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2.科学技術をイノベーションにつなぐ取組

 各国がイノベーション政策を掲げ、世界的に競争が激しくなっている中で、我が国の経済成長を維持・発展させていくためには、イノベーションの創出の源泉である大学や公的研究機関等の基礎研究について多様性を確保しつつ推進するとともに、新技術の創造・育成を図り、優れた研究成果を効果的にイノベーションへ次々とつなげていくことが重要である。そのため、産学官が一体となってイノベーションを生み出すシステムを強化する必要がある。また、国ごとに企業や大学などの基本構成要素の成り立ちや有り様も異なり、その国の文化や経済、法制度などの背景も大きく異なることから、他国の単なる模倣ではなく、我が国に最も適したイノベーション・システムを確立することが求められる。

第1-2-27図科学の発展と連続的なイノベーションの創出

(1)イノベーションの源泉となる大学等における基礎研究の推進

 大学等は「知」の源泉でありイノベーションを生むシーズの宝庫である。平成16年度から国立大学及び大学共同利用機関が法人化されたことにより、自主性・自律性を活かして各大学等が個性・特色を出しつつ、研究者の自由な発想に基づく研究の一層の活性化、産学官連携や地域貢献活動の充実を行うことなどが求められている。国立大学等の法人化による取組の中で、研究活動に関わる新しい取組として、以下に代表的なものを挙げる。

●研究資金の重点化
 学長裁量経費等を活用した学内での公募型研究プロジェクト制度の創設や予算の部局間の傾斜配分等、資金の重点配分による研究活動の活性化の促進。

●柔軟な組織編成
 柔軟な組織編成を可能とする法人化のメリットを活かし、機動的な研究や効果的な研究が実施できる体制の整備の推進。

●国際的な研究拠点の整備
 全国共同利用機能の改善・充実につながる研究体制・組織の整備を行い、国際的な研究拠点として独創的・先端的研究の推進。
 世界に伍(ご)し、更には世界の科学技術をリードする大学づくりを積極的に展開するためには、世界トップクラスの研究教育拠点の形成は重要である。優れた成果や人材を生み出す研究開発システムを実現するため、組織の長の優れた構想と統率力により、研究開発機関の組織運営改革を進め、国際的魅力のある卓越した人材創出・研究拠点の育成を図ることを目的として、戦略的研究拠点育成を実施している(第1-2-28表)。


第1-2-28表戦略的研究拠点育成採択課題一覧

 イノベーション創出に向けては、世界を先導しうる研究領域を生み出すとの視点から、産業界の協力も得ながら、先端的な融合研究領域に着目して研究教育拠点の形成のための重点投資を行うことも極めて有効であると考えられる。

(2)イノベーションを生み出すシステムの強化

●研究の発展段階に応じた多様な制度の整備
 科学の発展やイノベーションの創出を支えるための様々な研究開発資金制度は、研究の発展段階や特性に応じて、適切に整備されることが必要である。これまでの競争的資金(注)の拡充等により、研究水準は着実に向上し、我が国の知の創造の基盤は充実しつつある。今後は、知の創造の基盤をより強固にしつつ、成果の社会への還元を進める観点からも、創出された科学的知見や技術的概念が、目に見える形となって経済社会で活用されるようにすることが必要である。
 一方、競争的資金制度を除く、我が国の外部研究開発資金の多くは、技術的予見を基にロードマップの策定が可能な範囲の比較的実用化に近い研究開発を対象としていると考えられる。我が国が自らの萌芽段階のきらりと光る基礎研究成果からブレークスルーとして全く新しい革新的技術を生み出し、自らの競争力確保につなげていくためには、多様な基礎研究成果からイノベーションの芽を創出・育成する研究開発、いわば、論文発表にとどまらず目に見える形で技術革新をねらう研究開発の強化が不可欠である。
 また、競争的資金等の様々な研究開発において生み出された研究成果のうち、次の段階にある制度や公的研究機関等の研究開発に活用されることにより、イノベーションの創出が加速される可能性があるものが少なからず存在すると考えられるにもかかわらず、研究成果をより積極的につなぐ仕組みが存在しないため、優秀な成果が死蔵されてしまうことも懸念される。したがって、基礎研究からイノベーションの創出まで切れ目なく研究開発を支える各種制度を確保した上で、イノベーション創出を更に強力に推進するため、大学や公的研究機関の研究成果や、ある制度で生み出された研究成果が、適切に次の制度等で活用されるような、つなぐ仕組みの構築を推進することが必要である。

 資金配分主体が、広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による、科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金。

