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  付属資料
3.  主要先進諸国の科学技術政策の動向
(1)  米国


米国における科学技術政策の基本目標は,科学的知見の最先端で世界における主導的立場を維持し,これによって質の高い国民の健康増進,国家安全保障,経済的繁栄を通した豊かな生活を提供することを基本政策としている。この基本政策の下,「尽きることのない知識の源泉」として基礎研究への積極的な投資は一貫して行われてきたが,一方で1970年代終盤,産業競争力の低下が懸念され,基礎研究の成果から財・サービスへの技術の流れを活性化するための新たな仕組みが求められるに至り,産官学連携,技術移転,革新的な技術を持つ小ビジネス・起業を促進する枠組みが1980年代以降,整備されてきている。

1)基本政策

科学技術への基本的な取組姿勢は,1945年7月25日,ルーズベルト大統領に対してブッシュ科学研究開発局長からなされた科学技術政策に関する提言「科学:限りなきフロンティア」の中に見て取れる。以降,今日に至るまで,この方針は基本的に継承されている。

○健康増進

適切な予防・治療方法が確立されていない多くの病気に対する基礎研究は,メディカルスクール,大学が主要な担い手であり,これらの研究機関に対する基礎研究費の助成が重要である。

○国家安全保障

軍に属さない一般の科学者においても,シビリアン・コントロールの下に国家安全保障のための貢献,すなわち軍事研究を行うことが求められる。

○経済社会の繁栄

雇用をもたらすのは新製品,新技術であり,これらを生み出す基礎科学研究は尽きることのない源泉である。そのためには,新たな知識の創造,またその実用化を担うべく科学教育を受けた人材の育成,さらに大学,研究機関を中心とする基礎研究拠点を政政府資金により強化することが重要である。また,産業界における研究の推進のためには,科学的知見の社会的フローを増大させるとともに,企業の研究活動に係る控除措置,特許システムの強化等,研究へのインセンティブを付与するための施策が必要である。

2)産業競争力強化

1983年に,技術革新,労働力開発,諸外国に対する米国経済力の位置付け等の問題を中心に,米国の競争力を評価し,政策提言を行うことを目的として,産学官の主要メンバより成る産業競争力に関する大統領諮問委員会(President's Commission on Industrial Competitiveness)が設置された(委員長は当時ヒューレット・パッカード社長のジョン・ヤング)。同委員会は1985年1月,米国の国際競争力が諸外国からの未曾有の挑戦を受けているとし,これは国民の生活水準の向上,安全保障,

ヤング・レポート(Global Competition-The New Reality-)

一米国競争力強化の提言(1985年1月)ー

〇技術の創造,応用,保護:技術革新は新産業を刺激し,成熟産業を復活させる。 また技術の進展は生産性の向上をもたらし,生活水準の向上に欠かせない要素である。これらを成功させるためには,税制優遇措置による研究開発の促進,共同研究に係る独占禁止規制の撤廃,生産技術の開発・向上,知的財産権保護の強化,競争力強化のための諸規制の見直し等が必要。
〇米国産業の資本コスト低減:投資資本の供給を増加させ,米国産業の資本コストを低減することにより,最も生産的な用途に資本が流通する能力を向上させる。 このために必要なのは,財政赤字の削減,税制の見直し,金融安定化,市場における資本移動障壁の撤廃等。
〇熟練し,適応力と意欲のある人材育成:米国民は,強固な教育基盤,労働力の移動を阻む要因の除去,また競争力の増強に向けて協力するためのインセンティブを必要としている。具体的には,政府,産業界,労働者の間でのコミュニケーション,職業訓練の促進,工学教育,ビジネススクール教育の強化等が必要。
○国家最優先事項としての貿易の位置付け:米国には,明確な貿易政策が必要である。政府の国内政策と輸出政策は,米国の通商と産業がグローバル・コンペティションに適応できるように刺激しなければならず,また世界貿易体制も強化しなければならない。重要な施策は,貿易政策,投資政策の強化,国内通商法,輸出管理法,独占禁止政策の改訂,輸出規制による競争力への影響の最小化,輸出の拡大,貿易情報の普及,多国間貿易システムの強化等。

政府による諸施策への支援能力を低下させる要因となりつつあると指摘する報告書「ヤング・レボート(Global Competition-The New Reality-)」を発表し,米国競争力強化のための提言を行った( コラム参照 )。

