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第1部   これからの科学技術と社会
第3章 社会とのコミュニケーションのあり方
第2節 科学者等の社会的役割
3.  科学者コミュニティの社会的役割


(科学者コミュニティの果たすべき役割)

 科学者コミュニティの役割は,社会とのコミュニケーションを図りつつ,幅広く科学者の知識や意見を集約し,長期的・総合的・国際的視点から,社会に広く情報提供や提言を行うことである。その際には,他国の科学者コミュニティと連携,協力していくことも重要である。科学技術と社会との関係がますます深まりを見せる中で,社会に向けて情報発信や提言を行うといった科学者コミュニティの果たすべき役割は重要性を増している。

 社会的な課題を解決するため,人文・社会科学を含めた総合的かつ俯瞰的視点に立ち,中立かつ公正な立場からの議論ができる機能として,科学者コミュニティの果たす役割は大きい。

(欧米における科学者コミュニティの役割と活動)

 欧米諸国のアカデミーの歴史は古く,17世紀には既に,イタリア,英国,フランスなどで科学アカデミーが設立され,18世紀には,ほとんどの国で,その国を代表とする科学アカデミーが設立されている。欧米諸国においては,ルネサンス期における近代科学の勃興から科学アカデミーの設立を経て現代に至るまでの長い歴史の中で,科学が文化の一つとしてとらえられている。

 欧米諸国の科学アカデミーの主要な活動を比較すると,共通するものとして栄誉や顕彰,国際的な対応,科学技術の振興や普及のほか,政府や議会への助言,調査協力などが挙げられる( 第1-3-30表 )。欧米諸国では,科学アカデミーは政府からの依頼に基づき様々な調査,研究を行うとともに,その結果に基づき意見の集約を図り政府に対して提言を行っている。また,政府からの依頼に基づく政策提言にとどまらず,全米研究評議会の政策提言が国土安全保障省の設立につながった例( 第1章第2節 参照)に見られるように,自発的な提言が具体的な政策に結び付くこともある。

第1-3-30表 主要国における科学アカデミーの役割と機能

 また,近年では,環境問題,拡大する南北格差等の持続可能性(Sustainability)への深刻な地球規模の課題の山積をうけて,政策提言要請に対応すべく科学アカデミーの国際的な協力も活発化している。全世界の90の科学アカデミーから構成されるインターアカデミーパネル(IAP:Inter Academy Panel)が1993年に結成され,2000年の東京での第3回総会で「持続可能性への移行(Transition to Sustainability)」宣言がなされ,さらに2000年にはインターアカデミーカウンシル(IAC:Inter Academy Council)を新たに設立した。IACは,国際連合や世界銀行等の国際機関の政策決定に当たって,世界中のアカデミーが協力して助言を行うものである。2004年2月には,IACから国際連合への初の報告書「より良い未来の構築-科学技術の能力開発を世界中に広げる戦略-(Inventing a Better Future : A Strategy for Building Worldwide Capacities in Science and Technology)」が提出された。報告書では,先進国と開発途上国では科学技術政策への取組に大きな格差があるため,急速に発展している科学技術について開発途上国が置き去りにされている現状が懸念されている。特に開発途上国における科学技術人材や科学技術予算などの科学技術潜在力の強化を世界的な課題として提示している。この報告に対して,国際連合では報告会を開催し,事務総長コフィー・アナン氏は,同報告書の中で示された提言を可能な限り行動に移していくべきと述べるとともに,科学者コミュニティの活動に対して更なる期待を寄せている旨を述べた。このように,科学アカデミーが政策形成に対して助言や提言を行っていく活動は,世界的にも注目されている。なお,これらの国際的科学アカデミーの動きのなかで,日本学術会議は,IAPやIACで理事を努めるなど中心的な会員としてその活動に貢献し,高い評価を受けている。

(C)UN/DPI  国際連合本部(ニューヨーク)におけるIAC報告書の報告会の様子  (左から,同報告書の共同議長のイズマイル・セラジェルディン氏,ヤコブ・パリス氏,国際連合コフィー・アナン事務総長)  写真提供:国際連合