●産学官の持続的・発展的な連携システムの構築
 新しい知識は人と人の出会いから生まれる。知識や理論の創造を目的とする大学と製品やサービスの開発を目的とする企業とが協力し、研究開発に臨む産学官連携はイノベーションを創出する上で重要である。
 米国においては日本やEUからの経済的追い上げに対応すべく1980年代以降、軍事・医療といった特定の使命を達成するための科学技術政策から産業の競争力強化のための政策に移行し、連邦資金によって取得された特許の保有を発明者に認めるバイ・ドール法、ベンチャー支援のための資金提供プログラムであるSBIR法等産学官連携を推進する法律が次々と制定された。
 我が国においても平成8年(1996年)の科学技術基本計画策定後、産学官連携推進のための制度整備が大きく進んだ(第1-2-29図)。平成16年度には国立大学が法人化によって各種の権利義務の主体となったことから、大学自身が特許権を所有することができるようになったほか、各大学それぞれが個性と特色に応じた取組を行うことも可能になった。また、教職員に公務員制度上の制限が適用されなくなり、給与などの処遇や、兼職・兼業等について各法人で管理することとなった。

第1-2-29図産学官連携施策の主な経緯

 現在、多くの大学においてはおおむね産学官連携窓口を整備済みであり、大学や公的研究機関等の社会還元機能の強化のため技術・法務・財務の専門家である産学官連携コーディネーターも全国に配置されるようになった。大学への企業からの奨学寄附金が横ばいで推移する中、共同研究・受託研究とも件数が着実に増加し、以前は相互の契約によらない産学の日常的な連携関係(特定研究室と特定企業間での「あうんの呼吸」型の産学官連携)や、年度の繰越しや使用区分の制限を受けない奨学寄附金の利用など、契約によらない形をとっていた産学官連携が、現在は個人連携から組織的連携へ、非契約型の産学官連携から契約型の産学官連携へ移行している(第1-2-30図)。なお、共同研究の内容はライフサイエンス分野が多い。

第1-2-30図共同研究・受託研究件数の推移(国立大学法人等)

 国も産学連携を推進するための取組として、大学・公的研究機関等の独創的な研究成果(シーズ)の実用化に向けて、課題の技術段階に応じた研究開発を行う独創的シーズ展開事業等を実施しており、平成18年度には新たにマッチングファンド形式の産学共同シーズイノベーション化事業が立ち上げられている。
 上記のように産学官連携の基盤が整いつつあるものの、我が国においては産学官における異分野間の資金投資が米国に比べ少なく、企業が投資した資金は企業内部の研究に充てられることが多い。また、国内の大学が企業から受け入れる研究開発費が着実に増加してきてはいるものの、国内企業から海外への平成16年度の研究開発費支出実績額が2,012億円であるのに対し、国内の大学等が会社から受け入れた研究費の実績額は836億円といまだ半分以下にとどまっている(注)(第1-2-31図)。日本経済団体連合会が平成13年8月に行ったアンケート調査では、国内企業が海外の大学に資金提供する理由として、大学が法人格を持ち責任ある契約を柔軟に締結可能であること、大学側からの社会ニーズを踏まえた提案がなされていること、事務部門や他学部の教授等の学内における人的リソースの横断的協力体制がとられていること等が挙げられている。また、「平成13年度 民間企業の研究活動に関する調査報告」によれば、大学や国研等での研究内容や研究の進め方等に関する我が国の企業の期待として、「基礎研究だけでなく事業化までを考慮した研究」が最も高くなっており、大学が産業のニーズを理解し、積極的に産学官連携に携わっていくことが求められる。

