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第3部   科学技術の振興に関して講じた施策
第2章  科学技術の重点化戦略
第2節  国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化
1.  ライフサイエンス分野



(1) ライフサイエンスの推進

 ライフサイエンスは,生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムの解明とともに,その成果を医療,環境,食料生産,産業等の種々の分野に応用するための総合的科学技術であり,国民生活の向上及び国民経済の発展に大きく寄与するものである。

(ライフサイエンス研究の基本的推進方策)

 我が国においては,従来よりライフサイエンスを積極的に推進してきているが,近年では平成9年8月に,今後10年程度を見通した我が国のライフサイエンス研究開発の在り方を示す「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定されている。

 平成13年3月に閣議決定された第2期科学技術基本計画においては,ライフサイエンスを,重点的に推進する必要のある4分野のひとつに位置付け,重点的・戦略的に取り組むこととされた。

 さらに総合科学技術会議は,平成13年9月にライフサイエンス分野の「分野別推進戦略」を策定し,今後5年間の重点領域,研究開発目標及び推進方策を明確化した。本推進戦略においては,「国民の健康を守る」ための技術開発として,{1}活力のある長寿社会の実現のためのゲノム関連技術を活用した疾病の予防・治療技術,{2}感染症や環境因子に対応した生態防御機構の解明と疾病の予防・治療技術,{3}こころの健康と脳に関する基礎的研究推進と疾病の予防・治療技術,「競争力と持続的発展のための技術開発」として,{4}生物機能を活用した物質生産及び環境対応技術,{5}食料供給力の向上と食生活の改善に貢献する食料科学・技術,「共通基盤」として,{6}萌芽・融合領域及び先端解析技術開発,{7}先端研究成果を社会に効率よく還元するための研究の推進の制度・体制の構築が重点領域として示された。

 また,大学等における研究の振興方策として,平成12年2月に学術審議会が「大学等におけるバイオサイエンス研究の推進について」を建議した。さらに,ライフサイエンスの産業化への取組の強化のため,平成11年1月にバイオテクノロジーの研究開発とその産業化の促進に取り組む旨,関係5大臣(科学技術庁長官,文部大臣,厚生大臣及び農林水産大臣及び通商産業大臣〔いずれも当時〕)が,「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本方針」を申し合わせ,同年7月には,その具体化を図るため,関係5省庁が「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本戦略」を策定した。これらに基づき,さらに平成12年度から,高齢化社会に対応し個人の特徴に応じた革新的医療の実現及び豊かで健康な食生活と安心して暮らせる生活環境を実現するため,平成16年度までに,

1) 痴呆,がん,糖尿病,高血圧等の高齢者の主要な疾患の遺伝子の解明に基づくオーダーメイド医療を実現し,画期的な新薬の開発への着手
2) 生物の発生等の機能の解明に基づく,拒絶反応のない自己修復能力を利用した骨・血管等の再生医療の実現
3) 疾患予防,健康維持のための植物の高品質化によるアレルゲンフリー等高機能食物及び農薬使用の少ない稲作の実現

を目標とするミレニアム・プロジェクトが実施されている。実施に当たっては,第三者の有識者より構成される評価・助言会議が設けられ,プロジェクトの評価が毎年実施されている。

 文部科学省では,上記の各種方針を踏まえ,科学技術・学術審議会において,平成13年8月に「科学技術・学術振興に関する当面の重要事項について」を取りまとめ,タンパク質の構造・機能解析や生物遺伝資源の収集,保存,提供体制の整備などについて,特に重点的に推進すべきであるなどの考えが示された。また,同審議会研究計画・評価分科会ライフサイエンス委員会では,研究開発の主な担い手である大学等の公的研究機関等が,有機的に連携しつつダイナミックな研究活動を実施していくための具体的方策を盛り込んだライフサイエンス研究開発基本計画の検討を平成13年10月より開始し,平成14年5月を目途に取りまとめることとしている。

(ライフサイエンスの分野別研究の推進)

