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2.科学技術を支える人材

(1)活躍の場が広がる科学技術関係人材とその養成

●活躍の場が広がる科学技術関係人材と供給不足の懸念
 日本に住む我々国民の人口構造が変化することによって今後様々な問題が発生するとすれば、そうした問題を乗り越え、新たな社会を切り拓(ひら)いていくのも我々自身である。特に科学技術の創造と活用を通じた新しい社会システムの実現は、我々の中の科学技術に携わる人々の活躍によるほかはない。
 新たな知の創造を担う研究者の重要性は言うまでもないが、加えて、科学技術を一層活用するこれからの社会では、これまで以上に広範な場所、場面で多様な科学技術関係人材の役割が重要となる(第1-2-58図)。

第1-2-58図科学技術関係人材の多様なキャリアパス

 例えば、新たな知を活用して製品化する技術者はもとより、科学技術の成果を知的財産として戦略的に取得・活用できる人材、技術と経営の双方を理解して研究開発を効果的に市場価値に結実させる人材等のイノベーション創出を支える人材が求められている。また、1.で述べたように、科学技術を一般国民に分かりやすく説明するとともに、国民の声を研究者・技術者側にフィードバックするなどの科学技術と社会とを結ぶ科学技術コミュニケーター等の人材が必要である。実際、産学官の研究者からは、こうした人材に対する強い不足感が示されている(第1-2-59図)。
 研究者、技術者については、将来、経済成長率や産業構造の変化によっては供給が不足する可能性があるとの試算がある(第1-2-60図)。この試算によると、例えば、生産年齢人口1人当たり実質GDPが年率2パーセントで成長(GDP総額として年率1.2パーセントの実質成長に相当)する場合(需要推計における高位ケース)に必要な研究者数、技術者数は、今後も博士課程進学者が現在の傾向で増加し続ける(供給推計における高位ケース)としても、2030年に研究者が約16万人、技術者が約109万人不足するとの結果になっている。
 少子高齢化で労働力人口の減少が見込まれる中で、こうした多様な人材の質・量を確保していくこと、そして、科学技術関係人材ひとりひとりがその能力をよりよく発揮できる環境づくりに取り組むことが必要である。

第1-2-59図様々な科学技術関係人材(役割)の不足感

第1-2-60図研究人材の将来需給推計

●社会のニーズに応える大学・大学院の人材養成の取組
 科学技術関係人材の養成、確保に向けては、上記1.で述べたような、初等中等教育段階において子どもの科学技術への関心を高め裾野の拡大を図る取組、才能ある子どもの個性・能力を伸ばす取組と併せて、科学技術関係人材を社会へ直接送り出す要の役割を担う大学、大学院が社会の多様なニーズに応じた人材育成を進める必要がある。
 博士号取得者についても、これまでのように大学等アカデミックな場に修了後のキャリアパスが限られることなく、民間企業も含めた社会の幅広い場で活躍する機会を与えられることが重要であり、大学院においてもそのために必要な能力を養う教育に取り組む必要がある。
 量的に見ると、大学学部入学者数では、近年、工学系の学科で減少しているものの、特に保健系で大きく増加してきたことにより、自然科学系(理学、工学、農学、保健)全体としてはほぼ横ばいで推移しており、18歳人口に対する比率は伸びてきている。また、自然科学系分野を専攻した大学院博士課程卒業者数については、絶対数として増加しているとともに、27歳人口に対する比率でも大きく伸びている(第1-2-61図)。修士課程卒業者数についても同様である。
 一方、現役研究者による若手研究者に対する評価は、専門分野の知識、基礎的な知識、協調性については高いものの、課題設定能力、社会常識、創造性については低くなっている(第1-2-62図)。産業界からも、人材供給源として大学・大学院に望むこととして、「知識を与えるよりも、考える力をつけさせる」、「入試を単に知識の量を評価する形から、思考力、関心、素質などを多面的に評価する方式に変える」などが挙げられている(注)。
 こうしたことも踏まえ、大学、大学院における教育内容、教育方法の充実を図っていく必要があり、特に各大学院においては、社会のニーズをくみ取りつつ課程の目的を明確化した上で、体系的な教育プログラムを編成して学位授与に導くプロセス管理を徹底することが必要である。大学院教育の改革に当たっては、世界的な教育研究拠点の形成、大学院評価の確立、財政基盤の充実等も含めた総合的な取組が必要であり、文部科学省において、今後5か年程度の体系的・集中的な取組計画(大学院教育振興施策要綱)を策定し、これに基づく施策を講じることとしている。
 また、第3期科学技術基本計画では、こうした大学院教育の質の抜本的な強化と併せ、優秀な人材が経済的負担の心配なく博士課程に進学することのできるような支援制度を拡充するなど、大学における人材育成機能の強化を図ることとしている。

