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2.少子高齢化への対応と科学技術の役割

●少子化の流れを変える取組
 社会に様々な影響を及ぼすことが予測される我が国の人口減少・少子高齢化は、長期間続いてきた出生率の低下が大きな要因となっている。
 出生率の低下は、個々の人々の選択の結果であり、また、少産・少子は先進国に共通した避けがたい現象であるとの見方もあるが、現在我が国で進行している急激な少子化の背景には、核家族化や都市化による家庭や地域の養育力の低下と育児の孤立、育児の負担感の増大、家庭生活との両立が困難な職場の在り方、結婚や家族に関する意識の変化、若年失業の増大など若者の社会的自立を困難にしている社会経済状況といった問題が指摘されている(注)。
 このような、子どもを生み育てにくい社会の状況が今後とも続くことは、急激な人口構造の変化を招き、対応が一層困難になることはもとより、そもそも我が国社会の持続可能性を基盤から揺るがすものである。政府においては、「少子化の流れを変える」ため、子どもが健康に育つ社会、子どもを生み、育てることに喜びを感じることのできる社会への転換を目指した「少子化社会対策大綱」を平成16年6月に策定し、さらに同年12月には本大綱に盛り込まれた施策の具体的実施計画である「子ども・子育て応援プラン」を策定して集中的な取組を進めているところであり、今後も社会全体として取り組んでいくことが重要である。

 少子化社会対策大綱(平成16年6月4日閣議決定)参照

●新たな社会システムの構築
 少子化の流れが変わり、出生率が上昇に転じたとしても、その効果が人口の増加として現れるまでには時間が必要であり、当面我が国の人口が減少することは避けられないものといわざるをえない。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、合計特殊出生率が1.63まで回復すると仮定した高位推計でも、平成21年(2009年)をピークに人口は減少に転じ、2050年までに約2,000万人の人口が減少すると推計されている(注)。
 これからの我が国は、人口減少・少子高齢化に伴い労働力が減少し、子どもや若者の人口が減少していく中で、社会の活力を維持し、豊かな生活がおくれる社会を実現し、安定的な未来へとつなげていかなければならない。
 一方、世界に目を転じると、全体として人口増大の基調が続く中、環境問題、食糧問題、資源・エネルギー問題などの地球規模の課題は、我々に20世紀型の大量生産・大量消費・大量廃棄の文明からの転換を迫っている。
 このような課題の解決に、科学技術はどのように関わるのであろうか。
 天然資源に乏しく国土の狭い我が国はこれまで、教育水準の高い人的資源とそれに支えられた高い技術力で豊かさを実現してきた。今後は、国際競争が一層激化する中で、上記のような人口構造の変化に対応しつつ、国民の生活水準の維持向上と、精神的なものも含めた豊かさを実現するとともに、国際的な競争力を維持しつつ付加価値の高い製品やサービスを世界に向けて提供していく必要がある。また、地球環境問題など地球規模の問題の解決にも積極的に貢献していくことが求められており、科学技術が果たすべき役割はますます大きくなるものと考えられる。
 科学技術の発展を支える基盤は、まず何よりも科学技術に携わる「人」の力である。グローバル化が進展する中で、各国とも科学技術関係人材の確保に向けた取組を強めており、世界的な人材獲得競争ともいうべき様相を呈している。我が国では、経済成長や産業構造の変化によっては、研究者・技術者が2030年ごろには100万人以上不足する可能性があるとの試算もあり、人口減少・少子高齢化が進行する中で、科学技術関係人材の量と質の確保のための取組を今後一層進める必要がある。また、知識基盤社会を迎えるとともに、科学技術が生活のあらゆる場面に影響を及ぼすようになる中で、人々の科学技術に対する理解・関心、共感と信頼を醸成していくことが必要である。
 人口減少・少子高齢化という状況の中で、「人間力」の向上、「科学技術創造立国」は、我が国の進むべき道を示すものとして一層重大な意義を持つに至っているのである。
 国際的な競争が激化する中で、国力の源泉ともいえる人口の減少に直面することは、我が国にとって大きな課題である。しかしながら、上に述べた地球規模の課題への対応にはもはや時間的猶予はなく、また、先進諸国やアジアの諸国を中心に他の国々も近い将来人口減少に直面することが予測されている。
 このような時期に当たり、我が国が人口減少・少子高齢化への対応を未来社会に向けた挑戦の機会ととらえ、世界に先駆けて課題解決に取り組むことにより、人口減少・少子高齢化に対応した新たな社会システムを実現し、豊かで持続可能な社会の姿を世界に示すことができるならば、今後同様の課題に直面する国々に対してモデルを提示できる機会ともなる。
 さらに、豊かで安定的な社会を築くことは、人々が将来に希望を持ち、子どもを生み育てることに夢を持てる社会を実現することにもつながり、少子化の流れを変えることにも資するものと考えられる。もとより社会の変化は、各種の社会制度や個人の考え方など様々な要素が関わっており、科学技術はその一部に過ぎないが、しかし、重要な一部である。以下、人口減少・少子高齢化が進展する中で、豊かで安定的な社会の実現に向けた課題を大きく三つ、すなわち人口構造の変化への対応、経済の活性化、心豊かな社会の構築、に分け、それぞれに関して科学技術が果たすべき役割と、それらすべての基盤となる人々の科学技術への理解・関心の醸成と人材の養成・確保の問題について述べる。

