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第3部  科学技術の振興に関して講じた施策
第3章  研究活動の推進
第2節  重要研究開発分野の推進



1. 基礎的・先導的な科学技術
(1) 物質・材料系科学技術

物質・材料系の科学技術は,原子・分子レベル,あるいは強磁場,超高真空,超高圧等の極限環境における現象・機能の解明を通して新たな科学的知見を蓄積してきただけでなく,新材料が過去において,経済社会に及ぼした影響は極めて大きなものがあり,新超伝導体の発見にみられるように,新しい材料の出現が,新しい技術を開拓し関連技術にも質的変化をもたらし,経済フロンティアの拡大等活力ある豊かな国民生活の実現,安心して暮らせる潤いある社会の構築等に大きな貢献をしてきた。

特に,近年,情報・電子,ライフサイエンス等の先端科学技術分野においては,未踏分野を切りひらく革新的な研究開発の多くは新たな材料にシーズを求めており,独創的な研究開発を推進し,科学技術創造立国を目指す上での共通的・基盤的技術として物質・材料系科学技術の重要性がより高まっている。

また,現在推進されている核融合,宇宙開発,海洋開発等大規模なプロジェクトの推進に必要な新たな材料の研究開発の重要性が高まっており,これらのプロジェクトに適合する材料が求められている。

このような状況から,新材料の創製が課題となっている。

1)総合的な物質・材料系科学技術の推進

物質・材料系科学技術については,以上のような認識の下に,科学技術会議,航空・電子等技術審議会等の答申に沿って各般の物質・材料系科学技術施策が進められている。

科学技術会議は,諮問第14号「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画について」(昭和61年5月)を受けて,本分野における研究開発目標及び推進方策に関する検討を行い,昭和62年8月に答申した。これを受け,政府は同年10月,「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画」を決定した。

また,同会議は,第18号答申「新世紀に向けてとるべき科学技術の総合的基本方策について」(平成4年1月)を行い,この中で既成の限界を打破した高性能・新機能の物質・材料の開発等の必要性を指摘している。

さらに,科学技術会議政策委員会研究開発基本計画等フォローアップ委員会(物質・材料系科学技術)が,平成9年6月に出した報告書においても,物質・材料系科学技術の研究開発の推進について,一層積極的な対応が図られることが期待されている。

航空・電子等技術審議会においては,諮問第9号「新材料開発に係る計測及び制御技術の高度化のための重点課題及びその推進方策について」に対する答申(昭和61年3月)及び諮問第13号「環境条件に知的に応答し,機能を発現する能力を有する新物質・材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(平成元年11月),諮問第16号「材料開発に係わる解析・評価技術の高度化に関する総合的研究開発の推進について」に対する答申(平成3年11月),諮問第21号「原子・分子レベルの現象,機能の解明のための計算科学技術に関する総合的な研究開発の推進方策について」に対する答申(平成7年2月),諮問第23号「放射光施設の利用による先端的な物質・材料系研究開発に関する総合的な推進方策について」に対する答申(平成8年7月)などを行い,物質・材料系科学技術の総合的推進方策を示した。

2)物質・材料系研究開発の推進

広範多岐にわたるニーズを背景として,各省庁において様々な物質・材料系科学技術に関する研究開発が活発に進められている。

科学技術庁においては,物質・材料系科学技術全体に係る共通的・基盤的分野を推進するため,金属材料技術研究所において「新世紀構造材料の研究」等,無機材質研究所において「超常環境を利用した新半導性物質の研究」等の研究開発を推進するとともに,創造科学技術推進制度(科学技術振興事業団),フロンティア研究システム(理化学研究所),科学技術振興調整費等各種制度により物質・材料系科学技術に関する研究を実施している。

文部省においては,東北大学に附置されている共同利用研究所である金属材料研究所等を中心として,独創的・先端的な物質・材料研究を展開するとともに,研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として,大学等における独創性豊かな学術研究を推進すべく,物質・材料系科学技術の基礎的研究が行われている。

農林水産省においては,「新需要創出のための生物機能の開発・利用技術の開発に関する総合研究」の一環として,バイオプラスチック,シルクレザー等の生物素材に係る研究開発を実施している。通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,「独創的高機能材料創製技術」,「シナジーセラミックス」等の研究開発が実施されている。

また,物質・材料系科学技術水準の国際的向上を図るため,国際共同研究助成事業(NEDOグラント)により,国際共同研究チームが行う基礎的先導的研究開発を推進している。

