究の重点的な推進を図っている。
 厚生労働省では、平成12年度から、ミレニアム・プロジェクトの一環として、認知症、がん、糖尿病、高血圧、ぜん息等の高齢者の主要な疾患に関連する遺伝子の解明により、病気の予防、治療法の確立や画期的新薬の開発を目指した研究開発を推進している。また、平成14年度からは、近年のゲノム科学の急速な進展を踏まえ、医薬品候補化合物等について、迅速・効率的に安全性(毒性、副作用)を予測する基盤技術(トキシコゲノミクス)に関する研究開発を行っている。
 農林水産省では、農業生物資源研究所等を中心に、平成16年度末までに国際的なコンソーシアムによるイネゲノムの全塩基配列を解読したほか、各種の遺伝子単離法を確立し、多数の遺伝子の機能を解明するとともに、遺伝子の機能解明研究の重要な鍵となる研究試料・データを多数蓄積してきた。平成17年度からは、これまでのイネゲノム関連の研究成果を活かすべく、ポストゲノム研究として、「食料供給力向上のためのグリーンテクノ計画」を開始し、ゲノム情報学的知見を総合し、多様な形質の発現バランスをゲノムレベルで制御する効率的な育種法(ゲノム育種技術)を開発・実証することにより、食料供給力の向上と新産業を創出するための研究を行っている。
 経済産業省では、産業技術総合研究所におけるゲノム機能の研究・技術開発、製品評価技術基盤機構における産業有用微生物のゲノム解析等を実施しているほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ民間活力を利用することにより、遺伝子情報解析のための技術開発等を行っている。なお、「ヒト完全長cDNA(注)構造解析」により平成13年度までに新規ヒト遺伝子3万個の取得を終了し、現在、製品評価技術基盤機構より配付を行うとともに、その解析を実施中である。
 環境省では、国立環境研究所において、生物多様性の保全研究及び有害化学物質による健康影響研究へのゲノム技術の活用に関する研究を行っている。

 cDNA:complementary DNA(相補デオキシリボ核酸)の略。メッセンジャーRNA(mRNA)を鋳型に逆転写酵素などによってつくられたDNAのことを示す。cDNAはDNAのうち遺伝子領域のみにより構成され、完全長cDNAは、一つの遺伝子情報をすべて含んだもの。

a)たんぱく質の構造・機能解析の推進
 たんぱく質の構造・機能解析は、その研究成果が医療への応用や産業利用へ直結することから、ポストゲノム研究の中でも最も重要な分野の一つである。
 文部科学省では、我が国発のゲノム創薬等の実現を目指し、平成14年度より大規模NMR(核磁気共鳴装置)施設やSPring-8(大型放射光施設)を活用するなど、産学官の研究能力を結集して、約1万種といわれるたんぱく質の基本構造のうち約3分の1(3,000種)以上について構造・機能解析を行うとともに、その成果の特許化を含めた成果の産業移転を目指す「タンパク3000プロジェクト」を推進し、平成17年10月までに2,738個の構造を決定した。
 厚生労働省では、働き盛りの国民にとっての2大死因であるがん及び心筋梗(こう)塞(そく)、要介護状態の大きな原因となる脳卒中、認知症、骨折について、予防と治療成績の向上を果たすため、質の高い大規模臨床試験の実施、疾患関連たんぱく質の機能や相互作用等の解明に関する研究開発を進めている。
 経済産業省では、産業技術総合研究所生物情報解析研究センターに産学官の研究者を結集させ、生体内で特に重要な役割を果たしていると考えられている膜たんぱく質の構造解析に関する研究開発「生体高分子立体構造情報解析」や「ヒト完全長cDNA構造解析」から得られた成果を活用しヒト新規遺伝子の機能解析を進めるため「たんぱく質機能解析」等の研究開発を行っている。

