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第1部   これからの科学技術と社会
第3章 社会とのコミュニケーションのあり方
第2節 科学者等の社会的役割
1.  科学者等の国民との交流の推進


(科学者等に求められる社会的役割)

 科学技術の発展に伴う社会的影響が多様化する中で,科学技術の発展に対する個人の考え方や関わり方も多様化し,科学技術と社会が互いに影響を与え合う双方向的な関係に変化してきている。

 科学技術の発展により,その細分化,専門化が進み,国民はもとより,専門家でさえもその全体を理解することは難しくなっている。

 このような状況の中で,科学技術が社会全体にとって望ましい方向で発展していくためには,科学技術それ自体や科学者等の活動が国民に正しく理解されること,信頼されること,支持されることが必要不可欠と言える。このために,科学者等は自らが社会の一員であるという認識を持って,自ら得た知識や知見を国民に語りかけ,また,科学者等が国民の意見をくみ取っていくことは,科学者等に求められている社会的役割であると考えられる。

(国民と科学者等との対話の必要性)

 平成5年版科学技術白書において「若者の科学技術離れ」現象が指摘され,社会的な課題として認識されてから久しいが,近年,科学者等の国民に対する理解増進活動は増加傾向にある。研究者を対象に行った意識調査の結果からも,5年前と比較して国民への説明機会が増えたという研究者は40%以上に上る一方で,減ったと回答した研究者はわずか10%弱であった( 第1-3-20図 )。それにもかかわらず,第1節( 第1-3-11図 )でも述べたように,国民は科学技術に関する情報を得る機会や場所が以前に比べて減っているという結果となっている。このことから,科学者等が行っている情報発信が,国民に対して十分に行き届いていない状況がうかがえる。科学者等の活動が国民に正しく理解され,科学者等が信頼され,支持されるために,科学者等の意志が国民に十分に伝わるような新たな活動が必要である。

第1-3-20図 国民への説明機会の増減

 今後,科学者等が社会的責任を果たす上で求められるのは,今までの公開講義のような一方的な情報発信ではなく,双方向的なコミュニケーションを実現するアウトリーチ(outreach)活動である。

 アウトリーチとは,リーチ・アウト(reach out)という言葉が名詞化された言葉であり,もともとの意味は「手を伸ばす,差し伸べる」などである。欧米では普通に使われている言葉であり,アウトリーチ活動は,科学技術に限らず,芸術,医療,福祉などの分野でよく行われている。

 特に,科学者等のアウトリーチ活動と言った場合,「研究所・科学館・博物館の外に出て行う単なる出張サービス的な活動ではなく,科学者等のグループの外にいる国民に影響を与える,国民の心を動かす活動」であると認識することが重要である。ただ単に知識や情報を国民に発信するというのではなく,国民との双方向的な対話を通じて,科学者等は国民のニーズを共有するとともに,科学技術に対する国民の疑問や不安を認識する必要がある。一方,このような活動を通じて,国民は科学者等の夢や希望に共感することができる。こうして科学者等と国民が互いに対話しながら信頼を醸成していくことが,アウトリーチ活動の意義であると考えられる。

 科学者等のアウトリーチ活動は,一義的には科学者等の説明責任の一環としてとらえるべきであるが,同時に科学技術の普及啓発や科学技術理解増進の効果も期待され,次の世代を担う科学技術人材の確保や育成につながるものと考えられる。

(英国の取組の現状)

  第1章第2節 でも述べたとおり,欧米諸国では,様々な理解増進活動が行われている。特に,英国の取組について見ると,競争的資金を配分している公的機関などでは,研究資金を獲得した研究者に対して情報発信を義務付けたり奨励している( 第1-3-21表 )。具体的には,資金を獲得した研究者に対して自身の研究テーマに関する国民との交流活動の計画を作成させ,年に1,2日間の活動を義務付けたり,研究費の一部を国民との交流活動に支出することを奨励したり,あるいは国民との交流活動ための訓練費用を付加的に支給したりしている。

第1-3-21表 英国における研究者への理解増進活動の義務付け・奨励・支援

 また,研究者に対して活動を義務付けたり奨励したりするだけでなく,国民の科学技術への理解や意識を深めるための活動を対象とした褒賞制度やグラントがある( 第1-3-22表 )。