{1}ゲノム科学研究の推進

 平成12年6月に,人間の遺伝情報であるヒトゲノムの解読作業を進めてきた日米欧などの科学者の共同チームである国際ヒトゲノムシーケンス決定コンソーシアムが,ヒトゲノムの全塩基配列の約90%の概要解読を終了したことを発表し,さらに平成13年2月には,概要解読の解析結果を発表した。我が国はヒトの21番染色体について,DNA塩基配列の精密な解読を完了するなど,その成果が高く評価されている。同コンソーシアムでは今後も解読を続け,遅くとも平成15年春までにヒトゲノムの30億の塩基配列の精密な解読を終了することを目標にしている。

 また,ヒトゲノム塩基配列の解読完了に続き,いわゆるポストゲノム時代が幕を開け,平成12年12月に,科学技術会議政策委員会ポストゲノムの戦略的推進に関する懇談会において「ポストゲノム戦略の推進について」(以下「ポストゲノム戦略」という。)が取りまとめられた。

 文部科学省においては,国際的取組の一翼を担うべく,引き続きヒトゲノムの精密解読を着実に推進するほか,ポストゲノム戦略を踏まえて,ゲノム創薬等につながるタンパク質の構造・機能解析や,個人個人の遺伝情報を活用した医療技術開発等のポストゲノム研究推進に努めている。

 厚生労働省では,ミレニアム・プロジェクトの一環として,痴呆,がん,糖尿病,高血圧,喘息等の高齢者の主要な疾患に関連する遺伝子の解明により,病気の予防,治療法の確立や画期的新薬の開発を目指した研究開発を推進している。

 農林水産省では,農業生物資源研究所等を中心に,イネ,動物等を対象として,イネいもち病抵抗性遺伝子等農業生産上有効な遺伝子の単離,DNA利用技術の開発及びその成果を体系的に収集・蓄積・提供する農林水産省ジーンバンク事業を実施している。特に,イネ・ゲノム研究は主要穀物を初めとする作物研究の基礎となる重要なものであり,世界に先駆けて平成3年度から着手している。平成10年度からは,イネ・ゲノムの全塩基配列解読及び有用遺伝子の機能解明を中心とする第2期イネ・ゲノム研究を推進しており,世界的な評価を受けている。平成12年度から,ミレニアム・プロジェクトの一環として,イネ・ゲノムの重要な部分の塩基配列の解読を先行的に実施するとともに,有用遺伝子の単離・機能解明,育種手法の飛躍的効率化・高度化を図る技術の開発を推進するイネ・ゲノム研究の加速化が盛り込まれた。

 平成13年4月には,有識者によるイネ・ゲノム研究有識者懇談会が「イネ・ゲノム研究加速化の方向と方策」を取りまとめ,公表した。これに基づいて,平成13年度においては,引き続き塩基配列の解読を加速化するとともに,有用遺伝子の単離・機能解明にも積極的に取り組んだ。

 なお,イネの全塩基配列の解読については,日本がリーダーとなり,11の国と地域(平成14年2月以降は,10の国と地域)からなる国際コンソーシアムで推進してきており,平成13年2月に高精度な解読・公開を一層加速するようアピールがなされた。同年3月には,我が国は12本あるイネ染色体のうち最も大きい第1染色体の完全解読を終了した。同年10月には,国際コンソーシアムが平成14年度中に重要部分の解読を終了することを宣言し,我が国もこの目標に基づき,さらなる加速化を図ることとした。

 重要なモデル植物であるシロイヌナズナについて,平成12年12月には日米欧6研究チームによって全ゲノムの塩基配列が決定されたほか,平成14年3月には理化学研究所が世界で初めて,大量の完全長cDNA( )(1万4,600クローン)を公開した。

 また,農林水産省では,平成11年度から「イネ完全長cDNAライブラリーの整備事業」を開始し,平成13年11月,およそ3万種あると見られているイネ遺伝子のうち6割に当たる1万7,000種を収集したことを公表,平成14年中には3万種のイネ遺伝子の収集を終了することとしている。