ヒトのDNAの組換えを担うたんぱく質の立体構造の解明に成功。提供:理化学研究所

b)バイオインフォマティクス等の推進
 近年のゲノム科学研究の進展によって大量に生み出されたゲノム関連情報を効果的に活用する手段として、ライフサイエンスとIT(情報技術)との融合分野であるバイオインフォマティクスの推進が重要である。
 文部科学省では、科学技術振興機構バイオインフォマティクス推進センターにおいて、データベースの高度化・標準化・拡充や、ゲノム解析ツール開発等を実施しているほか、世界3大拠点の一つである国立遺伝学研究所が運営するDDBJ(日本DNAデータバンク)をはじめとするゲノム関連データベースの整備を進めている。また、科学技術振興調整費により、大学等を対象としたバイオインフォマティクス分野の人材養成に係るプログラムを実施している。
 経済産業省では、平成12年度より膨大なバイオテクノロジー関連のデータやミレニアム・プロジェクト等の成果を研究や産業化に活用できるよう、独自の情報や高度検索・解析ツールを付加したH-invitationalデータベース(統合データベース)の構築を実施し、平成16年度より公開、更なる拡充を図っている。また、マイクロサテライトやSNPs(注)等の遺伝子多型情報から、効率的に疾患等に関連する遺伝子の探索が可能となるソフトウェア等の整備を実施するため「遺伝子多様性モデル解析事業」を平成12年度(補正予算)より実施している。

 SNPs:Single Nucleotide Polymorphisms(一塩基多型)の略。ゲノム上の塩基配列の中で人種や個人(例えば健康な人と病気の人)で異なる塩基を持っている現象及びゲノム上のその部位

c)遺伝子多型研究の推進
 病気の原因を解明し、個人個人に応じた効果的な医療の実現を目指し、各省において以下の研究開発を推進している。
 文部科学省では、平成15年度から、「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」を実施している。これまで複数の医療機関等の協力の下、対象の疾患の患者からDNA・血清及び臨床情報を収集してバイオバンクを整備し、平成17年度から本格的にそれらの試料を利用したSNPsと疾患、薬剤応答、副作用等との関連の解明を目指した研究を実施している。理化学研究所遺伝子多型研究センターでは、国際ハップマッププロジェクト(日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国)において、参加機関のうち最大の貢献を果たし、結果をJSNPデータベースに公開したのに加え、本プロジェクトとの連携を図りつつ、疾患原因の解明等の研究を推進している。経済産業省では、探索されたSNPsのデータについて、東京大学医科学研究所と社団法人バイオ産業化コンソーシアム(JBiC)の共同で遺伝子多型の頻度解析(アレル頻度の解析)を平成14年度までに終了し、現在、JSNPデータベースを通じて、SNPsの位置のデータと併せて公開している。
 厚生労働省では、認知症、がん、糖尿病、高血圧及びぜん息等の疾患関連遺伝子並びに薬剤反応性関連遺伝子の遺伝子多型の探索を推進している。
 また、農林水産省では、平成14年度より遺伝子多型を活用した効率的な農作物の品種育成システムを開発することを目的として、農作物のSNPsマーカー開発を行っている。

2脳科学研究の推進
 脳科学研究は、その成果を通じて、社会生活の質の向上や医学の向上、新技術・新産業の創出につながることが期待される分野である。このため、「脳を知る」、「脳を守る」、「脳を創る」及び「脳を育む」領域を柱として、府省の枠を超えた多くの大学、国立試験研究機関の能力を最大限に活用した研究開発が進められている。
 文部科学省では、理化学研究所脳科学総合研究センターにおける研究を推進するとともに、科学研究費補助金及び科学技術振興機構の公募型研究推進事業等を活用し、大学等における脳科学研究の重点的な推進を図っている。また、平成17年度より脳神経科学の膨大な研究成果等の情報基盤を整備し、国際協力により世界中の研究者に提供するためのニューロインフォマティクスの推進を行っている。さらに、科学技術振興機構において、社会・生活環境が心身や言葉の発達に与える影響等の解明を目的として、乳幼児を対象に大阪、三重、鳥取の3地区で質問票、専門家の行動観察等によりデータ蓄積、分析を開始している。
 厚生労働省では、パーキンソン病等の神経・筋疾患、アルツハイマー病、高次脳機能障害、統合失調症やうつ病等の精神疾患の病態解明や治療法の開発に向けた研究が進められているほか、農林水産省の家畜の脳神経系機能研究、総務省の生命の情報通信機能の解明と適用の研究等の研究が各府省において実施されている。
 また、我が国が1987年(昭和62年)6月のベネチアサミットにおいて提唱したヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)においては、「国際」「学際」「若手重視」の原則に基づき、脳機能をはじめとする「生体の複雑な機能」の解明に寄与する研究を対象に、国際的枠組みによる研究助成が行われている。

