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第1部   これからの科学技術と社会
第3章 社会とのコミュニケーションのあり方
第1節 科学技術に関する国民意識の醸成
3.  科学技術と社会をつなぐ人材の養成


(現状)

 「科学技術と社会に関する世論調査(平成16年2月)」によれば,多くの人が,科学技術について知る機会や情報提供に不足を感じている( 第1-3-11図 )。また「科学技術に関する知識は分かりやすく説明されれば大抵の人は理解できる」と考える人の割合はこの数年で減少している( 第1-3-12図 )。

第1-3-11図 科学技術について知る機会や情報を提供してくれるところは十分にあると思うか

第1-3-12図 科学技術に関する国民の理解力に関する意識

 このように,国民が科学技術に対して,情報が伝わってこず,伝わってきた場合にも理解しづらい,と考えている状況に適切に対応するためには,科学技術について日頃から国民に対して十分な情報提供を行い,また科学技術について誰にでも分かりやすい説明を実践することが必要となる。このためには,まず,科学者等が平易な言葉で説明することが必要なのはもちろんであるが,これに加えて,科学技術と社会をつなぐ役割を果たす人材が求められる。

 科学技術政策研究所の調査資料「科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について(2003年11月)」によれば,「科学コミュニケータ」とは科学技術の専門家と一般公衆との溝を埋める役割を果たす人を言い,具体的には,マスメディアの科学記者,サイエンスライター,科学館・博物館関係者,大学・研究機関・企業等の広報担当者,理科・科学の教師,科学技術リテラシー向上に関わるボランティア,のような人々を念頭に置いている。このような科学技術コミュニケータは,前述したような科学技術と社会をつなぐ役割を果たす重要な存在である。

 研究者を対象とした意識調査においても,我が国においては,科学技術を取り巻く様々な人材の中でも特に,科学技術と社会を媒介していくための人材について,質・量ともに不足感が高いとの結果が出ている( 第1-2-30図 )。これらの状況からは,科学技術に関して高い見識を備えた十分な数の科学技術コミュニケータを育成する必要があると言える。この点,英国や米国においては,科学に特化したコミュニケータを養成する大学・大学院のコースがある( 第1-3-13表 )。今後,我が国においても,諸外国の例も参考にしつつ,例えば科学技術を専門とするコミュニケータ養成コースをつくるなど,科学技術に関する多様な人材養成( 第1-3-14図 )のための様々な方策について検討することが必要であろう。

第1-3-13表 英国・米国の科学コミュニケータ養成コース

第1-3-14図 多様な科学技術人材

第1-3-15図 科学技術に関する知識の情報源

(マスメディア)

 多くの人は,年代にかかわらず科学技術情報をテレビ,新聞等のマスメディアに依存しており( 第1-3-15図 ),今後とも,理解増進活動に関しマスメディアに期待するところが大きい( 第1-3-16図 )。また,緊急の事態が発生した場合において最も信用できると思う情報源は何か,という問いに対し,新聞やテレビ,ラジオを選択する者の割合が極めて高く( 第1-3-17図 ),国民がマスメディアの情報提供を信頼し利用している実態が表れている。

 科学技術に関する話題は,専門的である上に絶えず進展していくため,多くの国民は科学技術報道に対し,単に正確で迅速な事実関係の伝達にとどまらず,解説の役割も期待している。このためマスメディアは,国民の科学技術に対する関心や理解の程度,さらには科学技術に対する評価をも左右しうる存在と言える。

第1-3-16図 国民の理解増進に必要な取組

第1-3-17図 緊急事態が発生した場合の最も信用できる情報源

 科学技術について,科学者等本人が国民と直接コミュニケーションを図る場合,自身の体験や考えを自分の言葉で語ることができるため説得力や臨場感に満ち,受け手に感動を与えることも多いが,その範囲は限られることが多く,またすべての科学者等が話上手とも限らない。この点,マスメディアを通したコミュニケーションは,必ずしも科学者等が望むとおりの報道がなされるとは限らないとの指摘もあるが,コミュニケーションの専門家の手によって,新聞,テレビ,ラジオといった媒体を通じ,社会に広く伝えることのできる利点は大きい。

