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第1部   これからの科学技術と社会
第2章 社会のための科学技術のあり方
第2節 社会のための科学技術に係る新たな政策展開
2.  科学技術による地域再生


 我が国は四季の変化に恵まれ,南北に長く変化に富んだ地形条件により,多様で豊かな自然環境を形成している。こうした豊かな自然環境を背景として,我が国は地域毎に独自の歴史,文化,産業,技術を築き上げてきた。

 現在,我が国の経済社会は,少子・高齢化の進展,グローバリゼーションの進展等の大きな構造変化の中にある。地域によっては,高齢化が急速に進み,既に人口が減少に転じている地域や,地場産業が海外とのし烈な競争に巻き込まれ,徐々に衰退の方向へ向かっているなど,地域経済・社会の存立を脅かす問題に直面している地域も少なくない。

 しかし,その一方で,地域の関係者が結集して,独自に築き上げてきた産業や技術の再構築を通じて,新たな産業を創出することにより世界と対等に渡り合っている地域も見られる。

 このような経済社会情勢の大きな流れの中で,地域においては,それぞれがこれまで培ってきた独自の産業や技術,人材,自然環境や文化,歴史等を自らの知恵と工夫により有効活用しながら,新たな産業や雇用の創出を通じた「地域再生」を進めていくことが求められている。

 政府においては,こうした地域の自主的な取組を支援することを目的に,平成15年10月,内閣に地域再生本部を設置し,「地域が自ら考え,行動する,国は,これを支援する」ことを基本として,地域再生に向けた総合的な取組を進めているところである。

 ここでは,地域再生に向けて科学技術の果たすべき役割について述べる。

(科学技術振興を基盤とした地域再生への取組)

 地域における科学技術の振興については,平成7年に制定された科学技術基本法第4条において,地方公共団体は,その地域の特性を生かした科学技術の振興に関する施策を策定・実施する責務を有することと規定されている。こうした中で,都道府県では科学技術振興のための基本指針等を策定するなど,それぞれ独自の科学技術振興施策を進めているところである。

 科学技術基本法に基づく第2期科学技術基本計画においては,地域の研究開発に関する資源や潜在能力を活用することにより,我が国の科学技術の高度化・多様化,ひいては当該地域における革新技術・新産業の創出を通じた我が国経済の活性化が図られるものであり,その積極的な推進が必要とされている。そして,そのために地域における「知的クラスター」の形成に取り組むこととされている。「知的クラスター」とは,地域主導の下で,地域において独自の研究開発テーマと潜在能力を有する公的研究機関等を核とし,地域内外から企業等も参画して構成させる技術革新システムを言う。現在,政府の支援により,知的創造の拠点たる大学等を核とした,関連研究機関等による国際競争力のある技術革新のための集積の創成に向けた取組(知的クラスター創成事業)が進められている。

 また,より広域的に大学や企業等との産学官の広域的なネットワークの構築を通じ,技術革新(イノベーション)と新事業・新産業の創出を連鎖的に図る「産業クラスター」の形成への取組(産業クラスター計画)も進められている。

 知的クラスター創成事業と産業クラスター計画が,新技術シーズ(種)の提供,市場ニーズのフィードバックを行うなど密接に連携することで,地域経済の活性化及び再生を図るものである( 第1-2-22図 )。

第1-2-22図 地域クラスターの形成

 こうしたクラスターは既に欧米を中心に数多く見られるが,文部科学省科学技術政策研究所の「地域イノベーションの成功要因及び促進政策に関する調査研究(中間報告)(平成15年3月)」では,海外の先進事例を分析し,クラスターが形成されるための成功促進要素として16項目を掲げている( 第1-2-23表 )。

第1-2-23表 欧米先進事例から抽出したクラスタ-形成促進要素

Column

 地域ごとに経済・社会的背景が異なることから,これらの要素のすべてが必ずしもすべてのクラスター形成に当てはまるわけではないが,地域としての危機意識を契機に地域再生を図りながら発展を遂げたクラスターもいくつか見られる。つまり,地域の経済情勢等が悪化したことにより,地域全体に危機意識が芽生え,行政機関が中心となり様々な関係者が結集し,地域の科学技術を活用することで,新産業を創出し,クラスターが形成されていくという事例である(下記コラム参照)。

 このように,地域毎に創造される独自の科学技術を活用した「地域再生」は,地域における「社会のための科学技術」という視点から科学技術が果たすべき役割として今後ますます重要になると考えられるが,海外のクラスターに見られるように,地域の関係者が地域再生という目標に向かって一丸となって取り組むことが不可欠である。

Column

(地域社会のための科学技術の新たな活用)

 以上のような,新産業等の創出を通じた地域再生に向けた科学技術の活用のほか,地域における「社会のための科学技術」の政策展開に当たっては,地域の主人公である「地域住民」を見据えた,地域住民のための科学技術の活用を図ることが重要であると考えられる。

 特に,地域では大学,研究機関や企業といった科学技術活動の主体とその成果の受け手たる地域住民との距離が近いことから,地域住民の科学技術に対するニーズを把握しやすいという面がある。

 この場合,地域における「知」の創造や人材の輩出の拠点である大学が,その有する人材,知識を地域のために積極的に活用し貢献していくことが,地域からも求められている。特に,平成16年4月から国立大学が法人化されたところであるが,各国立大学法人がそれぞれ自律的な環境の下,国民や社会の期待に応えるべく魅力ある教育研究活動に今後取り組んでいく中で,社会の動向や要請にも柔軟に対応しつつ,幅広い分野での社会貢献にも取り組むことが期待されている。

 既に,平成14年度から政府としても大学の地域貢献への取組を支援するための事業(地域貢献特別推進事業)を開始している。この事業では,大学に地域貢献に関する全学的な推進組織を設置し,さらに自治体と恒常的な連絡協議体制を構築した上で,大学と自治体の双方が一体となって取り組むことをねらいとするものである。

 例えば,群馬大学においては,地域特有の課題として外国人労働者が数多く居住していること,県民一人当たりの車保有台数が全国一であることを背景として,外国人労働者と地域住民との共生に向けたサポートシステムの開発・実践や車社会が県民生活に及ぼす影響評価について群馬県や関連市町村等と連携しつつ,取組を進めることとしている( 第1-2-24図 )。

 なお,本事業は平成15年度で26大学が選定され,それぞれの地域の特有の課題解決に向けた取組が行われており,今後の展開が期待される。

第1-2-24図 大学の地域貢献に向けた取組の例(群馬大学)

(今後の地域再生に向けた科学技術のあり方)

 世論調査の結果に見られるように,国民の科学技術に対する関心が薄れてきている状況において,「社会のための科学技術」という視点で政策を展開していくに当たっては,まず地域において,住民ニーズへの対応や地域の社会的課題の解決に向けて科学技術を活用することが重要である。

 第1節で述べたように,社会の安全・安心を脅かす新たな社会的問題であるSARSや鳥インフルエンザ等の感染症は,地域でいつ発生するか分からない状況である。このため,地域住民が安心・信頼できるような科学的知識の提供をはじめとして,地域においても科学技術に対する期待は今後高まることが予想される。

 今後は,地域ごとに創造され,蓄積されてきた科学技術を,従来からあるような産業の活性化といった側面に加えて,幅広い観点から地域経済・社会に活用させていくことが,ひいては我が国全体として「科学技術と社会」の新たな関係の構築へとつながるものであり,それぞれの地域において積極的な取組を進めることが重要である。


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