3)超伝導に関する研究開発の推進

1986年(昭和61年),スイスIBMチューリッヒ研究所における発見を契機として,昭和63年1月の科学技術庁金属材料技術研究所におけるビスマス系超伝導体の発見など,高い温度でも超伝導現象を生じる酸化物系の新しい超伝導物質が相次いで発見された。この新超伝導物質は,それらが実用化されれば経済社会に大きなインパクトを与えるものとして,世界的に大きな期待が寄せられている。しかしながら,これら酸化物系超伝導体はまだ材料以前の段階であり,実用材料として利用されるようになるためには今後,理論の解明,新物質の探索,材料化等の基礎的・基盤的研究開発が重要である。このような点にかんがみ,科学技術会議政策委員会の下に開催された超電導に関する懇談会が昭和62年11月に取りまとめた「超電(伝)導研究開発の基本的推進方策について」等を踏まえ,関係省庁において本分野の研究開発が推進されている。

科学技術庁においては,金属材料技術研究所,無機材質研究所,日本原子力研究所等が有するポテンシャルを最大限に活用し,研究基盤を整備するとともに,当該ポテンシャルを核として,国内外に開かれた研究者主体の柔軟な共同研究,研究者交流及び情報交換並びに技術展開を推進する「超伝導材料研究マルチコアプロジェクト」により,超伝導材料の基礎的・基盤的研究を推進している。

文部省においては,科学研究費補助金等により基礎的研究が行われている。

通商産業省においては,エネルギー・環境領域総合技術開発推進計画等により,新エネルギー・産業技術総合開発機構を中心に産学官の連携の下に超電導応用基盤技術の研究開発などを行っている。

郵政省においては,通信総合研究所を中心に産学官の連携により推進している情報通信ブレークスルー基盤研究21の一環として,「情報通信デバイスのための新機能・極限技術の研究」において,超電導材料が有する優れた電気・磁気特性を情報通信デバイス等に導入するための研究開発を実施している。

運輸省においては,将来の高速輸送を目的とする超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けて研究開発を促進するため(財)鉄道総合技術研究所への助成等を行っている。

4)物質・材料系科学技術の国際協力の推進

1990年(平成2年)5月に日米科学技術協力協定に基づく協力課題となつた「強磁界マグネットの開発のための研究」(金属材料技術研究所―米国国立科学財団(フランシスビッター国立磁石研究所))等の二国間国際協力や,「新材料と標準に関するヴェルサイユプロジェクト(VAMAS)」等の多国間科学技術協力などにより,数多くの共同研究,研究者交流などを推進している。

また,標準の分野でも国際電気標準会議(IEC)に超電導専門委員会(TC90)が新設され,1990年(平成2年)から我が国が幹事国となつた。

なお,平成10年度に実施された主な物質・材料系科学技術分野の研究課題は第3-3-1表に示すとおりである。

第3-3-1表 主な物質・材料系科学技術分野の研究課題(平成10年度)



(2) 情報・電子系科学技術

1)情報・電子系科学技術の基本的推進方策等

情報・電子系科学技術は,半導体やコンピュータ等の高度化・高機能化を通じて,経済や社会活動に大きな変革をもたらしてきており,高度情報通信社会への移行が本格化する中で,その果たす役割は,ますます重要になりつつある。これまで情報・電子系科学技術については,平成元年6月に内閣総理大臣決定された「情報・電子系科学技術に関する研究開発基本計画」に基づき,高速論理演算や大容量記憶のための各種素子,知識処理やあいまい性の処理等の情報処理の高機能化,多様な入出力形態の情報の効率的で正確な伝達,情報処理・伝送のヒューマンインタフェース等の研究開発が推進されている。

また,21世紀に向けて,コンピュータとネットワークを中心とした情報科学技術は,豊かな国民生活の実現と新たな時代を拓く原動力として期待されており,大容量の情報を高速に伝送・処理する必要性がより一層高まってくることが考えられる。そこで,高性能なコンピュータとネットワークを駆使した新たな知のフロンティアをめざして,関係省庁の連携の下に,情報科学技術の高度化のための研究開発を推進するとともに,円滑な科学技術情報の流通体制を構築するため,平成9年7月に諮問第25号「未来を拓く情報科学技術の戦略的な推進方策の在り方について」が科学技術会議に諮問され,情報科学技術部会において審議が行われ,平成11年2月に同部会として答申案が取りまとめられた。今後,科学技術会議により答申される予定である。