また1991年,米国の競争力を向上させるための国家指針を策定することを目的として,ヤング・レポートを取りまとめたジョン・ヤング(現在,大統領科学技術諮問委員会委員長を兼務)が産学官よりなる民間非営利団体「競争力評議会(Counci1 0nCompetitiveness)」を設立した。同評議会は産業の観点から重要技術を同定し,競争力向上のための政府・産業界のとるべき対応について提言している(コラム参照)。なお,同評議会は,1998年3月,新技術開発の加速化を目的とした2年計画をスタートさせ,その初回会合としてイノベーション・サミットを開催している(産学のトップ約150人が出席。ゴア副大統領,センセンブレナー下院科学委員長も出席)。

競争力評議会による主な政策提言
〇 1999年3月「The New Challenge to America's Prosperity-Findings from the Innovation Index-」国全体のイノベーション基盤,その国の中の特定グループにおけるイノベーション環境,およびこれら両者の関係の強さを定量化し,国家の総合的革新能力を,米国を含む25ヶ国について分析・比較。1980年以降のトレンド,及び2005年時点での技術革新力を予測。1999年および2005年時点での技術革新力第1位は日本であり,1995年に1位であつた米国は,冷戦後の軍事研究開発投資の減少により1999年に3位,2005年には6位に転落するとしている。
〇 1998年8月「Going Global-The New Shape of American Innovation-」米国が経済的,技術的に強い今こそ,その競争力に関して,強みを強化し,弱みを補強するべきであるとの認識の下,技術革新に関する問題点を整理。
〇 1996年4月「Endless Frontier,Limited Resources: U.S. R&D Policy for Competitiveness」主要産業6分野における研究開発動向を調査し,それらが直面する諸問題へ対処するための政策指針を示すとともに,産官学連携を中心とした今後の研究開発の在り方に関する国家的議論のアジェンダを作成。
〇 1994年9月「Critical Technologies Update1994」94の重要技術について米国の競争力を再評価。
〇 1992年9月「Industry as a Customer of the Federal Laboratories」産業界とは国研にとって顧客であり,この顧客(産業界)のニーズに対応した技術移転プログラムの必要性およびその在り方を提示。
〇 1991年3月「Gaining New Ground,Technology Priorities for America's Future」

米国技術のプライオリティに関する,初めての民間のコンセンサス。経済を活性化する重要技術を同定し,これらの分野における米国の優位性を強化するための方策を提示。

これらに基づき,大統領のリーダーシップと,これらと連動する法律群,また以下に述べる施策等を連携させて競争力強化に成功している。

3)国家重要技術の設定

米国では,1989年の議会で成立した公法101-189により,長期的な国家安全保障および経済活動の繁栄の観点から国として重要ないくつかの技術を設定し,大統領と議会に対して報告することが科学技術政策局(OSTP)に対して義務付けられている。

重要技術の選定作業に際しては,公的および民間セクターから選ばれた委員によって重要技術リストが作成され,大統領科学技術諮問委員会(PCAST),国家科学技術会議(NSTC)等のメンバーによるレビューを経て大統領および議会に報告される。これまでに,1991年,1993年,1995年に報告書が発表されており,エネルギー,環境,情報・通信,生活環境,製造,材料,輸送などの技術を中心に,その下位領域を含む約30の重要技術領域を設定するとともに,米国の技術力を他国(日本及び欧州)と比較している。

詳細は「4.主要先進諸国における重要技術の設定」において述べる。

4)産学官連携・技術移転

大学・公的研究機関の研究成果の産業界での活用促進,技術開発における国と産業界の連携・協力施策などは,80年代初頭から取組を開始した。これらの研究成果の知的財産化への強力な取組の結果,近年,成果がでてきた。

国等の研究開発で得られた成果の民間企業への移転を促進する枠組みは,1980年にその骨格が出来上がった。すなわち,国立研究機関に技術移転組織の設置及び技術移転促進のための一定率の支出を義務付けたスティーブンソン・ワイドラー技術革新法,さらに大学等に対して,政府支出により得られた成果を利用した特許権を取得することを認めるとともに,その排他的ライセンスを民間企業に与える権限を付与したバイ・ドール法の制定である。その後,法改正を含む規制緩和,共同研究や中小企業の支援を促進するいくつかの法律の整備により,技術移転政策は着実に成果が表れてきた( コラム参照 )。

