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第3部   科学技術の振興に関して講じた施策
第3章  研究活動の推進
第2節  重要研究開発分野の推進
1.  基礎的・先導的な科学技術



(1) 物質・材料系科学技術

 物質・材料系の科学技術は,原子・分子レベル,あるいは強磁場,超高真空,超高圧等の極限環境における現象・機能の解明を通して新たな科学的知見を蓄積してきただけでなく,新材料が過去において,経済社会に及ぼした影響は極めて大きなものがあり,新超伝導体の発見にみられるように,新しい材料の出現が,新しい技術を開拓し関連技術にも質的変化をもたらし,経済フロンティアの拡大等活力ある豊かな国民生活の実現,安心して暮らせる潤いある社会の構築等に大きな貢献をしてきた。

 特に,近年,情報・電子,ライフサイエンス,環境等の先端科学技術分野においては,未踏分野を切りひらく革新的な研究開発の多くは新たな材料にシーズを求めており,独創的な研究開発を推進し,科学技術創造立国を目指す上での共通的・基盤的技術として物質・材料系科学技術の重要性がより高まっている。

 また,現在推進されている核融合,宇宙開発,海洋開発等大規模なプロジェクトの推進に必要な新たな材料の研究開発の重要性が高まっており,これらのプロジェクトに適合する材料が求められている。

このような状況から,新材料の創製が課題となっている。

{1}総合的な物質・材料系科学技術の推進

 物質・材料系科学技術については,以上のような認識の下に,科学技術会議,航空・電子等技術審議会等の答申に沿って各般の物質・材料系科学技術施策が進められている。

 科学技術会議は,諮問第14号「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画について」(昭和61年5月)を受けて,本分野における研究開発目標及び推進方策に関する検討を行い,昭和62年8月に答申した。これを受け,政府は同年10月,「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画」を決定した。

 また,同会議は,第18号答申「新世紀に向けてとるべき科学技術の総合的基本方策について」(平成4年1月)を行い,この中で既成の限界を打破した高性能・新機能の物質・材料の開発等の必要性を指摘している。

 さらに,科学技術会議政策委員会研究開発基本計画等フォローアップ委員会(物質・材料系科学技術)が,平成9年6月に出した報告書においても,物質・材料系科学技術の研究開発の推進について,一層積極的な対応が図られることが期待されている。

 航空・電子等技術審議会においては,諮問第9号「新材料開発に係る計測及び制御技術の高度化のための重点課題及びその推進方策について」に対する答申(昭和61年3月)及び諮問第13号「環境条件に知的に応答し,機能を発現する能力を有する新物質・材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(平成元年11月),諮問第16号「材料開発に係わる解析・評価技術の高度化に関する総合的研究開発の推進について」に対する答申(平成3年11月),諮問第21号「原子・分子レベルの現象,機能の解明のための計算科学技術に関する総合的な研究開発の推進方策について」に対する答申(平成7年2月),諮問第23号「放射光施設の利用による先端的な物質・材料系研究開発に関する総合的な推進方策について」に対する答申(平成8年7月)などを行い,物質・材料系科学技術の総合的推進方策を示した。

{2}物質・材料系研究開発の推進

 広範多岐にわたるニーズを背景として,各省庁において様々な物質・材料系科学技術に関する研究開発が活発に進められている。

 科学技術庁においては,物質・材料系科学技術全体にかかる共通的・基盤的分野を推進するため,金属材料技術研究所において「新世紀構造材料の研究」等,無機材質研究所において「超常環境を利用した新半導性物質の研究」等の研究開発を推進するとともに,戦略的基礎研究推進制度(科学技術振興事業団),フロンティア研究システム(理化学研究所),科学技術振興調整費等各種制度により物質・材料系科学技術に関する研究を実施している。

 文部省においては,東北大学に附置されている全国共同利用施設である金属材料研究所等を中心として,独創的・先端的な物質・材料研究を展開するとともに,研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として,大学等における独創性豊かな学術研究を推進すべく,物質・材料系科学技術の基礎的研究が行われている。

 農林水産省においては,「新需要創出のための生物機能の開発・利用技術の開発に関する総合研究」の一環として,バイオプラスチック,シルクレザー等の生物素材にかかる研究開発を実施している。

 通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,「独創的高機能材料創製技術」,「シナジーセラミックス」等の研究開発が実施されている。また,物質・材料系科学技術水準の国際的向上を図るため,国際共同研究助成事業(NEDOグラント)により,国際共同研究チームが行う基礎的先導的研究開発を推進している。

{3}超伝導に関する研究開発の推進

 1986年(昭和61年),スイスIBMチューリッヒ研究所における発見を契機として,昭和63年1月の科学技術庁金属材料技術研究所におけるビスマス系超伝導体の発見など,高い温度でも超伝導現象を生じる酸化物系の新しい超伝導物質が相次いで発見された。この新超伝導物質は,それらが実用化されれば経済社会に大きなインパクトを与えるものとして,世界的に大きな期待が寄せられている。しかしながら,これら酸化物系超伝導体はまだ材料以前の段階であり,実用材料として利用されるようになるためには今後,理論の解明,新物質の探索,材料化等の基礎的・基盤的研究開発が重要である。このような点にかんがみ,科学技術会議政策委員会の下に開催された超電導に関する懇談会が昭和62年11月に取りまとめた「超電(伝)導研究開発の基本的推進方策について」等を踏まえ,関係省庁において本分野の研究開発が推進されている。

 科学技術庁においては,金属材料技術研究所,無機材質研究所,日本原子力研究所等が有するポテンシャルを最大限に活用し,研究基盤を整備するとともに,当該ポテンシャルを核として,国内外に開かれた研究者主体の柔軟な共同研究,研究者交流及び情報交換並びに技術展開を推進する「超伝導材料研究マルチコアプロジェクト」により,超伝導材料の基礎的・基盤的研究を推進している。

 文部省においては,科学研究費補助金等により基礎的研究が行われている。

 通商産業省においては,エネルギー・環境領域総合技術開発推進計画(ニューサンシャイン計画)等により,新エネルギー・産業技術総合開発機構を中心に産学官の連携の下に超電導応用基盤技術の研究開発などを行っている。

 郵政省においては,通信総合研究所を中心に産学官の連携により推進している情報通信ブレークスルー基盤研究21の一環として,「情報通信デバイスのための新機能・極限技術の研究」において,超電導材料が有する優れた電気・磁気特性を情報通信デバイス等に導入するための研究開発を実施している。

 運輸省においては,将来の高速輸送を目的とする超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けて研究開発を促進するため(財)鉄道総合技術研究所への助成等を行っている。

{4}物質・材料系科学技術の国際協力の推進

 1990年(平成2年)5月に日米科学技術協力協定に基づく協力課題となった「強磁界マグネットの開発のための研究」(金属材料技術研究所-米国国立科学財団(フランシスビッター国立磁石研究所))等の二国間国際協力や,「新材料と標準に関するヴェルサイユプロジェクト(VAMAS)」等の多国間科学技術協力などにより,数多くの共同研究,研究者交流などを推進している。

 また,標準の分野でも国際電気標準会議(IEC)に超電導専門委員会(TC90)が新設され,1990年(平成2年)から我が国が幹事国となった。

 なお,平成11年度に実施された主な物質・材料系科学技術分野の研究課題は 第3-3-1表 に示すとおりである。

第3-3-1表 主な物質・材料系科学技術分野の研究課題


(2) 情報科学技術

{1}情報科学技術の基本的推進方策等

 21世紀に向けて,コンピュータとネットワークを中心とした情報科学技術は,社会の知的・創造的基盤として位置付けられ,豊かな国民生活の実現と新たな時代を拓く原動力として期待されている。高性能なコンピュータとネットワークを駆使した新たな知のフロンティアを目指して,関係省庁の連携の下に,情報科学技術の高度化のための研究開発を推進するとともに,円滑な科学技術情報の流通体制を構築するため,平成11年6月,科学技術会議は,諮問第25号「未来を拓く情報科学技術の戦略的な推進方策の在り方について」に対する答申を行った。

 答申を踏まえ,科学技術会議政策委員会情報科学技術委員会において平成11年7月に設定された重点領域に基づき,安全で豊かなネットワーク社会の構築,人にやさしい情報システムの実現,先端的計算によるフロンティアの開拓に関する研究開発が推進されている。

{2}重点領域及び主な研究開発課題

ア.安全で豊かなネットワーク社会の構築

 インターネットの普及に象徴される今日のネットワーク社会においては,社会基盤としての安心して利用できるネットワーク,ネットワーク上の侵入者による犯罪の防止や,安全なネットワーク社会の充実ということが要請されている。特に,より多くの端末をサポート可能なフレキシブル・ネットワーク技術や,耐故障・自己修復・動作監視等に優れた高信頼性のセキュア・ネットワーク技術に関する研究開発を推進する必要がある。

 具体的な研究開発課題としては,科学技術庁による「分散型デジタル・コンテンツ統合システム開発」,郵政省による「次世代インターネット通信方式高度化の研究開発」等がある。

