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第1部   21世紀を迎えるに当たって
第2章  20世紀の科学技術の人類社会への貢献と今後の課題
第1節  20世紀の科学技術の展開と社会への浸透
1.  究極像への接近-より小さく,より遠く-


 20世紀は,「物理学の世紀」とも言われるように,科学の中で物理学上の発見が目についた世紀であった。「物理」という言葉が表すように,「物」質についての原「理」が解き明かされることで,究極の姿に近付いていった。

 例えば,量子力学が,原子からクォークなどの素粒子に到るまで,物質を成り立たせる究極的な構造と,それを支配する原理を明らかにした。このように,20世紀に人類が獲得した科学的な知見は,史上例を見ない豊かなものになった。

 以下,20世紀を代表する,究極像へ接近した科学的な成果について,振り返っていくこととする。


(1) 相対性理論-伸び縮みする空間・時間-

 相対性理論には,互いに加速度を持たない系の間の関係を記述する特殊相対性理論と,それを一般化した系にも適用可能とした一般相対性理論があり,それぞれ1905年と1915年にアルベルト・アインシュタインによって確立された。

 特殊相対性理論は,物質の質量や大きさは固定されたものではなく観測者の立場によって異なること,質量はエネルギーと同等(E=mc2 )であることなどを導いた。

 一般相対性理論は,特殊相対性理論を一般化することによって,重力は時空の歪みとして記述されること,つまり重力のある場所では光は曲がり,時間はゆっくりと進むことなどを示した。

 これら2つの理論は,空間と時間はどこでも同じであるというそれまでの常識を覆すものであった。

 相対性理論は,その科学的な価値の高さに加え,質量とエネルギーの同等性の発見が,オットー・ハーンとフリッツ・シュトラスマン(1938年,ドイツ)によるウラン原子核分裂の発見とともに原子力エネルギー利用への道を拓き,後で述べるように,核兵器,原子力発電を可能とすることで,人類社会に対し,計り知れない社会的・経済的影響を与えることとなった。


(2) 量子力学-極微の世界へ-

 量子力学の基本的な理論は,1925年から1927年にかけて確立された。相対性理論がアインシュタイン1人によって創り上げられた理論であるのに対して,量子力学は多くの研究者がその成立過程に関与した理論体系である。主な研究者としては,不確定性原理を提唱したウェルナー・ハイゼンベルク(ドイツ),波動方程式を書いたエルヴィン・シュレディンガー(オーストリア),ほかにもマックス・プランク(ドイツ),ニールス・ボーア(デンマーク),ポール・ディラック(イギリス)などが挙げられる。

 量子力学は,極微の世界で,原子や電子にどのような相互作用が働くのか,それらが多数集まってできる物質の構造はどうなっているのかを説明する理論体系である。超伝導現象のように巨視的な現象の機構であっても量子力学で説明されているものも少なくない。

 現在,他の物理学分野や物理学以外の様々な分野にその理論は取り入れられ,そのような分野の新たな発展に寄与する基盤的な理論となっている。例えば,1940年代のトランジスタなどの半導体の技術開発は,量子力学の知見抜きには成し得なかったことであり,現在では,電子工学に量子エレクトロニクスという分野が確立している。また,化学の分野においては,物質の反応機構の解明に量子力学が重要な役割を果たしており,触媒や医薬品の開発等に寄与している。


(3) クォークの発見-物質を構成する素粒子の追求-

 1920年代まで,物質を構成する分割不可能な究極の単位である素粒子は,陽子,中性子,電子,光子の4種類と考えられていたが,その後日本の湯川秀樹が中間子の存在を予言したことにより,さらなる素粒子の存在可能性が示された。

 1930年のサイクロトロンの発明以後,シンクロトロン,ベータトロンなどの巨大加速器が開発されてくると,上記の4種類のほかにも様々な素粒子が発見され始め,何百種も確認されるに至った。

 そこで,1964年に米国のマレー・ゲルマンとジョージ・ツワイクが素粒子のクォーク模型を提案してこれらを整理した。ここで,ゲルマンとツワイクは,陽子や中性子などのハドロン( コラム 参照)は「クォーク」という基本粒子でできていることを提唱した。また,日本の小林誠と益川俊英は,クォークの種類について,理論上6種類以上存在する必要があることを提唱した。