技術移転政策に関する法律
〇スティーブンソン・ワイドラー技術革新法(1980)(Stevenson-Wydler Tech-nology Innovation Act,PL96-480)連邦政府によって得られた技術を,州・地方政府および民間セクタヘ移転することを促進。研究開発予算を技術移転活動に費やすこと,またこれを促進するために研究・技術応用室(ORTA: Office of Research and Technology Applications)を設置することを国立研究機関に義務付けた。
〇バイ・ドール法(1980) (Patent and Trade mark Laws Amendment/Bayh-DoleAct,PL96-517)連邦政府からのグラントを受けて研究を行った中小企業,大学,非営利研究機関に対して,その研究によって得られた知的財産権を付与することとした。また大学に対して民間セクタへのライセンス供与を奨励するとともに,政府が所有・運営する研究所に対して,自らが特許権を有する技術の排他的ライセンスを最高5年間にわたって民間企業に与える権限を付与。
〇中小企業技術革新研究法(1982) (Small Business Innovation Research Act)主要な省庁にSB工R(Small Business Innovation Research)プログラムを設置し,商業化のポテンシャルを有する中小ハイテク企業セクタへの政府支出を増額。 1億ドル以上の研究開発予算を有する省庁には,一定割合の金額をSBIRに支出することを義務化。
〇共同研究法(1984) (National Cooperative Research Act)研究に関するジョイント・ベンチャを独占禁止事項から除外し,一般的な研究や競争前段階の研究について複数企業が協力することを奨励。この法律は,1993年に共同研究生産法として改訂され,研究のみならず,生産活動においても企業が協力することが可能となった。
〇連邦技術移転法(1986) (Federal Technology Transfer Act)スティーブンソン・ワイドラー法を改定し,国立研究機関,州政府機関などが民間企業と共同研究開発協定を結ぶことを合法化。
〇包括通商競争力法(1988) (Omnibus Tradeand Competitiveness Act)産業競争力を強化するための国家戦略・政策提言を行うことを目的に競争力政策評議会を設立。この法律により,米国企業の競争力強化を目的として,先進技術プログラム(Advanced Technology Program),生産技術センター(Manufacturing Technology Centers)が商務省内(NIST)に設置されるなど,いくつかの新たな計画がスタート。
〇国家競争力技術移転法(1989) (National Competitiveness Technology TransferAct)スティーブンソン・ワイドラー法を改訂し,運営を民間・大学等に委託している政府所有の研究機関に対しても民間との共同研究開発を行うことを認可。
〇防衛転換,再投資,移行援助法(1992) (DefenseConversion,Reinvest-ment,andTransitionAssistanceAct)市場と国防コミュニティ両方からの技術開発・展開,教育・訓練へのニーズに向けた省庁間協力を行うための技術再投資計画を開始。

付3-1図は,特許権を取得した大学の数の推移を示す。1980年代初頭の73校に比べ,1995年には,約2倍の168校が特許権を取得しており,大学での特許取得が確実に定着してきていることが分かる。また,1982年には,研究開発支出の多い大学100校が全体の70%を占めていたが,1995年にはこれらの100校のシェアは35%に低下している。これは,研究開発支出の少ない大学でも積極的に特許権を取得する傾向にあることを表している。

付3-1図 特許権を取得した米国大学数の推移

付3-2図は,大学において取得された特許権の数の推移である。特許権取得数は,上に述べた取得実績を有する大学の数の増加と相まって増加しており,1970年代初頭の約250件から,1995年の1,800件まで,約7倍に増加している。この増加率は,同期間における米国全体での特許権取得数の増加率(約2倍)よりもはるかに大きい。また,付3-3図は,大学が取得した特許に基づく実施料収入の総額である(1996年AUTM調べ)。1991年の1億3,000万ドルから1995年の2億9,900万ドルまで,次第に増加している。

付3-2図 米国大学において取得された特許権の数の推移

付3-3図 米国大学における実施料収入の推移

このように,スティーブンソン・ワイドラー法,バイ・ドール法制定以来の技術移転政策(技術移転組織の設置,産学共同研究など)により,米国大学における研究成果の知的財産化が徐々に定着してきていることが分かる。

5)SBIR,起業支援

1982年にSBIR(Small Business Innovation Research)法が制定されて,1億ドル以上の研究開発予算を持つ省庁に対して,省庁外への研究開発支援総額のうち一定の割合をSBIR支援に充てることを義務付けた。支出割合は1982年当初の1.25%から,1992年のSBIR促進法を経て,1997年には2.5%まで徐々に増加した。1995年には,11の省庁がSBIRプログラムに参加した。総額は8億6,500万ドルであり,政府による研究開発支出の1.3%に相当する。