 例えば,テレビ番組について見ると,ニュース番組における報道以外にも,科学教育番組や生活科学番組があり,特に近年好評を得ている生活科学番組等は身近な事柄に科学的な分析を加えることでより良い日常生活を送ることができることを示すことに成功している好例と言える。

 このように,マスメディアが国民の期待に応え,科学技術に関する情報を伝えていくためには,科学技術ジャーナリストが科学技術に関して高い見識を持つ必要があり,そのためには,人材育成の視点も必要である。前述のように,我が国においては科学に特化してコミュニケータを養成している大学や大学院がないが,日本科学技術ジャーナリスト会議においては,平成14年から,科学ジャーナリスト塾を開催しており,若い科学ジャーナリストのトレーニングのために,聴講のみならず演習も含む実践的な教育に着手しているところである。科学ジャーナリスト塾においては,平成15年度には,40人の定員を大きく上回る60人の応募があり,最終的には,大学院生等の学生を半数以上含む46人で開講された。「科学の面白さを多くの人に伝える職業につきたい」「研究で得られた知見を正しく分かりやすく伝える方法を学びたい」という熱気であふれており,科学ジャーナリストを志す若者の間で関心を呼んでいる。今後,マスメディアに対する国民のニーズや信頼,期待をしっかりと受け止めて活動を行うとともに,人材の養成についても自主的な取組を積極的に進めていくことが期待される。

(科学館・博物館)

 科学館・博物館は,実際に体験や観察ができる場であり,従来から科学技術と人々,特に子どもとをつなぐ役割を果たしてきた。また科学館・博物館は,学校の授業において児童生徒が訪問し見学するなど,従来より教育の一環としての役割も果たしている。近年では,技術の進歩により展示方法も多様化し,例えばバーチャル科学館のように,インターネット技術の利用により,学校など離れた場所での体験や観察が可能となった例なども見受けられる。このように科学館・博物館では,技術の進歩や他機関との連携により可能性が広がっており,今後より大きな役割を果たすことを期待できる存在である。

 しかし現状において,科学館・博物館を科学技術に関する情報源として利用する人は少なく( 第1-3-15図 ),また科学館・博物館の館数の増加率に比べ入館者数の増加率は低い( 第1-3-18図 )。これらのことから,これまでのところ,科学館・博物館が決して十分に活用されているとは言い難い状況にあると言えよう。

第1-3-18図 我が国の科学博物館の数・職員・入館者の推移

 このような状況を改善するためには,科学館・博物館の展示のあり方についても発想の転換を図り,既に確立された科学技術上の知識や法則を展示するにとどまらず,例えば最先端の研究開発に関する展示や体験コーナーを設けて国民に積極的に紹介したり,科学技術と人類社会の関わりの歴史を振り返ることで科学技術の成果がいかに社会に役立っているのかを伝えることも重要となるものと考えられる。

 また,展示内容を工夫し最先端の展示を担うのは科学館職員であることから,科学技術に関する専門知識を備えた人材を博物館に十分に配置し,また学芸員が常に最先端の科学技術に対応できるよう研修を充実させること等が必要となる。

 一方,科学館・博物館の中には,地域の学校や教育委員会,ボランティア等と連携し,地域の子ども等を対象として実験教室や科学工作を開催し活性化している例も存在する。さらに,独立行政法人科学技術振興機構の科学技術普及推進事業において,巡回展示や出前科学教室のような,地域の科学館と学校とが連携した企画などの地域毎に特色ある活動を支援したり,また科学館が学校現場の意見を反映しながら教材を開発・普及することを支援するなど,科学館・博物館と学校の連携を支援する取組を行っている。今後はこのような活動の広まりが期待される。

 さらに,科学館・博物館の活性化のためには,ボランティアの活用も有効である。

(科学技術に関する活動を行うボランティア,特定非営利活動法人(NPO法人))

 ボランティアは,市民の自発的な活動であるため,その分野への関心や問題意識を有している人が参加していると考えられる。このため,例えば科学館・博物館においては専門知識を備えた人材の充実が求められているところであるが,大学生や大学院生,研究者等によるボランティアの協力を得ることは,研究現場の生きた科学技術情報の発信の可能性をひらく等,その活性化に有効であると考えられる。

 さらにボランティアは,参加する側にとっても,科学技術に触れる機会が提供されるという利点を有しており,ボランティア活動を通じて参加者の更なる科学技術に対する興味や関心,理解の向上も期待できる。