IACの報告書

 学会や協会といった団体もアカデミーと同じく科学者コミュニティの形態として重要である。歴史的に見ると,「科学者」に相当する英語の「scientist」という言葉ができたのは19世紀中ごろであり,この頃から科学者という職業や存在が社会的に認められたと言える。欧米諸国においては,1820年代以降,科学者と医師のドイツ協会(GDNA),英国科学振興協会(BAAS),全米科学振興協会(AAAS)が設立され,科学者等は自らの活動について社会に紹介し,支持を得るための活動を進めてきた。その一つの形態として,AAASの発行する著名な科学雑誌である「サイエンス(Science)」が挙げられる。AAASは,現在は,世界最大の総合的な科学者協会として,科学者,国民,政策担当者の間のコミュニケーションを円滑にする役割を担っているほか,科学技術の発展と社会支援を使命として科学技術教育プログラムなどの活動を行っている。

(我が国の科学者コミュニティへの期待)

 欧米諸国においては,数世紀にわたって科学に対する国民の高い意識が培われてきたが,日本においては,欧米諸国ほどには社会的認識として浸透していないのが現状であろう。

 科学の発達と成果の社会への普及を目的として設立された日本学術会議であるが,科学技術の急速な発展によりその成果が社会に深く浸透する現在では,今まで以上に多くの役割を果たすことが期待されている。これからの科学者コミュニティには,全米研究評議会のように社会と科学技術のあり方を自ら考え,独自に政策提言を行っていく自立性のある姿勢と,AAASのように科学者等や科学技術について国民の理解を求めていく姿勢のいずれもが求められるものと考えられる。

 我が国における科学者コミュニティの代表である日本学術会議の今後のあり方については,総合科学技術会議において調査・検討が行われ,平成15年2月に「日本学術会議の在り方について」が取りまとめられた。また,日本学術会議において,平成15年7月に「日本学術会議の改革の具体化について」という報告がまとめられ,今後の活動に大きな期待がかけられている。報告では,日本学術会議の果たすべき役割として,

1)政府に対する情報提供・提言を通じた科学技術政策への寄与及び一般行政への科学の視点の反映
2)あらゆる分野の科学者の交流・情報交換と各国の科学者との連携・交流を通じた科学の水準向上追及
3)社会への科学に関する情報発信と社会の側にある意見や要望を科学の側に的確に伝えるという双方向コミュニケーションの実現

が掲げられている。こうした検討結果を踏まえ,日本学術会議の会員制度や内部組織の改革をするため,平成16年4月には「日本学術会議法の一部を改正する法律」が国会で可決され公布された。

 また,平成16年4月には,日本学術会議から「社会との対話に向けて」が宣言された。科学者一人ひとりの社会的責任として自らが分かりやすい言葉で科学や研究の意義について語ることの重要性を認識し,まずはじめに社会に対して語りかける機会を設定して,社会の科学技術に対する意識と共感を喚起することに努めることを呼びかけている。このためのシンポジウムが平成16年5月に開催され,これを皮切りに全国各地で地域住民との対話や初等中等教育の現職教員に対するリフレッシュ教育を実施していく予定である。また,この活動に当たり,財界,マスメディア,学協会,教育界,行政等への協力も呼びかけているところである。

 また,平成11年に「男女共同参画社会基本法」が公布,施行されて以来,科学者コミュニティにおいても男女共同参画は大きな課題の一つである。我が国の研究者のうち女性の占める割合は約1割にすぎない。このような課題を憂慮した科学者コミュニティは,平成14年10月に自然科学系の32学協会が男女共同参画学協会連絡会を設立させ,男女が共に科学技術に十分力を発揮できる明るい未来づくりに取り組んでいる。

日本学術会議主催公開講演会「科学・技術への理解と共感を醸成するために」 の様子(平成16年5月21日)  写真提供:日本学術会議


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