ここからサイトの主なメニューです

ダウンロード/印刷用(PDF:2,807KB)]

第4節■人々とともにある科学技術とそれを支える人材

要旨
 今後、科学技術によって少子高齢化に積極的に対応していくためには、国民一人一人が科学技術に関する基礎的な知識や能力を備えていることが重要な基盤となるが、現状は、国民の科学技術に対する関心、理解度は国際的にも低い水準となっている。このため、研究者をはじめとする科学技術の側から国民への積極的な双方向コミュニケーションの働きかけ、初等中等教育段階における学校での取組等を進め、人々の間に科学技術への共感と信頼を醸成していく必要がある。
 また、科学技術に携わる人材の活躍の場は今後ますます広がり、その重要性が高まっていく。少子高齢化による労働力人口の減少が見込まれる中で、社会ニーズに応じた多様な科学技術関係人材の質・量を養成、確保していくこと、そして、その一人一人が年齢、性別、国籍などに関わらず、その能力を十分に発揮できる環境づくりを進める必要がある。

1.人々とともにある科学技術

(1)一人一人に必要な科学技術に対する理解と関心

●科学技術に対する理解と関心の必要性
 科学技術と我々の生活の関わりはますます深くなってきているが、国民の科学技術に対する関心は近年、若者を中心に低下の傾向にある(第1-2-52図)。
 しかしながら、世界的にいわゆる知識基盤社会へと移行していく中、我が国においても、前節までで見てきたように科学技術による社会的・経済的課題の解決、知的・文化的価値の創出を通じて今後の少子高齢化に積極的に対応していくためには、科学技術についての人々の理解と関心が不可欠である。
 それは、まず第一に、科学技術の発展を社会に還元していく上で、受け手である国民の側にそれを理解し、活用するに十分な素地ができていることが、科学技術の成果の効率的、効果的な実社会への応用には必要だからである。最新の科学技術による機器を導入したり利用するときに限らず、科学的なものの考え方、科学の基本原理を身に付けておくことが、日常生活をスムーズにおくる上でも役に立つであろう。
 また、第二に、日々の生活や仕事に科学技術がいよいよ密着した社会を、そこで暮らす人々の支持なしに実現することは困難だからである。少なからぬ割合の国民が科学技術の発展に不安を感じている(第1-2-53図)。科学技術がこれまで我々の社会に与えた影響には環境問題等負の側面もあったこと、生命倫理等の課題を抱えていることは事実であり、自分たちの理解を超えて科学技術がますます進展、高度化していくことに対する不安が示されるのも当然といえよう。したがって、今後の科学技術の振興に当たっては、社会のための科学技術、人々とともにある科学技術という視点に立って、国民の共感、信頼を得ながら進めていくことが不可欠である。また、国民の側も、科学技術についての認識を深め、その在り方に係る意思決定に主体的に参加していくことが求められる。

●科学技術リテラシーの向上
 国民一人一人が科学技術の成果を十分に享受し、また、社会における科学技術の在り方について関心を持って考え、自立的に判断していく上で、科学技術に関する基礎的な知識や能力(科学技術リテラシー)を備えていることが重要となる。
 国民の科学技術リテラシー向上への取組には、成人段階で身に付けるべき科学技術に関する知識、技術、物の見方を分かりやすく具体的に提示していくことが有効と考えられ、第3期科学技術基本計画では、こうしたものを文章化した科学技術リテラシー像を策定し、広く普及していくこととしている。

第1-2-52図科学技術についてのニュースや話題への関心

第1-2-53図科学技術の発展に伴う課題

●我が国における科学技術リテラシー、科学技術への関心の状況
 国民に十分な科学技術リテラシーが備わっていることが科学技術を通じて新しい社会を切り拓(ひら)いていくために重要であるが、現状では、我が国の大人の科学技術に関する基礎概念に対する理解度は国際的に見て低い(第1-2-54図)。むろん、このような基礎概念の理解が科学技術リテラシーのすべてではないが、科学技術リテラシーの向上を目指す上で課題があることを示している。
 第1-2-54図は、我が国と欧米等各国の大人の科学技術の基礎概念に対する理解度と併せて、子どもの理科・数学の学力を示したものである。これを見ると、一般的には、子どもの学力が高い国は大人の理解度も高く、子どもの学力が低い国は大人の理解度も低いという関係が見られるが、我が国については、国際的に最上位レベルにある子どもの学力と対照的に、大人の理解度は下位に位置しており、極めて特徴的である。
 また、この図からは、子どもの学力が同程度の国同士で比較すると、我が国も含め大人の科学技術への関心が低い13か国は、関心の高い12か国よりも、大人の理解度が相対的に低い傾向が見られることから、理解度と関心の高さには関係があるものと考えられる。
 第1-2-55図は、我が国の国民の科学技術への興味、関心の度合いを小学生から大人までの学年・年齢別で見たものである。小学生から高校生までについては理科や算数・数学の勉強が好きかどうかを尋ねた調査による結果であり、18歳以上を対象に科学技術のニュースや話題に関心があるかどうかを尋ねた調査の結果と完全に同列に扱うことはできないが、学年が上になるほど理科や算数・数学が好きな児童・生徒の割合は低下して高校3年生で37〜38パーセントとなり、18〜19歳の科学技術のニュース等に関心がある者の割合の36パーセントとほぼ同程度となっている。また、20歳代以降では、科学技術のニュース等に関心のある者の割合は徐々に上昇し、50歳代を最高に下降していくパターンとなっている。
 このように、我が国では、子どもの理科・数学の学力は国際的に高い水準にある一方で、科学技術(理数科目の勉強)への興味、関心は学年が進むにつれて低下し、大人となってからもすぐには持ち直すことなく、科学技術の理解度もいつの間にか国際水準から大きく落ち込むこととなっている状況が推測される。