2)重要研究開発課題

ア.素子等

高速画像処理,高速大容量情報伝送はもとより,高度なヒューマンインタフェースを実現するための,あるいは知的な情報の処理・伝達・蓄積等の発展につながる高速論理素子の研究開発及び大容量記憶素子の研究開発が不可欠である。

具体的な研究課題としては,科学技術庁の理化学研究所による「フォトダイナミクス研究」や,通商産業省の産業科学技術研究開発制度による「量子化機能素子」の研究開発や電子技術総合研究所による「極限プロセス技術を活用した半導体材料創製に関する研究」,郵政省の情報通信ブレークスルー基礎研究21の一環としての「情報通信デバイスのための新機能・極限技術の研究」等がある。

イ.情報の処理

高速化,処理容量の増大とともに,情報が持つている意味レベルの内容の理解や,機能自らが推論・学習・判断するといつた高度かつ高機能な情報処理の実用化が期待されている。このため,ハードウェアの高度化・高機能化だけでなく,ソフトウェアの高度化・高機能化や新しい概念に立つたアルゴリズムやプログラム言語,アーキテクチャーの研究開発,オープンシステム化の推進が急がれている。

具体的な研究開発課題としては,科学技術庁の関係研究機関の連携による「地球シミュレータの開発」,電子技術総合研究所による「柔軟な知能情報処理に関する研究」等が行われている。

ウ.ヒューマンインタフェース

本来,情報システムは人間の活動を支援し,豊かにするための道具であるが,現状ではどちらかといえば,人間側が大きな労力を費やして情報システム側に合わせることにより操作を行っている。今後,情報システムの能力を十分に活用していくためには,だれもが,それぞれの個性に応じて手軽に操作できる,人間を中心に考える立場に立つた高度なヒューマンインタフェースの構築が必要不可欠となっている。このためには,人間の情報処理機能の解明を目指す認知科学や心理学に根ざした基礎的研究,創造性支援のための応用研究等が望まれている。

この分野の研究として,郵政省では情報通信ブレークスルー基礎研究21による「フレンドリーなコミュニケーション社会基礎技術の研究」等が行われている。

工.情報の伝達

情報化社会の到来とともに通信への依存度が急速に増加しており,通信の高速化,大容量化,高度化に対する研究が強く望まれている。

有線系伝送路については,コヒーレント光通信方式などの超大容量・長距離伝送用,無線系伝送路については,ミリ波から光領域にわたるより高い周波数領域用の発振器等の素子・部品・周辺回路,アンテナ,変調方式等の技術の研究開発が進められている。

通信の高度化としては,さらに,多様な接続形態を実現させる柔軟なネットワーク,高度なニーズに応え様々なサービス機能を付加するインテリジェントネットワークの構築等が期待されそいる。

この分野の研究として,通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度による「フェムト秒テクノロジー」の研究開発が,郵政省においては,情報通信基盤の基礎的・汎用的技術開発の一環としての「超高速ネットワーク技術の開発」,先導的研究開発の一環としての「高度三次元画像情報の通信技術に関する研究開発」や創造的情報通信技術開発推進制度として「光ネットワークにおける多重化及び多元接続技術に関する研究」等が進められている。

オ.社会活動への適用技術

ア.〜エ.の技術を人間社会へ適用させて,豊かで快適な生活の実現という観点から医療,教育,生産,芸術活動等を支援する技術についての研究開発が進められている。この分野の研究として,具体的には,通商産業省が生命工学工業技術研究所,物質工学工業技術研究所,大阪工業技術研究所などを中心にして産業科学技術研究開発制度により「人間感覚計測応用技術」の研究等を実施しており,今後さらにこの分野の研究開発の促進が期待される。郵政省においては,分散した研究開発機関をネットワークで接続しあたかも一つの研究所で共同作業を行っているような環境を実現する「マルチメディア・バーチャル・ラボの構築」のための研究開発が進められている。

3)その他の取組

学術審議会では,情報に関する研究の今後の推進方策について審議を行い,平成10年1月に中核的な研究機関の創設,人材の養成,研究費の充実等を提言した「情報学研究の推進方策について」を建議として取りまとめた。

平成10年度に実施された主な情報・電子系科学技術分野の研究課題は 第3-3-2表 に示すとおりである。

第3-3-2表 主な情報・電子系科学技術分野の研究課題(平成10年度)