イ.人にやさしい情報システムの実現

 様々な情報システムが我々の日常生活に深く根ざしてくる社会においては,あらゆる人にとって十分に使いやすい情報システムを実現することが社会の要請となっている。特に,バリアフリーな情報システムを実現するための様々なデバイス技術や,ユーザがコンピュータを抵抗なく使いこなせるようなユビキタスコンピューティング技術等に対する社会の期待は大きい。

 具体的な研究開発課題としては,通商産業省による「ヒューマンメディア」,郵政省による「フレンドリーなコミュニケーション社会の研究」等がある。

ウ.先端的計算によるフロンティアの開拓

 従来,理論的なアプローチや,実験的なアプローチでは対応が困難であった複雑な諸問題の解決に当たって,先端的な計算科学技術が有効な手段として注目されており,その手法を用いたフロンティアの開拓が様々な分野から要請されている。大規模設計の画期的な効率化,製造コストの削減に資するバーチャルエンジニアリングの手法や,生命科学分野・地球環境分野等における先端的なシミュレーション手法やデータマイニング手法の確立が求められている。

 具体的な研究開発課題としては,科学技術庁による「地球シミュレータの開発」,通商産業省による「高機能材料設計プラットフォーム」,「革新的鋳造シミュレーション技術」等がある。

{3}その他の取組

 文部省は,中核的な研究機関の創設,人材の養成,研究費の充実等を提言した「情報学研究の推進方策について」の建議(平成11年11月 学術審議会)を踏まえ,平成12年度には学術情報センターを母体とし,情報学研究を総合的に進めていくことを目指した国立情報学研究所を創設する。

 平成11年度に実施された主な情報科学技術分野の研究課題は 第3-3-2表 に示すとおりである。

第3-3-2表 主な情報科学技術分野の研究課題


(3) ライフサイエンス

 ライフサイエンスは,生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明する科学であるとともに,その成果を医療,環境,農林水産業,産業等の種々の分野に応用するための科学技術であり,国民生活の向上および国民経済の発展に大きく寄与するものである。

{1}ライフサイエンス研究の基本的推進方策

 我が国においては,昭和46年,科学技術会議が第5号答申において,ライフサイエンス振興の重要性を指摘して以来,国として積極的に推進することとしており,平成9年8月には,今後10年程度を見通した我が国のライフサイエンス研究開発の在り方を示す,「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定された。我が国におけるライフサイエンスに関する研究開発は,本基本計画に基づいて推進している。

 本基本計画は,我が国がライフサイエンス分野での世界の先駆者を目指すに当たって,我が国独自の戦略が必要であるとし,本分野において国として特に取り組むべき領域として,脳,がん,発生,生態系・生物圏に関する研究開発といった統合システムとしての生物に関する研究開発,及びゲノム等基礎的生体分子に関する研究開発を選定している。また,クローン個体の作製等,生命倫理に関する問題等についても考え方を示している。

 また,ライフサイエンスの産業応用については,「経済構造の変革と創造のための行動計画」,「産業再生計画」において,重要分野とされており,産業化への取組の強化のため,平成11年1月において,これらの計画を踏まえ,バイオテクノロジーの研究開発とその産業化の促進に取り組む旨,関係5大臣(科学技術庁長官,文部大臣,厚生大臣,農林水産大臣,通商産業大臣)が,「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本方針」を申し合わせた。また,7月には,その具体化を図るため,関係5省庁が「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本戦略」を策定した。

 平成12年2月には,文部省学術審議会特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会において,基礎生物学の研究,ゲノム研究,脳研究などの分野別研究の推進方策や大学等におけるバイオサイエンス研究の体制整備などについて建議が取りまとめられた。

 平成12年度政府予算案では,高齢化社会に対応し個人の特徴に応じた革新的医療の実現および豊かで健康な食生活と安心して暮らせる生活環境の実現のため,2004年度を目標に,

1.痴呆,がん,糖尿病,高血圧等の高齢者の主要な疾患の遺伝子の解明に基づくオーダーメイド医療を実現し,画期的な新薬の開発への着手
2.生物の発生等の機能の解明に基づく,拒絶反応のない自己修復能力を利用した骨・血管等の再生医療の実現
3.疾患予防,健康維持のための植物の高品質化によるアレルゲンフリー等高機能食物及び農薬使用の少ない稲作の実現

を目標とするミレニアム・プロジェクトに関連する予算が計上された。

{2}ゲノム関連研究

 生命機能の根源であるゲノム,遺伝子及びタンパク質の構造及び機能に関する研究は,その成果を通じて広範な領域における新技術・新産業の創出が見込まれる分野である。また,この分野の研究は諸外国も力を入れており,国際的な特許競争が激化しつつある。我が国としても,この大きな発展性を秘めた戦略分野における国際的な優位性を確保するため,積極的な取組を行っていく必要があるとして,平成10年6月には科学技術会議ライフサイエンス部会ゲノム科学委員会が,我が国のゲノム科学研究推進に関する長期計画として,「ゲノム科学に関する研究開発についての長期的な考え方」を決定している。また,同委員会は,7月には「我が国におけるゲノム研究の現状」を,8月には「ヒトゲノム多型情報に係る戦略について」を決定した。

 このような背景の下,我が国におけるゲノム科学研究を計画的に推進するため,科学技術会議ライフサイエンス部会ゲノム科学委員会及びゲノム科学研究推進関係省庁連絡会の調整の下,省庁の枠を超えて,大学,国立試験研究機関等の能力を最大限に活用・結集した研究開発を進めている。

 具体的には科学技術庁においては,平成10年10月理化学研究所に我が国におけるゲノム科学研究の中核的拠点として,「ゲノム科学総合研究センター」を設置するとともに,科学技術振興調整費や科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進事業による省庁の枠を超えた公募型研究推進事業等が行われているほか,科学技術振興事業団における高機能基盤生体データベース開発事業,放射線医学総合研究所における放射線影響遺伝子の解析等を実施している。

 なお,平成12年度政府予算においては,ミレニアム・プロジェクトの一環として,科学技術振興事業団における標準多型(SNPs)に関する解析・データベースの整備および理化学研究所における標準多型データベースを利用した体系的な遺伝子等の探索研究等を行う遺伝子多型研究センターの新設が盛り込まれた。

 文部省では,科学研究費補助金や未来開拓学術研究推進事業によりヒトゲノムをはじめとするゲノム解析研究の重点的支援を行うとともに,東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターを中心とする研究開発拠点の整備を図り,オーダーメイド医療の確立を目指す。また,国立遺伝学研究所が運営するDDBJ(日本DNAデータバンク)をはじめとするヒトゲノム関連データベースの整備を推進することとしている。平成12年度政府予算において,科学研究費補助金に特定領域研究(c)の種目を設け,総合ゲノム,ゲノム医科学,ゲノム生物学,ゲノム情報科学の4領域を設定し,ゲノム研究を推進することとしている。厚生省では,老化・疾病に関連する遺伝子の解析を行っており,農林水産省では,農業生物資源研究所等を中心に,イネ,動物等を対象として,イネいもち病抵抗性遺伝子等農業生産上有効な遺伝子の単離,DNA利用技術の開発及びその成果を体系的に収集・蓄積・提供する農林水産省ジーンバンク事業を実施している。特に,平成10年度より,イネ・ゲノムの全塩基配列解読を中心とする第2期イネ・ゲノム計画を推進しており,世界的な評価を受けている。また,平成11年度補正予算において,約3万種に及ぶイネの完全長cDNAライブラリーの整備を開始した。なお,平成12年度政府予算においては,ミレニアム・プロジェクトの一環として,イネ・ゲノムの重要な部分の塩基配列の解読を先行的に実施するとともに,有用遺伝子の単離・機能解明,育種手法の飛躍的効率化・高度化を図る技術の開発を推進するイネ・ゲノム研究の加速化が盛り込まれた。さらに通商産業省では,生命工学工業技術研究所におけるゲノム機能の研究・技術開発,製品評価技術センターにおける産業有用微生物のDNA解析等を実施しているほか,新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ民間活力を利用することにより,遺伝子情報解析のための技術開発等を行っている。なお,平成12年度政府予算案においては,遺伝子3万個の解析を目標としたcDNA構造解析,日本人を対象とした標準SNPsの解析,バイオテクノロジー関連の膨大なデータの利用環境の高度化を図るための総合データベース構築等が盛り込まれている。

 タンパク質は,特異な立体構造(高次構造)を形成し,分子間相互作用,高次構造変化などを通じて機能を発揮することから,多数のタンパク質の立体構造を解明することにより,生命現象を明らかにすることが可能である。将来的にはゲノムの1次構造から,タンパク質の機能を推定することが可能となり,ゲノム解析の情報を最大限に活用できると期待されている。

 その結果,我が国における生物学等の基礎科学の進展のみでなく,効率的,合理的な新薬の開発,環境に優しい生産技術の開発等の幅広い分野への応用が期待されている。

 科学技術庁においては,理化学研究所において,タンパク質の構造解明に関する研究が行われたほか,通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,「複合糖質生産利用技術」,「加速型生物機能構築技術」等の研究開発が行われている。