 経済産業省では,産業技術総合研究所におけるゲノム機能の研究・技術開発,製品評価技術基盤機構における産業有用微生物のDNA解析等を実施しているほか,新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ民間活力を利用することにより,遺伝子情報解析のための技術開発等を行っている。なお,平成13年度においては,「ヒト完全長cDNA構造解析」により新規ヒト遺伝子3万個の取得を終了し,現在その解析を実施中である。


■注 cDNA:complementary DNA(相補デオキシリボ核酸)の略。メッセンジャーRNA(mRNA)を鋳型に逆転写酵素などによってつくられたDNAのことを示す。cDNAはDNAのうち遺伝子領域のみにより構成され,完全長cDNAは,ひとつの遺伝子情報をすべて含んだもの。

a)タンパク質の構造・機能解析の推進

 タンパク質の構造・機能解析は,その研究成果が医療への応用や産業利用へ直結することから,ヒトゲノム塩基配列の解読後におけるポストゲノム研究の中でも最も重要な分野のひとつであり,ポストゲノム戦略において,今後5年間で我が国において1万〜1万2,000種といわれるタンパク質の基本構造の3分の1以上を解析することを具体的な目標として掲げている。

 文部科学省においては,世界最高の設備である大規模NMR(核磁気共鳴装置)施設やSPring-8(大型放射光施設)を有しているほか,タンパク質発現等でも世界をリードする技術開発を進めているなど,大きな強みを有しており,これらの能力を最大限に発揮できるよう,タンパク質の構造・機能解析に積極的に取り組んでいる。

 農林水産省においては,平成12年度からイネ・ゲノム研究のひとつとしてイネタンパク質の網羅的な解明研究を推進しており,平成13年度からは,ゲノム解析センターを設置し,遺伝子からタンパク質を発現させ,その立体構造等を既知のタンパク質と比較することで機能を予測する研究を開始した。

 経済産業省においては,新たに設立された生物情報解析研究センターに産学官の研究者を結集させ,生体内で特に重要な役割を果たしていると考えられている膜タンパク質の構造解析に関する研究開発「生体高分子構造情報利用技術開発」やヒト完全長cDNA構造解析から得られた成果を活用しヒト新規遺伝子の機能解析を進めるため「タンパク質機能解析」等の研究開発を行っている。

 厚生労働省では,メディカルフロンティア戦略の一環として,働き盛りの国民にとっての二大死因であるがん及び心筋梗塞,要介護状態の大きな原因となる脳卒中,痴呆,骨折について,予防と治療成績の向上を果たすため,疾患関連タンパク質の機能や相互作用等の解明に関する研究開発を進めている。

b)バイオインフォマティクスの推進

 近年のゲノム科学研究によってゲノム関連情報が大量に産出され,今後はこれを役立てる手段としてのライフサイエンスとIT(情報技術)との融合分野であるバイオインフォマティクスの発展が必須である。

 文部科学省においては,平成13年度より,科学技術振興事業団に新たにバイオインフォマティクス推進センターを設け,バイオインフォマティクスの展開に不可欠なデータベースの高度化・標準化・拡充や,生物系と情報系の研究者の協働によるゲノム解析ツール開発等を実施している。また,世界3大大拠点のひとつである,国立遺伝学研究所が運営するDDBJ(日本DNAデータバンク)をはじめとするゲノム関連データベースの整備を進めている。

 農林水産省においては,イネ・ゲノム研究のひとつとして「イネ・ゲノムシミュレーターの開発」研究に取り組み,イネ・ゲノム研究からもたらされる塩基配列データ,有用遺伝子機能解析データに加えて,従来からのイネ育種学,栽培学研究データ等を相互に関連づけ統合し,コンピュータ上でイネ等農作物の品種改良を可能とする仮想実験システムの開発が行われている。