 国立社会保障・人口問題研究所の平成14年推計における高位推計では、未婚率が高い10県の生涯未婚率などを基に、合計特殊出生率が平成12年(2000年)の1.36から直ちに上昇に転じ、平成61年(2049年)には1.63の水準に到達すると仮定している。

●人口構造の変化に対応した科学技術
 生産年齢人口の減少する社会において、必要な労働力の量と質を確保するためは、労働に参入する人の割合を上げることと、個々の労働力の質を高めることが必要である。すなわち、従来労働力率の比較的低かった高齢者や女性が働きやすい社会を実現し、これらの人々が労働に参加する比率を高めるとともに、一人一人の能力の向上を図ることである。
 高齢者が健康で活躍することができる社会を実現する上で、科学技術に期待される役割は大きい。すなわち、生涯にわたる健康を保持できるよう、いわゆる「健康寿命」を伸ばす上で、様々な疾病の解明とそれに基づく予防・診断・治療法の開発に科学技術が今後とも大きく貢献していくことが期待される。
 また、高齢者の自立を助けたり、介護負担を軽減したりするための様々な技術、例えば高齢者の身体機能を補うロボット技術の開発などが進められている。
 さらに、子育てと仕事の両立を図ったり、一人一人の能力を一層発揮しやすくすることが重要になることから、働き方の多様化を進めていくことが必要であると考えられる。従来型の常用雇用に限らず、パートタイム、在宅勤務、起業など、高齢者や女性も含め、個々の身体状況や家庭生活との関係などに応じて、多様な働き方を選択できるような社会を実現することが求められる。このことにより、より多くの人が、生活と仕事のバランスをとりつつ、意欲を持って社会に参画していくことができ、性別や年齢にかかわらずみんなで働き支え合う社会となることが期待される。その際、IT(情報技術)やロボット技術による働きやすい環境の整備、様々な家電製品による家事の効率化などが寄与することが考えられる。また、変化の激しい社会の中で、必要な職業能力の維持・向上を図るため、生涯を通じた学習や職業能力開発の機会を確保する上でも、ITの活用による学習支援等が期待される。
 なお、単に量的な労働力不足への対応として安易に外国人労働者の受入れを考えることは適当ではなく、また単純労働者を受け入れることについては、国内労働市場への影響や社会的コスト等を考慮すると課題が多く慎重な議論が必要であるが、我が国経済社会の活性化や一層の国際化を図る上で、専門的・技術的分野における外国人労働者の受入れを一層積極的に推進していくことは重要である。特に科学技術分野については、国際的な人材獲得競争が激化する中で、優秀な人材が国籍を問わず数多く日本の研究社会に集まり活躍できるよう、研究環境や受入体制の整備が求められる。
 一方、少子化の進む社会において、一人一人の子どもが健やかに育ち、社会に自立して参画できるようにすることは一層重要な課題となっている。このことは、若者世代の社会的自立を促し経済的基盤を強化することにより、次の世代を生み育てやすい条件を整備することにもつながる。子どもの健康の向上を目指して小児医療の研究が進められており、また、脳科学の研究の成果が子どもの発達や教育に関わる課題の解明に寄与することも期待される。
 社会資本については、高齢者等の社会参加を促し、また、子ども連れで利用しやすいようなユニバーサルデザインであることや、維持・管理に負担の少ないものであることを目指した技術開発が行われている。
 また、地球環境問題への対応、安全で安心できる社会の構築など、社会的課題の解決に向けて、科学技術は社会の要請に応えていくことが求められる。鳥インフルエンザなど国境を越えた感染症の拡大、テロ、大規模自然災害など、社会の安全を脅かす事態に対して、科学技術が果たすべき役割は大きい。また、地球規模の環境問題に対して対応を誤れば、人類社会の安定的な存続に極めて重大な問題を惹起(じゃっき)する恐れもある。
 現在我々が直面している地球規模の課題の背景には、科学技術の発展とそれに伴う人類の活動の急速な拡大があることは否めないが、今後こうした問題の解決を図っていく上で科学技術が欠かせないことも事実であり、問題を正確に把握するための観測やデータの分析技術の向上とともに、問題解決のための様々な技術開発が必須である。