{3}脳科学研究の推進

 脳は,多くの可能性を秘めている21世紀に残された大きなフロンティアであり,脳科学研究は,その成果を通じて,人間の心の理解による社会生活の質の向上につながることが期待されるとともに,医学の向上,新技術・新産業の創出につながることが期待される分野である。平成8年3月の学術審議会バイオサイエンス部会報告が「大学等における脳研究の推進について」を決定しており,平成9年5月には,科学技術会議ライフサイエンス部会脳科学委員会が,我が国の脳科学研究推進に関する長期計画として,「脳に関する研究開発についての長期的な考え方」を決定している。

 こうした背景の下,平成9年度より,我が国における脳科学研究の大幅な強化が図られ,国内外の研究者のポテンシャルを結集して脳科学研究を計画的に推進するために,科学技術会議ライフサイエンス部会脳科学委員会及び脳科学研究推進関係省庁連絡会の調整の下,省庁の枠を超えた多くの大学,国立試験研究機関の能力を最大限に活用して研究開発を進めている。

 具体的には,科学技術庁においては,平成9年11月,理化学研究所に我が国における脳科学研究を牽引する機関として「脳科学総合研究センター」を設置し,科学技術振興調整費及び科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進制度による省庁の枠を超えた公募型研究推進事業等が行われている。

 また,文部省においては,平成9年度に中核的研究拠点形成プログラムの研究拠点として,新潟大学脳研究所を指定する等,大学等における脳研究の拠点の整備を図るとともに,平成12年度政府予算において,科学研究費補助金に特定領域研究(c)先端脳の設定や未来開拓学術研究推進事業による本分野の基礎研究の重点的な推進に努めている。

 さらに,厚生省の精神・神経系機能研究や痴呆に関する研究,農林水産省における家畜の脳神経系機能研究,郵政省における生命の情報通信機能の解明と適用の研究等の研究が各省庁において実施されている。

 また,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)において,平成2年より脳機能研究への国際的枠組みによる研究助成が行われている。

{4}発生・分化・再生科学研究の推進

 発生・分化・再生領域の研究は,個体が創られていくプログラム,生物が個体として総合的に機能するルールといった高次の生命現象が産み出される基本メカニズムの解明及びその応用につながるものである。特に,近年の幹細胞研究の急速な進展に伴い,拒絶反応のない細胞移植技術の開発(骨髄,皮膚等)等,再生医療面での応用の可能性が開けてきている。

 このため,平成12年度政府予算においては,ミレニアム・プロジェクトの一環として理化学研究所に発生・再生科学総合研究センターを整備し,生物の発生・分化・再生の基本メカニズムを解明し,先進的な再生医療に資するものとすることが盛り込まれた。

 また,文部省においては,東京大学医科学研究所先端医療研究センター,岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター及び熊本大学発生医学研究センター等を整備するとともに,未来開拓学術研究推進事業を推進し,発生・分化・再生の分子レベルでの解明により,幹細胞の人為的な形成法を確立し,拒絶反応のない自己修復を利用した血管等の再生医療に資するものとして盛り込まれた。

{5}植物科学研究の推進

 平成10年度より,イネ・ゲノムの全塩基配列読解を中心とする第2期イネ・ゲノム計画を推進しており,世界的な評価を受けている。このようにゲノム科学の発展に伴い,植物ゲノムの構造解析・機能解析も進展しつつあり,これらの成果を基に植物機能をコントロールすることにより,食生活の向上等に資する植物を開発することが期待されている。

 このため,平成12年度政府予算においては,理化学研究所に植物科学研究センターを整備し,植物ゲノム解析による植物機能のコントロール研究を行い,高機能作物や低農薬作物の開発に資するものとすることが盛り込まれた。

 また,文部省においては,植物遺伝子機能の解明により,遺伝子組換え植物の安全性を確立し,機能性作物や低農薬作物の開発を行うため,筑波大学遺伝子実験センターを整備するとともに,未来開拓学術推進事業により植物遺伝子研究を推進するものとして平成12年度政府予算に盛り込まれたところである。

{6}生命倫理問題に関する取組

 平成9年2月,成体の体細胞の核移植によるクローン羊の産生の発表を契機に人のクローン産生の可能性を視野に入れてライフサイエンス研究開発と生命倫理の問題とのかかわりについての議論が巻き起こった。これに対して平成9年3月,科学技術会議政策委員会において人のクローン産生に対する政府予算の配分を差し控えること等が決定された。これに基づき関係省庁は,人のクローン産生に関する研究を差し控える措置を実施している。その後同年8月に内閣総理大臣決定された「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」において,本問題に関する基本的な方向性が示され,畜産動物等の動物クローン個体の産生や個体を産み出さないヒト細胞の培養等は情報の公開を行いつつ適宜推進すべきとする一方で,人のクローン個体の産生については,社会的に容認されていないこと,科学面,安全面の知見の蓄積が不十分であること,人間の本質にかかわる種々の問題を内包している等の理由から,これを実施しないこととすべきであるとし,このための研究資金の配分の差し控えを当面継続するとともに,法規制の必要性等,具体的な方策について,国際的動向等に留意しつつ議論を尽くしていくべきであるとした。これを受けて,同年9月,科学技術会議に人に関連する生命倫理にかかわる科学技術の在り方を検討するため,生命倫理委員会が設置された。

 クローンについては具体的な方策を検討するため,平成10年1月生命倫理委員会にクローン小委員会が設置され,クローン技術に関する検討を行い,一般の意見公募を踏まえ,平成11年11月に,「クローン技術によるヒト個体の産生等に関する基本的な考え方」をとりまとめ,これを受けて,同年12月に生命倫理委員会において,人クローン個体等の産生については,法律による規制が必要との決定を行った。

 また,平成10年11月の米国においてヒトの胚からヒト胚性幹細胞(ES細胞:無限に分裂が可能であり,どのような細胞にも分裂可能な細胞)の樹立に成功したとの発表を受け,ヒト胚(受精卵)の研究利用が新たな領域に広がった。

 これを受けて,平成10年12月に生命倫理委員会の下に,ヒト胚研究小委員会を設置し,ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚等を取り扱う研究について検討を行い,一般の意見公募を経て平成12年3月に報告書「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究についての基本的考え方」をとりまとめ,これを受けて,同月生命倫理委員会においてヒト胚を生命の萌芽として尊重し,厳格な規制枠組の下にES細胞の樹立が行われるべきとの方針を示した。

 一方,学術審議会では平成9年4月以降バイオサイエンス部会に「クローン研究における新たな倫理的問題等に関するワーキンググループ」(平成11年2月,「クローン研究専門委員会」に改組)を設置し,大学等におけるクローン研究について検討を行い,平成10年7月に,大学等において,ヒトのクローン個体の産生を目的にする研究またはそのおそれのある研究,具体的にはヒト体細胞(受精卵,胚も含む)由来核の除核卵細胞への核移植を禁止し,これを文部省の指針により示すことを内容とする報告を取りまとめ,同年8月これを受けて文部省は「大学等におけるヒトクローン個体作成についての研究に関する指針」を告示し,また,ヒト胚性細胞の研究を大学等において行おうとする場合の取扱いについては,上記のワーキンググループで上記の指針を準用することが確認され,その旨文部省から大学等の研究機関に通知した。

{7}組換えDNA研究の推進

 組換えDNA研究は,基礎生物科学的な研究はもとより,疾病の原因の解明,医薬品の量産,有用微生物の開発,農作物の育種等広範な分野において人類の福祉に貢献するものである。他方,組換えDNA実験は,生物に新しい性質を持たせるという側面があるため,その実施に当たっては慎重な対応が必要である。科学技術会議は昭和54年,第8号答申「遺伝子組換え研究の推進方策の基本について」において,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針を提示した。これを受けて同年,内閣総理大臣により「組換えDNA実験指針」が定められ,我が国でも様々な分野において組換えDNA実験が実施されるようになった。その後の科学的知見の増大に伴い,指針は逐次改訂されている。本指針の下で行われる研究は年々増加する傾向にあり,今後とも安全性を確保しつつ科学的知見の増大等に応じて指針の見直しを行っていくこととしている。

 一方,文部省においては,昭和53年に学術審議会がこの分野の研究者の自主的意見を踏まえて,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針案を作成し,これに基づき,昭和54年に指針を告示した。その後,安全性に関する知見の蓄積に伴い,逐次指針の見直しを行っており,平成10年3月にも,研究の進展に基づく最新の知見を反映すべく,9度目の指針の改定に関する報告が,学術審議会の専門委員会より公表された。また,平成13年1月の文部科学省への省庁再編に備えて,組換えDNA実験指針の統一化に向けた検討を行っている。

 また,組換えDNA技術の産業化段階における利用は,これまでWHOやOECDを中心に安全性評価についての国際的な概念作りが進められ,こうした流れに沿って我が国においても厚生省,農林水産省及び通商産業省がそれぞれの分野について作成した指針に基づくこととされており,産業レベルでの組換えDNA技術の応用に対応している。これらの産業利用にかかる指針も,科学的知見の集積に伴い,逐次改訂されてきている。さらに組換えDNA技術の利用に当たって,OECDや生物多様性条約の締約国間で国際的調和を図るための検討が進められている。