第1-3-22表 英国における科学技術公衆参加・理解に関わる褒賞・研究資金・フェローシップの例

Column

(科学者等の意識改革の必要性)

 「科学技術と社会に関わる世論調査(平成16年2月)」によれば,「科学者や技術者は身近な存在であり親しみを感じる」という意見に対して「そう思う」あるいは「どちらかといえばそう思う」と回答した国民は約15%であるのに対して,「そう思わない」あるいは「あまりそう思わない」と回答した国民は70%を超えている( 第1-3-23図 )。前節で述べた国民の科学技術について知る機会や情報提供に対して不足を感じているという結果( 第1-3-11図 )であったが,こうした傾向が続けば,国民と科学者等との距離はますます離れていく恐れがある。

第1-3-23図 科学者や技術者に対する国民のイメージ

 「我が国の研究活動の実態に関する調査(平成15年度)」によれば,アウトリーチ活動については,約60%の研究者が「行いたい」あるいは「どちらかと言えば行いたい」と考えている( 第1-3-24図 )。科学者等が国民に身近に感じられるためにも,アウトリーチ活動のような科学者と国民との直接的な対話の機会を充実させていく必要がある。

第1-3-24図 研究者のアウトリーチ活動に対する意識

 また,科学技術が国民に理解され,受け入れられるためにも,社会・経済ニーズに即した研究を進めることが従来にも増して重要であるが,科学者等の意識も6年前に比べると高くなっている( 第1-3-25図 )。この傾向は好ましいことであるが,社会・経済ニーズの把握方法としては,「仕事を通じて」,「学会・協会からの学術動向から」,「専門誌から」などが多く,「講演会や討論会等における市民との対話から」把握する科学者等はわずかであり,マスメディアを意識している科学者等も必ずしも十分にいるとは言えない( 第1-3-26図 )。

第1-3-25図 社会・経済的ニーズの把握について

第1-3-26図 社会・経済的ニーズの把握方法について

 さらに,国民が科学技術に関する情報を入手している方法としては,テレビ,新聞が主なものである。一方で,科学者等が国民に対して自らの研究の説明を行いたい場所や実際に行った場所を見ると,マスメディア(テレビ・ラジオ・新聞等)と回答した研究者は比較的少ない。むしろ,国民が科学技術に関する情報の入手先としては重視していない「一般国民を対象とした公演や市民大学等の授業」,「一般国民向けの雑誌への執筆」,「インターネットのホームページ等」などであった( 第1-3-27図 )。

第1-3-27図 国民の科学技術情報の入手先と科学者等の情報発信場所について

 このような,互いの意識の開きが,ある意味で,科学技術と社会に関する世論調査(平成16年2月)に見られるような,国民にとって科学技術や科学者等が身近な存在に感じられないという結果の一因になっているものと考えられる。このことは,英国でも同様な傾向が見られ,科学技術に関する信頼できる情報源に関して,科学者等と国民との間にかなりの意識の開きがある( 第1-3-28図 )。

第1-3-28図 科学技術情報に関して信頼する提供元(英国)

 このため科学者等は,国民に対して十分な情報発信をするためだけでなく,科学技術理解増進の観点からも,テレビ・新聞等のマスメディアの役割や影響を十分に認識していかなければならない。特に,英国では,マスメディアへの情報発信は国民への情報発信と同様に重要であると認識されており,マスメディアが持つ科学技術への造けいや理解力に頼らず,科学者等が自ら国民へ語りかけるのと同様に,マスメディアに対しても分かりやすい表現を用いて語りかけていく必要性を認識するべきだと考えられている。

 今後,科学者等が自らの社会的責任を果たしていくためには,科学者等自身が国民に対するアウトリーチ活動の必要性を強く認識し,それを実践していくことが必要である。また,科学者等は国民の多くが科学技術の主要な情報源としているマスメディアの重要性を十分に認識し,マスメディアに対しても国民と同様に良質で十分な情報発信を行うことも必要である。さらに,科学者等の所属機関である大学や研究機関等は,「国の研究開発評価に関する大綱的指針(平成13年11月)」において,所属機関が科学者等の業績を評価する際の評価項目の一つとして,社会への貢献に関わる活動が挙げられていることを踏まえ,科学者等が社会的責任を果たすための活動を支援し,業績として適切に評価していく必要がある。

Column


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