●経済を活性化する科学技術
 人口減少・少子高齢化の進展する中で、経済活力を維持し安定的な経済成長を実現するためには、労働力の減少などマイナス面を補いうるよう、絶えざる生産性の向上が求められる。
 また、グローバル経済が進展しアジア諸国が急速な発展を遂げるなど、今後ますます国際競争の激化が予想される中で、我が国の経済が成果を上げていくためには、国際競争力のある企業の存在が不可欠である。このため、人口構造の変化に対応した新たな市場の開発、高付加価値の製品やサービスの提供、人口減少社会に適した資本の整備など、経営面での対応とともに、技術開発による生産性の向上、新たな製品の開発といった取組が求められる。科学技術は、生産性の向上と競争力の強化において中心的な役割を果たすべきものであり、今後科学技術の一層の振興を図っていく必要がある。また、その成果を確実にイノベーション(科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新)の創出につなげていくことができる社会的システムの構築により、持続的な経済発展を実現していくことが重要である。

●心豊かな社会の構築に資する科学技術
 平均寿命の伸びにより長くなった人生の時間を、就労のみならず趣味、学習、地域活動等に活用することにより、一人一人が豊かな人生をおくることができるようになる(第1-1-5図)。

 
第1-1-5図年齢階級別生活時間−週全体

 人々が物の豊かさより心の豊かさを重視する傾向が一層進み、文化活動やスポーツ・生涯学習への関心が高まっていくものと考えられる。これらの分野は一人一人の心の内面に関わるものであるが、心の豊かさは、利便性や効率性を追及することとは相容れない面があり、科学技術も物質的な豊かさのみならず、心の豊かさの実現にも貢献していくことが求められる。例えば、メディア芸術の領域では、コンピュータ技術の発展により、新たな表現手段を用いた多彩な芸術表現活動が展開されるようになっている。また、人類共通の資産である文化遺産の保存・修復・活用にも科学技術は活用され、多くの人々が直接文化財に触れ、また、デジタルアーカイブなどによって遠く離れた文化財や、伝統芸能などの情報を得ることも可能になっている。
 さらに、自由な発想に基づき行われる基礎研究は、知的好奇心にこたえ、人類に新たな知という価値をもたらすものである。科学技術の発展は、宇宙・深海・地中といった従来人類が知りえなかった領域に解明の歩を進め、また考古学や歴史などの分野でも新たな知見を得ることに貢献している。また、基礎的な研究の成果が、長年の後に広範な応用技術の基盤となり、新たな産業や生活の向上に貢献してきた例も多い。

●人々とともにある科学技術とそれを支える人材
 科学技術と社会との関わりはますます密接なものになっており、人々の生活の隅々に科学技術の影響が及ぶようになっているが、国民の科学技術に対する関心は近年、若者を中心に低下の傾向にある。科学技術が人々の期待にこたえて社会の課題の解決に貢献するとともに、知的・文化的価値の創出を通じて今後の少子高齢化に積極的に対応していくためには、科学技術に対する人々の理解と関心が不可欠であり、今後の科学技術の振興に当たっては、社会のための科学技術、人々とともにある科学技術という視点に立って、国民の共感と信頼を得ながら進めていくことが必要である。
 また、国民一人一人にとっても、科学技術の成果を十分に享受するとともに、社会における科学技術の在り方について関心を持って考え、自立的に判断していく上で、科学技術に関する基礎的な知識や能力(科学技術リテラシー)を備えていることが重要である。
 このため、各地で開催されているサイエンスカフェをはじめ、研究者等と国民が対話しながら、国民のニーズを研究者等が共有するための取組や、科学館・博物館等の充実等、国民が科学技術に触れ、体験・学習できる機会の拡充などを通じて、子どもから大人まで、広く国民の科学技術に対する理解・関心の醸成に取り組んでいく必要がある。
 また、研究者・技術者の不正行為等、科学技術に対する社会の信頼を損なうような事例が発生していることは誠に残念であり、あってはならないことである。この問題については、研究者・技術者の自己規律を基本とし、研究機関や、国の機関における取組が始まっており、各大学や学協会等においても、取組を進めることが求められる。
 科学技術の発展の基盤は何よりもその担い手となる人材である。我が国は今後、少子高齢化が進行する中で、科学技術を支える人材の確保と質的向上とともに、多様な人材が活躍できる環境の整備が求められる。このため、初等中等教育段階から子どもの科学技術に対する関心を高め裾野の拡大を図る取組や才能ある子どもの個性・能力を伸ばす取組を進めるとともに、科学技術関係人材を社会へ送り出す役割を担う大学・大学院の充実を図り、社会のニーズにこたえる人材育成を進めるなど総合的な人材育成策を講じていく必要がある。また、若手、女性、高齢者といった多様な人材が活躍できる環境を実現し、外国からも優れた研究者が集まる魅力ある研究環境と生活支援も含めた受入体制を構築することにより、国際的な人材獲得競争の中においても優れた人材の確保を図っていく必要がある。
 科学技術に対する幅広い国民の支持と、多様で優秀な研究者の研究活動、そしてそれを社会に還元していく様々な科学技術関係人材の活躍があって初めて、新たな知が生み出され、また、我が国の直面する様々な課題の解決につながる科学技術の発展が期待されるのであり、科学技術創造立国とその基盤としての人材立国に向けて一層の取組が求められる。

 第2章では、新たな社会を切り拓(ひら)く科学技術の役割について、上記の課題ごとに節を設けて詳述する。

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