 経済産業省においては,平成12年度より膨大なバイオテクノロジー関連のデータやミレニアム・プロジェクト等の成果を研究や産業化に活用できるよう,独自の情報や高度検索・解析ツールを付加したデータベース(統合データベース)の構築を実施している。また,マイクロサテライトやSNPs( 注1 )等の遺伝子多型情報から,効率的に疾患等に関連する遺伝子の探索が可能となるソフト等の整備を実施するため「遺伝子多様性モデル解析事業」を平成12年度(補正予算)より実施している。


■注1 SNPs:Single Nucleotide Polymorphisms(一塩基多型)の略。ゲノム上の塩基配列の中で人種や個人(例えば健康な人と病気の人)で異なる塩基を持っている現象及びゲノム上のその部位。

c)遺伝子多型研究の推進

 疾患遺伝子に関連する遺伝子を解明し,個人個人に合ったテーラーメイド医療を実現することにより,より効果的な医療を目指し,各省において以下の研究開発を推進している。文部科学省では,ミレニアム・プロジェクトの一環として設置された,理化学研究所遺伝子多型研究センターにおいて,疾患関連遺伝子の探索を実施するとともに,東京大学医科学研究所と科学技術振興事業団との共同で健常人の一塩基多型(遺伝情報の個人差,SNPs)の探索が行われており,14年1月には,当初の目標であった15万カ所のSNPsのデータの公開をJSNPデータベース( 注2 )を通じて公開している。また,探索されたSNPsデータについては,東京大学医科学研究所と社団法人バイオ産業化コンソーシアムが共同で遺伝子多型の頻度解析(アレル頻度の解析)を実施し,現在,早期公開の観点からJSNPデータベースを通じて,SNPsの場所のデータと併せて公開されている。これらの我が国SNPs解析における速度と精度は,世界最高水準であり,特に遺伝子領域におけるSNPsデータは,将来のテーラーメイド医療実現に不可欠なものとして注目されている。さらに,科学研究費補助金の特定領域研究(C)において,本分野における大学等の基礎研究の重点的な推進を図っている。

 厚生労働省では,ミレニアム・プロジェクトの一環として,痴呆,がん,糖尿病,高血圧及び喘息等に関する薬剤反応性遺伝子の遺伝子多型の探索を推進している。


■注2 JSNPデータベース:ミレニアム・プロジェクトの一環として,東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターと科学技術振興事業団との共同推進による,ヒトゲノム全体に分布する遺伝子領域中のSNPsに関するデータベース(http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp)

{2}脳科学研究の推進

 脳科学研究は,脳を「知る」「守る」「作る」領域を柱として,積極的な研究開発が進められてきており,その成果を通じて,社会生活の質の向上につながることが期待されるとともに,医学の向上,新技術・新産業の創出につながることが期待される分野である。このため,平成9年5月には,科学技術会議ライフサイエンス部会脳科学委員会が,我が国の脳科学研究推進に関する長期計画として,「脳に関する研究開発についての長期的な考え方」を取りまとめ,同計画に基づいて,我が国における脳科学研究の大幅な強化が図られ,府省の枠を超えた多くの大学,国立試験研究機関の能力を最大限に活用した研究開発が進められてきた。

 文部科学省においては,理化学研究所の脳科学総合研究センターや,科学技術振興調整費及び科学技術振興事業団の公募型研究推進事業を活用し,脳研究を推進している。また,ミレニアム・ゲノム・プロジェクトの一環として開始された科学研究費補助金の特定領域研究(C)等において,大学等における本分野の基礎研究の重点的な推進を図っている。平成13年度には,理化学研究所において,アルツハイマー病の原因解明に大きく貢献する成果を上げた。また,世界で初めて,生体内の脳組織の立体構造を破壊することなく神経幹細胞の変化を観察した。

 さらに,厚生労働省では,「脳を守る」分野の研究として,アルツハイマー病等の精神疾患やパーキンソン病等の神経疾患の病態解明や治療法の開発に向けた研究が進められているほか,農林水産省の家畜の脳神経系機能研究,総務省の生命の情報通信機能の解明と適用の研究等の研究が各府省において実施されている。