革新的な技術を持つ中小企業は,SBIRプログラム等,政府による直接支援のみならず,1980年代におけるベンチャーキャピタル(VC)の急成長によって支えられている側面が強い。特にソフトウェア等,コンピュータ関連産業への投資が顕著で,1995年にはVC全体の20%に相当する39億ドルがこの分野へ投資された。次いで投資額が多かったのは医療・健康関連で14%である。ただし,ほとんどのVCは既に事業を開始している企業の事業拡張資金として利用されており,技術の発明直後,あるいは市場への投入可能性を探る段階といつた事業初期段階の支援のためにVCが投入されるケースは極めて少ない。SBIRプログラムに代表されるベンチャー企業への公的支援は,このようにリスクの高い創業初期の企業や,VCにとって関心の乏しい産業分野の資金調達支援策として重要な機能を果たしている( 付3-4図 , 付3-5図 )。

付3-4図米 国のベンチャーキャピタル支出(業種別)

付3-5図米 国のベンチャーキャピタル支出(投資ステージ別)

6)クリントン政権の科学技術政策

ア.「米国経済成長のための技術-経済力構築への新しい方向-」1993年2月22日,クリントン大統領,ゴア副大統領は連名で,研究開発により米国の技術力を高め,経済繁栄につなげるとの方向を打ち出す政策を発表し,以下の目標および活動方針を設定した。

○雇用を創出し,環境を保護する長期的経済成長

・国防研究から民生研究への重点移行による技術開発・商業化及び利用の促進
・税制,貿易,規制,調達政策による技術革新及び民間部門投資を生み出す活力のある事業環境の創出
・教育・訓練機関の充実による労働者の技能の向上
・情報スーパーハイウェイ構想
・人,商品,及びサービスの輸送システム等の産業基盤の整備

○より効率的かつ機敏な政府

・情報技術によるサービスの質と適時性の改善
・政府の光熱費削減及び建設業界の新規雇用と技術革新の促進等によるエネルギー効率の向上
・商用技術を用いた製品の受注を優先するなど,調達政策の見直し

○基礎科学,数学,及び工学における世界の主導的立場

・NSF,NIH等を通じた大学研究助成金プログラムへの継続的出資
・基礎科学における国立研究機関の重要な役割の維持と,産業界・大学との協力的研究の推進
・宇宙科学及び探査の促進
・環境研究への支援

また,これらの目標の下,米国の経済力を構築するための新規活動方針として,研究・実験税額控除の恒久化,情報産業基盤への投資,先端製造技術への投資の促進による競争力の向上,新世代自動車の開発助成など自動車産業の技術的主導権と競争力の再定着化,通信技術の向上による教育・訓練環境の改善,省エネルギー,エネルギー技術革新の促進を掲げている。

イ.「国家利益における科学」

1994年8月3日,クリントン大統領,ゴア副大統領は,上記の「経済成長のための技術」に掲げた3つ目の目標「基礎科学,数学及び工学における世界の主導的立場」を具体化し,科学を「尽きることのない資源」と位置付け,科学への投資の重要性を強調する政策を発表し,科学における達成目標(Goals for our stewardship of science in the na-tional interest)として以下を提示している。これらの目標に即して,今後の米国政府の科学技術政策の具体的施策の方向性を示し,以降,政府が検討すべき課題を示している。

○科学的知見の最先端で主導的立場を維持すること
○基礎的研究と国家目標の連携を強化すること
○基礎的科学及び工学における投資と物的・人的及び財政的資源の有効活用を促進するパートナーシップの育成
〇21世紀のための優れた科学者の育成
○科学技術に関する全ての国民の理解力の向上

ウ.「未来への扉を開く-新しい国家科学政策-」

1998年9月,24日,ギングリッチ下院議長(当時)からの付託を受けて,エーラーズ副委員長を中心に下院科学委員会が,米国の21世紀に向けた科学技術政策に関して報告書を取りまとめ,発表した。従来の米国における科学技術政策は,軍事力強化のための科学技術力向上を主な目的として1945年にブッシュ科学研究開発局長による作成された報告書「科学-限りなきフロンティアー」に基づいてきたが,冷戦が終結した今日においては,軍事力強化を指向した科学技術政策はもはや有効ではなく,経済活動を中心とする新たな国際競争構造の中で,米国が科学技術の先導的な役割を担えるよう,科学技術政策の見直しを行うことが本報告書の背景である。報告書の要点は以下のとおり。

○科学技術の4つの目標:国家安全保障,健康,経済,意志決定支援

○重要項目は以下の3点:

