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第1部   知による新時代の社会経済の創造に向けて
第3章  我が国に適したイノベーションシステムの構築に向けて
第2節  イノベーションの核となる「知」の創出
1.  独創的な基礎研究の推進


 今日のイノベーションの中には,ライフサイエンスの分野に見られるように,遺伝子の機能の解明が直ちに創薬に結びつくなど,大学で発見された技術シーズが直ちに実用化するものから,多くの技術シーズが組み合わされ,あるいは改良が重ねられて普及していくものなど,様々なものがある。

 多くの技術の組合せから生じるイノベーションは,それぞれの技術ごとに進歩のプロセスが異なることから,必ずしも基礎,応用,開発という研究の段階を順序よく進んで実現するものではないが,一見,新たなイノベーションが次から次へと発生しているように見えるITやライフサイエンスの分野でも,過去からの長期間にわたる基礎的な研究成果が積み重ねられた上ではじめて今日のような社会への普及に結びついており,イノベーションには長いリードタイムを必要とする。

 例えば,IT革命に至るイノベーションを見ると,イノベーションによる新製品が普及するはるか手前の段階で核となる新たな知識が出現していることがわかる( 第1-3-9表 )。

第1-3-9表 IT革命までの歴史

 2000年は白川英樹名誉教授,2001年は野依良治教授が,日本人として2年連続でノーベル化学賞を受賞され,我が国の基礎的な研究のレベルが世界においても認められたものであるといわれている。「導電性ポリマーの発見と開発」によって受賞した白川氏は1977年にこの研究の成果を上げているが,10年の後において,プラスチック電池,写真フィルムの帯電防止剤,発光ダイオードや携帯電話の表示画面,ミニテレビに使用されている半導体ポリマーの実用化につながっている。また,同じく「キラル触媒による不斉水素化反応の研究」によって受賞した野依教授の場合も,その成果の端緒は古く1966年の不斉カルベン反応( )の発見までさかのぼり,その後は1983年のハッカの成分であるメントールの工業生産以来,数多くの医薬や調味料の開発に活用され,これに関連して日米欧で合わせて270もの特許を出願している。

 イノベーションには,研究室での科学研究やその成果である技術シーズから出発し,その応用として新たな製品やサービスを生み出すものと,市場調査等に基づいた消費者ニーズなどに応じて必要な技術を開発するものの大きく2種類のものがある。我が国では,経済の成熟に伴い,消費性向の低下,市場ニーズの多様化,潜在化が起こりつつあり,このような状況にあって,現在では新たな需要や市場の創出を目指したイノベーションが求められており,その下支えとして新たな知の創出である独創的な基礎研究は極めて重要であるといえる。

 イノベーションが技術の蓄積から創出されるという特徴から考えても,一般的に,より基礎レベルの研究の成果の方が応用可能性が広く,実用化された場合のインパクトが大きく,かつ長期間継続する。このようなことから,我が国の企業にとっても,いわゆる基本特許に対するニーズは大きい。

 米国では,1980年代の製造業不況の時期にも基礎研究への投資が続けられ,それが結果的に1990年代の経済の再生に寄与したといわれている。我が国の大学は,実用化を意識した研究が少ないといわれることがあるが,米国の大学と比較して,実用化を意識しない基礎研究の比率が高いとは必ずしもいえない( 第1-3-10図 )。

第1-3-10図 日米の大学の全研究費に対する基礎及び応用研究に支出した研究費の比率の推移

 また,大学の使用する研究費は年々伸びてきているものの,米国と比べて小さく,さらに大学に継続して投資してきた米国とのストックの差は極めて大きい( 第1-3-11図 )。

第1-3-11図 日米の大学における実質研究費の累積額

 一方,一般に基礎的な研究は大学を中心に行われているものと考えられがちであるが,2000年における我が国の基礎研究費の総額2兆1,195億円のうち,大学が9,869億円と約半数を占めているものの,産業界も6,250億円(約30%)使用しており,企業も基礎的な研究の重要な担い手の一つと言える。米国においても企業の基礎研究費の割合は増加しており( 第1-3-12図 ),企業においても持続的な収益増加を図るとともに,大学等の研究成果を新製品の開発に結びつける上で基礎的な研究のポテンシャルが必要であることから,基礎的な研究の重要性は高まっているものと考えられる。

第1-3-12図 日米の企業における基礎及び応用研究費の比率の推移(対研究費国家総額)

 これらのことから,イノベーションの源泉となる基礎的な研究の振興に向けた取組が引き続き重要であることが分かる。また,企業が問題解決の際に高度な知識を求める「専門的知識の供給機関」としてもその役割を果たせるよう,大学における研究活動は今後ますますの活性化が期待される。


■注 不斉合成反応(分子の右型,左型の作り分け)の一つであり,野依教授は銅を触媒として不十分ながらも左右の作り分けに成功した。この発見が,ノーベル賞受賞対象となったBINAP(不斉合成触媒)の開発につながった。


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