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第1部   21世紀を迎えるに当たって
第3章  21世紀における科学技術と社会の関係
第2節  知識基盤社会への対応
3.  基礎研究の振興


 新しい原理・法則の発見,独創的な理論の構築,未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究の成果は,知識基盤社会を支える知的資産として貴重なものである。これらの成果は,人類の根元的欲求である知的好奇心を満足させるだけではなく,20世紀において,相対性理論や量子力学の成果が原子力技術や電子技術を生み出し,DNAに関する研究の進展が医療や農業技術の飛躍的な発展を予兆させるなど,革新的な技術体系を創出し,社会に様々な波及効果を与えることとなる。

 21世紀において,新たなブレークスルーを生み出す可能性のある,革新的な科学技術の知識を創出していくには,このような基礎研究をより一層振興していくことが必要であり,創出された知識を社会に供給していくことが重要である。独創的な研究成果が続々と生み出されるためには,柔軟かつ競争的で国内外に開かれた研究環境をより一層整備すると同時に研究人材の資質向上を図っていくことが重要な課題である。特に以下に述べる競争的な研究環境の創出,研究人材の流動性の確保,若手研究者の育成などをさらに強化することが必要である。

(競争的な研究環境の拡充)

 競争的な研究環境の創出に際し,大きな役割を果たすのは競争的研究資金である。競争的研究資金は,研究資金の効率的配分を可能にすると同時に,研究者に対しても研究費の選択の幅と自由度を拡大し,審査の過程で研究課題の評価・選択が行われることから,評価結果が研究者に適切に伝えられることにより,研究者の資質向上に資するものである。

 近年,我が国で拡充されてきた競争的研究資金は,1件あたり3年から5年で1億円以上のものが多かった。これに対し,研究者を対象としたアンケート調査の結果からは,研究室単位(全体で38.6%)または個人単位(大学25.0%)の研究体制に対する研究資金の充実を望む声が高いという結果が得られている( 第1-3-1図 )。資金規模については,半数以上の研究者が年間500〜2,000万円を望んでいる( 第1-3-2図 )。研究者全体の傾向から,現状の大規模プロジェクトに重点化した競争的研究資金の整備だけでは競争的環境の浸透に限界があるものと考えられる。今後,研究者が,中規模で小回りの利く,使い易い研究資金の充実を求めているという実情を踏まえて,競争的研究資金の充実を図っていく必要がある。

第1-3-2図 研究者が望む競争的研究資金の規模

 また,競争的研究資金の充実とともに,研究資金を受け入れる機関の体制の不備が指摘されている。アンケート調査の結果から,大学においては,研究スペースの確保に,国研等・民間企業においては資金運用などの事務処理の支援体制に,それぞれ最も多くの研究者が問題を抱えていると感じていることが分かる( 第1-3-3図 )。研究者が確保した研究費を有効に活用し,研究が円滑に行えるような体制を各機関の実情に応じて整備していくことが必要である。

第1-3-3図 競争的研究資金の受入れ体制の整備状況

(研究人材の流動性の確保)

 研究者が国内外の組織間を相互に移動し,研究実施場所を変えていくことは,研究活動の活性化,研究成果の移転,研究環境の国際化,研究者とりわけ若手研究者の自立を促すために有効である。これまで,国としては,国立大学及び国立試験研究機関等について任期付任用制の導入等を行ってきている。しかし,流動的な環境が実現している研究組織は未だ少数であるというのが現状である( 第1-3-4図 )。流動的な研究ポストが少ないために,研究者が将来のポストに不安を抱いたり,社会保障等に不安を抱いている様子がわかる( 第1-3-5図 )。

第1-3-4図 研究者流動の度合

第1-3-5図 研究者が考える若手対象の任期付任用制の問題点

 今後,流動化の進展に伴い,このような不安は徐々に解消の方向に向かうものと考えられるが,世界を相手に新たな知識の発見を競っている我が国の研究者が,雑務に煩わされることなく研究に集中できる環境を整備することに加え,公正な業績評価,評価に応じた適切な処遇と報酬を実現する柔軟性を持った研究体制を整備することが必要である( 第1-3-6図 )。

第1-3-6図 研究者が考える人材流動の促進に必要な条件

(若手研究者の育成)

 我が国では,ポストドクター(以下ポスドク)等の若手研究者の育成・拡充を図っており,科学技術基本計画に示された「ポストドクター等1万人支援計画」が平成11年度予算において目標を達成したことに代表されるように,その量的な面では充実しつつある状況にある。ポスドクである時期は,研究以外の用務が比較的少ないため研究に専念でき,また幅広い異分野の専門家と交流する絶好の機会でもあるため,自分の専門分野を積極的に変えたり,新しい科学技術分野の開拓に積極的に挑戦するのに適した時期とも言える。ポスドクは自立した研究者への経歴形成の過程にあるための養成期間にある研究者であり,研究開発の活性化と水準向上への貢献が期待されている。特に新しい科学技術分野の開拓や展開には,ポスドクの若くて柔軟な頭脳が有効である場合が多い。

 しかし,ポスドクは,社会的に確立した地位を得たという状況にはなく( 第1-3-7図 ),本来目指した役割を担うには必ずしも至っていない。ポスドクは研究現場の流動化を推し進めていくための主要な制度であり,研究現場への定着が図られるようさらなる努力が必要である。

第1-3-7図 研究者が抱くポスドクに対するイメージ

 現在,平成13年度から始まる新たな科学技術基本計画の検討が行われているところであり,本計画において上記の点も含め,基礎研究の強化に対し,十分な施策が講じられることが求められる。


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