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第1部   我が国の科学技術の創造力
第2章  我が国の科学技術システムの現状と課題
第1節  科学技術人材
1.  大学における理工系教育


 今後我が国では,人口構造の少子高齢化によって,労働力が不足することは必至であり,このような状況の中においても持続的な発展を実現するためには,創造力の豊かな人材を育成するとともに,研究開発能力を向上させることによって,国際競争力を強化し,不断のイノベーションを実現していくことが重要である。また,予想される困難な人材確保という状況の中においても,それを補うことが可能となるような生産性に優れた研究者・技術者の"たまご"となる優秀な理工系人材の養成は重要な課題である。

 大学の理工系学部への入学者数はほぼ横ばいであるのに対し,入学者数に対する志願者数の割合は1980年代後半から低下を続けている。しかしながら,志願者総数に占める理工系志願者の割合は近年ではむしろ増加しており,このことからは,「学生の理工系離れ」という現象を確認することはできない。

 自然科学系大学院への進学者数は修士課程,博士課程ともに大きく増加している。また,学部から修士課程への進学率についても1980年頃から急激に上昇しており,ここ20年で2.72倍という大幅な伸びになってきている( 第1-2-1図 )。大学院修士課程は科学技術の進展に伴い,専門化した学問分野に関する教育研究上の要請に応えるとともに,高度化する産業や学術の分野に,優れた技術と知識を持った人材を供給する役目を担っている。特に近年では,情報,バイオサイエンス,ゲノム情報科学(バイオインフォマティクス),ナノテクノロジー等社会的要請が高く,産業創出にもつながる先端的・学際的分野において,大学院研究科・専攻や研究施設の設置等を重点的に進めているところである。また,大学における教育研究の高度化の進展に伴う大学院の量的拡充や,産業界からの高度な専門性を有する人材に対するニーズの高まり等を背景として,進学者数や進学率の増加が近年加速されていると考えられる。

第1-2-1図 理工系大学院修士課程への進学率の推移

 また,修士課程修了者の大幅な増加に伴い,大学院博士課程への進学者数も,近年大幅に増加している。また,博士課程への進学者数の増加とともに博士号取得者も各分野で大きく増加してきている( 第1-2-2図 )。しかしながら,絶対数は少なく,後述するように民間企業において博士課程修了者の採用が非常に少ないことが,その原因の一つであると考えられる。

第1-2-2図 我が国の博士号取得者の分野別推移

 米国をはじめとする世界の多くの国は,科学技術の振興を重要な政策課題の一つに据え,中でも教育問題は科学技術の振興策として特に重要視されており,欧米の先進国だけではなくアジア諸国でも,大学・大学院の整備が積極的に進められている。そのような状況下で各国の博士号取得者の人数も増加傾向にある( 第1-2-3図 )。

第1-2-3図 各国の博士号取得者数の推移

 この図を見ると,我が国の1997年度の博士号取得者は,米国の3割弱,ドイツの6割弱,イギリス,フランスなどと比較しても少なくなっていることがわかる。さらに中国が我が国に迫っている状況も理解できる。本書の第2部第2章に述べているように,我が国の研究者総数は,先進国の中では米国に次いで多いことを考慮すると,博士号取得者の数はまだまだ不足していると言わざるを得ない。

 我が国には,特に民間企業の研究開発部門に,博士号を持たない優秀な研究者・技術者が数多く存在していることは事実であるが,近年では研究開発活動や経営活動において急速にグローバル化が進んでおり,博士号取得者数においても,諸外国と共通の水準に達することは重要なことであろうと考えられる。

 一方,近年,学生の質について,各所で低下しているのではないかという指摘がなされている。また,文部科学省が大学,国立試験研究機関,民間企業に在籍する研究者個人に対して実施している調査では,特に民間企業を中心として若手研究者の研究能力の平均レベルに低下が見られるとの回答が,多数寄せられている( 第1-2-4図 )。民間企業の研究開発管理担当者に対して新規採用者の資質について印象を尋ねた調査でも低下が見られるという回答は約半数になっている。

第1-2-4図 若手研究者の研究能力の平均レベルの変化

 これに対し,文部科学省では「創造的人材育成のための大学教育の改善についての緊急提言」(平成7年7月),「創造的人材育成のために」(平成8年3月),「大学院の教育研究の質的向上に関する審議のまとめ(大学審議会報告)」(平成8年10月),「21世紀の大学像と今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学-(大学審議会答申)」(平成10年10月),「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について(大学審議会答申)」(平成12年11月)などを通じて教育システムの改善を図っている。

 大学関係者は,大学の理工系分野における人材の育成で欠けていると思われるものとして,「創造性」や「積極性」を挙げており( 第1-2-5図 ),また,民間企業が研究者に求める資質として,「創造性」や「独創性」が挙げられている( 第1-2-6図 )。このため,上記をはじめとする諸提言の中でこうした資質の向上のために様々な取組が行われている。

第1-2-5図 大学関係者が理工系の人材育成において欠けていると思っていること

第1-2-6図 民間企業が研究者に求めること

 創造力をはじめとする大学・大学院生に要求されている資質を高めるためには基礎的・実践的な知識や能力を育むとともに,「発見と創造の喜び」を伝え育てる教育を実現することが極めて重要であり,そのための具体的な方策として以下のような様々な面から検討がなされている。

(大学,大学院生の資質向上のための方策)

○カリキュラムの改善として

・ディベートやプレゼンテーションを中心とした少人数による演習の導入
・外国語教育の充実と異文化理解を深めるため大学に在籍したまま行う1年程度の短期留学の推進
・自然科学や人文・社会科学の分野を超えた教育研究の総合化を目指すカリキュラム改革

○新たな研究指導の方法として

・自ら課題を設定し,その成果を小論文にまとめる演習(ミニ卒研)の早い段階における実施
・自ら設計し,制作し,その特性を測定する「創る」実験の実施
・生の現象から原理を導き出す実験の実施
・コースワークの重視

○大学外の人材との交流として

・海外の研究機関や産業界の研究者,博士課程修了者などの多様な人材が参加する創造的なプロジェクトの推進
・国立試験研究機関や民間企業の研究所等との交流と共同研究の推進を図る「連携大学院制度」の強化
・学生が企業の研究所,工場等で実習を行ったり,専門分野に関連したインターンシップやボランティアなどに参加
・大学と産業界関係者の意見交換を行う「創造教育フォーラム」等の開催

○学生への資金的な援助として

・日本育英会の奨学金の拡充
・日本学術振興会の特別研究員制度の拡充
・ティーチング・アシスタント(TA)制度やリサーチ・アシスタント(RA)制度の一層の拡充

○その他の手法として

・組織や施設設備の整備充実,設備の最先端化を図り,教育研究環境を改善
・産業界関係者も含めた大学の外部評価システムの構築とその評価の教育研究活動への反映

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