3発生・分化・再生科学研究の推進
 発生・分化・再生領域の研究は、一つの細胞が様々な組織・臓器に分化し個体を形成・維持することに関するメカニズム等の解明を目指すものである。これは、現在治療が困難な疾病に対する治療として期待されている再生医療の基礎となるものであり、近年の幹細胞研究の急速な進展やES細胞(胚性幹細胞)の作製技術の確立などをもたらしている。
 文部科学省では、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターにおける研究を実施している。また、「再生医療の実現化プロジェクト」を平成15年度より開始し、研究基盤としての幹細胞バンクを整備し、幹細胞の研究者への提供や、基礎研究成果の臨床応用に向けた研究を推進している。
 厚生労働省では、再生医療の実現に資するため、移植・再生医療における臨床面に重点を置いた研究を推進している。
 経済産業省では、再生医療の実用化を支援する機器開発を進めている。

4植物科学研究の推進
 ゲノム科学の発展に伴い、植物ゲノムの構造・機能解析も進展しつつあり、これらの成果をもとに植物機能をコントロールすることにより、食生活の向上等に資する植物の開発が期待されている。
 イネ・ゲノム研究は主要穀物をはじめとする作物研究の基礎となる重要なものであり、農林水産省は、イネ・ゲノムの全塩基配列解読及び有用遺伝子の機能解明、特許化を中心とする第2期イネ・ゲノム計画を推進し、世界的な評価を受けている。
 なお、農林水産省では、塩基配列の解読と並行し、ポストゲノムシーケンス研究を進めてきたが、平成17年度より「食料供給力向上のためのグリーンテクノ計画」として植物における有用遺伝子の機能と遺伝子間のネットワークを解明し、これを活用した効率的な有用品種の育成技術の確立と、食料安定供給に資する先導的なモデル系統の作出を推進している。

 文部科学省では、理化学研究所植物科学研究センターにおいて、シロイヌナズナ等のモデル植物のゲノム機能の解明を通じ、植物の量的、質的な生産力を向上させる研究を推進している。植物研究においても機能解析、ネットワーク解析、メタボローム解析(注)の本格的な解析基盤が整い、研究水準も欧米と肩を並べるに至っている。
 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構において、植物機能を活用した工業原料等の有用物質生産の基盤技術を構築するため、植物の物質生産系の経路と機能の解析やそれらを統合したデータベースの開発等を実施している。

 メタボローム解析:細胞内の酵素などによって作り出される全代謝物質を同定および定量し、ゲノム機能と対応させること。

5バイオリソースの整備
 バイオリソースは、生物遺伝資源の保存のみならず、新たな研究領域の活動を拓(ひら)く上で重要なものであり、国家的視点に立って開発、収集、保存、提供を進めていく必要がある。
 文部科学省では、平成14年度から、ライフサイエンス研究の基盤となる実験動植物(マウス等)や各種細胞、各種生物の遺伝子材料等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」を実施している。
 厚生労働省では、医薬基盤研究所にマスターバンクを設置し、医学、薬学分野の研究に必要なヒトや動物由来の培養細胞及び遺伝子の収集・保存を行うとともに、財団法人ヒューマンサイエンス振興財団を通じ、研究者等に提供している。なお、同財団では、生命倫理問題にも配慮しつつヒト組織の分譲を開始した。また、薬用植物の収集・保存及び提供、医学実験用カニクイザル等の繁殖・供給を行っている。
 農林水産省では、ジーンバンク事業として農林水産業等に係る植物、動物、微生物、林木、水生生物及びDNA等の生物遺伝資源について、収集、分類・同定、特性評価及び増殖・保存を行うとともに、生物遺伝資源及び生物遺伝資源情報を国立試験研究機関、独立行政法人、民間、大学等に提供している。また、イネ・ゲノム研究等の成果であるゲノムリソースの整備を進め、保存及び民間、大学等へ提供している。
 経済産業省では、我が国の中核的な微生物等の生物遺伝資源機関として、製品評価技術基盤機構に生物遺伝資源センターを設置し、生物遺伝資源の収集、保存等を行うとともに、これらの資源に関する情報(分類、塩基配列、遺伝子機能等に関する情報)を整備し、生物遺伝資源と併せて提供を行っている。また、微生物の産業利用推進のため、未知微生物遺伝資源ライブラリーの構築プロジェクトを実施している。さらに、海外生物遺伝資源へのアクセスを確保し、我が国における産業利用推進のため、生物多様性条約を踏まえ、アジア諸国と微生物の利用に関する合意書を締結し、日本への移転を行っている。また、アジアにおける微生物資源の保存と活用を目指すアジア・コンソーシアムを推進し、資源国との連携体制を強化するなど、海外における多様な微生物の収集・活用体制の整備を実施している。
 環境省では、絶滅のおそれのある野生生物の細胞等を保存する環境試料タイムカプセル化事業を平成14年度より実施している。また、国立環境研究所においては、藻類の収集・保存・提供及びデータベースの構築を行っている。