 国内企業から海外への研究開発費支出の内訳として子会社への支出等が相当額含まれている可能性が高く更なる調査は必要。

第1-2-31図産業界から国内外研究機関等への研究開発費支出の現状

 産学官連携が進展することにより、教職員が企業との関係で有する利益や責務と大学における教育・研究上の責務との調整・調和の必要性が生じてきている(いわゆる「利益相反」「責務相反」)。既に利益相反・責務相反に関するなんらかのルールを設けている国立大学は全体の半数近くに上るが、引き続き規定の整備を促していく必要がある。
 「平成16年度我が国の研究活動の実態に対する調査報告」のアンケート調査によれば、研究者は産学官連携の有効性について「不得意とする研究能力を確保できる」、「研究協力の相手が持つ研究ネットワークを活用できる」、「研究上必要となる知的ストック(各種データ、手法等)を入手できる」とおおむね評価する一方、「コーディネーター人材の育成・充実」などを求める声が強いことが分かった(第1-2-32図)。
 平成17年6月に経済産業省において実施された「技術移転を巡る現状と今後の取り組みについて」のアンケート結果によれば、産業界からは研究室の学生の守秘義務の不徹底や、新しい研究成果の学会発表の時期などの企業秘密の取扱いについて不満が出ている。また、共同研究において大学が支払いを求めている間接経費(注)については、支払うことについて産業界においてもおおむね合意が得られているものの、費用の使途や額等支払いの不明確さが問題視されている。大学と企業との共有特許において、大学は特許を自ら実施できないため、新たな研究活動資源の確保、発明者へのインセンティブ付与等のために、その共有特許を実施する企業から実施料を求めること(いわゆる不実施補償)があるが、この不実施補償の支払いは電機産業等一つの製品に多数の特許が関わっている場合は企業の障害となるとする意見もあり、企業と大学の間で意識の隔たりがある。他方、同調査において大学からは、企業の窓口一本化や交渉における柔軟で長期的な視点を持った姿勢を求める声が挙がっている。
 このように様々な課題を解決するために、産業界には大学や公的研究機関等の特性への配慮が求められるとともに、大学も企業ニーズに対する柔軟な対応や、研究成果を広く公開するという大学の果たすべき機能を損なうことのないようにしつつ秘密保持へ配慮するなど相互の信頼に根ざした関係の構築が必要である。このためにも産学官それぞれの事情に明るい人材の存在が不可欠であり、今後それぞれに所属する研究者の交流、MOT(技術経営)人材の育成、コーディネーター人材の拡充等が求められる。

 直接の研究費以外に係る実験機器の設備費等

第1-2-32図産学官連携に係る研究者の意見

●知的財産の創造・保護・活用
 イノベーションを多く生み出すには知的創造活動を刺激活性化し、その成果としての知的財産を適切に保護し、それを活用する、知的創造サイクルの活性化が不可欠である。
 知的財産には二つの役割が期待される。一つは研究開発への誘引である。知的財産権による保護がなく、他社が開発した知識を容易に無断で活用できるとすると研究開発投資への意欲が下がってしまう。第二は研究開発の公開を促すことである。特許権などは公開を条件とする知的財産権であり、この強化により、研究の営業秘密化や、それによる他企業の二重投資を避けることができる。他方、過度な保護は技術革新の障害になりかねず、適切な保護のバランスを見いだすことが重要である。

1 大学で生まれた研究成果の社会への移転
 国立大学における発明の取扱いについては、昭和52年の学術審議会答申以来個人帰属を原則としてきたが、産業界への知的財産の移転と活用が進展せず、知的財産が死蔵されやすかったこともあり、特許等知的財産を機関で管理すること(原則機関帰属)に方針が転換された。平成15年度から大学知的財産本部整備事業の実施により大学における知的財産本部の設置が進みつつある。さらに、平成16年度の国立大学の法人化により、各国立大学は権利義務の主体となったことから、各大学が主体的な判断で知的財産を活用することができる体制が整った。現在は、国立大学法人が知的財産権の使用を許可する対価として株式を取得することも可能となっている。
 上記の取組を通じて、大学等の特許出願件数及び実施件数は増加しているが、米国に比べ、実施料収入は少なく、大学等の特許実施許諾件数に比べ実施料収入の伸び率は低い。ただし、米国でもバイ・ドール法の施行後に大学の研究成果がロイヤリティ収入等の経済的利益を生み出すまでには長期間を要した事実や、ライフサイエンスに代表されるように分野によっては研究費投入から製品化までに長期間を要することを勘案すると、日本でまだ成果があまり出ていないのもやむをえないと考えられる。実際米国に比し約5〜10年遅れる形で1980年代後半から各大学TLOの設置が本格化した英国においては、現時点においても米国並みのロイヤリティ等収入を得るには至っていない(第1-2-33図)。技術移転は元来蓄積が重要であり、今後の技術移転の活発化を目指し、大学等において、特許出願経費などの知的財産活動のための費用が、機関内で適切に確保されるよう機関の取組を促すことが必要である。その際、国は大学等で生まれる研究成果の社会還元を促進するための競争的な研究開発支援を充実するとともに、我が国の国際競争力強化の観点からも海外特許出願経費を適切に支援することが必要である。

