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第1部   知による新時代の社会経済の創造に向けて
第3章  我が国に適したイノベーションシステムの構築に向けて
第3節  企業におけるイノベーションに向けた活動
1.  企業の研究開発に関するニーズと戦略の変化



(1) 企業の研究開発活動をめぐる環境の変化

 新しい製品あるいはサービスなどを市場に投入し,経済的な利益を上げるという企業活動そのものが,本質的にはイノベーションを目指した活動であって,これまでも企業はイノベーションの創出に向けて研究開発を重視してきた。しかしながら,最近の国内及び海外の市場の変化は,企業の研究開発活動に大きな影響を与えている。

{1}専有可能性確保の困難性

 一般に,企業における研究開発は,その企業が現在収益を上げている事業における次世代の製品・サービスの研究開発や,その事業分野を拡大する製品群等の研究開発のほかに,これまでその企業が市場を持っていなかった新規の事業分野を開拓するための製品・サービスの研究開発等が考えられる。研究開発投資を行った結果生み出された新技術は,その製品,製法やサービス等を通じて,社会全体に利益をもたらす。こうしてイノベーションを実現した企業が,生み出された利益のうち,どのくらいを確保できるかという期待の大きさを専有可能性というが,これはイノベーションの大きな要因のひとつであり,イノベーションへの動機付けとして重要である。  専有可能性を確保するための方法としては,まず思い浮かぶのが,特許等による法的権利保護であるが,このほかにも,製品の先行的な市場化,製造設備やノウハウの保有・管理等が有効とされている。  この専有可能性を確保する手段の有効性について,日米の企業を対象として,プロダクトイノベーションとプロセスイノベーションそれぞれについて調査が行われている( 第1-3-22図 , 第1-3-23図 )。
第1-3-22図 プロダクトイノベーションの専有可能性を確保する方法の有効性

第1-3-23図 プロセスイノベーションの専有可能性を確保する方法の有効性

 全般的な両国の比較では,特許についてはむしろ我が国のほうが上回っており,米国が,「技術情報の秘匿」及び「生産,製品設計の複雑性」の重要性を重視していることが注目される。  現在,我が国における産業の不調の一因は,これまで我が国の産業が市場としてきたところに他国が参入してきたために,全体として供給力が過剰となっていることにあると考えられる。これまでの我が国の産業のように,先行したものを模倣し,改良することによって,既存の市場を専有していくやり方では,模倣しやすいものは同時に模倣されやすいことから,競争者が多い市場においては,そこから得られる利益はわずかなものとなる。最近のIT,ライフサイエンス等の分野におけるイノベーションでは,例えばソフトウェアに代表されるように,初期の開発コストがあれば,それを大量生産するのにほとんどコストを要しないものになりつつある。このような製品は,大規模な製造装置が不要で,品質,コストなどの競争力を決定する要素が,生産過程の改良などに依存することが少ないため,いわゆる後発者のメリットのない製品といえる。それに加えて,特にITにおいては,同じものを利用する人が増えるほど利便性が高まるいわゆるネットワーク外部性が高い製品が多かったため,市場を先におさえた製品がデファクトスタンダードとして,いわゆる“一人勝ち”の状態となりやすかったと考えられる。  このように,最近のイノベーションは,我が国のこれまでのイノベーションの在り方にはなじみにくいものであった。このため企業は,これまでのイノベーションの在り方を見直して,より専有可能性の高い,すなわちよりレベルの高い技術が必要な市場にシフトするか,新たな市場を開拓することが求められている。

{2}研究開発期間,製品寿命の短期化

 このような環境において,企業は生き残りをかけて競争を激化させており,これが研究開発期間,製品寿命を短くさせている。文部科学省の「民間企業の研究活動に関する調査(平成13年度)」においても,5年程度前と比較して製品の研究開発に要する期間が短くなった理由として,他社との競争の激化を挙げた企業が過半数に達しており,その他の理由も加えると,70%もの企業が,研究開発期間が短くなったと回答している( 第1-3-24図 )。また,市場に投入された製品の収益期間(製品寿命)に関しても,7割以上が収益期間が短くなったことを認めている( 第1-3-25図 )。
第1-3-24図 研究開発期間の状況

