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第1部   21世紀を迎えるに当たって
第2章  20世紀の科学技術の人類社会への貢献と今後の課題
第1節  20世紀の科学技術の展開と社会への浸透
3.  情報通信の発達


 モノの発達は,人の手足の代替となり,人を肉体労働から解放し,人間の能力を飛躍的に向上させた。これに対し,情報通信の発達は,人の神経や頭脳の活動を代替することによって人間の能力の拡大に大きな役割を果たしてきている。

 20世紀の特徴としてエレクトロニクス分野の急成長と情報通信の発展を挙げることができる。今世紀前半のラジオ,テレビなどマス・メディアの出現と普及は,世界のあらゆる地域から即座に情報の入手を可能にし,さらに,コンピュータの出現とインターネットの普及は,双方向での情報のやり取りを可能にした。これらの変化は,交通機関の発達とともに,世界を小さくし,国際化を促進してきた。また,コンピュータは,人間の能力よりもはるかに高速に情報の処理を行い,大量の記憶を可能とし,人間を単純労働から解放するとともに,知的生産性を拡大させた。

 情報分野の発展は,生活の利便性にソフト面から貢献し,今後さらに大きく発展が期待される高度情報通信社会へとつながる最も将来性の高い分野のひとつである。ここでは,情報通信の発達の側面から20世紀の科学技術を振り返ってみたい。


(1) 無線通信の発展-マス・メディアの出現-

 1876年に米国のグラハム・ベルは実用電話を発明し,19世紀末には事実上世界を結ぶ電信電話による通信システムが完成していた。また,1895年のイタリアのグリエルモ・マルコーニによる無線通信の開始と一連の実験を通じた通信距離の拡大は,ラジオやテレビの基礎となった。同じ頃に発明された真空管はラジオ放送の実用化を可能にし,1920年には世界初のラジオ放送が米国で,日本では,大正14年(1925年)に開始された。

 無線通信では,電波の送信周波数が高ければ高いほど(波長が短ければ短いほど)多くの情報を送ることができる。通常AMラジオの周波数は1,000kHz程度であるが,1931年にはその100倍程度の周波数を用いるテレビの実験放送局が米国で開設され10年後の1941年に正式放送が開始された( 第1-2-12表 )。日本では昭和14年(1939年)にはテレビ実験局が開設され本格的なテレビ放送は昭和28年(1953年)に始まった。

第1-2-12表 電波の利用状況

 その後,ラジオ,テレビをはじめとするマス・メディアの発展は目覚ましく,現代人の最大の情報源となり,新たな文化の発信地として重要な役割を担うとともに,国民生活を支える重要な基盤としての役割を果たすようになった。

 電波は,無線通信やテレビ,ラジオ放送などのほか,レーダー,ラジオビーコン(無線標識),ロラン(航法援助装置),方向探知器,電波高度計,計器着陸装置,遠方制御,人工衛星やロケットなどの遠隔操縦,電波望遠鏡など多彩な方面に応用されており,現代を代表する技術のひとつとなっている。


(2) コンピュータ-高度情報通信社会への扉-

 世界最初のコンピュータである真空管式電子計算機「ENIAC」は,1945年に米国のジョン・エッカートとジョン・モークリーによって完成された。ENIACは,1万8,000本の真空管を使用し,全長30m,総重量30トン,消費電力140kWで,1秒間に400回の掛け算ができた。その後の計算速度や記憶容量の向上,装置の小型化の進展は目覚ましく,現在のパーソナルコンピュータは,ENIACに対し重量で約1万5,000分の1,消費電力で約1万3,000分の1,処理速度で約1万倍である( 第1-2-13図 )。

第1-2-13図 高速計算機の性能の発展

 コンピュータは,情報処理,計算,制御,通信と様々な用途に利用され,これによって生産性の向上とコストの低減,労働の軽減,情報の早期入手,科学技術の発達などに大きく貢献してきている。

 また,現在では「コンピュータと無関係な産業は考えられない」と言っても過言ではないほど多くの産業分野に応用されている。データの記憶・加工・変換,計算などの役割を果たす微小なコンピュータである「マイクロプロセッサ」は,現在全世界で150億個(1人当たり2個以上の割合)存在しており,日常生活の様々な場面で多くの役割を担っている。

 コンピュータ利用による制御技術であるオートメーションが,あらゆる製造現場に取り入れられていることは前述のとおりであるが,センサ(Sensor),シミュレーション(Simulation),システム(System)の3S技術は,製品の品質向上や新製品の創出などに貢献するとともに,金融・保険業など非製造業にも大きな影響を及ぼしている。

 また,コンピュータ断層撮影(CTスキャン)などエレクトロニクス機器の発展とともに,コンピュータは,医学や医療に大きな影響を与えている。環境分野に関しては,大気汚染など公害問題への対応という社会的要請に応えるために,自動車やゴミ焼却炉などをはじめとする多くの産業に高速のコンピュータを基礎とする技術が取り入れられている。特に自動車分野に関しては,1990年代に入って情報通信技術の発展とともに知能化が著しく進行した。高度道路交通システム(ITS)は,先進安全自動車(ASV)や道路交通情報通信システム(VICS),ナビゲーションシステムの高度化,自動料金収受システム,自動運転道路システム(AHS)などを含み,多くの応用分野を統合したシステムであり,今後の社会生活に大きな影響を与えるものと考えられている。

 パーソナルコンピュータの普及率が示すように,一般家庭においても急速にコンピュータの浸透が進んでおり,後に述べるインターネットの普及と相まって,今後,教育や家庭生活に大きな影響を及ぼすものと考えられている( 第1-2-14図 )。

