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5.安全で安心できる社会、持続可能な社会のための科学技術

 現代社会に生きる我々は、一日の活動のほとんどを、情報通信、物流などの輸送、エネルギー供給などの高度な科学技術に支えられた社会システムに依存しており、この社会システムが日々の生活の安全を保障し、安心感を与えてくれるものであることを期待している。平成17年に起きた痛ましい鉄道事故や建物の構造計算書偽装問題は、我々の生活の安全が社会のシステムに依存しており、システムへの信頼が安心の前提であることを如実に示した。また、相次ぐ幼児や児童をねらった殺人や、災害の際に逃げ遅れて犠牲になるなど、弱い立場にある子どもや高齢者にとって、安全で安心できる社会の重要性はより高い。
 また、2005年ハリケーン・カトリーナが米国を襲い、我が国でも台風の増加、記録的な高温を観測するなど、異常気象と見られる現象が近年頻発している。降雨パターンの変化による砂漠化や食糧生産の低下、温暖化による熱帯性感染症の拡大などを含めた、気候の変動による直接・間接の影響は、世界人口の増加と生活水準の向上に伴い環境に対する人間活動の影響が増加したことと相まって、食料やエネルギーの安定供給の危機に起因する難民や紛争の発生など、国際社会を不安定化させ、人類の生存基盤を脅かすことが懸念される。特に我が国は、食料やエネルギーなどをはじめとする資源を輸入に頼っており、このような不安定化に対して脆弱な立場にある。さらにグローバル化の進行は、病原体の意図せぬ移動、国際的なテロリズムなどによる危険度を一層高めている。
 平成17年5月に内閣府が行った「科学技術に関する特別世論調査」において、科学技術への支援に当たり重視すべき点として、「環境の保全」及び「安全な社会(防災・防犯・食の安全など)の実現」には最も高い支持があり(第1-2-13図)、「安全の確保のために高い科学技術水準が必要である」という意見に対し、7割近い国民が肯定的に答えている(第1-2-14図)など、これらの問題に対する科学技術の貢献に国民が寄せる期待は大きい。
 科学技術の研究開発の戦略的な推進により、環境の保全と持続的な成長を両立させるとともに、安全で安心できる社会の実現に対する国民の要請に応えていく必要がある。また、この科学技術を世界的な問題の解決に役立てることで、多くの国と緊密な相互関係を作り上げ、我が国が安心して社会経済活動が行える基盤を確保していくことが必要である。
 大規模災害やテロなどへの対応としては、想定される事態のシナリオを設定し、まずは被害の発生を防ぐ措置、次に想定被害を低減させる措置、その上で起きた場合の初動対処と災害復旧という事後対策を講じることにより、安全水準を向上させることが必要である。また、安心できる社会の構築に向け、安全確保に必要な情報管理に配慮しつつ、信頼できる情報の的確な提供を通じて信頼関係を構築するとともに、危険度について客観的に判断し、対応できる環境を創ることが重要である。

第1-2-13図科学技術への支援に当たり重視すべき点(複数回答)

第1-2-14図身近な生活の安全と国の総合的な安全の確保のため、高い科学技術の水準が必要である

●地球環境の変化と大規模自然災害
 現在我々は、地球温暖化、砂漠化、森林の減少、水資源問題、酸性雨、生物多様性の減少、オゾン層の破壊、海洋汚染など地球規模の環境問題に直面している。このような問題は人為的な活動が影響を与えており、進行すると、ある時点から元に戻れなくなってしまう危険性が高い。
 昨年、世界の河川水の2割近くを占めるアマゾン川で記録的な大渇水があった。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第4次報告書に向けて我が国の高性能スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」が行った予測結果(第1-2-15図)によれば、アマゾン川流域では今後降雨が減少し、熱帯雨林が消失していく可能性が示唆されている。地球温暖化の影響と見られる異常気象は近年世界各国で見られ、我が国でも異常高温や記録的な豪雨などが頻発している(第1-2-16図)。2003年に欧州では高齢者を中心に3万5,000人以上が亡くなる熱波が発生し、また、1,300人の犠牲者を出した2005年の米国の超大型ハリケーンの相次ぐ襲来は記憶に新しい。