第1-3-25図 収益期間(製品寿命)の状況


(2) 企業の研究開発戦略の動向

 以上のような現状において,イノベーションを実現するための研究開発の実施に当たっては,だれも手がけていないような研究を,速いスピードで行わなければならず,企業がこれまで保有してきた,人材,技術,ノウハウ等の資源のみでは十分ではなくなりつつある。

 研究開発に対するニーズの変化に応じて,企業は,様々な研究開発戦略をとりつつある。「民間企業の研究活動に関する調査(平成13年度)」によると,研究開発戦略の展開状況としてどのような手段・手法をとったか,またとる予定かとの設問から,「研究開発部門内の組織改革」と並んで,「研究開発テーマの統廃合」や「新規分野の研究開発に注力」及び「大学,公的機関との共同研究等」が柱となっていることが分かる( 第1-3-26図 )。

第1-3-26図 研究開発戦略の展開状況

{1}研究開発における選択と集中

 研究開発テーマの統廃合が多数回答されているように,今後とるべき研究開発戦略自体にも,企業において選択と集中が図られている証とも見られる。  一方で,身軽な体質に向けて,本業への回帰が生じているのではないかという予想があったが,新規分野の研究開発に注力するという,多くの企業の意欲が表れている。

{2}他機関との協力,提携

 また,他機関との連携,協力を活発化していこうという意向が調査結果に表れている( 第1-3-27図 )。
第1-3-27図 企業における研究協力の増減傾向

 イノベーションのきっかけとなる技術機会を得るため,企業は,今後,特に国内の大学,公的機関との連携に期待をよせており,国の科学技術政策もこれを支援しているところである。また,他の企業,特に異業種の企業との提携を行うとの企業も多く見受けられるが,この場合も技術機会の獲得がひとつの目的であると考えられる。  他企業との連携,協力のもうひとつの側面は,研究開発の重複の無駄を排除し,失敗による大きなリスクを回避することにある。特に,今日のイノベーションは,ひとつの技術開発,あるいは一企業の技術開発のみでは実現しないことが多い。例えば,コンピュータのソフトウェアが特定のハードウェアがあってはじめて成立するように,他の製品を前提とするもの,他社の技術があってはじめて製品化できるものなどが多い。このため,企業間の技術提携,企業等が協議機関(協議会,コンソーシアム,フォーラム)を設け,知的財産権をプールして標準化を図る等の取組が行われている。  また,海外機関との協力,海外研究開発拠点の設置などにより,海外との連携,海外の人材の活用等も増加している。ただ,近年,研究協力先を目的に応じて選ぶことが重要となっており,国内外を特に意識しない傾向が高まってきている可能性がある。

{3}ナレッジマネジメントの導入

 さらに,新市場の開拓とそれに必要な多様な技術開発手法の使い分けを,技術や社会の動向を踏まえて,戦略的に行うことが求められる。このため,企業においては,ナレッジマネジメント(知識経営)を強化して対応しようとする動きがあり,今後CKO(知識担当役員)やナレッジマネージャーを置くこととしている企業も増加が見られる( 第1-3-26図 )。  ナレッジマネジメントとは,最も狭くは,企業内において個々の従業員が持っているが,表出されていない企業に役立つ知識(「暗黙知」といわれる。)を共同作業などのコミュニケーションを通じて他の個人と共有し,マニュアル,データベースなどの形で他の従業員が共有し得る知識(「形式知」といわれる。)に変えていく活動を指していたが,発展的に,「暗黙知」と「形式知」の間を循環させながら組織内で高度に知識を共有・蓄積させていくプロセスを確立することを指すものとなり,現在は,さらに広がって,企業にとってどのような知識が必要となるかを考え,それをどのように獲得していくかといった,企業の知識戦略全般を企画管理することを意味するようになっている。

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