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第1部   知による新時代の社会経済の創造に向けて
  まとめ

 我が国においては,科学技術創造立国の実現を基本とし,平成13年に策定された第2期科学技術基本計画に従って,「知の世紀」といわれる今世紀において,人間の知的活動の成果としての幅広い知識の創出と蓄積,それを有効に活用するための英知により,「知の創造と活用により世界に貢献できる国」及び「安心・安全で質の高い生活のできる国」を実現するとともに,「国際競争力があり持続的発展ができる国」の実現を目指して科学技術システム改革が進められている。

 また,先般の中央省庁等改革の中で,同年4月には大多数の国立試験研究機関が独立行政法人に移行したところであり,大学改革の一環として検討が行われることとされた国立大学の法人化についても,平成14年3月にその基本的な考え方が示されたところである。

 このような改革の動きは,我が国のイノベーションシステム,ひいてはイノベーション創出の態様に大きな影響を与えることが予想される。

 国立大学の法人化の方針においては,国立大学の自主性・自律性が拡大することに伴って,大学運営の責任者の強いリーダーシップの下に,それぞれの大学の個性に応じたダイナミックで機動的な運営体制の確立,柔軟な組織編成と多彩な活動の展開を可能とするような組織運営の在り方が示されるとともに,教員の多彩な活動を可能とするため,職員の身分を非公務員型とすることが示されている。これらは,国立大学の研究者の研究成果を還元することによる社会貢献意識の向上と,そのような活動に対する制約を解除する上で,極めて重要な意味を有するものである。また,国立大学が一層個性を競い合うようになることを通じて,私立大学をも含めた大学間の競争が活発化することが重要である。

 先に独立行政法人化した国立試験研究機関においては,まだ1年が経過したばかりであり,その効果が現れるには十分な期間であったとはいいがたいが,「産業ニーズや重点分野に沿った研究が重視されるようになった」,「共同研究や受託研究が行われやすくなった」,「研究成果等をより積極的に外部に発信するようになった」と考える研究者が相当程度に上っており( ),社会一般をはじめとして,外部との関係に対する意識の大きな変化が認められるところである。

 基本計画においては,併せて科学技術の戦略的重点化を図ることとし,国家的・社会的課題に対応した研究開発として,特にライフサイエンス,情報通信,環境及びナノテクノロジー・材料の4分野に重点を置くこととされている。次代の日本の産業基盤を構築する実用化を視野に入れた研究開発プロジェクトが政府主導で始められたところであるが,今後政府としては,このような方法により,これからの社会経済の在り方を具体的に示し,その道筋をつけることが必要となる。

 本書においては,主としてイノベーションを発生させる知識の創造,それを活用して製品等に結び付ける活動を取り上げたところである。

 しかしながら,既に明らかなとおり,イノベーションは「知識」だけでは創出できない。特に,今後の我が国のイノベーションは,他にまねのできない独創性や,センスにあふれるものでなければならない。すなわち,イノベーションには「知恵」や「知性」という「知」も欠くことができないのである。

 特に我が国においては,若者をはじめとする個人が優れた「知」を生み出し,さらにそれをもって社会で起業するというケースが少ない。このようなケースで成功することは,もともと極めて確率の低い,それゆえにリスクの高いものであるが,我が国の社会はこのような活動にチャレンジする機会に乏しく,チャレンジを促進するような仕組みも十分ではない。このため,チャレンジする個人のリスクを軽減し,より多くの個人が「知」をいかんなく発揮できるような環境を整備していくことが,極めて重要である。

 また,イノベーションの成功には市場の受容が不可欠の要素である。市場の受容を考える場合には,ユーザーたる国民の,新たなものに対する興味や関心,ポテンシャルが大きいとともに,その価値を正しく判断できる能力が必要である。また,社会がよりよいものを取り入れる柔軟な構造であることが要求される。同時に,そのイノベーションが,自然環境や社会倫理などと調和するものであることが求められる。

 このような観点からも,今後,イノベーションの創出を一層活性化させていくためには,研究開発を推進するばかりでなく,およそ社会全体を視野に入れた幅広い,総合的な取組が必要になるものと考えられる。


■注 文部科学省「我が国の研究活動の実態に関する調査(平成13年度)」 公的研究機関等の研究者に対し,独立行政法人化により変化した点を聞いたもの。「そう思う」と回答した者が,それぞれ50.4%,38.8%,45.0%あった。


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