6食料に関する研究開発の推進
 食料安全保障や豊かな食生活の確保のためには、農林水産物の安定的・持続的な生産・流通システムの構築を図るとともに、国民の健康増進に寄与する機能性食品の開発等を推進していく必要がある。
 このため、農林水産省では、食料自給率の向上や生鮮食品の輸入急増に対応するため、麦、大豆、野菜等について品質、病虫害抵抗性、栄養・機能性成分等に優れた農作物等の新品種の育成及び栽培・流通・加工技術の開発、クローン等畜産関係技術の開発、難人工生産性養殖種苗の生産技術の開発等を引き続き促進するとともに、食の安全・安心の確保のため、有害微生物等の検出技術の高度化やDNAによる品種判別技術の開発、牛海綿状脳症(BSE)の制圧のためのプリオンたんぱく質の性状解明・診断技術の開発、人獣共通感染症の国内発生時における国民の不安解消と畜産業への影響軽減に資する診断や予防のための基盤技術開発等を実施している。また、平成17年度から、抗生物質の使用量低減を目的とした安全・安心な畜産物生産技術の開発や、効率的な輪作体系を確立するため、馬鈴しょのソイルコンディショニング技術(注)、稲・麦・大豆に対応可能な播種機等の開発を推進している。さらに新たな機能性食品の開発に資するため、食品素材の組合せによる生体調節機能の解明等に関する研究の加速化を図っているほか、バイオマーカー(簡易な生物指標)等を活用して食品の持つ効能を科学的に評価し、健康維持に効果のある食品の製造技術の開発を推進している。
 また、食品安全を脅かす様々な事例の発生や「食育基本法」の制定などにより、国民の「食」に対する関心は高く、食品の安心・安全確保は重要な課題となっている。このため、厚生労働省では、食品の安全に関する施策の充実・向上・強化のため、添加物、汚染物質、化学物質、残留農薬、微生物、牛海綿状脳症(BSE)、健康食品、モダンバイオテクノロジー応用食品等について、新しい危害要因に関する研究、規格基準策定のための調査研究、公定検査法確立のための開発研究等を推進し、その成果をリスク管理措置に反映させている。さらに、食中毒対策や食品テロのような健康危機管理に関する研究を行っている。

 馬鈴しょのソイルコンディショニング技術:馬鈴しょを植え付ける直前に、石を取り除く等により、イモの生育環境を整えるとともに収穫時における石の選別作業が削減される栽培方法であり、収穫作業時間が短縮されるため、小麦播種作業との競合が緩和される。

7がん関連研究の推進
 がんは我が国の総死亡数の約3割を占めていることから、平成16年度からの新たな10か年戦略である「第3次対がん10か年総合戦略」(平成15年7月文部科学大臣・厚生労働大臣決定)を策定し、がんの本態解明及びその研究成果を活かした新しい予防法・診断法・治療法の解明を進めている。
 本戦略の下、文部科学省では、平成16年度からがん免疫療法や分子標的治療法に係る優れた基礎研究成果を臨床に応用するための橋渡し研究として「がんトランスレーショナル・リサーチ事業」を進めている。また、放射線医学総合研究所で難治性がんに対する画期的な治療法として期待されている重粒子線がん治療装置の臨床試験を行っている。
 厚生労働省では、肺がんの早期発見に資するヘリカルCTの開発や、内視鏡による、患者の負担の少ない安全ながん治療法の開発などが行われた。
 経済産業省では、平成17年度から細胞の機能変化をとらえ、がんの超早期発見に資する分子イメージング機器やがん細胞のみをピンポイントに治療する機器の開発を行っている。

