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第1部   知による新時代の社会経済の創造に向けて
第3章  我が国に適したイノベーションシステムの構築に向けて
第4節  戦略的な「知」の展開
3.  知的財産の戦略的活用



(1) 知的財産の重要性

 我が国が経済を再生し,21世紀においても世界経済の中で重要な地位を占めていくには,知を創造し,活用することが必要であり,知的財産制度の整備等を通じ,知の成果を重視し,戦略的に活用し得る社会を築くことが重要である。

 知的財産権制度は,企業等がリスクの高い技術開発を進めながら,新たな技術の独占権を得ることによって,さらなる技術進歩への投資を推進するなど,創造的な事業活動を支える制度である。このため,この制度を使いやすいものとすることが重要である。

 地球的規模の競争が進展する中,各国は自国産業の振興と強化のため,特許政策を中心とした戦略的技術開発政策の推進に努めており,我が国においても知的財産戦略の構築が,喫緊の課題となっている。

 ただし,知的財産権の保護を過度に強化すると,かえって競合技術や関連技術の開発を阻害する可能性もあることを指摘する向きもあり,技術開発の積み重ねにより進展していく累積的なイノベーションのプロセスを阻害しないよう,知的財産権の保護強化の方法について留意する必要がある。

 米国では,1970年代における日本やヨーロッパの追い上げに対応して産業競争力を強化するため,1980年代に入ってからは,研究分野における独占禁止の規制緩和等の法整備を行うことによって,産学官連携,技術移転政策を推進するとともに,プロパテント政策を採用した。具体的には,国等の研究開発で得られた成果を民間企業に移転させること,政府支出に係る成果である特許権を大学に取得させること,排他的ライセンスを民間企業に与えること等の実施に努めた。

 また,特許関係の紛争を扱う連邦巡回控訴裁判所の設立以降,特許権の侵害が認められるケースが増え,賠償金額も大幅に増えている。また,特許範囲が広げられ,ソフトウエア,遺伝子組換え生物に加えて,最近では機能が解明された遺伝子配列,ビジネスモデルについても対象とされている。

 このように米国では,グローバルな競争の激化という流れにいち早く対応し,プロパテント政策を採用したことが成功し,IT産業,バイオ産業は競争力を強化することができ,1990年代には空前の長期にわたる好景気を招くことができた。

 米国の,国内や世界の状況に応じたこのような動きは,日本やヨーロッパ等の各国に,適切な知的財産権制度の構築が必要であることを認識させたところである。


(2) 知的財産に係る国の取組

(審査)

 米国の特許出願から審査官による最初の通知が出願人に送付されるまでの期間であるファーストアクション期間は,平均13カ月程度であるのに対し,我が国では,近年,審査請求後平均21カ月を要している。このため特許庁は,先行技術調査の外部能力の一層の活用や審査官の増加などによって体制を強化し,迅速かつ的確な審査の実現に努めている( 第1-3-48表 )。

第1-3-48表 特許のファーストアクション期間

(紛争処理)

 我が国では訴訟関係者に各方面の知的財産権の専門家が少ないこと等から,裁判が長期化するなどの問題があり,我が国の特許訴訟の件数は米国に比べて著しく少ない( 第1-3-49図 )。特許等に関する紛争処理の長期化は,特に他社が追いつくまでのリードタイムの短い製品の場合にとって大きな問題である。特許の侵害訴訟の判決により認定される損害賠償額については,平成2〜6年の平均認定額が約4,624万円( 注1 )であったのに対し,平成10〜13年の平均認定額は1億8,125万円( 注2 )と増大している。また,平成14年3月には,パチンコ型スロットマシンのメーカーが他の2つのメーカーを訴えていた事件で,総額約84億円の賠償を命じる判決があった。このように,特許侵害に対する賠償についても通常実施料を超えて認められる傾向にある。

第1-3-49図 知的財産関係訴訟件数

 知的財産権訴訟については,東京及び大阪の両地方裁判所に専門部を設けて専門的処理体制を整備してきた結果,現在,全国の特許訴訟の8割以上,知的財産権訴訟全体の7割の事件が集中している。平成13年の知的財産権に関する平均審理期間は18.3カ月となり,所要期間はこの10年間でほぼ半減している。今後とも,裁判所の知的財産権訴訟に関する体制強化に努めることが期待されている。

 なお,特許法では,職務上なした発明(職務発明)について従業者に権利を帰属させた上で,企業は「相当の対価」を支払うことを条件として契約,勤務規則その他の定めによって企業が権利を承継できることとしているが,最近の雇用慣行の変化等を背景として,「相当の対価」をめぐる紛争が発生している。職務発明の取扱いについては,契約・勤務規則等による処理や各種の実務慣行を踏まえ,企業サイドがとり得る適切な方策について検討する必要がある。

