ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   これからの科学技術と社会
第1章 科学技術と社会の関係の深まり
第1節 科学技術の発展による社会の変容
3.  科学技術の発展に伴う新たな社会的課題


 科学技術の発展により,人々の活動の領域が広がるとともに,生活が豊かになった一方で,近年,科学技術の発展に伴う新たな社会的課題が明らかになってきている。

 その最も代表的な事例は,地球環境問題であろう。

 地球環境問題の内容は,地球温暖化,酸性雨,オゾン層の破壊,熱帯雨林の破壊,砂漠化など多岐にわたっており,いずれも,科学技術の発展に伴う人類活動の広がりや活発化が原因である点では共通している。

 科学技術の発展により,人類は,20世紀に地下資源を多用する工業社会を築き,社会生活を豊かなものにしてきたが,それは,大量生産・大量消費・大量廃棄の社会構造を生み出した。しかし,当然のことながら,地球の資源は有限であり,自然環境が処理できる廃棄物の量には限界がある。地球の有限性を端的に示す「宇宙船地球号」という考え方は,1965年,米国の国連大使であったアドレイ・スティブンソンが,その演説の中で「私たちは,全員が共に小さな宇宙船に乗って旅行している乗客で,わずかな空気と土に依存している」と述べたのが初めであったが,その後,1972年には,ローマクラブがこの「宇宙船地球号」の発想を更に発展させた「成長の限界」を発表するとともに,同年,ストックホルムにおいて「かけがえのない地球(Only One Earth)」を合い言葉に国連人間環境会議が開催されるなど,地球の有限性に対する世界の人々の認識が高まっていった。

 その後も,地球環境を巡る議論は,様々なレベルでなされてきたが,一方で,開発も急速に進み,それに伴って地球環境の悪化が深刻化してきていることが,地球観測の進展によって明らかとなってきた。

 こうした中で,世界規模での対策の必要性が強く認識されるようになり,1992年にリオデジャネイロにおいて,国連環境開発会議(UNCED,地球サミット)が開催され,地球環境問題に関する国際的取組についての行動計画として「アジェンダ21」が採択された。また,その10年後に当たる2002年には,アジェンダ21の見直しや新たな課題などについて議論を行うため,ヨハネスブルグにおいて,持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD,ヨハネスブルグ・サミット)が開催され,「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」が採択された。「持続可能な開発」は,もともとは,1987年に公表された,環境と開発に関する世界委員会の「Our Common Future(我ら共有の未来)」という報告書で採り上げられた概念であり,地球環境保護と開発は互いに反するものではなく,共存し得るものであって,地球環境保護を考慮した節度ある開発が重要であるとするものである。これは,現在の地球環境問題への取組に関する基本的な考え方となっている。

 他方,このような地球環境問題をめぐる状況の変化とともに,人々の意識も変化してきている。統計数理研究所が行っている調査によれば,地球環境問題が議論され始めた1970年ごろを境に「人間が幸福になるためには,自然に従わなければならない」と考える人々が,「人間が幸福になるためには,自然を征服してゆかねばならない」と考える人々よりも多くなっている( 第1-1-8図 )。

第1-1-8図 自然と人間との関係

 科学技術の発展に伴う新たな社会的課題は,バイオテクノロジーに関しても生じている。特に,近年の遺伝子解析に関する研究の進展は,医療分野や農業分野などに活用され,人間の健康増進や安定的な食糧確保などに大いに貢献することが期待されているが,一方で,倫理的問題や安全面での懸念なども生じている。

 また,ITの発達に関しては,世代間,地域間などのデジタル・ディバイドや情報セキュリティの問題なども生じている。

 このように,科学技術の発展に伴い,様々な新しい課題が発生してきているが,これを更に複雑にしているのは,個々の課題への対応についての考え方が,課題の内容や人々の社会的立場によって,多様であることにある。

 さらに,もう一つ指摘しなければならないのは,このような課題に対応するに当たっても,科学技術が鍵になるという点である。例えば,地球環境問題の構造が明らかになったのも,観測技術の発達によるものであり,また,温室効果ガスや硫黄酸化物,窒素酸化物の排出量削減などの地球環境問題を解決するためにも科学技術の役割が期待されている。また,遺伝子組換え技術の影響についても,更なる科学的知見の充実が求められている。

 これまでのところ,科学技術の発展のプラス面とマイナス面については,プラス面の方が多いと考えている人々の方が多いが,将来において,これが逆転することのないよう,科学技術の発展に伴う社会的課題について適切に対応していくことが重要である( 第1-1-9図 )。

第1-1-9図 科学技術の発展のプラス面とマイナス面


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