第1-2-54図大人の科学技術に関する理解度と子どもの学力(我が国を含む25か国)

第1-2-55図学年、年齢別の科学技術に関する興味、関心の度合い

●無関心の再生産
 子どもの関心の低下をもたらすものは何であろうか。理科の好き嫌いに影響したものについて尋ねたアンケート調査の結果によれば、高校生のころまでは学校(先生)や家庭(保護者)を挙げる者が全体の8割以上を占め、周囲の身近な大人が大きな影響を与えていることが分かる(第1-2-56図)。
 したがって、以上述べてきたことと併せて考察すれば、我が国では、関心の低い子どもがそのまま大人になり、関心の低い大人の影響で子どもの関心が低下するという無関心の再生産構造ともいえるものがあり、こうした状況で大人の科学技術に関する知識、理解も低くなっているのではないかと考えられる。

第1-2-56図理科の好き嫌いに影響したもの

(2)科学技術への共感と信頼の醸成

●科学技術と社会をつなぐコミュニケーションの活性化に向けた取組
 科学技術に関心のない大人と子どもを減らし、科学技術リテラシーを高め、科学技術と社会の間の双方向コミュニケーションを活性化していく取組が必要である。
 研究者・技術者は、自分の行っている研究等について、分かりやすく人々に伝え、同時に人々の望みや不安をくみ取って、自らの活動に反映していくアウトリーチ活動を進めていくことが求められる。
 また、研究者・技術者と一般の人々の間に立って、アウトリーチ活動への支援も含め、科学技術の面白さ、負の側面も含めた現状を分かりやすく伝える媒介者の役割が重要性を増している。科学館・博物館等において人々が科学技術に触れ、体験・学習できる機会が拡充されるとともに、こうした活動を担う職員、ボランティアや、科学技術ジャーナリスト等専門人材が養成、確保される必要がある。また、科学技術と文化や芸術との融合等新たな手法を工夫していくことも大切である。
 子どもたちについては、特に学校の役割が大きいと考えられる。研究者から直接話を聴く等の研究者の顔が見える機会や、観察、実験、実習等を通じて体験的・問題解決的に科学技術に関する知識を身に付けていく機会が拡充され、理科や数学・算数を学ぶ楽しさや意義が子どもたちに伝わっていくことが重要である。このため、地域の大学、公的研究機関、企業、科学館・博物館等との連携や、優れた教員の養成、資質向上等に取り組んでいく必要がある。
 こうした取組を通じて、人々の間に科学技術に対する親しみ、信頼と共感が醸成されていくことが期待される。また、このような社会が築かれていけば、おのずと子どもたちの中に将来の科学技術の創造や活用を担う人材層を厚く育むことにもなろう。
 国は、第3期科学技術基本計画に基づき、今後とも、こうした関係者の取組を積極的に支援していくこととしている。

●研究者・技術者倫理
 社会のための科学技術を目指した取組が関係者の努力によって進められている中で、近年、実験データのねつ造や建築物の構造計算書偽装事件等研究者、技術者の倫理が問われる事件が発生し、社会的に大きな問題となっている。一部の研究者、技術者によって、科学技術と科学技術に携わる人たち全体への信頼を損ない、科学技術の発展に悪影響を与える行為がなされたことは誠に残念であり、また、あってはならないことである。
 こうした事件の再発を防ぐためには、まず第一に研究者、技術者の自己規律が基本であり、さらに行動規範や倫理綱領の策定、倫理教育の充実等を進めていくことが必要である。また、研究上の不正については、その疑惑に対する調査、審査のための組織、手続等制度を整備することも有効と思われる。諸外国においては、既にそのような取組が進められている(第1-2-57図)。
 我が国においても、理化学研究所は、平成17年12月、研究者自身の倫理かん養に重きを置き、問題が発生した場合には組織として適正かつ厳正な対応を行う等の考え方に立って、研究活動の行動規準及び遵守事項、並びに不正行為の疑義が生じた場合の研究所の対応等について基本方針を定めている。
 また、科学技術に関する高等の専門的応用能力を認定された技術士について、平成12年の技術士法改正により、その業務を行うに当たって公共の安全、環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならないとする責務が新たに規定され、技術士試験においてもそうした適性に関する出題を行う等技術者倫理の向上に取り組んでいるところである。
 しかしながら、こうした取組は我が国全体としては緒に就いたばかりであり、日本学術会議が同会議に登録している学会を対象として平成16年に実施した調査の結果によれば、有効回答の約4分の3の学会は、倫理綱領の制定も検討もしていない状況である。
 総合科学技術会議は、平成18年2月、「研究上の不正に関する適切な対応について」を決定、関係府省に意見具申し、この中で、研究上の不正の問題に関する速やかな対応が必要であるとして、研究に関わる者の自律を基本としつつ、研究者コミュニティ、関係府省、大学及び研究機関等に対し、それぞれの立場において対応をとるよう求めた。
 現在、文部科学省科学技術・学術審議会においては、「研究活動の不正行為に関する特別委員会」が設置され、競争的資金等を活用した研究活動における不正行為への対応について調査検討を行っている。また、日本学術会議では、科学者コミュニティを代表する立場から、科学者コミュニティの自律性・倫理性を強化、担保するための科学者の行動規範あるいは憲章の提示が検討されている。各大学、学協会等においても、これらを踏まえて、教育、研修の充実、倫理指針の策定等を進めることが求められる。

第1-2-57表研究上の不正に関する諸外国の取組(事例)

前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