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3.就労形態の多様化を可能とする科学技術

 少子高齢化が我が国の国民生活に与える影響については様々な分析が行われ、モノやサービスの買い手が減って国内市場が縮小する、あるいは働き手が減り企業の生産活動に支障が起きるといった懸念が指摘されている。
 高度な産業技術国家である我が国にとって、個々の国民がその能力を高めて社会を支えることは極めて重要であり、他方、生涯にわたり能力を社会で発揮することは、個人の自己実現や生きがいの面でも重要である。また、知識基盤社会において、各国は優れた能力を持つ個人を、国籍を問わず必要としており、その点は我が国も例外ではない。
 平成16年9月に内閣府が行った「少子化対策に関する特別世論調査」で、少子化対策で特に期待する政策を尋ねたところ(複数回答)、5割を超える者が「仕事と家庭の両立支援と働き方の見直しの促進」を挙げ、最多であった。また、同年厚生労働省が行った「高年齢者就業実態調査」で、55歳から69歳までの就業者に主な就業理由を尋ねたところ、「いきがい、社会参加のため」、「健康上の理由(健康に良いから)」、「頼まれたから、時間に余裕があるから」という理由を挙げた者が、55歳から59歳の男性では計4パーセントであるのに対し、65歳から69歳の男性では計34パーセントに達している。さらに同調査は、被雇用者のうち短時間勤務者の割合が、65歳から69歳では男性48パーセント、女性61パーセントに達することを報じている。
 このように、少子高齢社会においては、生涯にわたって就労、学習、余暇、介護などにどのように時間を費やすかという点で、より高い柔軟性を持つことが重要になる。また、労働力がより貴重な資源となるため、年齢、性別や国籍にとらわれず、個人の持てる能力を最大限に進展させ、それを社会が活用できる仕組みを構築しなければならない。科学技術はこれまで多くの肉体労働を動力等の利用により代替してきたが、今後は社会制度の改革と並行して、加齢に伴う知的・身体的能力の低下を抑え、補い、また生涯学習を通じて能力の向上を図ることで、あるいは、情報通信システムや家事の支援システムで仕事と家庭生活の両立を支援することによって、個人が働きやすく、社会の活力を高めることに貢献することが可能である。

●加齢と身体・精神機能
 人生経験の豊富な高齢者が社会で活躍を続けるためには、生活習慣病などの防止とともに、加齢に伴う身体・精神機能の衰えを遅らせることが重要であり、生理的な老化に伴う身体の能力低下を遅延させるとともに、気持ちの落ち込みを防ぎ、知的能力を保つことにより、精神的な活力を維持・向上するための科学技術の貢献が必要である。
 「不老長寿」は古代から人類の関心のテーマであったが、老化の機構に関する研究は20世紀後半から生物学的研究の基盤技術の整備と相まって発展してきた。1990年代半ばころにヒトの早老症の原因遺伝子が特定され、以後10年間に、線虫、ショウジョウバエ、酵母、マウスなどのモデル生物を使って個体寿命に影響する遺伝子が次々と突き止められた。このような遺伝子と、それらが担う分子機構についての研究が進められており、寿命には、エネルギー代謝やストレス応答の経路が関わっている可能性が示唆されている。老化や寿命を支配する遺伝子群のネットワークの解明の結果によって、老化の進行を遅らせたり、より健康に老いたりすることができるようになる可能性がある。そのような技術の社会への適用は様々な倫理的な課題を提起する可能性もあり、慎重な議論を積み重ねながら研究を進めていく必要がある。
 また長年の間、中枢神経系(脳と脊髄)の細胞には再生能力がなく、生まれた後は減っていく一方と考えられてきた。しかし、最近の脳科学の進展の結果、「ニューロン新生」と呼ばれる、新たな神経細胞が生まれる過程が大人の脳でも起きることがあり、高齢になっても神経細胞同士の結合が起きていることが分かっている。また、ヒト由来の胚性幹細胞(注)を神経細胞に分化させられることも明らかになっており、今後は抜本的な対策のなかったパーキンソン病や脊髄損傷などに対する再生医療につながる可能性もある。ただし、脳内にある神経幹細胞が神経細胞に分化し、その役割を果たすためには、正しい位置に移動し、他の適当な細胞とネットワークを構築する必要があり、それらの過程の分子機構を解明することなどが必要である。
 また、高齢者のうつ病が問題になっている。この点に関連して、記憶等で重要な役割を果たしている海馬と呼ばれる脳の領域について、ストレスがニューロン新生を妨げ、慢性的にうつ状態にある患者では萎縮が見られることが明らかになっている。抗うつ剤がニューロン新生を促すことが動物実験では明らかにされており、うつ病やアルツハイマー病にニューロン新生の促進が有効である可能性がある。ヒトでも毎日ランニングなどの運動をすることによりうつ状態が改善されるということが経験的に知られているが、大人のネズミを無味乾燥な飼育箱から遊び場の多い環境に移すと、海馬で新しい神経細胞が大量にできることが発見された。運動や適切な食事、十分な睡眠により、記憶力や判断力がよくなるということが今後科学的に解明されれば、このような知見を基に健康により配慮した生活を送ることで、生活の質を高めることができるようになるだろう。

 胚性幹細胞(Embryonic stem cell:ES細胞):動物の発生初期段階である胚盤胞の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞細胞株のこと。生体外で理論上すべての組織に分化する全能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させる事ができるため、再生医学への応用に注目されている。

●生涯を通じた学習・職業能力開発
 知識の変化のスピードが速まり、情報に基盤を置き、人々が通信技術で結びつく現代社会では、生涯を通じて学習したり、職業能力の維持・向上を図る必要性が増している。多くの人々の要求に応じて、都合のよい時間と場所で教育プログラムを提供できる遠隔教育に対する需要が一層高まるものと考えられている。このような要請に応え、例えば、科学技術振興機構は、技術者の継続的能力開発や再教育の支援を目的とし、技術者Web学習システム(※技術者Web学習システムホームページヘリンク)を運用するなどの取組を行っている。
 このような通信技術を活用した学習・職業能力開発は、育児休業者の職場復帰や一旦離職した者の再就職を支援する上で、また高齢者が更なる生活の質の向上を求め、定年退職後に改めて勉強を志し、さらには学位取得を目指す上で有効な手段であり、少子高齢社会では一層重要となる。

●勤務形態の柔軟化を支える情報通信システム
 平成17年版情報通信白書によれば、通信ネットワークを利用して、オフィス以外の場所で働くテレワークを導入している企業は我が国では15パーセント、米国では69パーセントである。テレワークは、育児等を行いながら仕事ができ、また通勤などによる身体的負担が少ないなど、少子高齢社会における就労形態として重要性が増すものと考えられる。第2次男女共同参画基本計画(平成17年12月閣議決定)においては、就業人口に占めるテレワーカーの比率を平成22年までに20パーセントにするとの数値目標が示されている。
 また、幼稚園・保育所での保育状況の映像や、外出中の子どもや高齢者の位置を自宅のパソコン等で確認できるサービスや、自宅への不審者侵入や火災発生等を探知し外出先に通報するシステム、外出先から冷暖房、洗濯、調理などの家電機器の操作や動作状況のチェックができるシステムが開発されている。
 テレワークや情報家電の普及のためには、企業秘密や個人情報を守る情報セキュリティ対策が重要であり、そのため、不正検知技術などの技術的対策を含め、様々な管理・運営面での対策を講じていくことが必要である。

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