 また,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)において,脳機能研究への国際的枠組みによる研究助成が行われている。

{3}発生・分化・再生科学研究の推進

 発生・分化・再生領域の研究は,個体が創られていくプログラム,生物が個体として総合的に機能するルールといった高次の生命現象が産み出される基本メカニズムの解明及びその応用につながるものである。特に,近年の幹細胞研究の急速な進展やES細胞(胚性幹細胞)の作成技術の確立に伴い,拒絶反応のない細胞移植技術の開発(骨髄・皮膚等)等,再生医療面での応用が具体的に見通しが立ちつつある。

 文部科学省においては,生物の発生・分化・再生の基本メカニズムを解明し,先進的な再生医療に資するため,ミレニアム・プロジェクトの一環として設置された理化学研究所発生・再生科学総合研究センターにおいて,研究を実施するとともに,戦略的基礎研究推進事業や未来開拓学術研究推進事業などの競争的資金により大学等における発生・分化・再生研究の推進を図っている。

 さらに,厚生労働省では,再生医療の実現に資するため,ミレニアム・プロジェクトの一環として,厚生科学研究費補助金において,脳梗塞,床ずれ,骨折等の高齢者の主要な5大疾患の発生機構の解明に関する研究を推進するとともに,国立研究機関(国立がんセンター,国立精神・神経センター等)を中心として移植後の拒絶反応の回避や,ヒト体細胞が有する自己修復メカニズムを用いた後遺症の回避等に関する研究を行っている。

{4}植物科学研究の推進

 イネ・ゲノム研究は主要穀物をはじめとする作物研究の基礎となる重要なものであり,農林水産省は,イネ・ゲノムの全塩基配列解読及び有用遺伝子の機能解明,特許化を中心とする第2期イネ・ゲノム計画を推進しており,世界的な評価を受けている。

 イネの全塩基配列の解読については,日本がリーダーとなり,11の国と地域(平成14年度2月以降は,10の国と地域)からなる国際コンソーシアムで推進してきているが,スイスと米国の民間企業がイネ・ゲノム塩基配列の概要解読を終了したとの発表もあり,平成13年2月に高精度な解読,公開も一層加速化するようアピールがなされた。

 その後,さらに解読を加速化しており,平成14年中には,イネ・ゲノムのうち重要部分の概要解読が終了する予定とされている。

 このため,農林水産省では,ポストゲノムシーケンス研究を始めており,農業生物資源研究所を中心に,遺伝地図,ミュータントパネル等の手法により,平成13年度までに30以上のイネ有用遺伝子を単離・機能解明した(平成16年度末までに100個以上単離・機能解明する予定)。

 文部科学省では,ミレニアム・プロジェクトの一環として設置された理化学研究所植物科学研究センターにおいて,植物における分子・細胞・個体・集団レベルにおける植物の高次機能と遺伝子の関連性に関する研究を実施している。また,未来開拓学術研究推進事業により植物遺伝子研究の推進を図っているほか,大学等において広範な基礎的研究が実施されている。

{5}バイオリソースの整備

 バイオリソースは,遺伝資源の保存のみならず,新たな研究領域の活動を拓く上で重要なものであり,国家的視点に立って開発,収集,保存,提供を進めていく必要がある。文部科学省では,ミレニアム・プロジェクトの一環として,平成12年度に設置した理化学研究所のバイオリソースセンターにおいて,生命科学の研究開発に必要な実験動植物,細胞材料,遺伝子材料等の収集,保存,提供及びそれに関する技術開発を行うため,国内外の関係機関等とも連携を取りつつ基盤整備を推進している。また,遺伝子改変等を利用した新たな実験動物・植物の開発も積極的に進めている。

