ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   これからの科学技術と社会
第1章 科学技術と社会の関係の深まり
第1節 科学技術の発展による社会の変容
2.  世界規模での社会の質的変化


 科学技術の発展は,単に人々の生活を便利で豊かなものにしただけでなく,社会のあり方そのものにも,大きな変化をもたらしてきている。

 そのような社会変化の代表的な事例は,近年では,グローバリゼーションやIT革命であろう。

(グローバリゼーションの進展による社会の変容)

 特に1980年代後半から,国境を越えた大量の人,物,資本,情報などの自由な移動が大いに加速され,グローバリゼーションが急速に進展してきており,社会の様相を大きく変えつつある( 第1-1-4図 , 第1-1-5図 )。

第1-1-4図 世界の航空輸送量(国際線・国内線合計,定期輸送)の推移

第1-1-5図 世界の財貿易,サービス貿易,対外直接投資の推移

 グローバリゼーションが急速に進展した直接的な要因としては,1989年の冷戦終結により,人や物などの国際的な移動に対する政治的な制約が低くなったことや,旧ソ連・東欧が共産主義経済を放棄したことによって,世界の資本主義市場が拡大するとともに,1995年の世界貿易機関(WTO)の発足などにより世界の自由貿易・投資体制が強化されたことなどが挙げられる。しかしながら,それらの前提として,エネルギー技術や材料技術の発達による交通手段の大規模化や高速化,あるいはITの飛躍的な発達といった科学技術の進歩があった。

 グローバリゼーションの急速な進展により,個人の活動の領域は大いに拡大し,個人,企業,地域など社会のあらゆるレベルで,国境を越えた地球規模での交流が盛んになった。これにより,貿易や投資が拡大し,世界的規模で経済が発展しただけでなく,国際社会自体が徐々に変質しつつある。すなわち,従来は,国家を国際社会における唯一の主体として,常に国家を媒介として,社会と社会が作用し合っていたのが,最近は,依然として国家を最も重要な主体としつつも,社会の様々なレベルで,その属する国家を媒介とせず,直接に作用し合う局面が増大してきているのである。

 このように,グローバリゼーションは人々の生活を一層豊かにし,その活動の領域を広げるとともに,国際社会のあり方を変えつつある。そして,そのような動きに伴い,これまでの社会にはなかった課題も生じている。

 例えば,グローバリゼーションの進展により,電子商取引のルール化や国際組織犯罪への対応など,国境を越えた新たな対応が必要な課題が生じていると同時に,国際的な相互依存関係の進展など,国境を越えた結び付きの一層の緊密化により,従来は国内問題と考えられてきた雇用などの問題についても,世界経済における課題として取り組む必要が出てきている。

 また,近年の高病原性鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザ)や牛海綿状脳症(BSE),重症急性呼吸器症候群(SARS)などのように,1地域で生じた問題が世界各地に急速に波及するような事態も発生しており,社会の安全・安心を確保する際にも,常にグローバルな視点が重要となってきている。

 さらに,急速なグローバリゼーションがもたらす世界的規模での競争の激化は,開発途上国のみならず先進国においても,競争の敗者や競争から取り残される者を生み出し,社会の不安定化を招く懸念をもたらしているほか,市場原理は人間性や文化・伝統を無視したものであるとの反感や,市場による「グローバル・スタンダード」の押し付けに対する反発を生みつつある。

(IT革命による社会の変容)

 IT革命の主要な原動力の一つはインターネットである。インターネットは,1969年に米国国防総省が軍事目的で開発したARPAnetを起源としており,もともとは私的・商業的な利用が禁止されていた。その後,1990年に米国でインターネットへの加入制限が撤廃されると,インターネットの商業利用が世界的に広まっていき,コンピュータ技術の発達などとも相まって,世界の情報化は急速に進展した。このITの発達により,情報流通の費用と時間は劇的に低下するとともに,大容量の情報のやりとりが容易に可能となった。世界のインターネット利用者数は,2002年9月現在で約6億560万人に達している( 第1-1-6図 , 第1-1-7図 )。

第1-1-6図 世界のインターネット利用者総数の推移

第1-1-7表 世界のインターネット地域別利用者数(2002年9月時点)

 ITの発達は,単に生活の便利さを向上させるとか,新産業創出や生産性の向上などを通じた経済の成長といった影響を社会に与えるにとどまらない。いつでも,どこでも,コンピュータがインターネットに接続できれば,世界中の人々と情報を瞬時に交換できるようになり,従来の人と人との関係,人と組織との関係,人と社会との関係を一変させつつある。

 例えば,インターネットやサイバー・スペース(仮想空間)を活用することにより,新聞,テレビなどのメディアを通じず,直接,世界の情報を収集すると同時に個人が世界に向けて情報を発信することができる,在宅のままで買い物や仕事ができ,個人の生活様式が多様化する,新たな形の創作活動が可能となるとともに,例えば,日本にいながら,世界各地の人々とやりとりしつつ共同で作品をつくり上げていくというように文化・芸術活動の幅が拡大するといったことが考えられる。

 他方,IT革命の進展は,世代間,地域間などのデジタル・ディバイド(情報格差)の発生や情報セキュリティの問題など新たな社会的課題も生み出している。

 また,IT革命は世界規模での社会の変化であり,それに対する適切な対応の重要性と国際的な連携・協力の必要性は,十分認識されている。

 2000年の九州・沖縄サミットでは,我が国のリーダーシップにより,ITが重要な議題として採り上げられ,IT革命の将来像に関する政治的な展望を示すものとして「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」(沖縄憲章)が採択された。

 沖縄憲章では,ITは「21世紀を形作る最強の力の一つ」であり,「その革命的な影響は,人々の生き方,学び方,働き方及び政府の市民社会とのかかわり方に及ぶ」としている。そして,ITの活用によって「人々が自らの潜在能力を発揮し自らの希望を実現する可能性を高めるような社会」が実現されるべきであるとしており,そのような社会の実現に当たっては,「すべての人がいかなるところにおいてもグローバルな情報社会の利益に参加可能」で,「何人もこの利益から排除されてはならない」としている。

 さらに,沖縄憲章は,このような理念に基づき,迅速で信頼性がある情報ネットワークの構築,情報化時代の要請に応え得る人材の養成,安全なサイバー・スペースの確保,デジタル・ディバイドの解消などのための取組について,その必要性や今後の方向性を示すとともに,国際的な格差の解消のために,各国はもとより国際機関や民間団体も含めた協力が重要であることを強調している。

 また,経済協力開発機構(OECD),WTO,世界知的所有権機関(WIPO)などでは,情報セキュリティ,電子商取引,税,プライバシー,暗号,サイバー犯罪防止などの課題についての国際的な対応に関する取組が行われている。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