第1-2-15図計算された年平均地表気温上昇量の地理分布

第1-2-16図世界の主な気象災害分布図(1998〜2004年)

 地球環境問題では、エル・ニーニョ現象が我が国に冷夏や暖冬をもたらすなど、遠く離れた地域の間で、海洋の状態と気象とが関係しており、異常気象が直接人類の生活を脅かすのみならず、砂漠化や森林喪失、食糧生産の減少等により人類の生存の基盤に打撃を与える危険がある。
 また、我が国は地震国であり、世界で「tsunami」という語が使われることからもうかがえるように、地殻変動による災害は我が国の社会に大きな被害と影響を与えてきた。阪神・淡路大震災等の教訓を踏まえ、地震調査研究や地震防災対策の研究開発により、首都直下地震、東南海・南海地震等の今後想定される地震や津波の被害の軽減に資するとともに、2004年末のインドネシア・スマトラ島沖大地震及び津波のような海外での災害についても、先進的な科学技術を活かした貢献を行っていくことが必要である。
 全地球的に連携した観測システムを構築する必要性があるとの認識の高まりを受け、2003年のエビアンG8サミットでの小泉総理の提唱により地球観測サミットが開始され、2005年の第3回サミットにおいて、「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」(第1-2-17図)が承認された。これを受け、我が国では、気象災害や地震・津波といった自然災害への対応を強化し、地球温暖化対策に貢献するため、衛星、陸域・海域観測による統合的な観測・監視システムの構築が進められている。また、地球環境変動、地球内部構造等の解明に貢献する、深海底からマントルまでの掘削を目指す深海地球ドリリング計画が進められている。さらに、地震動予測地図の作成・公表、強い地震に見舞われる恐れの高い地域での重点的な調査や、大地震が起きた際の大都市圏における人的・物的被害を大幅に軽減するための研究、火山、水災害・土砂災害・雪氷災害の予測、高精度で迅速な洪水情報提供・避難警戒システムの開発などが行われている。

第1-2-17図全球地球観測システム(GEOSS)の構築(10年実施計画)

●エネルギー・資源
 世界全体で続く人口増加や生活水準の向上に伴い、世界のエネルギー需要が高まっているが、我々が現在使用している石油や天然ガスなどの化石燃料は資源に限界があり、遠くない将来に枯渇するものと見込まれている。また、地球温暖化や大気汚染を防止するとともに、我が国がエネルギーや資源の多くを輸入に頼る構造から自立性を高めて安定性を増すためにも、また先進的な技術により国際的に貢献する観点からも、化石燃料の代替エネルギーの活用と省エネルギーのための研究開発を推進していくことが必要である。
 我が国では、既に原子力発電が総発電電力量の約26パーセント(2003年度実績経済産業省調べ)を占めているが、燃料である濃縮ウランの供給には限度があり、発電の際に発生するプルトニウムの有効活用によりウラン資源量の制約を大幅に緩和することが可能となる高速増殖炉と核燃料サイクルの技術開発を進めている。また、未来のエネルギー選択肢の幅を広げる観点から、より資源量が豊富で、環境への影響の小さい核融合エネルギーの研究開発も行っている。
 この他の再生可能エネルギーや省エネルギー技術についても産学官で技術開発が進められ、例えば太陽電池では技術開発の結果、エネルギー変換効率の向上、低コスト化が進み、世界の生産量の約半分が我が国で生産されるなどの進展が見られている。今後、既存エネルギーと比較した経済性等の弱点を克服して導入・普及の促進を図るためには、更なる技術開発が必要である。
 また我が国は、国土は狭いものの、世界第6位の排他的経済水域を有しており、海洋における未利用・未発見資源の探索等のため、海洋探査システムの開発を進めている。