 以後,クォークの確認実験が各国の研究者によって行われ,ゲルマンとツワイクが想定したアップ,ダウン,ストレンジのほかにも,1974年にチャーム,1977年にボトム,そして1994年にトップが発見された。現在では,クォークは以上の6種類となっている。

 素粒子の発見の歴史は,巨大加速器の開発・建設の歴史と重なっている。素粒子科学は,野外もしくは実験室という従来の科学のイメージを大きく変えるとともに,科学の研究のために,広範な先端技術を駆使するという点において,科学の側から技術との接点を持つ典型的な例となった。


(4) DNAの二重らせん構造の発見-分子生物学の誕生-

 「生命とは何か」という問題に突き当たった生物学者や化学者は,第二次世界大戦後,消化,吸収,発酵といった,一般に「代謝」と呼ばれる現象に注目した。代謝は,タンパク質分子の相互作用で起こるものであり,このような現象を物理化学的概念を取り入れて明らかにしていった。このような分子レベルで生命現象を解明しようとするのが,分子生物学である。1953年にジェームス・ワトソン(米国)とフランシス・クリック(イギリス)がデオキシリボ核酸(DNA)の二重らせん構造を発見し,対になった鎖を結ぶ4種類の塩基が遺伝子の本体とされた。生命の設計図を突き詰めた究極像の発見が,分子生物学の発展に計り知れない影響を与えた。

 生命の設計図である遺伝子を知ることは,遺伝病の診断・治療,品種の改良,ホルモンの生産等,広範な技術開発への応用を導くものとして,今後の発展がますます期待される。

素粒子の種類について

 歴史的には,物質構造を分子→原子→原子核→→・・・という階層に分けてみるとき,原子核の次の階層に来る粒子をいったものであった。素粒子は,ハドロンとレプトンに大別される。ハドロンはさらに陽子や中性子などのバリオン,π(パイ)中間子などのメゾンに細別できる。現在ではハドロンは複数のクォークの結合状態であることがわかっている。「分割不可能な」という点においては素粒子ではないが,歴史的な理由で素粒子と呼ばれている。分割不可能という点に絞ると,現在素粒子と呼ばれるものは,クォーク,レプトン等であり,これらは基本粒子とも呼ばれる。クォークとレプトンの数,種類は下記のとおりである。

クォークとレプトンの分類


(5) 膨張する宇宙-ビッグバンによる宇宙の誕生-

 宇宙の姿,歴史といった究極像も今世紀に大きく理解が進んだ。1929年,米国のエドウィン・ハッブルは,銀河は地球から見ると遠ざかっているように見え,遠い銀河ほど速く遠ざかっていることを発見した。つまり,宇宙は膨張し続けていることが明らかになった。このことから時間を逆にたどると,天体が一点に集まった状態が宇宙の始まりということになる。この状態について,米国のジョージ・ガモフは1946年に,宇宙は超高温・超高密度の火の玉から始まったとするビッグバン宇宙論を提唱した。当時この理論はあまり信憑性のあるものとして受け止められていなかったが,米国のアルノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが1965年に,宇宙背景放射を発見したことにより,標準的な宇宙論として理解されるようになった。


(6) 新しい科学の方向性-複雑系の科学の出現-

 究極像への挑戦に見られるように,今世紀までの科学研究の方法論に共通するのは,全体を要素の集合体とみなし,その要素の最小単位(根源)を探るという要素還元的手法を基本としていることである。「世界は根源をなす単純な法則に支配されている」というのが科学研究者の共通した考え方であった。

 しかしながら,最近では,気候変動や生命現象などのように,単に個別の要素を分析するだけの従来の手法では把握できない複雑な現象を扱う局面が多く見られるようになった。

 このような状況に対し,コンピュータの能力が大きく進歩したことによって,より複雑な現象をシミュレート(数値解析)できるようになり,複雑な現象を支配する機構を明らかにしていこうとする研究が生まれてきている。カオス,フラクタル,人工生命などのいわゆる「複雑系の科学」と言われているものであり,今後の進展が注目される。


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