8免疫・アレルギー・感染症研究の推進
 多くの国民の願いとなっている花粉症や関節リウマチといった免疫・アレルギー疾患の克服や依然として国民的脅威である感染症の対策に向けて、免疫・アレルギー・感染症分野の研究を総合的に推進する必要がある。
 文部科学省では、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターにおいて免疫システムの基盤的・総合的解明を目指した研究を行っている。感染症分野については、科学技術振興調整費による重症急性呼吸器症候群(SARS(サーズ))などの感染症制圧を目指した研究を進めているほか、平成17年度より「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」を開始し、国内外の研究拠点の整備、及び拠点を中心とした共同研究の推進等を通じて、新興・再興感染症対策への迅速な対応に資する基礎的知見の集積、人材の養成等を図っている。
 厚生労働省では、新興・再興感染症、エイズ対策、肝炎対策、免疫アレルギー疾患の各分野における研究を推進しているほか、国立感染症研究所において、広く感染症に関する研究を先導的、独創的かつ総合的に行っている。また、免疫・アレルギー疾患の病態解明や治療法の開発に向けては、国立病院機構相模原病院に臨床研究センターを設置し、臨床面に重点を置いた研究を推進している。
 なお、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターと国立病院機構相模原病院は共同研究協定を取り交わしており、基礎と臨床の連携による効率的な研究の推進を図っている。
 農林水産省では、農業・生物系特定産業技術研究機構において、牛海綿状脳症(BSE)や鳥インフルエンザなどの人獣共通感染症に対する総合的防除研究等を推進している。

9融合領域における研究開発の推進
 文部科学省では、平成15年度から、生命情報技術・先端イメージング技術により、実際の生体や細胞を用いて実施している薬剤応答解析・動物試験等のシミュレーション化を目指した、細胞・生体機能シミュレーションプロジェクトを実施している。
 また平成17年度より、分子イメージング研究プログラム(注)を開始し、世界最先端の分子イメージング技術の確立に向けた研究を推進している。この技術により,生体内の分子の量や働きの可視化が可能となり、がん等の疾患の早期発見、薬物動態の把握、薬効の評価等への応用が期待できる。全国的な研究開発体制を確立することで、疾患の革新的診断手法の確立、創薬プロセスの短縮、創薬コストの低減等を目指している。

 分子イメージング研究プログラム:分子イメージング研究を推進するための研究基盤を整備するとともに国内の分子イメージング研究の中核となる研究拠点を形成し、創薬候補物質の探索及び疾患診断の高度化のための革新的な研究開発等を実施するプログラム

10その他の研究開発等の推進
 生物は一般に、効率的にエネルギーを変換することが可能であり、常温常圧の反応でエネルギー消費が少ないことから、経済産業省では「生物機能活用型循環産業システム創造プログラム」として、ゲノム情報に基づき生物機能を有効に活用し、省エネルギーで環境に調和した循環型産業システムへの利用を拡大するための基盤技術の開発を推進している。
 また、生物機能の多様な側面で重要な働きをしていると考えられている糖鎖についても、文部科学省では、科学研究費補助金、戦略的創造研究推進事業等により、大学等における糖鎖研究の推進を図っている。経済産業省では、糖鎖の自動合成装置・構造解析装置の開発に向けた研究開発を実施している。
 なお、ライフサイエンス分野の研究開発については、科学研究費補助金等を活用し、大学等における基礎研究を推進している。また、特定の地域の優れた研究能力を活用・強化することによって、効果的な推進が図られるものもあり、平成13年8月、都市再生本部における都市再生プロジェクト第2次決定において、「大阪圏におけるライフサイエンスの国際拠点形成」が、また、平成14年7月における第4次決定では、「東京圏におけるゲノム科学の国際拠点形成」が盛り込まれた。文部科学省では、同決定に伴い、大学等における研究を推進し、ライフサイエンス研究拠点形成や各拠点間の相互連携体制の構築に取り組んでいる。また、厚生労働省では、大阪圏において、画期的な医薬品等の開発に関する基盤技術の拠点的研究機関の整備等を進めている。

 平成17年度に実施された主なライフサイエンス研究を各府省別にまとめると、第3-2-1表のとおりである。

第3-2-1表ライフサイエンス分野の主な研究課題(平成17年度)

