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第1部   我が国の科学技術の創造力
第1章  我が国の科学技術の成果と水準
第4節  社会的効果の見込まれる分野・技術区分の水準


 我が国の研究開発水準について,比較的産業に近い領域及び基礎研究であっても社会的効果が見込まれるものについて分析した科 学技術庁「我が国の研究開発水準に関する調査」(平成12年3月)によると次のような状況となっている( 第1-1-10図 )。

第1-1-10図 我が国の研究開発水準の対欧米比較

 まず,研究開発費及び研究開発人材を中心とする研究開発基盤と,論文発表件数及び論文被引用件数などの研究開発成果から見た我が国の水準については,次のようなことがいえる。

{1}政府の研究開発投資の面で見ると「エネルギー分野」のみが欧米諸国を上回る予算を投じているが,その他の分野では全体として貧弱である。
{2}分野別の研究開発人材の数に関する統計上の数値(人口当たり)で見る限り,我が国が著しく劣っている分野は見られない。
{3}先端分野で,かつ激しく国際競争が行われている領域で,我が国の研究開発資源が有効に投資・活用されていない傾向が認められる。
{4}情報通信,物質・材料の分野では論文及び特許の面で我が国が健闘している。

 これらの分野の主要な部分は民間企業が担っていると推定され,全体として研究開発の中心を民間企業が担っている分野では我が国の水準は高い傾向にある。

 次に,同調査報告書は,これに国内外の研究者等のインタビュー調査の結果を合わせて,社会的効果が見込まれる32技術区分からなる 7分野* についての日米欧の研究開発水準を次のように評価している。


*各研究開発分野には次の技術区分が設定されている。

ライフサイエンス:ゲノム科学,脳・神経科学,医療,食物科学,共通・基盤技術

情報通信:コンピュータ,ソフトウェア,ネットワーク,ヒューマンコミュニケーション,信頼性,システム複合

環境:地球環境,地域環境,環境リスク,循環型社会システム

物質・材料:生体材料,電子材料・工学材料,エネルギー・環境用材料,建設・輸送機器用材料,共通基盤技術

エネルギー:化石燃料・加工燃料,原子力エネルギー,自然エネルギー,省エネルギー・エネルギー利用技術

製造技術:微細加工,機械加工,アセンブリープロセス,システム技術

社会基盤:土木・建築,航空・宇宙・海洋,その他輸送機器,交通システム

[ライフサイエンス分野]

{1}我が国の水準は米国より低く,欧州よりやや低い。
{2}米国が国策的研究開発により先行している。欧州も米国に追従している。
{3}我が国の問題としては,国の取組の遅れの他に,データベース構築など,情報通信分野との境界領域の弱さがある。
{4}米国では,大学の研究がベンチャーによって産業化される仕組みができている。

[情報通信分野]

{1}我が国は全般的に見れば米国よりやや低く,欧州と同等である。
{2}我が国は情報家電に代表されるハード技術では高い技術力を持つ。
{3}欧米の特徴的取組としては,次世代の社会構想に基づくネットワーク構築,移動体無線及びPC用MPUに代表される標準化戦略を挙げることができる。またソフト技術も優れている。
{4}米国では,ライフサイエンス分野と同様ベンチャーの活動が大学と産業を接近させている。

[環境分野]

{1}我が国の水準は米国より僅かに低く,欧州よりやや低い。
{2}我が国はゼロエミッション技術や環境対策技術など既存産業と近い分野で欧米と同等。
{3}欧米はライフサイクルアセスメントに代表される次世代技術や地球科学などの国際的な活動で先行している。

[物質・材料分野]

{1}我が国の水準は欧米よりやや高い。
{2}我が国産業界の素材に関する水準は極めて高い。基礎研究,研究インフラの水準も高い。
{3}欧米は新材料の産業応用について国策的な取組を進めていることに注意が必要。
{4}基礎的な物質科学との関係が深いため,大学と産業界の距離を短縮することが求められる。

[エネルギー分野]

{1}我が国の水準は欧米よりやや高い。
{2}我が国は重要な産業技術である火力・原子力発電において高い技術力を持つ。
{3}省エネルギー,燃料電池など,エレクトロニクス・自動車産業に近い領域でも我が国は健闘している。
{4}欧米は風力発電などの自然エネルギーの一部の分野で我が国以上の取組を行っている。

[製造技術分野]

{1}次世代の製造技術を考慮すると,我が国の水準は欧米の水準よりやや低い。
{2}既存の加工・組み立て産業領域においては我が国は高い技術力を持っている。また製造活動における環境対策も進んでいる。
{3}欧米は次世代加工・組み立て技術の開発で,我が国を凌駕する国家的取組を進めている。
{4}特にドイツでは,大学が産業界の技術開発に直接的に寄与している。

[社会基盤分野](フロンティア分野を含む)