 厚生労働省では,国立医薬品食品衛生研究所(細胞)及び国立感染症研究所(遺伝子)にマスターバンクを設置(これらの統合も視野に入れ平成13年度より「医薬基盤技術研究施設」を整備中)し,医学,薬学分野の研究に必要なヒトや動物由来の培養細胞及び遺伝子の収集・保存を行うとともに,(財)ヒューマンサイエンス振興財団を通じ,研究者等に提供している。なお,同財団では,生命倫理問題にも配慮しつつヒト組織の分譲を開始した。また,薬用植物の収集・保存及び提供,医学実験用カニクイザル等の繁殖・供給を行っている。

 農林水産省においては,ジーンバンク事業として農林水産業等に係る植物,動物,微生物,林木,水生生物等の生物遺伝資源について,分類・同定,特性評価,増殖及び保存を行うとともに,生物遺伝資源及び生物遺伝資源情報を国立試験研究機関,独立行政法人,民間,大学等に提供している。また,ゲノム研究等遺伝子レベルの研究成果であるDNA及びDNA情報を収集,蓄積,提供するDNAバンク事業を行っている。

 また,経済産業省では,我が国における中核的な微生物等の生物遺伝資源機関として,生物遺伝資源に関する情報(微生物学の系統的位置付けに関する情報,塩基配列情報,遺伝子に関する情報等)を収集・整理し,生物遺伝資源と併せて提供するため,製品評価技術基盤機構に生物遺伝資源センターを設置した。

{6}食料科学・技術

 食料安全保障や豊かな食生活の確保のためには,農林水産物の安定的・持続的な生産・流通システムの構築を図るとともに,国民の健康増進に寄与する機能性食品の開発等を推進していく必要がある。このため,農林水産省において,園芸作物の新品種育成と生産技術の開発,クローン等畜産関係技術の開発,新たな機能性食品の開発に資する食品素材の組合せによる生体調節機能の解明や複数の機能成分間の相互作用の評価等の研究開発を促進するとともに,平成13年度から,麦,大豆,飼料作物等食料自給率の低い土地利用型作物について,新品種育成,栽培技術の開発及び高度輪作体系の確立を一体的に実施し,技術開発の加速化を図ることとした。

 また,食の安心・安全の視点に立って,プリオン病研究の成果をもとに,農業技術研究機構動物衛生研究所,大学等においてBSE(牛海綿状脳症)研究に取り組んでおり,平成13年度第2次補正予算で,動物衛生研究所の研究施設や,大学の設備の整備を行い,研究の強化を図ることとしている。

 厚生労働省においては,バイオテクノロジーを応用した健康の維持増進に役立つ高機能食品の開発のための基礎的研究を行うとともに,遺伝子組換え食品等の安全性に関する調査・研究を引き続き行っている。

{7}がん,免疫・アレルギー疾患研究等の推進

 ライフサイエンス分野について上記のほか,がん,エイズに関する研究や,免疫・アレルギー研究の推進,医療福祉機器の研究開発の推進等健康の維持・増進に有益な臨床医学・医療技術がある。

 がん関連研究については,「がん克服新10か年戦略(平成5年6月「がん対策関係閣僚会議において決定)」として,がんの本態解明及びその研究成果を活かした新しい予防法・診断法・治療法の解明を進めている。本戦略の下で,文部科学省においては,放射線医学総合研究所で難治性がんに対する画期的な治療法として期待されている重粒子線がん治療装置の臨床試験を行っているほか,大学等における広汎な基礎研究が行われている。また厚生労働省においては,肺がんの早期発見に資するヘリカルCTの開発や,内視鏡による,患者の負担の少ない安全ながん治療法の開発などが行われた。平成13年8月より,両省は,「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」を設置し,「がん克服新10か年戦略」後のがん研究の中長期的な方策について,現在検討を進めている。

 免疫・アレルギー・感染症研究の推進については,国民の3分の1が悩む花粉症,アトピー性皮膚炎,慢性関節リウマチ等の免疫・アレルギー疾患の根治的治療法の創出や,感染症の克服のため,従来のアプローチに加え,免疫学とのさらなる連携の下,総合的な研究を推進する必要がある。文部科学省では,こうした状況を踏まえ,平成13年度に,理化学研究所に新たに免疫・アレルギー科学総合研究センターを設置し,免疫性疾患の抜本的対策の開発に向けて免疫のシステムの基礎的・総合的解明を開始した。また,科学研究費補助金特定領域研究(C)に新領域「感染の成立と宿主応答の分子基盤」を設定して,大学等における感染症・免疫に関する基礎研究の重点的な推進を図っている。