第1-2-33図大学発成果の技術移転実績の推移の国際比較

2 知的財産活動の推進
 知的財産活動については、特許は依然として基本特許ではなく改良特許中心で、防衛的な意図で出願していることが多いため、未利用特許の割合も6割と高い。国際競争力の源泉となる優れた研究開発成果は、特に基本特許として国内外で効果的に権利取得し活用することが重要である。企業は、質の高い基本特許の取得につながるよう、量から質へ特許戦略を転換し、大学等は、優れた知的財産について国内外を問わず適切に権利を取得し活用していくことが重要であり、国は大学等の戦略的な取組を支援する必要がある。また、質の高い優れた研究成果が得られるよう現在の特許情報等の活用のための特許電子図書館(IPDL)等、特許情報の検索システムの整備を進めることが望まれる。

 職務発明の対価の問題については、昨今の紛争の多発を受け、特許法第35条が改正され、平成17年4月から施行された。改正後の新職務発明制度では、使用者等との間の相当の対価に関する自主的な取決めが不合理でない限り尊重されることとなっている。

●研究開発型ベンチャー等の起業活動の振興
 大学等発ベンチャーをはじめとする研究開発型ベンチャーは、大学等の革新的な研究成果を迅速に社会還元し、イノベーションの原動力として重要な役割を担う存在であり、近年、大学等は「知」の源泉としてシーズを生み出すばかりでなく、その研究成果を自ら活用し、新たな財やサービスを生み出すために大学等発ベンチャーを設立することにも積極的に取り組んでいる。我が国における大学等発ベンチャー等の設立数は、増加傾向を示しており、特に国立大学教官等の民間企業役員への兼業が可能となった平成12年以降には顕著な増加が見られ、平成17年の設立累計は1,000社を超えている(第1-2-34図)。

第1-2-34図大学等発ベンチャーの設立累計

 今後とも、起業活動に係る環境整備を推進するとともに、技術面、資金面、人材面、需要創出面など包括的な支援策の強化を図ることが必要である。特に大学等発ベンチャーについて、その創出支援を引き続き行うとともに、創出されたベンチャーが成長・発展するよう支援することが必要である。

●地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり
 スタンフォード大学のマイケル・ポーター教授によれば「クラスター」とは特定産業分野に属し、相互に関連した企業と機関からなる地理的に接近した特に革新的な集団であり、共通性や補完性により結ばれているものである。欧米諸国においては我が国に先行して地域の自立性や資源の活用を重視するクラスターを戦略的に活用している。例えば、米国ではシリコンバレー、欧州では英国のケンブリッジ、フランスのソフィア・アンティポリス、中国では中関村などがよく知られている(第1-2-35表)。

第1-2-35表世界のクラスター一覧

 クラスターはイノベーションに必要な産業集積機能を持つ。我が国全体のイノベーションを促進するためには、国際競争力のある地域クラスターの育成により、競争力のある地域イノベーション・システムを構築することが重要である。
 我が国においては、従来特定分野に属した企業が、地理的に接近して存在する地域は数多くあったが、企業と各機関が「相互に関連」し、「共通性や補完性により結ばれている」といういわゆる企業間連携、産学官連携が不十分であった。このため地域クラスター形成に向け、平成14年度より比較的限られた空間の中で集中的に研究資金を投下し、そこから生まれてくる優れた技術をテコとして産学官のネットワークを形成することを目指す「知的クラスター創成事業」が実施されるようになった。現在事業が行われている知的クラスターは18地域に上り、産学官参加研究者2,145人、特許出願件数1,060件、事業化件数(商品化・起業化等)219件等の成果が出ている。また、平成13年度より新事業に挑戦する地域の中堅・中小企業及び大学の研究者等と密接なネットワークを構築し、産学官で流通する情報の質・量を高め、地域の特性を活かした技術開発の支援を行う「産業クラスター計画」が実施されており、現在19プロジェクトに上るが、平成18年度から22年度までを計画の第2期と定めて計画の目的・目標を設定するとともに、17プロジェクトに再編・統合することとしている。一方、クラスターに限らず様々な省庁が実施する施策について必ずしも地域の望む形での活用ができていないという要望があがったことから、平成16年度、地域科学技術に係る関係府省連絡会議が設置され、府省間の連携が図られている。
 海外の地域クラスターの成功事例の共通事項として指摘できるのは、長期間にわたって目標となるビジョンが共有され、プロジェクトを牽(けん)引(いん)する中心人物が存在したこと、クラスター内のネットワーク活動を支える支援組織が有効に機能したこと、ベンチャー等中小企業向けの政策支援策が効果的に活用されたこと等が挙げられる。我が国の地域クラスターは、共同研究等の研究成果の事業化に関して有効な選択肢である大学発ベンチャーやスピンオフベンチャー(注)の創出力が弱いことが課題として挙げられる。これにはベンチャーキャピタルやエンジェル投資等のリスクマネーの不足、起業を志す人材の不足が影響していると言われている。知的クラスター、産業クラスターはまだ育成段階、立ち上げ期であり、クラスター形成の成否を判断するにはまだ早いが、今後産業クラスターと知的クラスターの一層の連携を図るとともに、ベンチャー企業の育成、地域における知的財産に関するアドバイザー等の活用による知的財産の創造や活用等の積極的な推進により、地域イノベーション・システムを活性化させることが重要である。