(3) ライフサイエンス

ライフサイエンスは,生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明する科学であるとともに,その成果を保健医療,環境,農林水産業,産業等の種々の分野に応用することを目指すものであり,健康で豊かな国民生活の実現に大きく寄与するものと期待されている分野である。

1)ライフサイエンス研究の基本的推進方策

我が国においては,昭和46年,科学技術会議が第5号答申において,ライフサイエンス振興の重要性を指摘して以来,国として積極的に,推進することとしており,平成9年8月には,今後10年程度を見通した我が国のライフサイエンス研究開発の在り方を示す,「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定されたところである。今後,我が国におけるライフサイエンスに関する研究開発は,本基本計画に基づいて推進することとしている。

本基本計画は,我が国がライフサイエンス分野での世界の先駆者を目指すに当たって,我が国独自の戦略が必要であるとし,本分野において国として特に取り組むべき領域として,脳,がん,発生,生態系・生物圏に関する研究開発といつた統合システムとしての生物に関する研究開発,及びゲノム等基礎的生体分子に関する研究開発を選定している。また,クローン個体の作製等,生命倫理に関する問題等についても考え方を示している。

また,ライフサイエンスの産業応用については,「経済構造の変革と創造のための行動計画」,「産業再生計画」において,重要分野とされており,産業化への取組の強化のため,平成11年1月において,これらの計画及び本基本計画を踏まえ,ゲノム関連研究等の推進等に取り組む旨,関係5大臣(科学技術庁長官,文部大臣,厚生大臣,農林水産大臣,通商産業大臣)が,「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本方針」を申し合わせた。

2)脳科学研究の推進

脳は,多くの可能性を秘めている21世紀に残された大きなフロンティアであり,脳科学研究は,その成果を通じて,人間の心の理解による社会生活の質の向上につながることが期待されるとともに,医学の向上,新技術・新産業の創出につながることが期待される分野である。平成8年3月の学術審議会バイオサイエンス部会報告が「大学等における脳研究の推進について」を決定しており,平成9年5月には,科学技術会議ライフサイエンス部会脳科学委員会が,我が国の脳科学研究推進に関する長期計画として,「脳に関する研究開発についての長期的な考え方」を決定している。

こうした背景の下,平成9年度より,我が国における脳科学研究の大幅な強化が図られ,国内外の研究者のポテンシャルを結集して脳科学研究を計画的に推進するために,科学技術会ライフサイエンス部会脳科学委員会及び脳科学研究推進関係省庁連絡会の調整の下,省庁の枠を超えた多くの大学,国立試験研究機関の能力を最大限に活用して研究開発を進めている。

具体的には,科学技術庁においては,平成9年11月,理化学研究所に我が国における脳科学研究を牽引する機関として「脳科学総合研究センター」を設置し,科学技術振興調整費及び科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進制度による省庁の枠を超えた公募型研究推進事業等が行われている。

また,文部省においては,科学研究費補助金や未来開拓学術研究推進事業による本分野の基礎研究の重点的な推進を図るとともに,平成9年度には,中核的研究拠点形成プログラムの研究拠点として,新たに新潟大学脳研究所を指定する等,大学等における脳研究の拠点の整備に努めている。

さらに,厚生省の精神・神経系機能研究や痴呆に関する研究,農林水産省における家畜の脳神経系機能研究,郵政省における生物に学ぶ情報処理パラダイムの基礎研究等の研究が各省庁において実施されている。

また,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)において,平成2年より脳機能研究への国際的枠組みによる研究助成が行われている。

3)ゲノム関連研究

生命機能の根源であるゲノム,遺伝子及びタンパク質の構造及び機能に関する研究は,その成果を通じて広範な領域における新技術・新産業の創出が見込まれる分野である。また,この分野の研究は諸外国も力を入れており,国際的な特許競争が激化しつつある。我が国としても,この大きな発展性を秘めた戦略分野における国際的な優位性を確保するため,積極的な取組を行っていく必要があるとして,平成10年6月には科学技術会議ライフサイエンス部会ゲノム科学委員会が,我が国のゲノム科学研究推進に関する長期計画として,「ゲノム科学に関する研究開発についての長期的な考え方」を決定している。

