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第1部   これからの科学技術と社会
第3章 社会とのコミュニケーションのあり方
第3節 科学技術と社会の新たな関係
2.  国民との対話に関する新たな展開


 科学技術はこれまで政府を中心にその方向性に関する議論がなされ,科学者等の科学技術に対して高度な専門知識を有する主体の中において発展し,その成果が結果として社会に受け入れられてきた。これは,政府や専門家が科学技術に関する情報を十分に,そして容易に収集できたとともに,それに基づく分析や判断が社会的にも妥当とみなされてきたからであると考えられる。いわば,社会が科学技術の成果を受け取ることに終始するといった受動的な態度であったと考えられる。

 しかし,現在,生命倫理問題等に見られるように,社会的課題を有する科学技術について,それを積極的に活用しようとする意見と容認できないとする意見が社会に並存するなど,社会を構成する個別の主体間の認識や価値観が異なったり,また,それに伴って主体間で利害関係の差が生じたりしており,社会の内部に様々な軋轢を招く可能性が生じている。このように,近年の科学技術と社会の関係の複雑化は,一部の主体の判断による社会全体における合理性や妥当性の確保を困難にしている。

 したがって,政府による一元的な判断だけでは調整が困難であり,広く社会的な合意形成が必要な政策については,国民等の各主体からの意思を的確にくみ取ることも必要になると考えられる。多くの主体が科学技術の政策形成に関与することは,その過程の透明性が増すこと,政策の社会的妥当性や社会的合意が確保しやすくなること,また,政府と各主体間における信頼感の醸成,各主体による科学技術に対する認識の深まりや専門家では見えなかった新たな社会的課題の発見等,様々な側面で利する点があると考えられる。

(科学技術に関する国民参加型の意思形成)

 国民等の意見を政策形成に反映させる従来の行政手続には,審議会等による外部有識者の意見の聴取,あるいは,ホームページや新聞等のメディアを通じて新規施策の趣旨や内容等を公開し,広く国民に意見を求めるパブリックコメント(意見提出手続)による,政策形成への国民の意見の反映など既に制度化されている手続もある。また,近年においては,関係行政機関の長等が国民と政策について直接向き合い,対話するタウンミーティングも政府と国民の対話の一つであろう。

 科学技術に関する社会的合理性を確保するための一つの手法例として,参加型テクノロジー・アセスメント(技術評価:Technology Assessment:TA)がある。これは,科学技術による社会や自然環境に対する様々な影響を,国民等の多様な主体が参加して,それぞれの視点で事前に評価し,科学技術の社会的側面に関する国民の意見として形成し,そして政策形成に反映させるものである。

 テクノロジー・アセスメントは,当初米国において,公害問題等,科学技術による社会への負の影響を背景として概念化されたものであり,1972年には,連邦議会の下に技術評価局(OTA)が設立された。OTAは,専門家による科学技術に関する政策的な課題についての調査分析と政策の選択肢の提供を任務としていたが,1995年に,その機能は米国議会調査局に引き継がれた。この活動は,欧州に大きな影響を与え,次第に専門家による評価から国民全般による評価,そして懸念や危険への対応といった観点から各主体間の多様な価値観,意見の調整といった観点に内容が変質していった。現在では,専門家だけなく,政府や国民等の各主体が科学技術の倫理的,社会的課題に関して対話や相談を行うことで,科学技術の方向性に関する議論に参画し,各主体の価値観,利害関係や認識の相違を調整し,社会的合意を得るための土台となっており,既に欧州の各国において見られるように,参加型テクノロジー・アセスメントが国民参加型の政策検討の場として制度化され,実施機関が整備されているところもある。我が国においては,環境影響評価においてその手法が見られる。

(科学技術の意思形成に参画するNPO)

 科学技術の振興を目的とするNPO法人(特定非営利活動法人)については,他のNPO法人と比較してもその数は依然として少ない状況にあるが,NPO法人は,地域社会と密接にした活動や,個々の国民の要望に対応してきめの細かい対応も可能であるなど,新たな科学技術活動の担い手として期待されている。我が国の科学技術の方向性や社会的活動を評価し,又は,国民参加型の議論を活性化する等の役割を果たしていくことが考えられる。


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