●民間企業におけるイノベーション活動
 研究開発や産学官連携の成果から新しい製品等の形で市場価値を創造し、最終的にイノベーションの実現につなげていくのは民間企業である。
 平成16年12月に我が国の民間企業におけるイノベーション活動の状態や動向に関する統計調査である「全国イノベーション調査」の報告書が公表された。これは、イノベーションに関する我が国で初めての全国的・総合的・客観的統計調査である。調査によると29パーセントの企業がイノベーション活動を実施し、全体の22パーセントがイノベーションを実現していた。イノベーションを実現した企業が経験した主な阻害要因としては「過大な経済的リスク」、「能力ある従業員の欠如」、「適切な資金源の欠如」「高すぎるイノベーションのコスト」が挙げられている(第1-2-36図)。
 企業内部のイノベーション人材不足を解消するため、産学が協働した人材育成や博士号取得者の産業界における活躍の促進等を図ることが必要である。また、イノベーションのコストの低減を図るため、研究基盤の整備・共用の促進や研究開発活動をより短い期間で効率的に行うための取組が求められている。

第1-2-36図イノベーション実現企業のイノベーション阻害要因

 社内ベンチャーの育成状況については、企業における新規事業の創出、社内の活性化、起業家志向の人材発掘等のために行われると見られ、約3分の1の企業が現在あるいは将来、社内ベンチャーを育成するとしている。その方策としては、「資金提供や経営管理のノウハウ、研究成果、研究・製造設備等の社内経営資源の提供」が半数に上っている。一方、社内ベンチャー制度を設けない理由としては、「社内ベンチャーよりも本業へ経営集中したい」が半数を超えていた(第1-2-37図)。政府の支援策としては、「ベンチャーに対する公的な助成金・補助金の拡充」が重要と答えた企業が半数以上であった(第1-2-38図)。

第1-2-37図社内ベンチャー育成のための方策

第1-2-38図社内ベンチャー育成のための政府の支援策で重要なもの

 試験研究費に関する税制上の措置については、企業の試験研究費の額が直近5事業年度のうち多い方から3年間の平均額を超え、かつ直近2事業年度の額を超える場合、その平均額を超える部分の15パーセント相当額を税額控除する制度があった。平成15年度改正では、試験研究費の総額に係る特別税額控除制度が創設され、増加試験研究費の特別税額控除制度との選択制となった。試験研究費の総額に係る特別税額控除制度は、試験研究費総額の一定割合(8から10パーセント(平成15年1月1日から平成18年3月31日までの間に開始する各事業年度については、10から12パーセント))を法人税額(所得税額)から控除する制度である。また、企業が国内の大学、公的研究機関等と共同研究・委託研究を行った場合、当該共同研究・委託研究に係る試験研究費の12パーセント相当額(平成15年1月1日から平成18年3月31日までの間に開始する各事業年度については、15パーセント)を法人税額(所得税額)から控除する制度が創設されたほか、中小企業者等の場合には、試験研究費総額の12パーセント相当額(平成15年1月1日から平成18年3月31日までの間に開始する各事業年度については、15パーセント)の税額控除が認められた。平成18年度税制改正では、試験研究費の総額に係る特別税額控除制度と増加試験研究費の特別税額控除制度を統合し、試験研究費の額が直近3事業年度の平均額を超え、かつ直近2事業年度の額を超える場合、その平均額を超える額に対して税額控除率を5パーセント上乗せする措置が講じられた。
 公的調達も公的部門の活動の充実や効率性向上等のみならず、研究成果の社会還元の促進の観点からも重要である。特に研究開発ベンチャーにとって製品等が公的部門によって調達されることは企業の信用力を高めるとともに創業段階での収入確保のために役立つ。各省庁において低公害車開発普及プランを通じ、低公害車の導入を図った例があるが、今後とも新市場を形成し、民間のイノベーションを刺激するこのような取り組みを図っていく必要がある。

 未利用技術・人材・資本等の事業資源の分離(スピンオフ)により、親元企業から独立したベンチャーをいう。

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