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第1部   これからの科学技術と社会
第3章 社会とのコミュニケーションのあり方
第1節 科学技術に関する国民意識の醸成
1.  科学技術リテラシーの向上


(科学技術リテラシーの必要性)

 次々に生まれる新たな科学技術は,例えば医療技術がこれまで数知れない人々に生きる希望を与え,また情報通信技術(IT)が情報収集能力の飛躍的向上をもたらして,以前には考えられなかった範囲まで人と人との結び付きを可能としてきたように,人間の活動の可能性を広げ,生活を豊かにするものである。一方,科学技術が一層高度化し,普及するのに伴い,例えばITを十分に活用できない者が社会から取り残されるようになるなど,科学技術の高度化に対応していかないと社会的に不利益を被る事態も生じうる。また,科学技術に関する最低限の知識を有しているといないとでは,日々の栄養管理から病気の際の治療法の選択に至るまで,あらゆる場面で判断の的確さにおいて差が生じかねない。科学技術と社会が密接になっている今日では,このような身近な例にとどまらず,科学技術と社会との関係を適切に判断・評価することが求められており,このためには科学技術に関する判断を支える基礎的素養(科学技術リテラシー)を国民が備えることが重要となる。

(我が国の科学技術リテラシーの現状)

 科学技術リテラシーについての現状を示すものの一つとして,18歳以上の成人を対象として科学技術に関する11問の共通問題を与え,その正答率を国際比較した調査がある( 第1-3-1図 )。本調査は科学技術に関する基礎概念の理解度の比較であり,あくまで科学技術リテラシーの一つの側面を表すに過ぎないが,これによると,我が国は調査対象である国・地域の中で低い水準にとどまっている。

第1-3-1図 科学技術基礎概念の理解度(共通11問の平均正答率)

 また,科学技術リテラシーを支え,これを高めていく原動力となるのは,科学技術に対する興味や関心である。しかしながら,「科学技術と社会に関する世論調査(平成16年2月)」の結果によれば,まず, 第1章 でも紹介したように,「科学技術についてのニュースや話題に関心がある」と回答した人の割合が近年低下している( 第1-1-13図 )ほか,「機会があれば科学者や技術者の話を聞いてみたい」と回答する人の割合は,平成7年7月と平成10年10月とを比較するとほとんど変わらないにもかかわらず,平成16年2月には6ポイント余り低下している( 第1-3-2図 )。この間,日本人の自然科学分野のノーベル賞受賞が3年連続4人であったことも踏まえれば,このような調査結果は重視されるべきであろう。

第1-3-2図 科学者や技術者の話への関心

 大人の興味や関心についてさらに分析すると,科学技術リテラシーは,子どものころの理科の好き嫌いに左右されることを示唆するデータもある。例えば「科学技術と社会に関する世論調査(平成16年2月)」によれば,小・中学校のころに理科が好きだった人のうち71.1%は,大人になってからも科学技術についてのニュースや話題に関心を持っているのに対し,小中学校のころに嫌いだった人の59.3%は,科学技術に関心がない又はあまり関心がないと回答している( 第1-3-3図 )。

第1-3-3図 科学技術についてのニュースや話題への関心と,小中学校のころの理科の好き嫌いとの関係

 この結果からは,大人の科学技術リテラシーを向上させるためには,児童生徒の科学技術に対する興味や関心を高めることも有効な方策の一つであると考えられる。以下では,我が国の児童生徒の科学技術リテラシーの現状について各種調査等を通じて概観したい。

 経済協力開発機構(OECD)における「生徒の学習到達度調査(PISA)」(15歳の生徒が対象)によると,日本を含む32か国が参加して実施された平成12年(2000年)の調査において,我が国の生徒は数学的リテラシー,科学的リテラシー( 注1 )が1位グループであり,国際的に極めて高い水準にあることを示す結果が出ている。

