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第2節■経済を活性化する科学技術

要旨
 人口減少・少子高齢化によって我が国の人口構造が変化する中で、豊かな社会を構築し、その活力を維持・向上させていくためには、イノベーションによる経済の発展・維持が必要である。諸外国も科学技術・イノベーション政策を重要な政策課題として掲げており、我が国の国際競争力を強化するためには、大学や公的研究機関等で生み出される我が国独自の優れた基礎研究の成果をはじめとする革新的な研究開発の成果をイノベーションに次々とつなげるための政策を積極的に展開していくことが重要である。
 近年、イノベーションの源泉である大学において、国立大学法人化による研究活動の活性化へ向けた取組が始まっており、産学官連携、知的財産戦略、地域科学技術の振興などによるイノベーションに重要な科学技術システムの整備も進んでいる。

1.経済活性化に果たす科学技術の役割

(1)人口減少・少子高齢化が経済活動にもたらす影響
 我が国では、近年の急激な人口減少・少子高齢化によって人口構造が変化し、さらには、団塊世代が比較的労働力率の低い年齢に達するなどの影響によって、労働力人口が減少することが予測される(第1-2-22図)。労働力人口の減少は、経済成長に寄与する要因の一つが減少することであり、経済の活性化に負の要因となると考えられる。一方、労働力不足を補うために、雇用形態の多様化や定年延長など労働環境が変化し、労働力減少を解消する方向へ働く可能性も考えられる。

第1-2-22図我が国の労働力人口の5年ごとの推移

 労働力人口の減少は、直接的には経済成長にとって負の要因であるが、資本が一定に保たれると仮定すると、一般的には一人当りの資本は増加し、その結果一人当たりの労働生産性が高められるとも考えられる。しかしながら、我が国では、過去の例において、労働力人口の増加率が鈍化から減少傾向で推移する中でも労働生産性の上昇率は向上していない。したがって、労働力人口の減少の結果、一人当りの資本が増加し、労働生産性が上がるとは必ずしも言い切れない。
 国内総生産(GDP)成長率と労働力人口増加率との関係を見てみると、GDP成長率は1970年以降、上下してはいるものの、全体としては徐々に低下傾向にあるが、労働力人口については比較的安定して推移しており、両者の間に明確な相関関係は見られない(第1-2-23図)。このことから、過去の我が国の経済成長には、労働力人口以外の寄与が大きかった可能性がある。

第1-2-23図GDP成長率と労働力人口増加率

 人口減少・少子高齢社会において、労働力の質を向上させ、科学技術を源泉とするイノベーションによって生産性を高めるなどの改善を行うことにより、人口減少・少子高齢化の経済への負の影響を克服するにとどまらず、これまでの「量」に依存した経済から、科学技術を軸とした新たな経済へと変貌を遂げることが期待される。

(2)生産性向上における科学技術とイノベーション
 経済成長における科学技術の貢献を示す指標として、GDPの成長率に寄与している全要素生産性(Total Factor Productivity:TFP)という概念がある。全要素生産性とは、生産に寄与する要素のうち、労働投入量及び資本ストック以外のすべてを考慮した生産性を意味しており、その向上には、景気変動、労働の質の向上などが含まれるが、技術の進歩が大きな要素を占めるといわれている。
 戦後、我が国は、経済復興を成し遂げたばかりでなく、その後、高度経済成長によって大きく発展した。GDP成長率を労働、資本、全要素生産性のそれぞれの寄与度に分けて見てみると、1950年代後半から1960年代後半にかけてGDP成長率が増加しているが、労働寄与度は減少あるいは微増にとどまっており、資本や全要素生産性の寄与度の増加が大きく貢献していた(第1-2-24図)。また、1980年代後半のGDP成長率の増加は、労働及び資本の寄与度のいずれもほとんど変動しておらず、全要素生産性寄与度の増加が大きく影響した。このことから、全要素生産性が向上することによって、労働投入量の影響を受けずに、経済成長を促すことができることが示唆される。

第1-2-24図GDP成長率の要因分解

 我が国の1990〜95年の間と1995〜2003年の間の全要素生産性の上昇率の変化を主要国と比較してみると、カナダ、米国、フランスの全要素生産性の上昇率が増加しているのに対して、我が国は英国、ドイツ、イタリアと同様に低下している(第1-2-25図)。
 少子高齢化が進行する中で、我が国の経済成長を維持・向上させるためには、全要素生産性を上昇させることが必要であり、その大きな要素である科学技術の向上とイノベーションの実現が、今後一層重要になると考えられる。

第1-2-25図全要素生産性の上昇率の変化

(3)イノベーションの実現を目指した各国の科学技術政策の動向
 現在の我が国や先進諸国の経済社会は、科学技術の成果などの知識を基盤とした知識基盤経済・知識基盤社会であり、その発展・維持のためには、産業技術に知識基盤を活用し、新たな財・サービスを生み出し、国民生活や社会へ還元することが重要となっている。そのため、各国ともイノベーションを生み出すような仕組みを構築することが重要な政策課題となってきており、様々な科学技術及びイノベーション政策の展開が図られている(第1-2-26表)。

第1-2-26表主要国のイノベーションを目指した科学技術政策等

●米国
 経済が低迷していた1970年代後半、「イノベーションを通じた産業競争力の強化」を重視し、「イノベーションの源泉」としての科学技術を重視する政策を採用し、以降継承されてきた。米国のイノベーション政策の特徴は、科学技術での優位性を背景として、「国家安全保障」と「産業競争力の強化」の二つの目標を実現しようとする点にある。
 2006年1月31日の大統領一般教書演説では、米国の優位を今後も維持するための競争力強化、及び中東への石油依存からの脱却が主な政治課題であると述べられている。その中で表明された米国競争力イニシアティブ(American Competitiveness Initiative)では、米国の競争力の基盤は科学技術であるとの前提に立ち、科学技術によるイノベーションを誘発するために、基礎研究の増強、人材の育成・獲得、イノベーション環境の整備を掲げている。

