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第1部   これからの科学技術と社会
第2章 社会のための科学技術のあり方
第1節 知の創造と活用による社会への貢献
2.  科学技術の成果の活用による豊かな生活の実現


(科学の実用的価値)

 科学の成果は,新製品や新技術の開発に結び付き,経済や医療など現実の社会経済活動の発展にも大いに貢献している。社会のための科学技術とは何かを考えた場合,科学の成果が,現実に利用可能な製品やサービスを生み出すことのできる技術の開発に結び付くかどうかということは,重要な視点の一つである。

 実際, 第1-2-6表 にあるとおり,ノーベル賞を受賞した基礎研究の成果が,場合によっては,10年,20年の研究開発期間を経て,実用化,製品化され,経済の発展に貢献している例も多い。

第1-2-6表 ノーベル賞の成果が実用化につながった事例

 また,科学の成果(論文)と新技術(特許)の結び付きの強さを示す指標である米国特許に関する主要国のサイエンス・リンケージ(米国特許1件当たりに引用されている科学論文の引用回数)の推移を見ると,増加傾向にある( 第1-2-7図 )。従来,基礎研究によって得られた科学の成果は,応用研究,実用化研究の段階を経て,製品化に至るというリニア・モデルが一般的であるとされてきたが,このような傾向は,リニア・モデルによらないプロセスでの製品化が増加してきていることを示す一つの事例とも考えられる。現代では,徐々に科学の成果と製品化との距離が狭まってきていると言えるだろう。

第1-2-7図 米国特許におけるサイエンス・リンケージの推移

(基礎研究をはじめとする研究開発の振興による我が国経済の発展)

 現在の我が国の経済を見ると,緩やかなデフレは継続しているものの,企業収益の改善が続き,設備投資が増加するなど明るい兆しも見られる状況にある。このような明るい兆しを確実な成長につなげることが重要であり,経済の活性化は,引き続き,我が国にとって重要な課題の一つである。

 第2次世界大戦以後の我が国の経済発展は,主に,欧米諸国から科学技術の成果を導入し,それを効果的に製品化し,効率的に生産することによって達成されてきた。

 しかしながら,欧米諸国の追従から脱却した現在,世界のフロントランナー(先駆者)の一員として,我が国が国家間競争に生き残っていくためには,従来の後追い型の研究ではなく,各国に先駆けて新たな知識を生み出す力を付けていくことが不可欠となっており,新たな知識を創造する基礎研究をはじめとする研究開発の振興が,我が国の今後の経済発展のために必要とされている。また,個々の科学的知識や技術などを統合して,製品開発や課題解決に結びつけるという新たな研究開発のプロセスも,近年,重視されはじめてきている。

 なお,「科学技術と社会に関する世論調査(平成16年2月)」によれば,「国際的な競争力を高めるためには,科学技術を発展させる必要がある」という意見に対し,約70%の人が「そう思う」と回答している( 第1-2-8図 )。この質問は,特に経済的観点に絞って国際競争力の向上における科学技術の重要性を問うたものではないが,グローバリゼーションの進展などにより国家間の競争がますます激しくなりつつある中で,国民の我が国の科学技術力への期待の高さを示している。

第1-2-8図 国際的な競争力を高めるためには,科学技術を発展させることが必要

(創造的な人材の育成)

 研究開発の振興に当たっては,研究費や研究施設,設備などの研究環境の整備も重要であるが,最も基本的なことは,創造的な能力を有する研究者を育成することである。

 しかしながら,創造的な能力は,人から教えられて身に付くものではなく,自らが試行錯誤していって初めて備わっていくものである。研究開発の中でも,特に基礎研究は,研究者自身が自発的に創出した課題に挑戦するという性格を有しており,創造的な能力を有する研究人材の育成に資すると考えられる。基礎研究の振興は,人材育成の観点からも重要である。

(産学官連携等の重要性)

 また,基礎研究をはじめとする研究開発により生まれた新たな知識を,着実に実用化につなげることも重要である。

  第1-2-7図 の米国特許に関する主要国のサイエンス・リンケージを見る限り,我が国は米国や英国に大きな差を付けられているとともに,フランスやドイツよりも下回っており,我が国の基礎研究の成果が,十分に技術に結び付いていないことがうかがえる。大学や公的研究機関で生まれた基礎研究をはじめとする研究開発の成果が,着実に技術に結び付き,実用化されていくよう産学官連携を推進するための取組を継続していく必要がある。また,基礎研究をはじめとする研究開発により生まれた新たな知識は,適切に保護されるとともに,社会がそれを最大限活用することができるようにすることが必要であり,知的財産権の保護等についても着実に対応していくことが重要である。

(我が国独自の技術・技能の伝承と発展)

 先に述べたとおり,第2次世界大戦以後の我が国の経済発展は,主に,欧米諸国から科学技術の成果を導入し,それを効果的に製品化し,効率的に生産することによって達成されてきた。従来の我が国の強みは,主として効果的・効率的な製品化や生産工程の改良といったところにあった。

 今後,我が国において,各国に先駆けて新たな知識を生み出す力が重要となっていくとしても,このような従来からの強みは,我が国が生み出した新たな知識を効果的かつ効率的に実用化につなげていく観点から,引き続き重要な意味を持つものと考えられる。

 効果的・効率的な製品化や生産工程の改良といったこれまでの我が国における競争力の源泉を支えてきたのは,終身雇用による企業内の人材育成システム,従業員の柔軟な編成による知識の企業内伝搬,中小企業が中心になって担っている優れたものづくり技術など我が国独特のものであると言われている。

 中でも優れたものづくり技術については,現場の技術者の,旋盤や金型製作などの個々の手工的な技術・技能や,問題の発見・対応,変化への対応など技術・技能の知的な蓄積といった属人的能力に大きく依存している。

 こうした優秀な技術者の能力は,一度喪失すればなかなか元に戻すのが困難なかけがえのないものであり,我が国の競争力を支える基盤として,こうした技術・技能を着実に伝承するとともに,それを担う人材を着実に確保・育成していくことが重要である。

 一方,我が国には明治時代以降の近代化以前から,各地に様々な技術・技能が生まれ,発展してきていたが,現代において,例えば,組紐作成の技術が高性能繊維強化複合材料に活かされるなど,こうした伝統技術・技能が最先端の技術と結び付いて新たな発展を遂げている事例が数多く見られる。また,ナノレベルの構造解析技術の発達によって,日本刀の材質が,現代の製造技術では大量生産が難しい超鉄鋼材料に近いものであることが解明され,逆に,日本刀の製法を解明することによってその実現への糸口が見つかるのではないかと考えられている。

 このような我が国固有の優れた伝統的技術・技能を再評価し,現代に活かしていくことも重要であろう。

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