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第1部   21世紀を迎えるに当たって
第2章  20世紀の科学技術の人類社会への貢献と今後の課題
第2節  科学技術に対する国民の理解の現状
1.  科学技術に対する国民の関心



(1) 世論調査等にみる国民の科学技術に対する期待

 総理府の「将来の科学技術に関する世論調査」(平成10年10月調査)によれば,国民が科学技術の発達による貢献として評価しているのは,「個人の生活の楽しみ」,「物の豊かさ」などを向上させたことなどであり,将来の科学技術の果たす役割が重要であると期待しているのは,「安全性の向上」,「効率性の向上」などである。今後の科学技術に国民の多くが期待している様子がうかがえる( 第1-2-20図 )。

第1-2-20図 国民の科学技術への期待

 また,科学技術の情報に関心のある人の割合は,この20年間で5割強から6割弱へと漸増しており,科学者や技術者の話を聞いてみたいと考えている人の割合も,最近10年近くの間に1割増えて6割程度となっている( 第1-2-21図 )。話を聞いてみたいと考えている関心の高い分野は,地球環境,生命に関する科学技術や医療技術,エネルギー問題など自らの生活に直接影響する分野に集中している( 第1-2-22図 )。また,科学技術の発達が今後生かされるべき分野としては,地球環境や自然環境の保全,エネルギーの開発や有効利用,資源の開発やリサイクル,廃棄物の処理・処分などが高く,地球規模問題の解決や循環型社会の構築に大きな期待を寄せていることが分かる( 第1-2-23図 )。

第1-2-21図 国民の科学技術についての関心

第1-2-22図 国民が話を聞いてみたい科学技術分野

第1-2-23図 国民が考える科学技術の発達が今後生かされるべき分野

 一方で国民は,科学技術が専門家にしか分からなくなるのではないか,悪用・誤用されるのではないか,進歩に自分がついていけなくなるのではないかなどといった科学技術の発達に対する不安感も抱いている( 第1-2-24図 )。

第1-2-24図 国民が考える科学技術の発達に伴う問題

 このような国民の声に対し,我が国の研究者に対して行ったアンケート結果によれば,研究者は,科学技術に対する理解増進のために,マスコミ,行政担当者,研究者,教育関係者の努力が必要と考えている。また,国民に研究を正しく理解してもらうために必要な取組として,「マスコミの正しい情報」,「教育制度や授業の改善」,「研究者が国民に対してインタープリターとなる」,「インタープリターを専門的に務める機関の充実」等を期待している。研究者が国民の科学技術の理解増進に研究者自身の関与が必要と考えていることを反映したものと考えられる( 第1-2-25図 )。

第1-2-25図 研究者が考える国民への科学技術の理解増進対策

 以上のことから,国民は,科学技術の進展が個人の生活を豊かなものにしてきたことを評価する一方で,地球環境問題等科学技術の発達に伴う負の側面の解決を求めているなど,社会にもたらした科学技術の影響の両面に関心をもっていると判断できる。特に,科学技術の進歩・発達から科学技術が専門家にしか分からなくなるのではないか,自分がついていけなくなるのではないかとの不安が強いことが示されている。

 国民が地球環境問題の解決や循環型社会の構築を期待していることを踏まえると,新たな科学技術の適用に当たっては,マイナス要因を慎重に排除し,新規の課題が生じないようにしていくことが望まれる。研究者は,科学技術に対する理解増進にマスコミ,研究者,行政・教育等の関係者の一層の努力を期待しており,さらに自らが携わる「研究」についての国民の理解が進むよう,マスコミによる正確な情報の伝達や適切なインタープリター機能が発揮されることが必要であると考えている。


(2) 科学技術と社会との間の課題の顕在化

 これまで述べてきたように,国民の科学技術の発達に対する期待は大きく,既に科学技術は,我々の生活の向上に様々な貢献をしてきた。しかし,それに伴い,科学技術と社会との関係において種々の課題を抱えてきていることが明らかになってきている。

(生命倫理問題)

 ライフサイエンスの分野では,先天異常の診断等のため出生前診断の技術が実用化される一方で,障害児の差別につながるとして出生前診断に反対する人達がいるなど,国民の間にライフサイエンス,とりわけ医学・医療への先端的技術の応用に対して生命の尊厳の観点から否定的な考えが見られる。これらは,科学技術が与える自然観や生命観,倫理観の転換などへの反発,専門家内の閉鎖的で不透明な意思決定などに対する不信が背景にあると考えられている。

 臓器にかかわる重い病気では,治療方法として臓器移植しか残されていない場合が少なくない。腎臓や角膜などは心臓死の場合でも移植可能であるが,心臓移植は脳死者からしかできない。