第1-2-61図大学学部入学者数及び大学院卒業者数の推移

第1-2-62図若手研究者に対する評価

 文部科学省「民間企業の研究活動に関する調査(平成16年度)」

●再教育の機会提供の促進
 一度大学等の教育を受け社会に出た人材でも、必要に応じて、専門分野の最新の理論、技術や、関連する新たな分野について再教育を受け、これまでのキャリアの上に新たな能力を構築していくことは、社会として少子高齢化のもと限りある人材を有効に活用するという観点からも望ましい。
 このため、例えば、民間企業に勤める現役の技術者、出産や育児、介護等の事情により一度キャリアを中断した女性、高齢者など、だれもがいつでも自らの選択により適切に学ぶ機会が整備されていることが重要である。
 近年、大学、大学院で学ぶ社会人が増加している(第1-2-63図)が、大学、大学院は、こうした社会ニーズにも応えて、再教育の機会を一層積極的に提供していくことが望まれる。

第1-2-63図社会人の大学院への入学者数の推移

(2)多様な人材が活躍できる環境の整備

●個々の人材が活きる環境整備の必要性
 今後、科学技術関係人材の活躍の場が多様化し、それに応じた人材養成を進めるとしても、人口減少・少子高齢化が進むと予測される中で、量的な人材確保には困難が伴うであろう。したがって、科学技術関係人材の確保を進めるに当たっては、既にある優秀な人材がその能力を十分に発揮できるような環境の整備を併せて進めることが必要である。以下、年齢、性別及び国籍にかかわらず多様な人材が活躍できる環境の整備について順に述べる。

●若手研究者
 ノーベル賞受賞のきっかけとなった論文等が発表された時の受賞者の年齢等を見ると、創造性の面で高い評価を受ける研究成果は、個人差があるのは当然であるが、30歳代から40歳代前半に多く着想されていると考えられる。少子化の進展に伴って量的な面での人材供給に対する懸念が特に若手研究者について高まっており、創造性に富む優秀な若手研究者の活躍を促進することが以前にもまして重要である。
 このため、テニュア・トラック制をはじめ、若手研究者が自立的に研究活動を行い、その能力を活かすことができる機会を与え、環境を整備していくことが必要であり、第3期科学技術基本計画においても、国は、こうした環境整備(スタートアップ資金の提供、研究支援体制の充実、研究スペースの確保等)に取り組む大学等を支援することとしている。
 また、研究資金の確保については、自らの裁量で使用したり配分したりすることのできる研究費の年額に関して文部科学省で調査したところ、35歳未満の研究者の35パーセントはそのような研究費はないと回答しており、そのほかに100万円未満と回答した者と合わせて6割以上にのぼる。研究分野等によって必要な研究費の額は異なるが、45歳以上65歳未満の研究者ではその割合が2割前後であるのに比べれば、優秀な若手研究者が自立的に研究を行おうとしても必要な研究費が確保しにくい状況があるものと考えられる(第1-2-64図)。
 こうしたことから、第3期科学技術基本計画では、国は、競争的資金制度において特に若手研究者に対する支援を重点的に拡充する等により若手研究者への研究資金の配分を高めることとしている。
 さらに、平成17年の学校教育法の改正によって、大学の教員組織においてこれまで位置付けが曖昧であった助手に代わって、自ら教育・研究を行うことを主たる職務とする「助教」を新たな職として設けるとともに、「助手」は教育・研究の補助を主たる職務とする職として定められた(第1-2-65図)。若手研究者の活躍を促進する観点からも、大学は、この新しい教員組織において、積極的に助教の確保と活躍の場の整備を行っていくことが望まれる。

第1-2-64図自分の裁量で使用、配分できる研究費の年額(年齢別)

第1-2-65図新しい大学教員組織制度(概要)

●高齢研究者
 年齢によらず優秀な人材に活躍の機会が与えられることは、若手研究者についてのみならず、社会として、今後増加する高年齢層の中の潜在的な科学技術関係人材を活用する上でも重要である。
 大学においては、米国のように、優秀な研究者は外部資金の活用等により何らかの形で引き続き研究を続行できるような措置をとることが求められる。
 また、研究職以外の立場でも、これまでに培った豊富な知見、経験をもとに科学技術の振興のために活躍できる機会が増えていくことが望ましい。例えば、研究者自身は、研究職以外の職種として興味のあるものとして研究開発等の企画・マネージメントを挙げる者が最も多く、特に55歳以上の研究者は、若い研究者に比べ、研究成果の活用先・利用先を見出す業務、研究開発等の評価、研究者と国民をつなぐインタープリター等に対して強い興味を示している(第1-2-66図)。