{8}遺伝子治療に関する研究の推進

 遺伝子治療(疾患の治療を目的として,遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること)の確立を目的とする臨床研究については,厚生省においては,その科学的妥当性及び倫理性を確保し,適切な実施を確保するため,平成5年4月に厚生科学会議でガイドラインを定め,平成6年2月には指針を告示した。他方,文部省においても,大学等における遺伝子治療の臨床研究についてその適切な実施を確保するため,平成6年6月には大学等における遺伝子治療臨床研究についてのガイドラインを告示している。

 米国での遺伝子治療の臨床研究の大部分は,企業が遺伝子治療用医薬品等の承認申請を目指して臨床試験として行われている。

 日本においても遺伝子治療用医薬品の臨床試験が行われる可能性が出てきたため,厚生省においては,平成7年11月に「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性確保に関する指針」を通知した。

 平成11年度に実施されたライフサイエンス研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-3-3表 のとおりである。

第3-3-3表 主なライフサイエンス分野の研究課題


(4) ソフト系科学技術

{1}研究開発基本計画の決定

 複雑化・高度化した社会において人間の知的活動の支援が求められ,また,モノ重視の大量生産・消費社会から脱皮し,ゆとりや豊かさを実感できる質の高い生活が求められている現在,科学技術の在り方は大きな転換期を迎えており,「人間や社会」の観点の重視が必須となっている。

 このような時代背景に応えるものとして,平成4年12月に科学技術会議諮問第19号「ソフト系科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申が出され,平成5年1月にソフト系科学技術に関する基本計画として内閣総理大臣決定された。

 研究開発基本計画においては,ソフト系科学技術を「人間・社会,ハードウェアといった実体的対象の能力や機能を発揮させ,その最も有効な利用・運用を図るための科学技術」,言いかえれば,人間・社会に関する知見を基盤として,ハードウェアはいかに構成されるべきか,いかに動かすべきか,また,人間の知的能力や社会の活動能力をいかに支援し活性化していくかについて考えていく科学技術体系ととらえ,その推進に当たっての重要研究開発課題,研究開発の推進方策を示している。

 また,関連する報告として科学技術庁長官の諮問機関である資源調査会においても,平成4年7月に知的技術(人間の知的活動を支援又は代替する技術)について,その重要性,現状と将来展望及び今後の発展のための方策が取りまとめられている(報告第115号)。

{2}研究開発の現状

 ソフト系科学技術は,今後の科学技術に新たなブレークスルーをもたらす基礎的・先導的科学技術として,また,人文・社会科学と自然科学を融合した新しい総合的科学技術として重要な役割を果たすと期待され,近年,ソフト系科学技術に関連した研究機関や大学の学科の整備が進み,研究開発活動等の取組が活発化してきている。

 平成11年度に実施された主なソフト系科学技術の研究課題は 第3-3-4表 に示すとおりである。

第3-3-4表 主なソフト系科学技術分野の研究課題

{3}科学技術政策に関する調査研究活動

 科学技術政策研究は,社会・経済事象も含んだ科学技術を巡る諸事項を総合的に取り扱うものであり,研究対象,研究手法とも極めて広範多岐にわたっている。研究を進めるに当たっては,国際性及び学際性を重視した広い視野に立ちつつ,時代や社会の要請に応じ,適切かつ積極的な研究活動の展開を図っていく必要がある。

 このような基本認識の下,昭和63年に科学技術庁に設置された科学技術政策研究所(NISTEP)においては,イノベーション政策の基礎となる理論を確立するための研究や当面の政策課題のための実証的調査研究を,長期的・国際的視点に立ちつつ,体系的に進めている。

 具体的には,理論を確立するための調査研究として,技術革新プロセスや研究開発投資の経済効果など科学技術の構造・動態や科学技術の経済社会への効果に関する分析,科学技術の研究開発推進システムに関する分析などを行っている。また,当面の政策課題のための実証的調査研究としては,科学技術指標や科学技術人材など科学技術振興条件及び制度に関する分析,科学技術と人間・社会とのかかわりに関する分析,地域における科学技術振興及び科学技術の国際的展開に関する分析,科学技術の動向及び将来予測に関する分析などに取り組んでいる。

 ここでは科学技術政策研究所の最近の調査研究の成果から,以下の二つを取り上げ,その活動の一端を紹介する。

○先端科学技術と法的規制(生命科学技術の規制を中心に)

 英国でクローン羊ドリーの誕生が報じられて以来,ヒトクローンの創出を憂慮する声明や具体的禁止措置が講じられるなど,我が国でもクローン技術の規制に関し科学技術会議等において検討が進められている。そこで,本研究では,生命科学技術ないし生殖医療技術に関する法学的検討状況を概観した上で,規制態様,規制根拠などについて現時点での考え方を整理した。

○日本のベンチャー企業と起業者に関する調査研究

 高齢化と国際競争の進展を前提にすると,わが国が将来にわたって一定の経済成長を維持するためには,国内における技術進歩がますます重要になると考えられる。

 ベンチャービジネス,とりわけ,技術系ベンチャー企業は,我が国におけるイノベーション(技術革新)を促進し雇用創出・国民所得拡大に貢献するだけでなく,わが国における技術基盤の空洞化を回避する上でも重要な役割を担うと期待されている。

 そこで,本研究では,技術系ベンチャー企業の育成・支援政策の立案に際して必要となるデータを質問票調査・インタビュー調査などにより収集したうえで,データの国際比較を通じて,わが国におけるハイテクベンチャー支援施策の在り方を考察した。ベンチャー企業の起業成功要因に関する調査結果を 第3-3-5図 に示す。起業成功の外的な理由としては様々な要因が考えられるが,創業して10年未満の企業および研究開発型の企業にとって,公的支援政策は成功にとって相対的に重要な要因であることが分かる。

第3-3-5図 起業成功の外的理由


(5) 先端的基盤科学技術

 各分野の科学技術の発展に伴い科学技術が複雑化する中で,異なる分野の間で共通的に利用できる基盤となり,また,それらの分野を一層発展させる鍵となる技術の重要性が認識されてきた。例えば,極微小な物質を高精度で計測・操作する技術,リアルタイム・多次元の観測・表示技術等の計測・分析技術の推進が重要となっている。

{1}先端的基盤科学技術の基本的推進方策等

 これらの先端的な基盤科学技術は,異分野科学技術の相互乗り入れを促進し,新しい応用分野の開拓や従来の発想では困難であった課題に対してのブレークスルーを提供することが期待されている。

 このような状況を踏まえ,先端的基盤科学技術の研究開発を計画的に推進するため,内閣総理大臣から科学技術会議に対して,諮問第21号「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画について」が諮問され,科学技術会議は平成6年12月12日に答申を行い,これをもとに同年12月27日に「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定された。

{2}重要研究開発課題

 上記のような推進方策の下,先端的基盤科学技術として,例えば,微小要素デバイス技術,微小制御技術,微小設計技術等を総合したマイクロエンジニアリング技術など,既存の分野の科学技術を結合した新しいタイプの基盤科学技術も発達してきている。

 さらに,地球環境への影響の少ない永続的な生産活動,複雑な機械でも無理なく操作できるシステム,高齢化に対応した機械システムの構築技術など,自然環境との調和,人間・社会との調和など人類の活動を取り巻く複雑な問題を解決するための,様々な技術領域を融合して問題を解決するための基盤技術が重要となっている。

 具体的には,科学技術振興調整費による「機能性分子による熱流体センシング技術の研究開発」が,通商産業省の産業科学技術研究開発制度による産業技術融合領域研究所を中心とした「原子・分子極限操作技術(アトムテクノロジー)」の研究開発や機械技術研究所を中心とした「マイクロマシン技術」の研究開発をはじめ,電子技術総合研究所による「分光反射率計測技術とその適合材料評価技術に関する研究」,物質工学工業技術研究所による「特異的作業場を利用した高感度計測に関する研究」が行われている。

 また,平成11年度に実施された主な先端的基盤科学技術分野の研究課題は 第3-3-6表 に示すとおりである。

第3-3-6表 主な先端的基盤科学技術分野の研究課題


(6) 宇宙開発・航空技術

{1}宇宙開発

 宇宙開発は,人類の知的フロンティアの拡大を目指すとともに,地球環境問題等の解決(オゾン層観測,熱帯雨林の状況把握等),質の高い豊かな生活の実現(通信・放送,気象観測等),将来の新技術・新産業の創出(材料,エレクトロニクス等)等に貢献するものとして,極めて重要なものである。

 我が国は,昭和45年に人工衛星「おおすみ」の打上げに成功して以来,平成11年12月末までに66個の人工衛星を打ち上げており,米国,旧ソ連に次ぐ世界第三の人工衛星打上げ国となっている。今後の我が国の主な人工衛星の打上げ計画は 第3-3-7表 に示すとおりである。

第3-3-7表 我が国の主な人工衛星等の打上げ計画

 我が国の宇宙開発は,宇宙開発委員会が定めた宇宙開発政策大綱及び,それに沿って具体的内容を定めた宇宙開発計画に従い,宇宙開発事業団,文部省宇宙科学研究所を中心とする関係各機関の協力の下に,総合的かつ計画的に推進されている。