 今後,このような課題について所要の検討が行われ,知的財産権に関する紛争処理の迅速化と処理コストの低減を推進することが重要である。


■注1 知的財産研究所「知的財産権侵害にかかる民事的救済の適正化に関する調査研究(1996年)」


■注2 公開された判決をもとに特許庁が独自に算出


(3) 大学における取組

 知的財産権の重要性が増す中で,大学研究者の優れた発想に基づく特許等の活用が促進され,その実施成果が発明者及び大学等へ適切に還元されることによって研究活動が促進され,新たな研究成果が生み出されること,広く社会への波及効果が及ぶこと等が期待されている。

 現在,国立大学の教官の研究成果から生じた特許等に関する権利は,原則教官に帰属することとなる。一方,本人から国への譲渡の申出がある場合及び一定の条件の下で行われた研究の場合は,発明委員会の審議を経て国に承継される。国に承継された権利は国有として特許出願し,個人に帰属するものについてはTLO等を活用し,出願することが期待されている。

 国立大学における発明状況について見れば,最近,発明委員会の審議件数が年々増加している。

 しかし,我が国では全体として増加しつつあるものの,仮に上述の個人有の特許に関する権利から出願されたものを含めたとしても,欧米の大学に比して大学からの特許出願がなお少ない実態にあると推定される。この原因のひとつとして,研究者の評価は,研究論文や学会発表が優先されてきたため,そもそも研究を行う動機としての知的財産権への関心が低かったことが考えられる。

 大学に所属する研究者に対するアンケート調査においては,研究成果について,所属機関に対し特許化の可能性を報告しているのは,「特許化の可否に関わらず報告する」と「特許化が可能な場合報告する」との回答を合わせても27%にとどまっているのに対し,「ほとんど報告していない」との回答が34%に上っている( 第1-3-50図 )。報告していない理由としては,「所属機関から報告を求められていない」との回答が約41%あるが,「報告,特許出願の手続等が負担」との回答が約33%,「早く論文等で研究成果を公表したい」との回答が約16%,「特許取得にインセンティブがない」との回答が約12%となっている( 第1-3-51図 )。

第1-3-50図 所属機関での特許化の報告

第1-3-51図 特許化可能な研究成果について所属機関に報告を行わない理由

 大学発の特許等が少ない実態には,大学における研究者が特許に関心を持ったとしても,特許取得をめぐる手続の負担や,帰属に関するルールの複雑さ等が,特許の取得や活用に影響を及ぼしている。

 米国やイギリスでは,特許等の効果的な活用を進めるために組織的に管理する傾向にあり,大学からの技術移転に研究者が積極的に参加することを推奨する一方,研究者が恣意的に知的財産権の帰属を決定すると,個人の私的な利益と大学等の公的責任の相反(利益相反)が生じかねないことから,資金源に関係なく大学等に特許等を帰属させる傾向が強まっている。

 科学技術基本計画においては,公的研究機関での特許等に関する扱いについて,第1期基本計画では,研究者の流動化の可能性,インセンティブの向上等の観点から,個人への帰属を導入し活用促進を図ってきたが,個人帰属数は増加したものの実施の拡大につながらなかったといわれる。このため,第2期基本計画では,研究開発成果の活用をより効果的・効率的に促進するため,研究機関管理を原則とする活用促進への転換を進めることとしている。

 大学においては,TLO等により個人帰属特許の活用促進が図られてきたところであるが,今後の大学における知的財産の取扱いについては,国立大学法人化の論議の中で,十分な対価を還元することに留意しつつ,法人化された国立大学等に帰属させるなど,特許活用の促進のための方策について,検討が進められている。


(4) 企業における取組

(特許出願の現状)

 企業における当面の重要な課題のひとつは,選択と集中による経営効率・収益性の改善である。この一環として研究開発についても,知的財産戦略を構築する必要がある。

 我が国企業の特許関連の実態であるが,特許出願状況は,近年まで海外出願に比べ国内出願の方が大きい実態にあり( 第1-3-52図 ),自社の保有する特許の評価については,改良特許が7割以上との報告がある( 第1-3-53図 )。また,現存特許件数(平成12年104万件)のうち,その約3分の2は不実施特許であると推定されているが,その主たる理由は,防衛出願,企業の経営・技術開発方針の変更,代替技術の発見・発明等によるものとされている。

第1-3-52図 日本人の特許出願件数の推移

第1-3-53図 企業の自社特許に関する評価

 このように,これまで,出願件数は多いものの,国内での出願に偏っており,不実施特許や防衛目的の特許が多いことは,企業内で特許を重視し,真に必要なものを見極めて戦略的に活用しようとする姿勢が欠けていたことが考えられる。

(職務上の特許権等の取扱い)