 また,厚生労働省においては,リウマチ,気管支喘息,花粉症,アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患の病態解明や治療法の開発に向け,国立相模原病院に臨床研究センターを設置するとともに,主に臨床面に重点を置いた研究を推進している。

 生物は一般に,効率的にエネルギーを変換することが可能であり,常温常圧の反応でエネルギー消費が少ないことから,経済産業省では「生物機能活用型循環型産業システム創造プログラム」として,ゲノム情報に基づき生物機能を有効に活用し,産業システムへの利用を拡大するための基盤技術の開発に着手した。

 また,生物機能の多様な側面で重要な働きをしていると考えられている糖鎖についても,補正予算の活用により,大学等における施設・設備の整備等研究基盤の強化を進めてきている。経済産業省では,糖鎖の自動合成装置や糖鎖合成関連遺伝子の網羅的取得機能解析に向けた研究開発を実施している。

 なお,ライフサイエンス分野の研究開発については,特定の地域の優れた研究能力を活用,強化することによって,効果的な推進が図られるものもあり,平成13年8月都市再生本部において,「大阪圏におけるライフサイエンスの国際拠点形成」が決定された。文部科学省では,同決定に従い,平成13年度補正予算において大学等における施設・設備の充実や,産学官連携によるトランスレーショナルリサーチ(基礎研究から応用研究までの橋渡し研究)等の推進に取り組んでいる。また,厚生労働省では,大阪圏において,画期的な医薬品等の開発に関する基盤技術の拠点的研究機関の整備等を進めている。

 平成13年度に実施された主なライフサイエンス研究を各府省別にまとめると 第3-2-1表 のとおりである。

第3-2-1表 ライフサイエンス分野の主な研究課題(平成13年度)



(2) 生命倫理・安全に対する取組

(生命倫理問題に関する取組)

 近年のライフサイエンスの急速な発展は,医療等の分野に革新的成果をもたらすことが期待されている。一方で,新たに人の尊厳や人権にかかわるような生命倫理の問題を生起させる可能性があることから,ライフサイエンスの推進に当たっては,社会的なコンセンサスの形成に努めることや,倫理面でのルールづくりを行うことが必要である。このため,総合科学技術会議に生命倫理専門調査会を設置し,生命倫理に関する基本方針や個別重要事項に関し調査・検討を行っている。

 ヒトクローン技術に関しては,クローン人間の産生禁止及びクローン技術による胚の作成等の規制のため,平成12年11月に「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が成立(平成12年法律第146号),平成13年6月より施行されている。文部科学省は同法に基づき,総合科学技術会議の意見を踏まえて,平成13年12月に「特定胚( )の取扱いに関する指針」(平成13年文部科学省告示第173号)及び同法施行規則を策定した。

 また,クローン技術規制法附則2条に定める「ヒト受精胚の人の生命の萌芽としての取扱いの在り方」については,総合科学技術会議生命倫理専門調査会で調査・検討が進められている。

 人クローン個体生成の禁止のためには国際協力が重要であり,平成13年8月にドイツ・フランスが国際連合にそのための国際条約の策定について共同提案し,平成14年2月末にアドホック委員会が開催された。我が国もアドホック委員会に出席し,条約の早期策定を訴えたところである。今後,同年9月にワーキンググループが開催され,国連総会において条約策定のマンデートを決定する予定としている。