 宇宙開発政策大綱は,昭和53年に策定され,その後昭和59年及び平成元年に改訂されてきたが,国際水準の宇宙開発能力の達成,世界の宇宙開発における民生利用や国際協力の重視,科学技術基本法の制定といった情勢変化を受け,平成8年1月に3度目の改訂が行われた。新大綱では,これまでの技術基盤確立を主眼とした宇宙開発を一歩進め,本格的宇宙利用時代の実現への新たな展開を目指したものとなっており,地球観測,宇宙科学,宇宙環境利用活動等の充実に取り組むこと,新たな分野として月探査等に取り組むこと,社会の動向を的確に反映し,また,国民の理解と協力を得るため,広報活動の強化等に取り組むことを挙げている。

 なお,我が国の宇宙開発においては,近年,事故・不具合が連続して発生しているが,宇宙開発委員会では,平成11年12月より特別会合を開催し,宇宙開発事業団の組織・体制のみならず,宇宙開発事業団と産業界が一体となって取り組むべき信頼性確保の方策について,産業界の製造現場における品質保証,検査等の在り方にも踏みこんだ検討を行った。また,宇宙科学技術の効率的かつ確実な実施を図る観点から,科学技術庁及び文部省の担当局長,文部省宇宙科学研究所,科学技術庁航空宇宙技術研究所,宇宙開発事業団の3機関の長からなる協議会を平成12年2月より開催し,3機関における連携・協力を深めていくための方策の検討を行っている。

ア.地球観測・地球科学

 平成7年3月に静止気象衛星「ひまわり5号」を打ち上げ,現在運用中である。その後継の気象ミッション機能と航空管制業務のための機能を持つ運輸多目的衛星(MTSAT)については,平成11年11月にH-IIロケット8号機により打ち上げられたが,第1段エンジンの早期燃焼停止により打上げに失敗した。

 平成9年11月にH-IIロケット6号機により打ち上げられた(技術試験衛星VII型(ETS-VII)と同時に打上げ),全地球的規模のエネルギー収支のメカニズム解明等に不可欠な熱帯降雨の観測等を行うことを目的とした,日米共同開発による熱帯降雨観測衛星(TRMM)には,郵政省通信総合研究所及び宇宙開発事業団が開発した降雨レーダが搭載されており,現在観測が行われ,平成10年6月からその観測データの提供が開始されている。

 ほかに,地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)「みどり」の広域地球観測技術の継承,発展等を図ることを目的とする環境観測技術衛星(ADEOS-II)及び地図作成,地域観測,災害状況把握,資源探査等への貢献を図ることを目的とする陸域観測技術衛星(ALOS)の開発等が進められている。

イ.宇宙科学・月探査

 科学の分野においては,文部省宇宙科学研究所が中心となり,全国の大学等の研究者の参加の下に,科学衛星を打ち上げており,近年においては,火星大気の構造及び運動並びに太陽風との相互作用の研究を目的とする第18号科学衛星(PLANET-B)「のぞみ」を打ち上げた。「のぞみ」は,平成15年末から平成16年初頭にかけての火星軌道投入に向けて現在火星遷移軌道上を航行中である。また,月内部の地殻構造及び熱的構造の解明を目的とする第17号科学衛星(LUNAR-A),小惑星等から岩石等のサンプルを採取し,地球に持ち帰るミッションの工学的実験を行う第20号科学衛星(MUSES-C),宇宙初期の原始銀河等の解明のための長波長電磁波(遠赤外線)による観測を行う第21号科学衛星(ASTRO-F),太陽活動の成因と太陽活動の要因を解明するため,太陽表面の微細磁場構造とその運動を観測する第22号科学衛星(SOLAR-B)の開発等を進めている。

 また,月探査については,月の起源と進化の解明及び将来の宇宙活動に不可欠な月の利用可能性の調査のためのデータを月面全域について取得するとともに,月面軟着陸技術等の月探査に必要な基盤技術を開発することを目的とする月周回衛星(SELENE)の開発研究を進めている。

 なお,活動銀河核からなどのX線の観測を目的とする第19号科学衛星(ASTRO-E)については,平成12年2月にM-Vロケット4号機による打上げにおいて,第1段モータの異常により軌道投入に失敗した。今後は,これまで活躍を続けてきた4番目のX線天文衛星「あすか」の寿命が続く限り利用するなどにより,引き続き,世界のX線天文研究の推進のために貢献することとしている。

ウ.通信・放送・測位等

 高度移動体衛星通信技術,衛星間通信技術及び高度衛星放送技術等の開発・実証を目的とした通信放送技術衛星(COMETS)については,平成10年2月に打ち上げられ,ロケットのトラブルにより静止軌道投入には失敗したが,軌道変更の後,実験可能な軌道への移行に成功し,以降,可能な限り通信・放送実験を実施し,平成11年8月に運用を停止した。

エ.宇宙環境利用の促進

 宇宙環境は,微小重力,高真空等の地上では容易に得ることのできない特徴を有している。微小重力下で物質科学やライフサイエンス等の実験を行う効果として,{1}沈降や対流がないため,高品質・高精度の物質生成が可能,{2}流体の容器をなくせるため,不純物が混ざらない,{3}生体におよぼす重力の影響が確認できる,などが挙げられる。また,宇宙の高真空場により,{1}不純ガスの混入がない,{2}広大な真空場が実現される,などの効果が期待される。今後,宇宙環境を利用した極めて広範な分野にわたる研究や実験,観測等を進めていくことにより,例えば,地球上の環境に隠されていた現象の発見や解明など新たな科学技術の展開をもたらす研究が可能となるほか,地球上で進化してきた生命体と重力等の地球環境との関係を問い直し,生命現象を解明し,宇宙スケールで生命の可能性を探求する研究も可能となる。さらに,新材料や医薬品の創製,新たな生産技術や医療法の開発,地球環境保全につながる技術の獲得など,社会の発展や生活の向上に寄与する研究開発が一層推進されることが期待される。

 宇宙開発事業団では,国際宇宙ステーションの日本の実験棟(JEM;愛称「きぼう」)の与圧部共通実験装置,曝露部実験装置の開発を進める一方,各種公募等による研究活動を推進している。平成9年度から実施している地上研究公募は,宇宙環境を利用する準備段階として幅広い分野の研究者に研究機会を提供するもので,平成11年度には合計89テーマが選定されている。また,民間企業の宇宙環境利用の促進を目的とし,その有効性を実証するパイロットプロジェクトとして,平成11年4月より先導的応用化研究を開始している。さらに,国際宇宙ステーション参加各機関の実験装置を相互利用し,効率的に科学的成果を得ることを目的としたライフサイエンス分野の国際公募に参加しており,平成11年度には日本から5テーマが搭載候補として選定されている。

オ.人工衛星の基盤技術

(ア)技術試験衛星(ETS)

 国際宇宙ステーションあるいは将来型人工衛星への物質の輸送及び軌道上作業等,21世紀初頭の宇宙活動に対応するために必須の技術の確立を目指し,これら将来の人工衛星に必要となる共通技術の開発を行う衛星として,技術試験衛星「きく」が開発されている。平成9年11月に打ち上げられた技術試験衛星VII型(ETS-VII)「おりひめ/ひこぼし」(きく7号)においては,世界初の無人機同士の自動制御によるランデブ・ドッキング実験,遠隔制御によるロボット実験等を実施し,将来の自在な宇宙活動に向け大きな技術成果を収めている。

 また,大型衛星バス技術,大型展開アンテナ技術,移動体衛星通信システム技術,移動体マルチメディア衛星放送システム技術及び高精度時刻基準装置を用いた測位等にかかわる基盤技術の開発並びにそれらの実験・実証を行うことを目的とする技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)の開発を進めている。

(イ)ミッション実証衛星(MDS)

 宇宙開発をより一層身近なものとし,また,高度化・多様化するミッション需要に対応するため,先端的なミッションないしミッション機器の宇宙実証を行うことを目的としたミッション実証衛星(MDS)の初号機として民生部品の軌道上における機能確認,コンポーネント等小型化技術確認及び放射線等の宇宙環境の計測を目的とする民生部品・コンポーネント実証衛星(MDS-1)の開発を進めている。一方,地球温暖化・気候変動等の解明に有効な観測手段であるライダー(レーザー光を用いたレーダ)の実証を目的とするライダー実証衛星(MDS-2)については,宇宙開発事業団の過密な開発・打上げスケジュールの見直し及び中小型衛星シナリオの見直しの中で,計画を取りやめることとした。ただし,ライダー実証機器(ELISE)に関しては,将来の地球観測衛星等に搭載するライダーにつながる技術取得を目的とする「研究」として継続する。

カ.宇宙インフラストラクチャー

(ア)M系ロケット

 科学衛星打上げのため,L(ラムダ)ロケットの開発を経てM(ミュー)ロケットが開発された。M系ロケットは,全段に固体推進薬を用いたロケットで,低軌道へ約1.8トンの打上げ能力を有するM-Vロケットの開発が進められ,平成9年2月に1号機,平成10年7月に3号機の打上げに成功した。しかしながら,平成12年2月に打ち上げられた4号機は,第1段モータの異常により,打上げに失敗した。4号機の打上げ失敗原因については,現在,総力を挙げて原因究明作業を実施中であり,この原因究明の結果を踏まえ,必要な対策を講ずることとしている。