第1-2-66図研究職以外に興味のある職種

●女性研究者
 女性については、研究者数に占める割合が国際的に最低レベルにあるなど一層の活躍の余地が大きく、男女共同参画の観点からも、今後の科学技術関係人材の質の確保の上で裾野を広げるためにも、女性の研究者・技術者等がその能力を発揮できるようにすることは喫緊の課題である(第1-2-67図)。
 研究者としてのキャリアを選択した女性が現在直面している障壁については、採用・昇進に関するものと専門分野に関するものの二つの視点から考察することができる。
 昇進に関する壁は、縦方向の性別隔離とも言われ、例えば、大学教員としてのキャリアパスで見た場合、大学学部への入学から、大学院への進学、助手、助教授、そして教授への昇進と、キャリアが進むにつれて女性の割合が低下していく状況を表現するものである。
 第1-2-68図は、こうした状況が程度の差はあれ欧州各国に共通していることを示しており、その形状から「ハサミの図」(scissors diagram)とも呼ばれている。我が国については、欧州での状況にもまして、キャリア全般における女性の採用・昇進が少なく、また、大学入学時点において既に女性の割合が男性に比べ大きく下回っており、女性研究者の積極的な採用・登用を促進するための取組に加え、高等学校卒業までの段階における何らかの取組が必要なことを示唆している。
 分野に関する壁は、横方向の性別隔離とも呼ばれ、女性研究者の専門分野に偏りが生じている状況を表現するものである。我が国については、女性の割合は保健系や農学系、理学部の中では生物系で比較的高く、物理系や工学系で低くなっている(第1-2-69図)。こうした専門分野に関する男女間の違いがどの程度大きいかを指標化し、国際比較したのが第1-2-70図である。これを見ると我が国は欧州諸国と比べ男女間の違いが大きいことが分かる。

第1-2-67図女性研究者の割合(国際比較)

第1-2-68図大学等の自然科学系分野における学生、教員に占める女性と男性の割合(国際比較)

第1-2-69図我が国の大学における専攻分野別の女子学生の割合

第1-2-70図専門分野に関する男女間の違いの大きさ(国際比較)

 以上のように、我が国は単に女性研究者の割合が低いだけでなく、昇進の面でも専門分野の面でも男女の格差が大きい。女性研究者が少ない理由について、研究者を対象としたアンケート調査を行ったところ、出産や育児、介護等といった家庭の事情を挙げる者が最も多く、家庭におけるこうした役割の多くを女性が担っていることが仕事と家庭の両立を困難にしているものと考えられる。また、女性研究者からの回答では、これに続いて、評価、昇進、処遇において女性が不利な状況にあることが多くなっている(第1-2-71図)。
 こうしたことから、第3期科学技術基本計画においても、女性研究者の活躍を促進するために様々な取組を進めていくこととしている。
 まず、競争的資金等の受給において、出産・育児等に伴う一定期間の中断や期間延長を認めるなど、研究と出産・育児等の両立に配慮した措置を拡充することとしている。
 また、大学や公的研究機関については、次世代育成支援対策推進法に基づき策定・実施する行動計画に、研究と出産・育児等の両立支援を規定し、環境整備のみならず意識改革を含めた取組を着実に実施することが求められており、国は、他のモデルとなるような取組に対して支援を行うこととしているほか、機関ごとの女性研究者の採用の数値目標の設定等を通じて、採用、昇進・昇格、意思決定機関等への参画において女性を積極的に登用することが期待されている(期待される女性研究者の採用の目標は自然科学系全体として25パーセント)。
 さらに、大学への進学時に既に女性の割合が大幅に低いことから、女子児童・生徒に向けた興味や関心を喚起する取組の強化等を行うこととしている。

第1-2-71図女性研究者が少ない理由

●外国人研究者
 多様な人材の活躍を促進する中で、外国人研究者についても、人材の確保につながるだけでなく、我が国の研究活動の国際化、水準の向上に資するという観点から、優秀な研究者が我が国に来て活躍できる環境づくりが重要である
 しかしながら、高度技能を有する人材一般の中で外国人の占める割合が、我が国は国際的に非常に低く(第1-2-72図)、研究者についても、1万1,000人程度(注)と我が国の研究者全体の1.4パーセントにすぎない。
 我が国の研究者を対象とした調査の結果によると、我が国に外国人研究者が少ない理由として最も多いのは「言葉などのコミュニケーションの問題」であったが、このほかに「日本の研究環境(研究資金、研究サポート体制等)が悪い」、「日本で研究したいという外国人研究者が少ない」、「就労ビザの取得など外国人研究者採用のための手続が煩雑」を挙げる者が多かった(第1-2-73図)。
 優秀な研究者の獲得については、米国、欧州諸国、中国など国際的に熾烈な頭脳獲得競争が行われている状況にある。我が国としても、国は、大学や公的研究機関による優れた外国人研究者の招へい、登用を促進するため、研究環境はむろん、住宅確保や子どもの教育等の生活環境にも配慮した受入体制の構築を支援するとともに、出入国管理制度や査証発給に係る必要な見直し、運用改善等を一層推進することとしている。

 法務省「在留外国人統計」において、在留資格が「教授」と「研究」の者の合計数。

第1-2-72図高度技能を有する人材に占める外国人の割合(国際比較)

第1-2-73図外国人研究者が少ない理由(上位6項目)

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