●重大事故
 安全な社会を実現する上で、交通事故の防止をはじめ、鉄道等の公共交通を含めた交通輸送システムの安全の確保は重要な課題である。平成17年警察白書によれば、平成16年中に交通事故の負傷者は118万人、7,358人が24時間以内に死亡し、この死者のうち41.4パーセントが65歳以上の高齢者であった。また、逆に死亡事故の第一当事者(注1)となった運転者のうち、15.7パーセントが65歳以上の高齢運転者であった。また、平成17年は4月にJR西日本福知山線、12月にJR東日本羽越線で脱線事故が発生し、多数の犠牲者を出したことは記憶に新しい。

 交通事故の防止については、ITS(注2)の推進により交通の安全を高めるため、道路上の車両感知器、各種センサーにより道路・交通の状況や周辺車両の状況を把握するシステムの研究開発を推進するとともに、自動車単体では対応できない事故への対策として、車車間及び路車間通信等の通信技術を活用した運転支援システムの実現に向けて産・官・学が連携し研究開発が行われている。特に1安全運転支援システム(DSSS)、2走行支援システム(AHS)、3先進安全自動車(ASV)の研究開発が推進されている。
 また、公共交通機関のヒューマンエラー(注3)による事故を防止するため、運転士の心身状態を即時に把握し、疲労・パニックなどの事前兆候を検出することにより、危険状態への移行を未然に防止する技術の開発が進められている。
 しかしながら、重大事故には、過去に類似の失敗事例が存在するものもある。過去の失敗事例を分析すると、失敗の背景にある々な要因には共通性がある場合が多く、失敗経験から獲得される知識・データを社会的に共有し利用することは、失敗の再発防止や革新的な技術開発における失敗のリスクを下げることに役立ちうる。このような考えの下、科学技術振興機構では、平成17年より、失敗知識データベース(※失敗知識データベースホームページへリンク)の一般公開を行っている。

●新興・再興感染症
 2005年中には東南アジアを中心に鳥インフルエンザによるヒトの死亡がWHO(世界保健機関)に対して41例報告されている。新興・再興感染症の原因は大半がウィルスであり、ほとんどが人と他の動物に共通する感染症である。エボラ出血熱やエイズなど、ここ30年のうちに少なくとも30種類の新興感染症が生じている(第1-2-18図)が、原因として人口増加や森林破壊等でもともとウィルスが感染する動物と人間が接触する機会が増えたことが考えられている。ウィルスは本来感染する動物には重い症状を生じさせないことが多いが、人間など他種の動物に感染すると致死性の高いものに変わることが多い。グローバル化に伴い人間の移動が広い範囲に及ぶようになったことや、温暖化の影響による蚊などの媒介昆虫の生息域の拡大による感染地域の拡大などが懸念されている。
 これらの感染症への対応としては、第一義的には国内外の関係機関・専門家の間における情報共有・連携強化を図り、迅速・的確な病原体・感染者・患者の検知を行う必要がある。また、病原体の性状解明、検知法の開発、ワクチン・特効薬の開発等の予防・診断・治療に関する基礎・応用研究を充実・強化させる必要がある。
 しかしながら、致死的な病原体、不明な病原体を扱うためには、特別な施設・器材が必要である。我が国はG7諸国では唯一、このような病原体を取り扱うことのできる施設が稼働しておらず、先進国として他国で発生した病原体の検査を引き受けることができないばかりか、自国で発生した病原体すら検査できない状況にある。従来は我が国が分析を依頼していた米国がテロ対策で原則病原体の受入れを禁じるなどの状況の変化もあり、このような施設の稼働は急務である。そのため、安全確保・危機管理に関わる国の対応についての十分な検討の下に、施設周辺住民を中心とした国民との対話を進めていくことが必要である。