このような背景の下,我が国におけるゲノム科学研究を計画的に推進するため,科学技術会議ライフサイエンス部会ゲノム科学委員会及びゲノム科学研究推進関係省庁連絡会の調整の下,省庁の枠を超えた,大学,国立試験研究機関等の能力を最大限に活用・結集して研究開発を進めている。

具体的には科学技術庁においては,平成10年10月理化学研究所に我が国におけるゲノム科学研究の中核的拠点として,「ゲノム科学総合研究センター」を設置し,科学技術振興調整費や科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進事業による省庁の枠を越えた公募型研究推進事業等が行われているほか,科学技術振興事業団における高機能基盤生体データベース開発事業,放射線医学総合研究所における放射線影響遺伝子の解析等を実施している。

文部省では,科学研究費補助金や未来開拓学術研究推進事業によりヒトゲノム解析研究の重点的支援を行うとともに,東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターをはじめとしたヒトゲノム解析の研究拠点の整備を図つた。また,国立遺伝学研究所においては,国際DNAデータバンクの一員として,国内外の塩基配列情報の収集・提供を行うため,DDBJ(日本DNAデータバンク)の運営を行っている。厚生省では,老化・疾病に関連する遺伝子の解析を行っており,農林水産省では,農業生物資源研究所等を中心に,イネ,動物等を対象として,イネいもち病抵抗性遺伝子等農業生産上有効な遺伝子の単離,DNA利用技術の開発及びその成果を体系的に収集・蓄積・提供するDNAバンク事業を実施している。特に,平成10年度より,イネ・ゲノムの全塩基配列解読を中心とする第2期イネ・ゲノム計画を推進しており,世界的な評価を受けている。さらに通商産業省では,生命工学工業技術研究所におけるゲノム機能研究・技術開発,製品評価技術センターにおける大規模シークエンスのための「生物資源情報解析センター」の整備,産業有用微生物のDNA解析等のほか,新エネルギー・産業技術総合開発機構における遺伝子情報解析・利用技術や,ヒトcDNAの産業応用のための研究開発を実施している。これまでの解析の推進の結果,ゲノム解析に対する様々な研究領域の研究者の関心及び理解が深まり,生物学的に重要な領域を対象とするDNA材料の整備とそのシークエンシング,cDNAの探索研究等において大きな進展がみられており,これらの成果を踏まえた遺伝子機能の推定等の研究開発の重要性が高まっている。

タンパク質は,特異な立体構造(高次構造)を形成し,分子間相互作用,高次構造変化などを通じて機能を発揮することから,多数のタンパク質の立体構造を解明することにより,生命現象を明らかにすることが可能である。将来的にはゲノムの1次構造から,タンパク質の機能を推定することが可能となり,ゲノム解析の情報を最大限に活用できると期待されている。

その結果,我が国における生物学等の基礎科学の進展のみでなく,効率的,合理的な新薬の開発,環境に優しい生産技術の開発等の幅広い分野への応用が期待されている。

科学技術庁においては,理化学研究所において,タンパク質の構造解明に関する研究が行われたほか,通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,「機能性蛋白質集合体応用技術」,「複合糖質生産利用技術」等の研究開発が行われている。

4)生命倫理問題に関する取組

平成9年2月,成体の体細胞の核移植によるクローン羊の作成が成功したことを契機に人のクローン産生の可能性を視野に入れてライフサイエンスと研究開発と生命倫理の問題とのかかわりについての議論が巻き起こつた。これに対して平成9年3月,科学技術会議政策委員会において人のクローン産生に対する政府予算の配分を差し控えること等が決定された。これに基づき関係省庁は,人のクローン産生に関する研究を差し控える措置を実施している。その後同年8月に内閣総理大臣決定された「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」において,本問題に関する基本的な方向性が示され,畜産動物等の動物クローン個体の作製や個体を産み出さないヒト細胞の培養等は情報の公開を行いつつ適宜推進すべきとする一方で,人のクローン個体の産生については,社会的に容認されていないこと,科学面,安全面の知見の蓄積が不十分であること,人間の本質に関わる種々の問題を内包している等の理由から,これを実施しないこととすべきであるとし,このための研究資金の配分の差し控えを当面継続するとともに,法規制の必要性等,具体的な方策について,国際的動向等に留意しつつ議論を尽くしていくべきであるとした。これを受けて,同年10月,科学技術会議に人に関連する生命倫理に係わる科学技術の在り方を検討するため,生命倫理委員会が設置された。