(イ)H-IIロケット

 静止衛星等の人工衛星の打上げのため,N系ロケット,H-Iロケットの開発を経て,1990年代における大型人工衛星の打上げ需要に対処するために宇宙開発事業団が開発した,2トン程度の静止衛星を打ち上げる能力を有する2段式のH-IIロケットは,第1段,第2段ともに液体酸素・液体水素エンジンを採用した大型のロケットであり,平成6年2月の試験機1号機から,平成9年11月の6号機まで,計5機の打上げに成功した。しかしながら,平成10年2月に打ち上げた5号機は,第2段エンジンの早期燃焼停止により通信放送技術衛星(COMETS)を所定の軌道に投入することに失敗した。また,この失敗を受け,8号機は対策を十分に講じて平成11年11月の打上げに臨んだが,第1段エンジンの早期燃焼停止により,運輸多目的衛星(MTSAT)を所定の軌道に投入することに失敗した。この失敗を受け,今後我が国の主力ロケットとなるH-IIAロケットの開発をより着実に遂行するための重点化を図るために,平成12年度打上げ予定であったH-IIロケット7号機については打上げを中止し,H-IIAロケットの開発に集中することとした。( 第3-3-8表 )

第3-3-8表 我が国の主な人工衛星打上げ用ロケットの主要諸元

H-II8号機失敗を踏まえたH-IIAロケットの開発

○事故の概要

 H-IIロケット8号機は,運輸多目的衛星を搭載し,平成11年11月15日16時29分に宇宙開発事業団種子島宇宙センターより打ち上げられたが,第1段エンジン(LE-7)の異常停止により,衛星を所定の軌道に投入することに失敗した。なお,ロケットは太平洋上小笠原諸島父島の北西約380kmに落下した。

○事故への対応

 事故発生後,科学技術庁及び宇宙開発事業団は直ちに事故対策本部を設置した。また,宇宙開発委員会は当日夜に臨時会議を開催し,事故原因究明の審議を開始した。

 一方,海洋科学技術センター及び宇宙開発事業団は,3回にわたる海洋調査により水深約3,000mの海底に沈んでいた第1段エンジンを発見し,宇宙開発事業団はエンジンの回収を行った。

 以降,ロケットの飛行データ,回収されたエンジンの分解調査結果等をもとに分析を行い,平成12年4月現在,原因究明をとりまとめているところである。

○H-IIAの開発強化

 科学技術庁では,H-IIロケット8号機の打ち上げ失敗を踏まえ,宇宙開発事業団の平成12年度予算にかかる計画の見直しを実施した。その中で,今後の我が国の主力ロケットであるH-IIAの開発においては,第1段エンジン・第2段エンジン・固体ロケットブースターの燃焼試験を追加するほか,フェアリング分離機構の確認試験の実施など開発試験を充実させることにより,より入念な開発に取り組み,H-IIAの信頼性を可能な限り向上させることとした。

(ウ)宇宙往還技術試験機(HOPE-X)

 従来のロケット技術による輸送コストと比べ,大幅なコスト低減が可能な再使用型輸送系の技術基盤育成の一環として,無人有翼往還機の主要技術の確立を図るとともに,将来の再使用型輸送機の研究に必要な技術蓄積を図ることを目的とした宇宙往還技術試験機(HOPE-X)について,平成16年度にH-IIAロケットにより打ち上げることを目標として開発を進めている。

(エ)光衛星間通信実験衛星(OICETS)

 衛星間通信システムに有効な光通信技術について,欧州宇宙機関(ESA)との国際協力により,同機関の静止衛星ARTEMISとの間で捕捉追尾を中心とした要素技術の軌道上実験を行うことを目的とする光衛星間通信実験衛星(OICETS)の開発を進めている。

(オ)データ中継技術衛星(DRTS-W, E)

 地球観測衛星や国際宇宙ステーションの日本の実験棟(JEM)「きぼう」等を用いたデータ中継実験を行うことにより,通信放送技術衛星(COMETS)のデータ中継機能を発展させ,より高度な衛星間通信技術の蓄積を図ること等を目的とするデータ中継技術衛星(DRTS-W, E)2機の開発を進めている。

キ.人工衛星,ロケット等の技術に関する基礎的・先行的研究

 科学技術庁航空宇宙技術研究所をはじめ各機関において,人工衛星やロケットの技術に関する基礎的な研究,また,無人有翼往還機や,スペースプレーン等の先行的研究を進めている。

ク.宇宙分野の国際協力の推進

 近年,地球環境や災害等の地球規模の問題の深刻化に伴う地球観測衛星等による宇宙からの観測の重要性の増大や,社会・経済のグローバリゼーションに伴う宇宙活動の国際化等を背景に,近年,宇宙分野における国際協力の必要性が従来にも増して拡大している。このため我が国は,地球観測・地球科学,宇宙科学,通信・放送・測位,宇宙環境利用等の各分野の開発計画に沿い,米,欧,露,加,アジア太平洋諸国等関係各国との国際協力を推進している。

 まず多国間協力についてであるが,我が国は,宇宙空間の探査及び利用にかかる国際的秩序の検討,国際協力の促進等について審議を行っている国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS),今後のアジア太平洋地域における宇宙開発に関する国際協力のあり方について意見交換を行うアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF),地球観測衛星システムに関する技術調整及び情報交換を目的とした地球観測衛星調整会議(CEOS)等の国際会議を通じて,多国間協力を推進している。

 特に平成11年度は,7月に国連全加盟国を集めて17年ぶりに開催された国連宇宙会議(UNISPACEIII)や,11月に開催された国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第2回アジア太平洋持続可能な開発のための宇宙利用大臣級会合等,大きな国際会議が開催された。これらの会議においては,従来の「宇宙開発」そのものにとどまらず,環境,食料,災害等の地球規模の諸問題や教育,医療等に対してどのように宇宙開発技術を応用するかという点が重点的に取り上げられた。

 また,宇宙開発における最大の国際協力プロジェクトである国際宇宙ステーション(ISS)計画に我が国は独自の実験棟(JEM,愛称「きぼう」)をもって参加しており,微小重力や高真空などの宇宙環境を利用した材料科学,生命科学分野の実験,長期間の天体観測等,地上では行い得ない様々な実験を行うこととしている。

 二国間協力について,米国との間では,平成7年7月に発効した日米宇宙損害協定に基づき,日米間の宇宙協力活動を円滑に実施している。平成12年2月には,米国航空宇宙局(NASA)のスペースシャトルに宇宙開発事業団の毛利宇宙飛行士が搭乗した。また,平成11年12月には,通商産業省が開発した資源探査用将来型センサを搭載したNASAの地球観測衛星「Terra」が打ち上げられた。

 欧州との間では,欧州宇宙機関(ESA)との間で年次的に開催している日・ESA行政官会合が平成11年9月に24回目を数え,密接な協力関係を継続している。また,カナダとの間で,科学技術協力協定に基づく日加宇宙パネルが平成11年10月に開催されたほか,ロシアとの間においても,平成5年に締結された日露宇宙協力協定に基づき,第2回日露宇宙協力合同委員会が平成12年1月に開催された。

 その他,平成11年5月の豪州首相,9月のカナダ首相,12月の仏首相等,各国要人の来日に際しても,宇宙開発分野における協力の重要性が確認され,二国間協力に進展が見られた。

{2}航空技術

 航空技術は知識集約性,技術先端性が高いため,その開発は単に航空輸送の発展をもたらすのみならず,他の分野への波及効果も高く,我が国が今後とも科学技術創造立国を目指して発展していく上で大きな役割を果たすものである。

 我が国では,これまで民間輸送機YS-11等の自主開発,ボーイング777等の国際共同開発並びに民間航空機用ジェットエンジンV2500の国際共同開発を実施することにより技術を蓄積し,国際的な舞台で活躍する技術水準までに成長してきている。民間航空機においては,国際共同による開発方式が今後ますます世界の主流を占める傾向にあり,現在我が国では,小型民間輸送機YSX及び次世代の民間超音速輸送機開発の調査を実施している。

 今後の航空機及び航空機エンジンの開発をさらに積極的に推進していくためには,技術水準の一層の向上を図る必要がある。このため,科学技術庁においては,航空・電子等技術審議会の建議や答申に沿って,航空技術研究開発の推進を図るための施策が講じられている。また,通商産業省においては,航空機工業審議会において民間航空機及びエンジンの国際共同開発をはじめとする航空機産業政策の方向につき議論がなされている。

 科学技術庁航空宇宙技術研究所においては,我が国の将来の航空機開発に必要となる技術の確立を目指した研究が進められており,特に,次世代超音速機技術として重要なCFD空力設計技術等の確立を目指して,小型超音速実験機の開発・飛行試験を中核とした研究開発を推進している。このほか,航空安全及び環境適合性技術に関する研究並びに電子計算機による数値シミュレーション等の基礎技術の研究を進めるとともに,各種風洞,エンジン試験設備等の大型試験研究設備を整備し,関係機関の共用に供し,我が国の航空技術の発展を図る上で主導的な役割を果たしている。