●科学技術連携施策群について
 内閣府では、ポストゲノム研究及び新興・再興感染症対策研究において、不必要な重複などの府省の縦割りの弊害排除や連携強化を図る「科学技術連携施策群」の取組を実施している。本取組の中で、平成17年度に各省の施策を補完して実施すべき課題として、「ライフサイエンス分野のデータベースの統合化に関する調査研究」(ポストゲノム)、及び「ウイルス伝播に関与する野鳥の飛来ルートの調査とそれら野鳥における病原体調査及びデータベース構築」(新興・再興感染症)を選定し、推進している。

(2)生命倫理・安全に対する取組
●生命倫理の問題に対する取組

 近年のライフサイエンスの急速な発展は、医療等の分野に革新的成果をもたらすことが期待される一方、新たに人の尊厳や人権に関わるような生命倫理の問題を生起させる可能性がある。
 このため、それらの問題に適切に対応すべく、総合科学技術会議の生命倫理専門調査会では生命倫理に関する重要事項についての調査・検討を行っている。また文部科学省、厚生労働省等においては、必要な法令・指針の整備等を行っている。
 ヒトクローン技術に関しては、文部科学省において、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(平成12年法律第146号)によりクローン人間の産生を禁止し、同法に基づく指針により人クローン胚の作成・利用については当分の間行わないこととするなど、厳しく規制している。
 ヒト受精胚や人クローン胚などの取扱いについては、同法の規定などに基づき、平成13年8月より総合科学技術会議生命倫理専門調査会において検討が行われ、その結果平成16年7月に総合科学技術会議で「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」について関係府省に対する意見具申が取りまとめられた。この意見具申において、人クローン胚とヒト受精胚の研究目的での作成・利用について限定的に容認することとし、その適正な取扱いを確保する枠組みの整備が求められた。これを受け、文部科学省では人クローン胚の取扱いについて、人クローン胚研究利用作業部会を設置し検討を行っている。また、生殖補助医療研究目的のヒト受精胚の取扱いについて、文部科学省では生殖補助医療専門委員会を、厚生労働省ではヒト胚研究に関する専門委員会を設置し、合同で委員会を開催するなど両者が密接に連携しつつ検討を行っている。
 また、ヒトES細胞(注1)研究に関して、文部科学省では、平成13年に策定した指針に基づき、研究計画の審査等を行っており、これまでに樹立計画1件、使用計画32件について指針適合性の確認を行った(平成18年2月末現在)。
 このほか、ヒトゲノム・遺伝子解析研究、疫学研究(注2)や臨床研究については、人間の尊厳の尊重、個人情報の適切な管理などが必要となるため、それぞれ文部科学省、厚生労働省、経済産業省の関係省が連携して、指針(注3)に基づき、研究の適正な推進を図っている。
 日本学術会議の生命科学と生命倫理:21世紀の指針特別委員会では、生命倫理に関する諸問題についての検討の結果を平成17年8月『新たな生命倫理価値体系構築のための社会システム「いのち」の尊厳と「こころ」の尊重を基軸として』に取りまとめた。

注1  ヒトES細胞:人の体のあらゆる部分に分化する可能性を持つ万能細胞であることから、医療への応用が期待される一方、ヒトの受精卵を滅失して樹立(作成)されるという倫理的問題がある。
注2  疫学研究:疾病のり患をはじめ健康に関する事象の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする科学研究をいう。
注3  ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針、疫学研究に関する倫理指針、臨床研究に関する倫理指針

●ライフサイエンスにおける安全性の確保への取組
 遺伝子組換え技術は、基礎生物学的な研究はもとより医薬品の製造や農作物の改良等広範な分野において応用されている技術であるが、生物に新しい性質を持たせるという側面がある。このため、遺伝子組換え生物等による生物多様性への悪影響を防止するために必要な措置を定めた「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)に基づき、遺伝子組換え生物等の適正な利用の確保を図っている。なお、法施行後、遺伝子組換え生物等の不適切な使用等があったことから、これらの機関に対して厳重注意を行うとともに、説明会を開催することにより法令の周知徹底を図っている。
 遺伝子治療(注)の確立を目的とする臨床研究については、文部科学省及び厚生労働省が共同で策定した遺伝子治療臨床研究に関する指針に基づき、研究の適正な推進を図っている。


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