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第1部   知による新時代の社会経済の創造に向けて
第3章  我が国に適したイノベーションシステムの構築に向けて
第4節  戦略的な「知」の展開
2.  地域のイノベーションシステム


 近年,経済活動のグローバリゼーションの伸展の下,地域産業の空洞化に対応する施策の展開が緊急の課題となっており,このための有効な施策のひとつとして地域における科学技術活動及びその成果を活用した地域のイノベーションシステムの重要性が広く認識されている。地域のイノベーションシステムを考えた場合,クラスターという特徴が,経済先進国に特に強く見られる。

 クラスターとは,大学等の研究機関,特定分野における関連産業,専門性の高い供給業者,サービス提供者,関連業界に属する企業,関連機関(規格団体,業界団体など)が地理的に集中し,競争しつつ同時に協力している状態を指し( 注2 ),これらの機関と企業は,共通性や補完性によって結ばれており,クラスター全体として個々が持つ機能価値を高め,イノベーションの創出に効果的に機能しているといわれている( 第1-3-44図 )。

第1-3-44図 クラスターの概念図


■注2 M.E.ポーター「競争戦略論」


(1) イノベーションとクラスター

 クラスターにおいては特定分野の企業や大学等の研究機関が集積されていることから,大学等の「知」の活用が活発化するとともに,競合する企業間との競争メカニズムが働くことにより,企業に対して創造的な差別化を促す効果が見られ,イノベーションを加速化するメカニズムを内包している。さらに,クラスターにおいてイノベーションを創造する環境として,様々に優位な点が存在しており,まず,顧客のニーズや動向を迅速に把握することを可能とし,技術やオペレーション,製品提供といった面で新しい可能性に気付きやすいなど情報面での優位性が挙げられ,イノベーションの必要性や技術機会を得やすい環境が提供されている。次に,イノベーションに必要となる資源(部品,サービス,機械その他)をコスト面も含め容易に調達できる場合が多く,また,イノベーションのプロセスへの地元の供給業者や提携企業の密接な関与も期待できるため,企業のイノベーション活動を支援する環境が整備されている。このように,クラスターはイノベーションを効果的に創造する機能を持っていることから新技術や新製品の輩出がなされ,その波及効果によって新規事業が形成され,企業の成長や雇用面等に大きく影響するものと考えられる。

 クラスター形成は近年,地域の振興策として世界各国で注目を集めている。地域のイノベーションシステムとしてのクラスターは,比較的優位な産業に特化し,技術や人材など資源の集積によってイノベーションを効果的に創造する目的で各国で形成されており,米国においては, 第1-3-45図 に見られるように,特定分野の競争力あるクラスターが全国に散在している。

第1-3-45図 米国における主な地域クラスターの分布

 クラスターの代表例としては,シリコンバレー( 注1 )が有名である。シリコンバレーでは主に,スタンフォード大学を核として,ソフトウエアや情報通信などのハイテク分野に特化しており,当初は半導体技術を核としてクラスターの広がりを見せ,研究機関,企業,関連機関などが集積しネットワークを形成しつつ,幾度かのイノベーションによる変革を遂げ,現在に至っている。

  第1-3-46図 はシリコンバレーにおける経済活動の結果の一部を紹介したものであるが,特許数( 注2 ),企業成長,雇用等の面で顕著にその効果が見られる。全米に占めるシリコンバレー発の特許割合は年々増加しており,知の創出がシリコンバレーという特定の地域に偏在して産出されていることが分かる。また,地域内においては急成長を達成する企業の存在が見られ,地域内経済が活発であることを示し,また,地域全体ではイノベーションによる効果( 注3 )によって,雇用者数が段階的に推移している。

第1-3-46図 シリコンバレーの主な指標


■注1 サンタクララ(Santa Clara)郡と近隣のサンマテオ(San Mateo)郡,アラメダ(Alameda)郡,サンタクルズ(Santa Cruz)郡の一部の地域。


■注2 上位5社は情報通信関連産業が占めている。


■注3 シリコンバレー経済は,イノベーション(防衛,集積回路,パーソナルコンピュータ及びインターネット)によって特徴付けられる。


(2) 我が国のクラスター形成に向けた取組

 我が国においては,主として地域の産学官を中心に,クラスター形成に向けた多様な試みが緒についたばかりである。地域科学技術振興に関する国の施策においては,地域経済の活性化及び再生,世界に通用する新産業・新事業の連続的な創出を実現するための構想が計画されている。これは,地方公共団体の主体性を重視し,大学等公的研究機関を核とした研究開発能力の集結を目指す「知的クラスター」と地域の経済産業局を結節点として,産学官の広域的な人的ネットワークの形成を図るとともに,支援策を総合的・効果的に投入する「産業クラスター」を中心とし,情報通信分野等特定分野の技術集積を目的としたクラスター形成への取組等もあわせ,これらのクラスターが連携することにより,連鎖的なイノベーションの創出を期待するものである。

 このように,地域におけるクラスター形成は,今後地域科学技術振興の中核をなす取組として注目されており,総合科学技術会議においても「知的クラスター」,「産業クラスター」等の構築・形成を中心とした地域クラスター構想として,産学官連携によるイノベーションシステムの形成を進める等を内容とする,経済活性化のための地域科学技術振興プランの中で,検討された。

 これらの結果,地域科学技術振興関連政府予算については,平成13年度第1次及び第2次補正予算で共に措置されるとともに,平成14年度政府予算においても,前年度比41%増の大幅拡充が行われている。

 一方,地方公共団体においては,厳しい地方財政の状況等を反映し,科学技術関係予算は横ばい傾向を続けている( 第1-3-47図 )が,地域におけるイノベーション活動の経済活性化のためにも地域科学技術振興への一層の取組が期待されている。

第1-3-47図 都道府県等における科学技術に関連する予算

 クラスターの構築は,国全体のイノベーションシステムの下で,地域のポテンシャルや地域特性などを生かした多様性のあるシステムを組み込むことを可能とするとともに,それぞれの地域内の企業間及びクラスター間の競争と協力によりイノベーションが活発化するため,結果として国全体のイノベーションシステムの強化と環境の変化に対応するための柔軟性に寄与する。

 競争と多様性を特徴とする地域のイノベーションシステムの構築に当たっては,地方公共団体をはじめとする地域の創意工夫が最も重要である。

 また,クラスターの規模は様々で,クラスター間での補完効果も見られることから,従来の行政区分等にとらわれず,クラスターに対応した形で,行政機関や大学等が柔軟に連携を図っていく必要がある。


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