 一方で,平成14年度に実施された「高等学校教育課程実施状況調査」(国語I,数学I,物理IB,化学IB,生物IB,地学IB,英語Iについて,高等学校第3学年の当該科目履修者を対象に行ったペーパーテスト等による調査)においては,数学,理科の2教科において,設定通過率( 注2 )と比較して上回る又は同程度と考えられる問題数が半数未満という結果が出ている( 第1-3-4表 )。

第1-3-4表 問題ごとの設定通過率との比較(高校3年生)

 さらに本調査では,ペーパーテストと併せ,生徒及び教師に対し学習に関する意識等についてのアンケート調査を実施しており,この調査の前年度である平成13年度に行われた「小中学校教育課程実施状況調査」においても,同様のアンケート調査を行っている。高等学校の理科については,当該科目の選択履修者のみを対象としているため,小中学校の理科と単純に比較できない面もあるが,特に理科について「当該教科の勉強が好きだ」の質問に対し「そう思う」「どちらかといえばそう思う」という肯定的な回答をする児童生徒の割合は小中学校において他の教科より多い( 第1-3-5図 )ものの,学年が高くなるごとに肯定的な回答が少なくなる傾向がうかがえる。また,「当該教科の勉強は入学試験や就職試験に関係なくても大切だ」(小中学校においては「受験に関係なくても大切だ」と質問されている。)という質問に対して,「そう思う」「どちらかといえばそう思う」という肯定的な回答の割合は,国語や英語とは異なり,数学(算数)及び理科において,学年が高くなるごとに少なくなる傾向もうかがえる( 第1-3-6図 )。

第1-3-5図 当該科目を好きだと思う児童生徒の割合

第1-3-6図 当該教科の勉強は入学試験や就職試験に関係なくても大切だと思う児童生徒の割合

 この調査結果からは,数学(算数)や理科について,その学ぶ楽しさや必要性が児童生徒に十分に伝わっていないことが考えられる。


■コラム8の解答
(1)正、(2)誤、(3)正、(4)正、(5)誤、(6)正、(7)誤、(8)正、(9)正、(10)誤、(11)誤

■注1 本調査においては,数学的リテラシー,科学的リテラシーについて,それぞれ以下のとおり定義し,これを測定するための設問が設定されている。

 数学的リテラシー:数学が世界で果たす役割を見つけ,理解し,現在及び将来の個人の生活,職業生活,友人や家族や親族との社会生活,建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活において確実な数学的根拠に基づき判断を行い,数学に携わる能力

 科学的リテラシー:自然界及び人間の活動によって起こる自然界の変化について理解し,意思決定するために,科学的知識を使用し,課題を明確にし,証拠に基づく結論を導き出す能力


■注2 設定通過率:学習指導要領に示された内容について,標準的な時間をかけ,学習指導要領作成時に想定された学習活動が行われた場合,個々の問題ごとに正答,準正答数の割合の合計である通過率がどの程度になると考えられるかを示した数値である。設定通過率については,問題作成委員会において,個々の問題における出題のねらいを踏まえて数値を決定し,分析委員会にその数値の妥当性について慎重に検討した。数値については,調査結果が明らかになる前に決定している。

(科学技術リテラシー向上のために)

 以上述べてきたように,大人の科学技術リテラシーは,理解度の面において国際的に見て高い水準にあるとは言えず,また興味や関心という面においても低下傾向にある。児童生徒に関しては,数学的及び科学的リテラシーが国際的に見てトップレベルにあるものの,理科の楽しさを伝え,興味や関心を十分に引き出すことに必ずしも成功していない状況である点に留意が必要である。今後,我が国において国民の科学技術リテラシーを向上させていくためには,科学技術が社会において果たしている役割や効用を,分かりやすい言葉で社会に伝えていくとともに,子どものころから,科学技術に対する興味や関心を高めるなど科学技術・理科教育を充実させることが必要である。このように,大人と子どもの両面から対策が講じられることにより相乗効果が発揮され,科学技術に関する国民全体のリテラシーの向上が図られるものと考えられる。


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