クローンについては具体的な方策を検討するため,平成10年1月生命倫理委員会にクローン小委員会が設置され,同年6月,ヒトの個体を生み出さないクローン技術には有用性が認められる一方で,クローン技術を用いた人個体産生は,人間の尊厳の確保,生まれてくる者の安全確保上問題であり,国のガイドラインまたは法律に基づく公的な規制を行うことが必要である旨の中間報告が取りまとめられた。その後,クローン小委員会において,国民各般の意見を踏まえて,クローン技術の規制の方法及び対象などについて検討を行っている。

また,平成10年11月にどのような細胞にでも分化できる胚性幹細胞が人においても確立されたこと等を受けて,同年12月に生命倫理委員会にヒト胚研究小委員会が設置され,人胚性幹細胞の研究を始めとする人胚を対象とする研究に関する倫理問題の検討が開始された。

一方,学術審議会では平成9年4月以降バイオサイエンス部会に「クローン研究における新たな倫理的問題等に関するワーキンググループ」を設置し,大学等におけるクローン研究について検討を行い,平成10年7月に,大学等において,ヒトのクローン個体の作成を目的にする研究またはそのおそれのある研究,具体的にはヒト体細胞(受精卵,胚も含む)由来核の除核卵細胞への核移植を禁止し,これを文部省の指針により示すことを内容とする報告を取りまとめ,同年8月これを受けて文部省は「大学等におけるヒトクローン個体作成についての研究に関する指針」を告示し,また,ヒト胚性細胞の研究を大学等において行おうとする場合の取扱いについては,上記のワーキンググループで上記の指針を準用することが確認され,その旨文部省から大学等の研究機関に通知した。

5)組換えDNA研究の推進

組換えDNA研究は,基礎生物科学的な研究はもとより,疾病の原因の解明,医薬品の量産,有用微生物の開発,農作物の育種等広範な分野において人類の福祉に貢献するものである。他方,組換えDNA実験は,生物に新しい性質を持たせるという側面があるため,その実施に当たっては慎重な対応が必要である。科学技術会議は昭和54年,第8号答申「遺伝子組換え研究の推進方策の基本について」において,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針を提示した。これを受けて同年,内閣総理大臣により「組換えDNA実験指針」が定められ,我が国でも様々な分野において組換えDNA実験が実施されるようになつた。その後の科学的知見の増大に伴い,指針は逐次改訂されている。本指針の下で行われる研究は年々増加する傾向にあり,今後とも安全性を確保しつつ科学的知見の増大等に応じて指針の見直しを行っていくこととしている。

一方,文部省においては,昭和53年に学術審議会がこの分野の研究者の自主的意見を踏まえて,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針案を作成し,これに基づき,昭和54年に指針を告示した。その後,安全性に関する知見の蓄積に伴い,逐次指針の見直しを行っており,平成10年3月にも,研究の進展に基づく最新の知見を反映すべく,9度目の指針の改定に関する報告が,学術審議会の専門委員会より公表された。

また,組換えDNA技術の産業化段階における利用は,これまでWHOやOECDを中心に安全性評価についての国際的な概念づくりが進められ,こうした流れに沿って我が国においても厚生省,農林水産省及び通商産業省がそれぞれの分野について作成した指針に基づくこととされており,産業レベルでの組換えDNA技術の応用に対応している。これらの産業利用に係る指針も,科学的知見の集積に伴い,逐次改訂されてきている。さらに組換えDNA技術の利用に当たつて,OECDや生物多様性条約の締約国間で国際的調和を図るための検討が進められている。

6)遺伝子治療に関する研究の推進

遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与し疾患を治療する遺伝子治療臨床研究については,厚生省においては,平成5年4月に厚生科学会議でガイドラインを定め,平成6年2月には指針を告示した。他方,文部省においても,大学等における遺伝子治療の臨床研究についてその適切な実施を確保するため,平成6年6月には大学等における遺伝子治療臨床研究についてのガイドラインを告示している。

米国での遺伝子治療の臨床研究の大部分は,企業が遺伝子治療用医薬品等の承認申請をめざして臨床試験として行われている。

日本においても遺伝子治療用医薬品の臨床試験が行われる可能性が出てきたため,厚生省においては,平成7年11月に「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性確保に関する指針」を通知した。

平成10年度に実施されたライフサイエンス研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-3-3表 のとおりである。

第3-3-3表 主なライフサイエンス分野の研究課題(平成10年度)



