ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   これからの科学技術と社会
第2章 社会のための科学技術のあり方
第3節 新たな技術の社会への適用
3.  新たな技術の活用に向けて


(基本的認識)

 米国においてナノテクノロジー分野の研究においてELSIに取り組むことが法律で規定されたように,我が国においてもライフサイエンス分野だけでなく,国民が不安を感じるような事柄に関連する分野等,予想のつかない影響が想定される分野においては,ELSIへの取組を検討する必要があると考えられる。

 例えば,インターネットは,コミュニケーションを拡大させ身近にする一方で,いわゆる「出会い系サイト」などに代表されるような犯罪の誘発,他人への誹謗中傷,差別を助長するような表現のはん濫,又は個人情報の漏えいといった人権侵害が懸念される等,社会的課題としても認識されている。

 このように,近年,様々な科学技術が国民生活に密着になっているため,社会問題を惹起させる蓋然性はますます高まっている。このためにも,ELSIへの取組は,今後,多くの科学技術分野において必要になると考えられる。

(倫理的・法的・社会的課題に関する取組の視点)

 科学技術の発展による倫理的課題が懸念され,法令等の社会規範による取組が追いついていない場合,様々な社会的便益を勘案しても,研究自体を容認できないといった意見もある。

 しかし,本章の第1節においても述べたように,科学技術の成果は,社会的利益につながるだけでなく,その波及効果によって新たな科学技術が生み出され,将来の世代の利益につながる可能性を有するものである。加えて,真理の探究を具体化し,創造的なものを生み出す研究という活動は,学問の自由とも関連し,科学者,技術者のみに限らず,社会全体の発展にとって不可欠な人類の知的探究心を満たすための普遍的な権利であるため,十分に尊重されるべきである。

 ELSIを検討するに当たっては,科学技術の負の側面に焦点が当てられ,まず何を制限すべきかといった議論が提起されることがある。しかし,特に注意しなければならないのは,ELSIへの取組は,その研究成果の社会的有用性や重要性を前提にするものであって,社会に対する負の面を問題とする視点だけでなく,社会に対する貢献面を見落としてはならないことであろう。

(国際社会への配慮)

 近年,科学技術に関する国際協力はますます活発になっているが,我が国において社会的課題を引き起こさない科学技術が他の国においては社会的課題を引き起こす可能性や,他の国の技術が我が国に社会的影響を与える可能性も想定される。

 このため,特に,海外との研究協力等において,国際社会との調和への配慮が必要となることから,国際動向や交流の相手国の事情も踏まえたELSIにも取り組む必要があろう。

(科学者等の倫理的,法的,社会的課題に対する意識)

 研究者へのアンケート調査である「我が国の研究活動の実態に関する調査(平成15年度)」によると,科学技術による社会的便益や課題を明らかにし,その対応のための示唆を与えるELSIへの取組については,大多数の研究者が重要であると認識している( 第1-2-34図 )。そして,ELSIへの取組を重要であると認識している研究者の中では,その推進のために,研究者個人や研究者のコミュニティが意識改革に努める必要があるという認識が高い( 第1-2-35図 )。

第1-2-34図 倫理的・法的・社会的課題の研究に関する研究者意識

第1-2-35図 今後の倫理的・法的・社会的課題に関する研究を進めるために必要な努力

 したがって,ELSIの取組を進めていくためには,研究者自身や学協会をはじめとする研究者のコミュニティが,ELSIに対する取組の重要性を認識する必要があると考えられるが,現在,既に大多数の研究者がELSIへの取組を重要なものと認識しているため,今後,コミュニティとしてのELSIに関する意識の醸成が必要であろう。

 同時に,科学技術の成果を実際に利用する側である国や企業等がELSIの成果を活用することも重要である。また,科学技術と社会との接点で生ずる諸課題を様々な社会規範などとの関係で検討するためには,自然科学の専門家だけでなく,倫理学や法律学を含めた人文・社会科学の研究者や政策担当者等の幅広い分野の専門家の参画が必要であり,このような分野を超えた取組が重要である。

 このため,ELSIへの取組の方法の確立や環境整備に向けた具体的な支援,また,人材養成,情報の共有とその社会への発信等の課題に対して,研究者個人だけでなく,研究機関や企業そして政府等,国全体が総合的に取り組むことが,科学技術が真に社会のためのものとして受け入れられ,活用されるために重要であると考えられる。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