 ヒトES細胞研究に関しては,平成13年9月,総合科学技術会議の意見を踏まえて,「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」(平成13年文部科学省告示第155号)が策定された。同指針では,ヒトES細胞を樹立(作成)又は使用する要件として,研究者が十分な技術的能力を有すること,研究が科学的・倫理的合理性を有すること等を定めている。また,樹立に伴うヒト受精胚の提供については,{1}生殖補助医療における凍結された余剰胚( 注1 )に限定,{2}インフォームド・コンセントの取得,{3}無償提供等を要件としている。ヒトES細胞を樹立又は使用する研究を行うに当たっては,研究機関内の倫理審査委員会の審査,文部科学省科学技術・学術審議会の専門委員会の審査という二重審査体制を規定している( 第3-2-2図 )。

第3-2-2図 ヒトES細胞の樹立及び使用の流れ

 疾病の成因を探り,また,その予防法や治療法の有効性を検証し,医学の発展や公衆衛生の向上に貢献が大きい疫学研究( 注2 )についても,その倫理的課題に対処すべく検討が始まり,文部科学省及び厚生労働省が共同で「疫学研究に関する倫理指針案」の検討を行っている。

 また,精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療については,厚生労働省が平成13年6月に厚生科学審議会の下に生殖補助医療部会を設置し,平成12年12月に取りまとめられた「生殖補助医療技術に関する専門委員会」報告書に基づく精子・卵子・胚の提供の具体的な条件や,インフォームド・コンセント,カウンセリングの具体的な内容などの制度整備の具体化のための検討を進めている。


■注 特定胚:ヒト胚分割胚,ヒト胚核移植胚,人クローン胚,ヒト集合胚,ヒト動物交雑胚,ヒト性融合胚,ヒト性集合胚,動物性融合胚及び動物性集合胚の9種類をいう。


■注1 余剰胚:生殖補助医療に際して生じたが,その後生殖補助医療目的では用いられず,滅失させることが決定されているものをいう。


■注2 疫学研究:疾病の罹患をはじめ健康に関する事象の頻度や分布を調べ,その要因を明らかにする科学研究をいう。

(ライフサイエンスにおける安全性の確保への取組)

 組換えDNA技術は,基礎生物学的な研究はもとより,疾病の原因の解明,医薬品の量産等広範な分野において人類の福祉に貢献するものであるが,生物に新しい性質を持たせるという側面がある。このため,文部科学省では,昭和54年以降組換えDNA実験に関する指針を運用してきたが,今回,最近の技術的動向を踏まえた見直しを行うとともに,これまで大学及びそれ以外の実験実施機関にそれぞれ適用されていた2つの指針を統一し,平成14年1月に,新たに「組換えDNA実験指針」(平成14年文部科学省告示第5号)を策定した。今後についても,当該指針については,時々の技術動向を踏まえた適切な運用・改訂を行っていく必要がある。また,厚生労働省では平成13年4月より,遺伝子組換え食品の安全性審査を食品衛生法に基づく義務とし,個々の遺伝子組換え食品等について,「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」に基づく審査を行っている。

 この組換えDNA技術を用いて遺伝子改変された生物(LMO)の国境を越えた移動について,生物の多様性に関する条約の下に,平成12年「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」が採択され,我が国においても,外務省,文部科学省,農林水産省,経済産業省及び環境省等の関係各省の連携の下に,当該議定書の批准に向けた検討を開始している。

 また,遺伝子治療( )の確立を目的とする臨床研究については,文部科学省及び厚生労働省が研究の科学的妥当性及び倫理性を確保し適切に研究を実施するための指針を策定し,それぞれの省で運用してきたが,平成14年3月,文部科学省及び厚生労働省は,新たに両省共同で「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(平成14年文部科学省・厚生労働省告示第1号)を策定した。

 さらに,遺伝子組換え技術の実用化に当たっては,パブリックアクセプタンスが重要であることから,農林水産省では「遺伝子組換え農作物を市民が考える会議」を開催し,「市民の考えと提案」を取りまとめ,これを踏まえた調査研究を実施している。


■注 遺伝子治療:疾病の治療を目的として,遺伝子そのもの又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与する治療法。現段階では確立された治療法ではなく,臨床研究の一環として実施されている。


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