第1-2-18図新興・再興感染症の拡大

●食品安全問題
 社会・経済のグローバル化や大量生産、広域流通の進展などにより、食品の安全上の問題がいったん発生した場合に、その影響が広範囲に波及するようになった(第1-2-19表)。そのため、有害な微生物や化学物質などの迅速検査法の開発、事故発生時の迅速な原因究明・食品回収及び適切な情報提供や食品表示の容易な検証などを可能にする、電子タグなどによる生産履歴情報把握のための技術開発を進めている。
 人類は長い歴史と文化の中で身の回りのものを食べられるものとそれ以外に区分してきた。厳密な検証ができず情報が少ない時代、「安全でない」とされたものは口にしないことは、基本的には生存の確率を高めたと考えられる。しかし、ある物質が健康に悪影響を及ぼすかどうかは、その物質の有害性と摂取量で決まり、どんなに食べても安全な食品はない。現代社会においては、食品の危険性に関する情報や意見を国民、事業者、専門家及び行政機関の間で相互に交換するリスクコミュニケーションを促進して、合理的な判断が行える環境の醸成が必要である。

第1-2-19表食品の安全性の観点から不安を感じる理由

●テロリズム・各種犯罪
 国際社会を震撼(しんかん)させた2001年9月の米国同時多発テロ事件以降、国際社会が連携を強めてテロリズム対策が図られている。しかしその一方で、ロンドン同時爆弾テロ、インドネシア・バリ島爆弾テロが発生するなど、テロの脅威が拡散の傾向を示している。また、犯罪についても、平成16年には窃盗を除く一般刑法犯が戦後最多の約58万件となり、覚せい剤をはじめとする薬物のうち、大麻樹脂とMDMA等合成麻薬の押収量が過去最高となるなど、犯罪の悪質・巧妙化、組織化等が見られる。
 これらのテロリズムや犯罪に対応するため、入国管理・税関検査技術、有害危険物質の探知・除染技術、犯罪情報収集・分析技術などの向上が必要である。このため、封筒等の郵便物に隠された違法薬物、爆薬、生物剤等の犯罪テロ関連物質を開封せずに探知できる装置(第1-2-20図)の開発、生物剤や化学剤の可搬型検知装置などの開発、犯罪者の3次元顔画像データベース化と自動照合システム、DNAの一塩基多型(SNPs)を用いた個人の迅速識別システム、筆跡・偽造文書鑑定に関する研究、地理情報システム(GIS)を用いた犯罪多発地区の検出や地区特性と犯罪発生との関連等の研究などが行われている。

第1-2-20図違法薬物・危険物質を開封せずに探知できる装置

 また、子どもの安全確保を目的として、電子タグやICカードを児童が持ち歩くことにより、校舎の入口、公共交通機関の改札口や自動販売機などに取り付けられた読取装置やカメラで登下校の状況を把握し、電子メールで保護者に通知するシステムや、防犯ブザー兼用の保護者や地域協力者などへの緊急情報通信システムなどの開発が行われている(第1-2-21図)。なお、これらのシステムの運用に際しては、電子タグから発信している電波の傍受などによる、児童のプライバシーや安全上の問題について検討が必要であるとの指摘もある。

第1-2-21図就学児童の安全確保のための電子タグシステムの実証試験の概要

●情報セキュリティ問題
 平成17年に全国の警察が検挙したITを悪用したサイバー犯罪は前年比51.9パーセント増と大幅に伸び、初めて3,000件を超えた。情報セキュリティ対策については、このような意図的な攻撃に対して新たな技術を用いて対応する必要が高まっているほか、人為的ミス等の非意図的要因、自然災害等によるIT障害の発生への対応も必要である。
 このため、サイバー攻撃の予防・検知・分析等に関する科学技術、認証・暗号技術、危機管理及び非常時通信機構、量子情報通信技術など、情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保に必要となる総合的な研究開発を実施している。

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