・科学上の発見の源泉を枯渇させることのないよう,基礎研究を促進すること
・科学上の発見を,淀みなく,新しい産業技術の開発及び社会・環境問題の解決に応用すること
・科学者・技術者はもとより,科学技術を理解する有権者・消費者を生み出すよう,科学教育を充実させるとともに,科学者・技術者と国民とのコミュニケーションを太くすること

〇具体的方策の提言は,米国の科学技術界の抜本的な改革・再編というより,政策の評価と科学技術界の健全性維持のために必要な変更を決めることにあるとの考え方に立つている。

なお,本報告書は,1998年10月8日,下院本会議において,科学政策や予算を議論するためのフレームワークとして用いられるべきである旨,決議された。

7)連邦研究開発予算

ア.1990年代の研究開発予算の推移

1990年代の研究開発予算は,1990年の総額約664億ドルから1999年の約790億ドルまで,約20%増加しているが,このうち同期間における国防研究開発予算については,多少の増減はあるものの,約400億ドルでほぼ一定であるのに対し,非国防研究開発予算は1990年の約255億ドルから,1999年の381億ドルまで,ほぼ50%増加しており,1999年には国防/非国防研究費の比が約52:48となっている( 付3-6図 )。

付3-6図米国における90年代の研究開発予算の推移

イ. 1999年度予算

99年度大統領予算案での研究開発予算は,非国防研究開発で実質的な増(5.6%増)であり,民生研究への政権の関心を浮き上がらせた(研究開発全体では2.6%増,国防研究は0.2%減)。また,97年に成立した財政均衡法によるキャップを回避するため,非国防研究開発の大部分を「米国研究費(Research Fund for America)」として括り(98年289億ドル→99年311億ドル),増加分をたばこ会社と州の間の訴訟の和解金からの収入等で充当することを提案した。

10月21日に米国議会で成立した予算のうち,研究開発関係予算の特徴は以下のとおりである( 付3-7表 )。

〇研究開発予算全体では総額802億ドルであり,対前年度5.3%増で,政府要求額に対して3.1%増。うち,基礎研究予算は総額175億ドルで,対前年度11.3%増で,政府要求額に対して3.4%増。
○国立衛生院(NIH:ライフサイエンス関連)は総額149億ドルで,対前年度14.l%増で,政府要求額に対して3.4%増。
○国立科学財団(NSF)は総額28億ドルで,対前年度8.4%増,政府要求額に対して2.6%減。うち基礎研究予算は総額24億ドルで,対前年度10%増。
○米国航空宇宙局(NASA)は総額97億ドルで,対前年度1.6%減。うち国際宇宙ステーション開発予算は23億ドルで,対前年度7%減。また宇宙科学は21億ドルで,対前年度4.9%増。
○エネルギー省(DOE)は総額70億ドルで,対前年度11.4%増。 うち,太陽・再生可能エネルギー研究開発は7億ドルで,対前年度24.4%増。生物学・環境研究(含,ヒトゲノム計画)は4億ドルで,対前年度比7.9%増。
付3-7表 米国の1998年度-2000年度の研究開発予算

ウ. 2000年度予算

裁量的歳出予算をめぐる環境が厳しい中で2000年度大統領予算案における研究開発全体の予算は782億4,200万ドルで対前年度比1.3%減少であるが,民生研究開発予算については,397億6,100万ドルで対前年度比で2.9%増となっている。全般的には民生研究開発,基礎研究重視であり,重要分野に重点配分しながら,全体の額としては控えめな要求になっている( 付3-7表 )。研究開発関係予算の特徴は以下のとおりである。

○基礎研究により,将来の経済社会に役立ち,健康・環境と両立しつつ経済のニーズに応えていくための知識を得るというクリントン政権の公約を反映し,過去最高の基礎研究予算の伸び(対前年度比4.2%増)。
○優先度の高い研究計画を「21世紀研究費(21st Century Re-search Fund)」としてくくり,対前年度比3.2%増を要求。
○数十年前の基礎研究から今回のインターネットが生まれたように,次世代のスーパーコンピュータ,ネットワーク,アプリケーションにブレイクスルーをもたらす基礎研究への投資を行うとともに,現在最高のスーパーコンピュータの数百倍の性能を有するものの開発,情報技術の社会経済への意味合いについての研究を行うために,情報技術イニシアチブ(IT2 )を新規に開始。情報分野を戦略的な重要分野として強力に研究を推進する姿勢を示している。
○健康関連研究は引き続き増加。他の分野の研究の伸び率にも配慮し,研究分野間のバランスを改善。

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