 科学技術に関するボランティアの現状を見ると,科学博物館に対する調査( 第1-3-19図 )においては,ボランティア登録制度を設けている科学館・博物館の割合がようやく3割程度となってきたところであるが,ボランティアの登録者数は最近10年で急激に増加している。

第1-3-19図 科学博物館等におけるボランティア活用の実態

 今後,ボランティアがより幅広く積極的に活用されるためには,ボランティア活動に対して意欲のある者と,ボランティアを必要としている科学館・博物館の間をつなぐことが重要であり,両者を仲介する情報提供等のコーディネート支援が必要となる。

 一方,NPO法人については,平成15年5月の特定非営利活動推進法の一部改正により,特定非営利活動の種類に「科学技術の振興を図る活動」を含む5分野が追加され,これにより「科学技術の振興を図る活動」を活動分野とする設立が可能となったところである。平成15年12月現在,定款に「科学技術の振興を図る活動」を活動分野として記載しているNPO法人は171法人である。他方,定款記載の活動として「社会教育の推進を図る活動」や「学術,文化,芸術又はスポーツの振興を図る活動」といった隣接分野を掲げているNPO法人は比較的多数あり,これらの中には「科学技術の振興を図る活動」に関連した活動を行うNPO法人も含まれているものと考えられる。科学館・博物館が,ボランティアの募集や管理運営等のニーズを対外的に発信していくことは,NPO法人と連携した活動を促す効果も期待できると考えられる。

Column

(大学,公的研究機関,企業等)

 大学や研究機関,企業の研究所等が,理解増進活動を行う場合の一番の強みは,実際に研究を行っている科学者や現場の持つ迫力や臨場感であろう。毎年4月に開催される「科学技術週間」において研究所の一般公開を行う研究機関も多いが,さらにこれ以外の期間においても理解増進のための取組を行っている例も見られる。

 例えば,独立行政法人物質・材料研究機構においては,平成15年にインターネット顕微鏡を導入し,スーパーサイエンスハイスクール(SSH)2校とつなぐことで,高校生に最先端の科学技術に触れる機会を提供している。この2校との取組を皮切りに,今後全国の教育機関・研究機関に導入していく予定である。

 一方,産業技術の担い手の育成という観点からも,リテラシー向上のための活動についての気運の高まりが見られる。社団法人日本経済団体連合会の産業技術委員会では,平成15年9月に,産業技術の理解増進に関する懇談会を設け,主として初等中等教育段階を対象に,産業技術の理解増進に向け産業界としてどのような役割を果たすべきかを中心に検討を行い,平成16年1月に結果を取りまとめた。この中では,政府に対する期待として,企業と学校の間のコーディネート機能への支援や,モデルケースをつくっていくための試行的な取組への助成,さらには,産業技術に限らず科学技術全体に対する国民の理解増進への取組を充実させていくこと等が求められている。また,企業のトップが参加して最先端の研究開発活動について地域の子どもと双方間の対話を行った最近の取組の例として,平成16年3月に開催された「おもしろ地球塾・長崎」(主催:三菱重工業株式会社,日本郵船株式会社)がある。

 さらに,科学技術に関する青少年向けの表彰制度として,昭和32年に創設された中学・高校生のコンテストである「日本学生科学賞」(主催:全日本科学教育振興委員会,読売新聞社,独立行政法人科学技術振興機構)や,高校生・高等専門学校生を対象とした,既存の学問分野にこだわらないコンテストである「ジャパン・サイエンス&エンジニアリング・チャレンジ」(主催:朝日新聞社)等をはじめとする様々な取組がある。これらの国内の表彰制度の上位入賞者は,「国際学生科学技術博覧会」,「EUヤングサイエンティストコンテスト」,「国際学生科学フェア」等の出場権を得られるなど,海外における科学技術に関するコンテストの予選を兼ねていることも多く,科学技術への興味や関心の高い若者の良き励みとなり,また刺激となるものである。今後とも科学技術に関する表彰制度を充実させていくことは大変重要である。

 社会全体が,科学技術リテラシーを自身の問題としてとらえる意識の高まりが,国民全体のリテラシー向上への近道であり,今後とも引き続き,様々な主体による積極的な取組が期待される。


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