 人の死として,長い間認められてきたのは,心臓の停止を指す心臓死であるが,これに対し脳死は,脳機能の不可逆的な停止を人の死とすることである。脳出血や事故等により脳に大きな障害が生じたときに,何らの処置も取らなければ心臓死に至るものである。しかし,人工呼吸器などにより,しばらくの間呼吸し続けることが可能となったことで脳死の状態が生じるようになるとともに,効果的な免疫抑制剤により脳死状態の者からの心臓等の移植が可能となったことから,脳死を人の死とするかどうかという科学技術の進歩に伴う問題が生じることとなった。この問題については賛否両論があり,長い間の論議がなされた結果,脳死判定等に厳しい要件を課し脳死した者の身体を死体とする「臓器の移植に関する法律」が平成9年に成立し,施行された。なお,平成11年3月以降,同法に基づく数例の脳死下での臓器提供が行われているところである。

(原子力問題)

 原子力の利用は,放射線の医学利用や農・工業利用を含め,私達の生活に多くの利便と恩恵をもたらしている。しかしながら,我が国の原子力との関わりが第二次世界大戦中の広島,長崎に投下された原子爆弾から始まったこと,放射線や放射能の人体に対する影響に関する正確な知識が必ずしも一般に十分浸透していないことなどから,原子力に対する批判的な見方や安全性に関する不安が根強く存在する。さらに,核不拡散等の観点から国の安全保障に深く関係し,また,多額の資金を投入した大規模な技術開発を必要とするため,政府主導で開発が行われてきているということが,原子力を国民から一層遠く馴染みの薄いものにしている。

 そのような中にあって,平成2年の総理府の世論調査において原子力発電を「減らしていくほうがよい」,「止めたほうがよい」という意見が1割足らずであったのは,二度のオイルショックを経験した我が国国民が,原子力をエネルギー資源に恵まれない我が国にとって重要なエネルギー源として認識していたからにほかならない。また,米国のTMI原発事故や旧ソ連のチェルノブイル原発事故はあったが,我が国の原子力施設が順調に運転実績を積み上げ,国民の間には我が国の原子力施設の安全性に対する信頼感も醸成されつつあったと考えられる。

 しかしながら,その後,平成7年12月の高速増殖炉原型炉もんじゅのナトリウム漏洩事故,平成9年3月のアスファルト固化処理施設の火災爆発事故などによって,原子力に対する国民の信頼は大きく揺らぐこととなった。これらは,事故そのものの重大さよりも,事故処理に当たっての組織的な対応や事故に関する情報の開示の方法等に大きな問題があり,加えて関係者による虚偽報告や隠蔽工作も明らかとなって大きな社会問題となった。平成11年2月の総理府世論調査では,原子力発電に対する反対の割合が平成2年の倍近くになり,また,不安を示す国民も多い状況が明らかとなった( 第1-2-26 , 27図 )。

第1-2-26図 国民が求める原子力発電の今後の割合

第1-2-27図 国民の原子力に関する理解

 さらに,平成11年9月に発生した株式会社ジェー・シー・オーの臨界事故では,我が国で初めて原子力事故による死亡者を出し,周辺住民の避難要請が行われるなど事故の重大性に加え,風評等による経済的被害をもたらした。この事故は,国内外へ大きな衝撃を与えるとともに,社内で作成していた作業手順書をも無視した作業が原因であったため,我が国の技術者の倫理観や社会的責任意識の低下に対する危機が叫ばれることとなった。この事故を教訓として,国の安全規制の抜本的強化が図られ,また,原子力防災を抜本的に充実強化するため,原子力災害対策特別措置法が制定された。

 原子力という技術が社会に受け入れられるためには,平和利用と安全確保が必須の条件であり,また,国の施策や大企業の事業に対する不信,それに携わる技術者に対する不信は,そのまま安全性への不信につながる点に心し,できる限り情報の開示を行い,透明性を高めていくとともに,組織及びそこに働く技術者等の倫理観や社会的責任意識の重要性を認識し,その充実に取り組む必要がある。また,さらに原子力施設が,その立地地域において地方公共団体や住民といかに共生していくかということも大きな課題である。

 以上の例などに見られるように,人々の倫理観や安全観に直接訴えかけるような問題について,科学技術者が,限られた専門家集団の中で通用する考え方に寄りかかり,一般国民との意思疎通に意を尽くさなかったために,社会の考え方と離れ,社会が科学技術に対する不信を抱くことが垣間見られるようになっている。

 これに対して,次項で詳述するように,最近では,科学技術行政においては情報公開や国民参加を進めるなどにより,社会の不信感を取り除く努力を行うようになってきている。

(ものづくり能力)

 最近,宇宙開発,原子力安全管理,鉄道保安等の分野で事故が発生し,これまで,我が国が得意分野としてきた品質管理等を含む「ものづくり能力」が懸念されるようになったことから,内閣総理大臣主宰の有識者会議として,「ものづくり懇談会」を開催し,我が国のものづくり能力の強化に向けて講ずべき基盤整備等の方策について多角的視点から検討し提言を取りまとめた。


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