●英国
 これまで自国の高い潜在力がイノベーションにつながってこなかったという認識から、競争力とイノベーションを重要な戦略としている。科学技術戦略の目標は、「広範な経済利得(富の創造と生産性の向上)、及び国民の健康、環境、生活の質などの改善を通じ、広く社会に便益をもたらすこと」としている。英国では、1993年の「科学・工学・技術白書」以来、科学技術を核とした経済発展を目指す一連の戦略が公表されている。2004年には、2014年までの10年間の長期戦略「科学・イノベーション投資フレームワーク2004-2014」を公表し、研究開発投資の拡充、人材育成、中央政府と地方の連携等の新しい施策が示されている。

●ドイツ
 東西ドイツ統一直後、旧東ドイツ支援のために連邦政府の財政は逼迫(ひっぱく)し、研究開発への注力が弱まっていた。また、元来、化学、機械、鉄鋼等の伝統的な工業を基盤とする国家であったことから、コンピュータやエレクトロニクス、バイオテクノロジーなどの新規産業への取組が遅れていた。現在は、「イノベーションと公正」を掲げ、「持続成長とイノベーションを通じて経済力を強化し、将来の雇用機会を創出する」という方針を打ち出している。
 2003年には「アジェンダ2010」を発表し、労働市場、社会保障制度の再構築、経済成長のための包括プログラムを示した。2004年には、さらに「研究、教育、職業訓練におけるイノベーションの攻撃的な展開を目指す」という「アジェンダ2010第2部」に注力することを明らかにしている。

●フランス
 1999年6月、「イノベーションと研究に関する法律」を制定した。その中で、公的機関の研究者が出向や配置換えによって企業を設立し、取締役に就任するなど期限付き(最大6年間)で企業の経営に参加することや、公務を継続しながら、企業への科学技術面での助言や企業へ出資(資本金の15パーセントを限度)を認めた。また、公的機関が、企業に場所や設備等を提供することによって、研究成果を活用・促進できるようになった。
 2002年から「イノベーション支援政策」が実施された。具体的には、企業の研究開発における政府の支援、補助金への企業のアクセスの簡略化、現在の補助金制度の改善、新規補助金制度の創設、若者の研究分野への就職支援、優先研究領域強化などが挙げられる。
 2005年12月、上院によって「研究のための長期計画法案」が可決された。その後、下院の文化・家族・社会問題委員会において審議されている。

●EU
 EUでは、産業競争力の強化に加えて、健康、環境、消費者保護等の様々な政策目標を実現するための手段として、科学技術を位置付けており、共同体設立条約(ニース条約)第163条に、研究開発政策の目標を「産業の科学技術基盤の強化」、「国際競争力の強化」、「EUの他の諸政策に必要な研究活動の推進」と定めている。
 2000年に欧州委員会において、2010年までの包括的な経済・社会政策であるリスボン戦略を採択し、「活力ある知識経済の構築」等を目標とし、「知識経済に適応するための経済改革の遂行」と「人的資源への投資を通じた欧州社会モデルの強化」を柱としている。
 また、イノベーションに関しては、1984年からEUの研究開発における総合計画であるフレームワーク・プログラムが開始されている。現在は2002年〜2006年の第6次フレームワーク・プログラムの期間中であり、第7次フレームワーク・プログラムを作成中である。競争力イノベーションフレームワークでは、企業・イノベーションプログラム、情報通信技術政策支援プログラム、インテリジェントエネルギー・ヨーロッパプログラムが示されている。

●中国
 これまで、その時々の情勢に応じて、ハイテク研究の振興を目指した「863計画」や国家イノベーション・システムを支える基盤整備を推進する「タイマツ計画」等の様々な施策を打ち出してきた。
 2006年3月に「中国共産党中央の国民経済と社会発展に関する第11次5か年計画綱要」が公表された。2000年度までの第9次9か年計画、2005年度までの第10次5か年計画と急速に科学技術の水準を上げてきたが、第11次5か年計画綱要では、二つの主要目標の一つとして、エネルギー消費量の約20パーセント削減、主要汚染物資の排出総量の約10パーセント削減を掲げており、深刻化する資源環境の圧力問題に対処する明確な政策的方向がうかがえる。
 また、2006年2月には、今後15年間の中長期計画となる国家中長期科学技術発展計画綱要も公表された。この中で、「自主創新(自主イノベーション)」等を掲げており、2020年までの目標として、研究開発投資を対GDP比2.5パーセント以上にすること、海外への技術依存度を30パーセント以下に押さえること、中国人による発明特許・科学論文引用数を世界5位以内にすることなど具体的な目標を設定している。

●韓国
 2025年までにG7レベルの科学技術競争力を確保することを目標として、1999年に、「2025年に向けた科学技術発展長期ビジョン」を策定した。2001年には、科学技術基本法を制定し、具体的な政策目標として、実施中の科学技術改革5か年計画と連携した科学技術基本計画(2002-2006)も策定した。2004年には、科学技術部に科学技術革新(イノベーション)本部を設置した。

 各国とも従来の研究開発助成から、成果の活用・展開、社会への還元までも視野に入れた科学技術・イノベーション政策を掲げている。資源を持たない我が国がこれらの諸外国に対する国際的な競争力を強化するためには、科学技術を軸としたイノベーションの実現を促進する政策を積極的に展開していくことが重要である。

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