 民間企業に所属する研究者が特許等を取得した場合の処遇への反映やその処遇への満足度に関する調査では,特許権等は多くが企業に帰属するのに対して,処遇への反映は5割程度と低く,満足している程度も3割強程度となっており,改善を求めている傾向にある( 第1-3-54図 , 第1-3-55図 , 第1-3-56図 , 第1-3-57図 )。一方,処遇への具体的な反映については,報償金・ロイヤリティの配分,表彰,俸給及び昇進などで,高い希望がある( 第1-3-58図 )。

第1-3-54図 職務上で得た特許権等

第1-3-55図 特許権等の処遇への反映

第1-3-56図 処遇への具体的な反映

第1-3-57図 発明者等に対する処遇の満足度

第1-3-58図 期待・改善を求める発明者等に対する処遇

(大学発特許の取扱い)

 大学研究者の知的財産権についても,企業が正当に評価していないとの問題が指摘されている。企業が出願し大学の研究者が発明者となっている特許等の全体像は,正確に把握されていないものの,一部の国立大学のアンケート調査によれば,個人に帰属した特許権や特許を受ける権利の大半は,企業に譲渡されており,そのほとんどが無償となっている。

 平成12年のノーベル化学賞受賞者の白川英樹博士が発明者となっている特許は,東京工業大学時代に25件あるが,このうち国有特許は3件のみで,残りは研究協力者であつた企業に要請して出願したものであるという。

 知的財産戦略の構築に当たっては,知的活動の成果に対して価値を認め,正当に評価する意識の徹底が必要である。

 企業は,知的財産を活用した戦略的な研究開発が産業競争力の強化に結び付くよう,知的財産管理部門の体制を整備し,企業収益と企業価値の向上を図る必要がある。


(5) 知的財産権以外の研究開発成果の取扱い

 研究開発では主要な研究成果以外にも,マウス,微生物などの生物遺伝資源,材料試料・サンプル等の研究開発成果が発生するが,その帰属が必ずしも明確ではなく,基本的には研究者間ベースでの自由なやりとりで利用されるなど,取扱いルールは各機関の取組にゆだねられてきた。しかしながら,基礎研究の成果が直ちに商業的価値を持つようなケースが多くなってきていることから,適切なルールの下,それらの成果を利用した研究の促進や産業界への技術移転を円滑に行うことが必要である。

 平成13年5月,米国の研究機関で研究に従事してきた研究者が,日本への帰国に当たって研究試料を持ち出したため,産業スパイ法容疑で起訴されたことを契機として,研究成果の取扱いが重要視されるようになった。我が国においても,研究開発成果の帰属や研究開発段階での利用の在り方が不透明なまま,研究者間の個人的・私的な融通に任されていると,同じような問題が引き起こされる可能性がある。研究開発成果については,研究者がより自由に広く研究できるようにすることが重要な一方で,商業利用のための技術移転等社会還元を促進するためには,一定のルールを設けることも必要である。このような状況を踏まえ,関係府省では,研究開発成果の適切な取扱いや研究開発の場での広い利用,産業界での商業的利用を促進するルールを検討している。

COLUMN

最近の,政府を挙げた「知」の展開への取組

 我が国の厳しい経済状況を,科学技術の振興を通じた技術基盤や産業の国際競争力の強化によって打開するため,内閣,総合科学技術会議等を中心として関係各省も含めた政府全体の取組として,以下のような活動が行われている。

○ 産学官連携サミット等の開催 平成13年11月に,産,学,官のトップ等300名が一堂に会する,第1回産学官連携サミットが東京で開催された。これに続き,北海道から沖縄まで全国9地域で地域産学官連携サミットが開催され,合わせて4,400人の地元関係者が参加し,熱気あふれる議論が展開された。  さらに,平成14年6月には,実務レベルでの課題を抽出し,具体的解決策を取りまとめて,国の政策や企業,大学での活動に反映させることをねらいとして,全国の企業,大学,行政等の第一線のリーダーや実務者3,000人規模の産学官連携推進会議が京都で開催される予定となっている。
○ 知的財産戦略の構築 平成14年2月には,我が国として知的財産戦略を早急に樹立し,その推進を図るため,内閣総理大臣が主催し,関係閣僚及び有識者から構成される知的財産戦略会議が設けられた。同会議においては,世界最高水準の知的財産を生み出すこと,知的財産を核とした独創的・高付加価値な企業経営を支援するための体制・制度を整備することなどを検討の柱とし,同年6月中を目途に,2005年度までの具体的行動計画(アクション・プラン)等を示した「知的財産戦略大綱(仮称)」を策定することを目指して,検討が行われている。  また,1月には,総合科学技術会議に知的財産戦略専門調査会が設置され,特に科学技術の観点から,国の研究開発投資に対応した知的資産の創出と確保,先端技術分野における知的財産の保護と活用,知的財産の創出・確保・活用のための基盤整備等の課題について調査・検討が行われており,6月には中間的なとりまとめが出される予定である。

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