{1}土木・建築・鉄道・船舶の製造技術では,我が国の水準は欧米と同等かそれ以上である。
{2}航空,宇宙,海洋,交通システムにおいては,我が国の水準は欧米より低い。
{3}欧米は今後の情報化社会構想に基づくインフラストラクチャーの構想力や,複数要素の融合技術について先行している。

 このように,我が国は材料分野やエネルギー分野,特に素材や省エネルギー・環境対策技術などの領域については非常に高いポテンシャルを有しているが,ライフサイエンス分野や情報家電を除く情報通信分野では大幅な水準の引上げのための取組が必要である。このため,高い水準にある分野についてはそれを維持拡大するとともに,弱点を有している分野について国として重点的に強化していくことが重要な課題となっている。

(企業の技術力の国際比較)

 文部科学省「民間企業の研究活動に関する調査」(平成12年度)において,我が国の民間企業が海外の同業種の企業の技術力(製造,生産力,研究開発力を含めた総合的な能力)をどう見ているかを尋ねたところ,全体的な傾向として米国,欧州に対しては「相手のほうが優れている」と感じている企業が多く,特にライフサイエンスや情報関連産業といった今後成長が最も期待される分野での差が大きいと感じられている( 第1-1-11図 )。

第1-1-11図 技術力の国際比較

 平成11年度の同調査と比べると,相手のほうが優れているとする割合はわずかながら減少している一方で,最近の各国との技術的な格差の状況についての設問では,対欧州では,現在我が国が劣位にあるとしているソフトウェア業のように,その格差が縮小傾向にあるとする業種もあるが,医薬品工業のように格差が拡大傾向にある業種も少なくない。

 さらに対米国では,全体的にその格差が拡大傾向もしくは格差はほぼ一定であると答えており,今後我が国が米国に対し,技術的に優位に立つことが困難であるとの見方が強い。

 また,アジア諸国との技術力との比較では,現在は全ての業種において我が国が優位であるとされているが,そのほとんどで急速に追い上げられつつあるとの回答が寄せられている。

 同様の調査を行った社団法人科学技術と経済の会「技術水準の比較と将来動向」(平成11年6月)においては,情報家電,生産技術,電子デバイス等について,現在も将来も欧米,アジアに対して高い水準を保つことができるとの自信がうかがえる。一方,バイオテクノロジー,医療技術,ソフトウェア・システムについては,現在の水準は欧米に比べほぼ同等又は低いと感じており,特に,ソフトウェア・システム,医療技術については,将来も相対的に低い水準であろうと予測している。しかし,いずれの技術分野についても将来はその水準の差が縮まり,得意としていた分野では米国,欧州,アジアの追い上げが,不得意としていた分野では我が国の欧米への追い上げ及びアジアとの格差の縮小が予想されている。( 第1-1-12図 )

第1-1-12図 技術水準の国際比較と将来動向

 このように,企業は技術力について,現在の水準は欧米に比べほぼ同等又は低いと感じているが,将来的には差は縮小できると考えている。また,ライフサイエンス,情報については差が大きく,また各分野とも他のアジア諸国の追い上げを感じていることがわかる。

(国としての重点的取組)

 以上のことからも,我が国の科学技術には,国として重点的な取組が必要となっていると考えられる。

 重点分野の設定については,人類を月に送るという目標を定めたアポロ計画のように,米国では早い時期から実施されているのであるが,近年,主要国では, (参考)主要国の科学技術振興方策 (73頁〜76頁)で紹介するように,競ってライフサイエンスや情報通信,ナノテクノロジーといった分野を重点として資源の投入を行うようになってきている。

 我が国の場合も,高い水準にある分野についてそのポテンシャルを活かして創造力をより発揮することや,主要国が重点的取組によって先行している分野について国際的な水準を確保することにより,より創造力を発揮し,国際的にも貢献することができるようになる。

 第2期科学技術基本計画においては,ライフサイエンス,情報通信,環境,材料・ナノテクノロジーの4分野について重点分野として定めている。これらの分野は各国が競っていることから我が国のポテンシャルを高め又活かす必要のある分野であるのみならず,他の分野への波及効果も期待されるのであるが,何よりも社会的要請や地球的規模の課題に応えるために不可欠な分野であり,この計画に沿って適切な資源配分がなされる必要がある。また,上記4分野以外にエネルギー,製造技術,社会基盤,フロンティアの4分野があるが,これらの分野においても国の存立にとって基盤的であり,国として取り組むことが不可欠な領域を重視して研究開発を推進することが必要である。

邦人研究者起訴問題について

 平成13年5月に,日本人研究者2名が,米国からアルツハイマー病に関するDNA等を持ち出したとして,米国の経済スパイ法違反等の容疑で起訴された。

 この件については,文部科学省や起訴された研究者の一人が所属する理化学研究所において調査が行われている(平成13年5月25日現在)。

 また,基礎研究の成果が直ちに社会に影響するようになったことや研究者の流動性の向上,科学技術活動の国際化の進展に対応して,研究成果等の管理,知的財産の取り扱いの在り方等が,科学技術政策上の検討課題になると考えられている。


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