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第1部   21世紀を迎えるに当たって
第3章  21世紀における科学技術と社会の関係
第1節  科学技術が社会に果たす役割
2.  21世紀に必要となる科学技術と社会の新しい関係の構築


 これまで見てきたように,21世紀に,科学技術が人類社会の発展に貢献することに対する期待は今世紀以上に大きい。それに応えるため,21世紀において,知識創造の源泉である科学技術の振興は,ますます重要になる。同時に,社会における活動の多くの側面が科学技術の知識に支えられるようになることから,科学技術と社会との距離がより一層接近する。さらに,これまで,社会は科学技術者が生み出した科学技術上の成果を受動的に享受して,必ずしも充分な脈絡なしに豊かさを追求してきた。つまり,社会は,科学技術上の成果の利用が社会システム全体にどのような影響を及ぼすのかを意識することはなかった。その結果,これまで述べてきたような大量生産・大量消費社会を現出させてきた。これに対して,21世紀は,社会自らがこのような社会を転換し,循環型社会を構築していくための設計をしていかなければならない。また,情報通信技術の進展は,個人情報の漏洩,コンピュータ・ウィルスその他のネットワーク犯罪を引き起こし,ライフサイエンスの発展は,遺伝子の判定による出生前診断や,クローン技術による遺伝的に同一のヒトの複製にも到達しうる研究領域を生み出すなど,ヒトの生命の本質に手を加え操作する可能性を意識するまでに至っている。このような問題は国民生活に密接に関わり,国民自らがそのような技術の開発利用の方向性に係る判断に関与していくことが今後一層求められる。1999年(平成11年)7月1日にブタペストの世界科学会議で採択された「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」では,科学研究によって生み出される知識は,人類の福祉,環境の維持など広く社会に貢献することが求められ,関係する人々はそれぞれの責務を果たすべきことが求められている。したがって,社会は,単に科学技術の成果を受け取るのではなく,国民自らがそこで開発されようとしている科学技術の内容に関する十分な知識を持ち,その社会的意義についてより主体的に考え,その活動にかかる意思決定に参画していくことが求められる。

 しかし, 第2章第2節 で見たように,科学技術に対して関心を持つ国民は年々わずかずつ増えているが,一方,科学技術の高度化・複雑化に伴い,「分からなくなる」,「ついていけなくなる」という不安を感じている国民が8割以上にも上っている。このままの状態が続いていくと,多くの国民が科学技術に対する関心を失ったり,これらの技術をブラックボックスにしたまま利益のみを享受するようになったり,さらには科学技術を忌避する傾向を表してきたりすることが懸念される。また,同節で取り上げた生命倫理問題や原子力問題は社会に身近でありながら,その影響が非常に複雑かつ不確定であるというような事情もあって,種々の論争を引き起こしてきている。その中には,必ずしも事実や科学的知見に立脚しない感情的な議論もあり,科学技術と社会との関係を正しく捉えていくことの必要性が痛感される。

 次節以降では,21世紀の科学技術と社会との新しい関係を構築していくための処方箋を提案していくこととしたい。

科学と科学的知識の利用に関する世界宣言

(1999年7月1日採択:世界科学会議)

 ユネスコは,ICSU(国際科学会議)との共催により,平成11年に世界科学会議をハンガリーのブタペストで開催し,標記を採択した。宣言の全体は4章からなり,そのうち「社会における科学と社会のための科学」のなかに,科学知識の社会への適用,倫理及び社会的責任に関するものがある。

39.科学研究の遂行と,その研究によって生じる知識の利用は,貧困の軽減などの人類の福祉を常に目的とし,人間の尊厳と諸権利,そして世界環境を尊重するものであり,しかも今日の世代と未来の世代に対する責任を十分に考慮するものでなければならない。この点に関して,すべての当事者は,これらの重要な原則に対して,自らの約束を新たにしなければならない。

40.倫理的諸問題が適切に論議されるために,新たな発見や新たに開発された技術のすべての可能な利用や影響に関しての,情報の自由な伝達が保障されるべきである。各国は,科学の実践,科学的知識の利用や応用に関する倫理問題に対処するために,しかるべき枠組みを設けるべきである。それには,反対意見や反対者を公正で責任ある方法で扱うべき,正当な法的手続きが含まれなければならない。この点に関して,ユネスコの「科学的知識と技術の倫理に関する世界委員会」(World Commission on the Ethics of Scientific Knowledge and Technology)は,各国間の協力の手段を提供することができよう。

41.すべての科学者は,高度な倫理的基準を自らに課すべきであり,科学を職業とする者に対して,国際的な人権法典に記された適切な規範をもとにした倫理綱領が定立されなければならない。科学者の社会的責任は,彼らが高い水準の科学的誠実さと研究の品質管理を維持し,知識を共有し,社会との意思の疎通を図り,若い世代を教育することなどを要求するものである。政治当局は,科学者によるこれらの行動を尊重しなければならない。科学教育のカリキュラムには,科学倫理,歴史,哲学,そして科学の文化的影響に関する課程が含まれるべきである。


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