 運輸省電子航法研究所においては,航法・管制に関する技術について,航空交通の安全性を向上させるための研究等を実施しており,これらの研究は今後の航空輸送の発展を図る上で重要なものとして期待されている。

 通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,次世代の環境ニーズに対応する「環境適合型次世代超音速機用推進システム」の研究開発を行っている。この研究開発には欧米の主要航空機エンジンメーカーも参加している。大学連携型産業科学技術研究開発プロジェクトにおいては,航空機等への利用が期待される「知的材料・構造システム」の開発が進められている。

 また,航空機の航行技術の向上を目指し,「インテリジェント・ナビゲーションシステム基盤技術」の開発,先進複合材料の高効率製造技術の開発を進めるとともに,コックピット,操縦系統の開発や革新的軽量構造に関する開発等も実施している。


(7) 海洋科学技術

 海洋は生物資源や鉱物資源等,膨大な資源を包蔵するとともに広大な空間を有しており,その開発利用は国土が狭小であり四方を海に囲まれた我が国にとって重要な課題である。さらに,海洋は地球環境変動に大きなかかわりを有するとともに,海洋底プレートの動きは地震や火山活動の大きな要因と考えられていることから,その実態解明は急務となっている。このような背景の下,1990年代に入り,海洋の諸現象を全地球規模で総合的に観測・研究するためのシステム構築を目指した全球海洋観測システム(GOOS)計画が,国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)によって提唱され,1992年(平成4年)6月ブラジルで開催された国連環境開発会議(UNCED:地球サミット)で採択されたアジェンダ21においても,同計画の推進が盛り込まれている。今後,これら国際的な動向を踏まえ,地球環境問題に関連する海洋調査研究などの海洋科学技術に関する研究開発の推進が不可欠である。

{1}海洋科学技術の基本的推進方策等

 我が国の海洋科学技術は,内閣総理大臣の諮問機関であり,海洋開発に関する基本的かつ総合的事項について調査審議を行う海洋開発審議会の答申を尊重しつつ,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。各省庁における海洋科学技術に関する具体的施策は,海洋開発を総合的に推進するために関係省庁が緊密な連絡を図る場である海洋開発関係省庁連絡会議が毎年取りまとめる海洋開発推進計画に沿って実施されている。

 平成9年5月には,海洋開発審議会に基本問題懇談会が置かれ,平成10年6月に「21世紀の海洋開発に向けて」の報告書を取りまとめた。報告書では,海洋開発の現状の問題点を整理し,21世紀における新しい海洋開発の基本的な構想について取りまとめている。また,地球規模の海洋の諸現象を解明するため,関係省庁・大学等の連携の下,全球海洋観測システム(GOOS)計画等の国際的な海洋調査研究プログラムに積極的に参加し,さらに,我が国の主導により中国,韓国,ロシアと協力して,GOOSの地域プロジェクトである北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)を推進している。

{2}海洋科学技術に関する研究開発の推進

 科学技術庁では,海洋科学技術センターが中心となって海洋科学技術に関する先導的・基盤的な研究開発を進めるとともに,関係各省庁・大学等の協力の下,総合的なプロジェクトを推進している。

 このうち,海洋科学技術センターでは,海洋調査技術の開発については,地球深部探査船の建造に着手する一方,平成10年度から設計・建造に着手した自律型無人潜水機の陸上試験,水槽試験を行った。

 深海調査研究開発については,平成11年5月〜7月にかけて,四国室戸沖南海トラフにおける海溝型地震発生域に至る深部構造を詳細に把握するため,深海調査研究船「かいれい」及び海洋調査船「かいよう」を動員し,海底地震計100台と陸用地震計により,地震発生過程の解明にむけた大規模な探査等を実施した。また,平成11年10月に北海道釧路・十勝沖の海域に設置した海底地震総合観測システム2号機により,海底変動等の総合的研究に資するとともに,地震活動の観測業務に用いられ,津波の観測研究の一層の進展が期待される。

海洋観測研究開発については,エルニーニョ現象をはじめとする大気と海洋間の相互作用とそれが気候変動に与える影響の解明のため,平成11年6月〜7月にかけて西部赤道太平洋で行われた6カ国の国際集中観測に海洋地球研究船「みらい」を用いて参加する等,幅広く国際共同研究を行った。

 さらに,深海微生物の極限環境における生理学的な適応機能の解明,極限環境におけるセンシングや細胞内の伝達メカニズムを解明してきた深海環境フロンティア研究において,新たな有用極限環境微生物のゲノム解析,そのゲノム情報を利用しての微生物の高度利用,その利用を通しての新規バイオベンチャーの育成を目指して,「深海バイオベンチャー」の設立,整備に向けて着手した。

 文部省では,平成9年度には,東京大学海洋研究所等が中心となって,海洋環境の変動の解明・予測,保全のための総合的観測システム構築を目的とする全球海洋観測システム(GOOS)に関する基礎研究,深海底を掘削し,海洋底プレート運動・構造等の解明に資する国際深海掘削計画(ODP)及び西太平洋海域共同調査への参加,海洋の物質循環の解明に資するオーシャンフラックス研究等の海洋に関する学術研究を引き続き行っている。

 農林水産省では,平成10年度には,水産関係試験研究機関が中心となって,新技術導入・水産資源の特性の把握等を通じた漁業生産の合理化と資源の持続的利用,養殖業・栽培漁業等つくり育てる漁業の推進,漁場環境の保全,水産物の多面的高度利用のための研究開発等を引き続き行っている。

 通商産業省では,金属鉱業事業団,石油公団,地質調査所,資源環境技術総合研究所等が中心となって,海底鉱物資源の開発と環境影響予測,海底地質の調査等を引き続き行っている。

 運輸省では,平成11年度には,超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の研究開発を推進,全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)の充実等を行っている。海上保安庁においては,水路測量や海象観測技術の高度化の研究,海底観測技術の開発及び漂流予測の精度向上を図るための研究等を実施している。気象庁において気象業務推進のための海洋気象観測やエルニーニョ現象の解明等,海洋気象現象の把握及び気候変動の監視・予測に関する調査・研究等を引き続き行っている。また,船舶技術研究所においては,海洋技術における安全,環境保全に関する研究を行っている。また,NEAR-GOOSに関連して,気象庁,海上保安庁が,日本周辺海域を中心とした海洋データの交換を促進するためのシステムの運用を開始しており,海洋研究の一層の推進が図られている。

 郵政省では,通信総合研究所において,海洋油汚染・海流・波浪などの計測手法の確立と地球環境の変化の予測に資する高分解能3次元マイクロ波映像レーダの研究を行っている。

 建設省では,土木研究所において非均衡状態の海浜過程に関する研究等を実施している。また,国土地理院において,沿岸海域基礎調査等を行っている。

 環境庁では,地球環境研究総合推進費等により,地球規模の海洋汚染に対する研究等を行っている。

 なお,海洋開発推進計画に基づき関係省庁が平成11年度に実施した主な海洋科学技術分野の研究開発の課題は, 第3-3-9表 のとおりである。

第3-3-9表 主な海洋科学技術分野の研究課題



(8) 地球科学技術

 近年の人工衛星を用いたリモートセンシング技術等の観測技術の発達や,スーパーコンピュータによる数値シミュレーション技術の発達は,地球に関する科学技術の研究に進歩をもたらすこととなった。また,人類の長年にわたる地球に対する探求を通じ,近年,地球及び地球の諸現象に関する知見の蓄積が気圏,水圏,地圏及び生物圏の各分野において急速に進んでおり,地球を一つのシステムとして把握することが可能な段階になっている。このため,これらの成果を地球の諸現象の予測や人類の持続的発展に利用するとともに,多くの未知の領域への探求を一層活発に行うべきとの要請が高まってきている。気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)第3回締約国会議(COP3:地球温暖化防止京都会議)で採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」(京都議定書)において,地球温暖化防止のために科学技術の果たす役割への大きな期待が示された。また,平成11年10月〜11月には,COP5がボンで開催され,地球温暖化防止に向けた国際的な取組を進めるために,議定書の早期発効の意思を確認するとともに,そのために必要なあらゆる措置を講ずることが合意された。

 地球科学技術に関する研究開発を進めるに当たっての基本的考え方は,平成2年8月に内閣総理大臣決定された「地球科学技術に関する研究開発基本計画」に示されている。我が国の地球科学技術は,本基本計画の下,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。「地球科学技術に関する研究開発基本計画」については平成10年8月より科学技術会議政策委員会の下でフォローアップ作業が行われ,平成11年10月に諮問第17号「地球科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申のフォローアップ報告書を取りまとめた。同報告書では,特に地球温暖化への取組が社会的に重要な問題となっていることを踏まえ,地球温暖化にかかる現象予測解明,温暖化対策技術に関する研究を一層推進すべきであるとの提言を取りまとめた。さらに,平成11年12月より「地球科学技術分野に関する検討会」において,21世紀に向けた地球科学技術分野に関する研究開発の方向性や展開についての検討を進めている。

 地球で生じている複雑な現象とそのメカニズムをより詳細に解明し,健全な環境を維持しつつ持続的発展を図るためには,関連する科学技術を統合した研究開発を推進することが必要である。また,常に地球全体に目を向けた巨視的な観点と,長期的な展望に基づいた研究開発を行うことが必要である。

