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第1部   我が国の科学技術の創造力
第1章  我が国の科学技術の成果と水準
第1節  世界的な研究成果


 平成12年10月,「導電性ポリマーの発見と開発」に関する研究で,筑波大学名誉教授の白川英樹博士のノーベル賞受賞が米国のアラン.J.ヒーゲル教授とアラン.G.マックデアミッド教授とともに決定した。この研究は,1970年代の終わりに通常電気を通さないプラスチックが導電性を示すことがあるという独創的な発見により,後に導電性ポリマーを化学者,物理学者にとって重要な研究領域へと発展させたものである。この分野は実用面でも重要となり,導電性プラスチックは,たとえばプラスチック電池,写真フィルムの帯電防止剤や発光ダイオードなどとして使用・開発されている。

 白川博士の研究は,地道な研究の中から萌芽的な発見が行われ,基礎的な研究の継続が大きな成果を生み出すものであることを如実に示している。

 このほかにも我が国においては,人類未踏の分野で,世界最高水準の研究が行われており,世界的に注目を集める成果を上げている分野も少なくない。

 例えば,素粒子物理学の分野では,岐阜県神岡鉱山の実験施設スーパーカミオカンデにおいて,素粒子の一種であるニュートリノに質量があることを世界で初めて発見するなど,物質の起源に迫る研究成果が上がっている。

 生命科学の分野では,アポトーシスと呼ばれる細胞の自殺プログラムの分子機構が解明されている。

 また,材料の分野では,青色発光ダイオードが世界に先駆けて開発され,超伝導の分野でも先端的な研究が行われている。このように,我が国においては,人類未踏の分野で世界最高水準の研究が行われている。

セレンディピティ(serendipity)

-偶然とそれを見逃さない洞察力が創造的発見を生み出す-

 「セレンディピティ(serendipity)」とは,偶然に,思いがけない幸運な発見をする才能を意味する言葉で,研究者の間では,実験室等における予期しなかった偶然ともいえる現象から新たなものを発見する能力又はその発見の事例としてよく知られている。

 この言葉は,ホラス・ウォルポール(1717-1797)というイギリスの著述家が1754年に友人に宛てた書簡の中で「セレンディップの3人の王子(Three Princes of Serendip)」という物語にちなんで造った言葉である。セレンディップとは,現在のスリランカ(セイロン)のことで,3人の王子が他国を旅する間に様々な苦難に遭うが,探していたものとは異なる幸運を偶然にもつかむという物語である。

 科学の領域では,思いもかけない偶然やちょっとしたミスが歴史的な発見につながることが少なくない。セレンディピティといえる発見の例は数多いが,著名な例として,X線やペニシリン,テフロンなどの発見のほか,マジックテープの発明などの例がある。

 セレンディピティは,偶然のみに基づくものではない。ウォルポールは,セレンディップの3人の王子は偶然と「洞察力」によって,探してもいないことをいつも発見し続けたと言っている。科学の世界では,パストゥールが「観察の分野では,周到に準備している者だけが偶然を活かすことができる」と述べているように,研究者の日頃の努力やそれに基づく洞察力が「偶然」を「発見」に創り上げるものであることがわかる。

 ノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士の場合,触媒の配合を間違えた実験を単純に失敗とみなさず,その結果に着目して研究を継続したことが成果につながったことが広く紹介されている。

失敗経験の積極的活用

 我が国においては旧来より技術や安全というものの完全性に対する期待が高いという風土があり,これがこれまで世界に冠たる我が国のもの作り技術の文化的基盤の一つとなってきた。しかしながらこのような風土や,体面を重視する慣習は,失敗や事故が発生した場合に問題を提起しづらい雰囲気を作り出し,解決しなければならない課題を先送りする結果を生み出す一因となっている。「失敗は成功の母」と言われているにもかかわらず,我が国においては失敗経験の活用が十分に行われている状況にあるとは言い難い。さらに,近年,技術にかかわる重大な失敗・トラブルが発生し,我が国の科学技術に対する信頼性が揺らいでおり,科学技術の信頼を回復・向上させることが急務となっている。

 このような状況を踏まえ,旧科学技術庁長官の私的懇談会である「21世紀の科学技術に関する懇談会(座長:大橋秀雄工学院大学学長)」において失敗経験を積極的に活用することの重要性が指摘されたことを受けて,失敗知識活用研究会(会長:佐藤文夫株式会社東芝相談役)が開催されることとなった。平成12年8月に第1回研究会が開催され,平成12年度中に6回の研究会が開催されている。委員として大学や民間から広く有識者が参画しており,これまで,学識経験者からは失敗事例の知識化の必要性や活用方法,データベース構築の在り方や失敗に関する法的責任の考え方等について意見発表が行われ,また,企業や核燃料サイクル開発機構からも具体的な事例の発表が行われて活発な議論が展開されている。

 失敗経験の知識化及びその社会的共有は,技術の信頼性の向上や革新的技術シーズの発掘につながるだけでなく,我が国の科学技術の推進における新たな文化の醸成に資することが期待されている。なお,本研究会の成果は平成13年度から科学技術振興事業団において進められる「失敗知識活用データベース」の構築等にも反映される予定である。


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