第1-2-14図 我が国のパーソナルコンピュータ普及率

 今後は,ソフトウェア,ハードウェアの開発を通じたコンピュータ自体の性能のさらなる向上が期待されるが,コンピュータが社会に浸透するに伴い重要となってきている,破壊行為,地震・火災などの災害からの保護,1999年(平成11年)末に世界中を騒がせたY2K問題のようなコンピュータを取り巻く環境やソフトウェアに起因する問題の解決も急務である。重要な役割を担っているコンピュータが故障したときの損失は莫大なものとなるため,信頼性の向上とバックアップシステムの構築なども最優先の課題である。


(3) コンピュータネットワークの発達-情報伝送の網-

 コンピュータの発展とともに,世界中のコンピュータをつないだネットワークであるインターネットが1993年(平成5年)頃から爆発的に普及し始めた。歴史的には,その起源は,1969年に米国国防総省高等研究計画局(ARPA)が軍事目的で開始したARPAnetであるとされるが,普及の発端は米国クリントン政権が1992年にまとめた全米情報基盤整備構想(NII)及び1993年の世界情報基盤整備構想(GII)である。それ以後の普及は目覚ましく,インターネットに接続されているホストコンピュータの数は増加の一途をたどっている( 第1-2-15図 )。

第1-2-15図 インターネットに接続されているホストコンピュータ数

 インターネットは,文字,音声,画像などの情報に各所から双方向でのアクセスを可能にする。WWW(ワールド・ワイド・ウェブ),電子メール,ネットニュース,テレビ会議などを可能にするインターネットなどコンピュータネットワークの利用は個人の生活を大きく変えるとともに,企業内で情報の共有を促し,勤務の態様を変革することにより企業を活性化している。

 ここ数年の間にインターネットを用いた企業-消費者間や企業間の取引きである「インターネット・コマース」,「インターネット接続ビジネス」などの他にも様々なビジネスが生まれてきており,コンピュータを用いたネットワーク網の影響力は急速に拡大している。

インターネット・ビジネスの例

 現在設置が急速に進められている光ファイバーネットワークが実現すると,情報伝送量は電話網の数千倍になる。このため映像情報を容易に伝送できるようになり,遠隔教育,在宅勤務,ホームショッピング,遠隔医療診断などの新しい情報サービスが可能となる。

 ネットワーク利用率が高まるにつれ,ハッカー等による情報の改ざんや盗難,コンピュータウィルスによるプログラムの破壊等のネットワークにかかわる犯罪及び不正行為が大きな社会的問題として取り上げられるようになった( 第1-2-16図 )。特に,平成12年(2000年)初頭に諸官庁に侵入したハッカーによるホームページの改ざんは,情報システムのセキュリティ(安全確保)に対する対策の未整備を露呈させている。

ネットワークにかかわる犯罪及び不正行為

第1-2-16図 コンピュータウイルス被害届け出件数

 さらに,インターネット上での青酸化合物やクロロホルムなど薬物の違法な販売など,ネットワークの匿名性を利用した犯罪が相次いでいる。米国の国防当局は,ネットワーク犯罪等によるサイバーテロリズムの危険性が従来の大量殺戮兵器「ABC」(A=Atomic[核兵器],B=Biological[生物兵器],C=Chemical[化学兵器])の危険性に匹敵すると指摘し,対策を進めている。今後のネットワーク技術の進展とそれを利用した社会の発展のためには,セキュリティ技術及び利用者のセキュリティ意識の向上が不可欠となっている。


(4) デジタル化技術-0と1が世界を変える-

 デジタル化技術は,計算機や通信機器,家電製品,制御装置,医療機器,自動車など社会のあらゆる場所で重要な役割を果たしている。デジタル化による技術革新の意義は約1万年前の農業革命,18世紀の産業革命の意義に匹敵し,「第三次産業革命」あるいは「デジタル革命」などと言われている。

 現在では,情報通信機器と家電機器とがデジタルネットワークを介して融合し始めており,「情報家電」と呼ばれる分野の進展が目覚ましい。このように,家庭においてもデジタル化技術が媒介となって,各種の技術や製品が複合化されている( 第1-2-17表 )。例えば,パーソナルコンピュータがテレビと融合し,「パソコンテレビ」と呼ばれる新たな製品が生み出されている。

第1-2-17表 家庭におけるデジタル革命

 また,デジタルネットワークを用いて音楽などの情報が個人に配信されたり,前述のインターネット・コマースのような電子商取引も盛んに行われるようになってきている。

 最近,急速に普及してきている衛星放送もデジタル技術の賜物であるが,このような放送分野のデジタル化によって,チャンネル数が増大すること(同一周波数帯域の中でアナログの3〜10倍のチャンネル数がとれる),高画質・高品位化,画質が劣化しにくくなることなど数多くの価値が付加されている。

 さらに,デジタルカメラやデジタルビデオなどのデジタルメディアを用いて撮影された映像を,パーソナルコンピュータを用いて容易に編集を行うことができるようになるなど,多くの家電製品の間で統一された形式で情報の交換が可能になり始めていることも,大きな注目を集めている。

 この他にも,通信産業におけるマルチメディア化(通信ネットワークとの接続やパーソナルコンピュータとの融合による双方向化),電送コストの低下などのほか,デジタル化されたデータは,コンピュータの利用によって加工,蓄積,検索が可能になるため,様々な応用が可能となる。


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