 地球科学技術を推進するに当たり,地球に関する科学的知見を深めるだけでなく,科学的知見を得るために観測・解析・予測技術の開発の進展を図るなど,科学的知見の蓄積と技術の開発を密接な連携の下で進めること等が必要である。また,一国で対応できないものが非常に多く,高度な科学技術水準を要するものが多いため,各国の協力の下に実施するとともに,我が国に対する国際的期待を踏まえ,我が国にふさわしい国際的活動を引き続き積極的に実施することが必要である。

{1}地球的規模の諸現象の解明にかかる研究開発等

 地球温暖化,オゾン層破壊,異常気象,地震,火山噴火等の地球に関する諸現象は,我々人類の社会生活と極めて密接な関連を有し,重大な影響を及ぼすおそれがあることから,その現象を科学的に解明し,適切な対応を図ることが強く要望されている。

 また,地球科学技術が対象とする事象は,地球温暖化,地殻変動等,時間的にも空間的にも広がりを有し,一国のみの問題にとどまらないものである。このため,研究開発を進めるに当たっては,グローバルパートナーシップを確保することが極めて重要であり,世界気候研究計画(WCRP),地球圏・生物圏国際共同研究計画(IGBP)等の国際的な研究計画に積極的に参加するとともに,外国の研究機関等と共同研究を進めることが重要である。特に,我が国はアジア太平洋地域に位置し,経済的にも域内の各国と密接な関係を有することにかんがみ,本地域に重点を置いた研究開発を推進することが必要である。

 我が国においては,各省庁が自らの予算によって地球的規模の諸現象の解明等にかかる研究開発を実施するとともに,科学技術振興調整費,海洋開発及地球科学技術調査研究促進費,地球環境研究総合推進費により,関係省庁の国立試験研究機関や大学,さらには海外の研究機関等の広範な分野の研究能力を結集し,エルニーニョ南方振動現象等の地球的規模の諸現象の解明,人間活動が地球環境に及ぼす影響の評価等総合的,国際的な研究開発を積極的に実施している。

 科学技術庁が,宇宙開発事業団及び海洋科学技術センターの共同プロジェクトとして実施する「地球フロンティア研究システム」は,地球を一つのシステムと捉えその変動と予測に関する研究を行うもので,気候変動予測,水循環予測,地球温暖化予測,大気組成変動予測,生態系変動予測研究領域モデル統合化の6領域について研究を行っている。また,既存の観測研究を有機的に結びつけるとともに,長期的観測データの乏しい地域において関係省庁・大学等と協力して,流動研究員を用いて集中的,機動的に観測研究を行うことを目的に「地球観測フロンティア研究システム」を平成11年8月に発足させた。海外との研究協力については,平成9年10月からハワイ大学の国際太平洋研究センター(IPRC)及びアラスカ大学の国際北極圏研究センター(IARC)において,本分野の研究を進めている。

 また,地球規模の諸現象の解明のためには,地球観測情報の国際的な流通を促進することが重要である。我が国は地球観測情報ネットワーク(GOIN:Global Observation Information Network)を積極的に推進してきたが,これを,今度は,地球観測衛星委員会(CEOS:Committee On Earth Observaion Satellites)に発展的に引き継いでいくことを目指すこととなった。

 一方,国際的な場では,地球科学技術関連の国際機関が集い地球規模の総合的な地球観測計画の調整を行うため,1999年(平成11年)に総合地球観測戦略(IGOS:Integrated Global Observing Strategy)が組織された。我が国はこれに積極的に参加し,貢献している。

 地球規模の環境変動に関する研究を促進するため,地球を南北アメリカ,欧州・アフリカ,アジア太平洋の3極に分け,各地域における地球変動研究を推進するための政府間ネットワークが設けられている。このうち,アジア太平洋地域については,「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN:Asia-Pacific Network for Global Change Research)」が設けられ,平成11年8月には,日本の神戸市にその活動の中核となる「APNセンター」が開所した。昭和32年の国際地球観測年を契機に開始された我が国の南極地域観測事業は,文部省に「南極地域観測統合推進本部」(本部長文部大臣)を置き,関係各省庁の協力を得て,国立極地研究所が中心となって実施している。南極での観測活動は南極条約に基づいて行われており,国際協力の要素を強く持っている。

 我が国は昭和31年に第1次観測隊が出発して以来,オゾンホールの発見,オーロラ発生機構の解明,生命起源・惑星起源の解明につながる南極隕石の発見等多くの成果を上げているほか,過去30数万年間の地球環境変動を明らかにする深さ約2,500mの氷床コアの掘削等を行ってきた。平成11年度は,第40次観測隊(越冬隊)及び第41次観測隊(夏隊)が,昭和基地を中心に,電離層,気象,海洋,地理・地形等の定常的な観測のほか,地球規模での環境変動の解明を目的とした,大気,海洋,生物,地学等のモニタリング研究観測等を行った。第41次観測隊は平成11年11月に南極観測船「しらせ」で出発し,平成12年2月に第40次観測隊と交代し,第40次観測隊は平成12年3月に帰国した。

{2}地球観測技術等の研究開発

 地球的規模の諸現象の解明を図る上で必要な情報を集積するためには,地球観測により地球に関する情報を得ることが必要であり,地球観測技術の研究開発が重要である。そのため,平成5年1月に,航空・電子等技術審議会より第17号答申「地球環境問題の解決のための地球観測に係る総合的な研究開発の推進方策について」が取りまとめられている。

 現在,我が国では,この答申等に基づき人工衛星による地球観測に関する技術の研究開発,海洋観測研究船,深海潜水調査船等による海洋観測技術の研究開発等地球観測のために必要な技術の研究開発を実施している。

ア.人工衛星による地球観測に関する技術

 人工衛星による地球観測は,広範囲にわたる様々な情報を繰り返し,連続的に収集することを可能とするなど,極めて有効な観測手段であり,現在,特に地球環境問題の解決に向けて,国内外の関係機関と協力しつつ,総合的な推進を行っている。

 科学技術庁/宇宙開発事業団においては,平成9年11月に打ち上げられた熱帯降雨観測衛星(TRMM)からのデータを現在取得しているほか,環境観測技術衛星(ADEOS-II),陸域観測技術衛星(ALOS)の開発を関係機関との協力の下に進めている。

 環境庁においては,平成9年6月に機能停止した地球観測衛星「みどり」に搭載した,オゾン層等監視センサ(ILAS及びRIS)から取得した貴重な観測データを,地球環境の観測,監視やその原因解明等に活用している。また,環境観測技術衛星(ADEOS-II)に搭載するオゾン層等の後継監視センサ(ILAS-II)の最終試験を行うとともに,温室効果ガス及びオゾン層破壊物質の観測を主目的とするセンサの開発に着手した。

 通商産業省においては,米国航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星である極軌道プラットフォーム1号(EOS-AM1)に搭載する資源探査用将来型センサ(ASTER)の開発を進め,気象庁は,現在運用している静止気象衛星5号の後継の気象ミッションを有する運輸多目的衛星の調達を進めており,また,郵政省通信総合研究所においては,国際宇宙ステーションの日本の実験棟(JEM)の曝露部に搭載される超伝導サブミリ波リム放射サウンダの開発を進めている。また,人工衛星を用いた地球環境の観測と処理手法を確立するため,科学技術庁において関係機関との協力の下に地球環境遠隔探査技術等の研究等,農林水産省においてリモートセンシング技術を活用した土地利用・作付け状況・生育状況・森林や海洋の資源量の把握等に関する研究開発及び建設省において人工衛星リモートセンシング技術を活用した全国土地利用図の作成等を推進している。

 また,こうして得られた人工衛星からのデータの利用促進を図ることが重要であることから,宇宙開発事業団の地球観測データ解析研究センター等において,地球観測データを利用した研究や地球観測情報ネットワークの整備を関係機関と密接に連携をとりながら推進している。

 このような地球観測衛星の開発,観測データの流通及び利用の推進は国際協力の下に行うことが重要であり,このため世界中の地球観測衛星開発機関や国際地球科学技術機関等が集う地球観測衛星委員会(CEOS)等の国際調整の場に積極的に参加し,貢献している。

イ.海洋観測技術

 海洋は,地球的規模の諸現象に大きくかかわっており,その果たす役割の解明が重要な課題となっている。このため,海洋科学技術センターにおいて,中高緯度トライトンブイの実証試験や海洋音響トモグラフィー等海洋観測技術の研究開発を推進するとともに,平成10年11月から海洋地球研究船「みらい」を用い,西部太平洋,北極海等で観測研究を実施した。

 また,通商産業省においては太平洋における二酸化炭素の循環メカニズムの調査研究を推進している。

ウ.成層圏プラットフォームの研究開発

 科学技術庁は郵政省と共同で高度約20kmの上空(成層圏)に滞空させ,搭載する観測センサー,無線局等により,地球観測,通信・放送等に利用するための成層圏プラットフォームの研究開発に平成10年度から着手している。

 現在,関係省庁において進められている地球科学技術に関する研究開発のうち主なものは 第3-3-10表 のとおりである。

第3-3-10表 主な地球科学技術分野の研究課題



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