(4) ソフト系科学技術

1)研究開発基本計画の決定

複雑化・高度化した社会において人間の知的活動の支援が求められ,また,モノ重視の大量生産・消費社会から脱皮し,ゆとりや豊かさを実感できる質の高い生活が求められている現在,科学技術の在り方は大きな転換期を迎えており,「人間や社会」の観点の重視が必須となっている。

このような時代背景に応えるものとして,平成4年12月に科学技術会議諮問第19号「ソフト系科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申が出され,平成5年1月にソフト系科学技術に関する基本計画として内閣総理大臣決定された。

研究開発基本計画においては,ソフト系科学技術を「人間・社会,ハードウェアといつた実体的対象の能力や機能を発揮させ,その最も有効な利用・運用を図るための科学技術」,言い替えれば,人間・社会に関する知見を基盤として,ハードウェアはいかに構成されるべきか,いかに動かすべきか,また,人間の知的能力や社会の活動能力をいかに支援し活性化していくかについて考えていく科学技術体系ととらえ,その推進に当たっての重要研究開発課題,研究開発の推進方策を示している。

また,関連する報告として科学技術庁長官の諮問機関である資源調査会においても,平成4年7月に知的技術(人間の知的活動を支援又は代替する技術)について,その重要性,現状と将来展望及び今後の発展のための方策が取りまとめられている(報告第115号)。

2)研究開発の推進

ソフト系科学技術の分野はまだ揺籃期にあるため,総合的推進施策等を検討するため,産学官の関係者及び人文・社会系も含めた有識者から構成されるソフト系科学技術推進会議を開催し,研究者側と成果の利用者側が一体となって,我が国のソフト系科学技術に関する研究開発の在り方,推進方策,実社会からのフィードバックの在り方等について検討し,コンセンサスの形成を図ることとしている。

3)研究開発の現状

ソフト系科学技術は,今後の科学技術に新たなブレークスルーをもたらす基礎的・先導的科学技術として,また,人文・社会科学と自然科学を融合した新しい総合的科学技術として重要な役割を果たすと期待され,近年,ソフト系科学技術に関連した研究機関や大学の学科の整備が進み,研究開発活動等の取組が活発化してきている。

平成10年度に実施された主なソフト系科学技術の研究課題は 第3-3-4表 に示すとおりである。

第3-3-4表 主なソフト系科学技術分野の研究課題(平成10年度)

4)科学技術政策に関する調査研究活動

科学技術政策研究は,社会・経済事象も含んだ科学技術を巡る諸事項を総合的に取り扱うものであり,研究対象,研究手法とも極めて広範多岐にわたつている。研究を進めるに当たっては,国際性及び学際性を重視した広い視野に立ちつつ,時代や社会の要請に応じ,適切かつ積極的な研究活動の展開を図っていく必要がある。

このような基本認識の下,昭和63年に科学技術庁に設置された科学技術政策研究所(NISTEP)においては,イノベーション政策の基礎となる理論を確立するための研究や当面の政策課題のための実証的調査研究を,長期的・国際的視点に立ちつつ,体系的に進めている。

具体的には,理論を確立するための調査研究として,技術革新プロセスや研究開発投資の経済効果など科学技術の構造・動態や科学技術の経済社会への効果に関する分析,科学技術の研究開発推進システムに関する分析などを行っている。また,当面の政策課題のための実証的調査研究としては,科学技術指標や科学技術人材など科学技術振興条件及び制度に関する分析,科学技術と人間・社会とのかかわりに関する分析,地域における科学技術振興及び科学技術の国際的展開に関する分析,科学技術の動向及び将来予測に関する分析などに取り組んでいる。

ここでは科学技術の将来予測に関する分析の中から,「技術予測調査」を取り上げ,科学技術政策研究所の活動の一端を紹介する。

○技術予測調査

我が国の経済社会の発展にとって,科学技術の振興は極めて重要な課題であり,このためには技術発展の動向を長期的な視点から把握しておくことが必要である。

科学技術政策研究所が平成9年に取りまとめた第6回技術予測調査では,我が国の研究開発活動の第一線で活躍中の専門家約4,000人を対象に,デルファイ法を用いて,1,000を超える技術開発課題の実現時期,重要度,期待される効果,政府の果たすべき役割など今後30年の科学技術の発展の方向性に関し総合的な調査を行った。課題例を 第3-3-5図 に示す。

技術予測は近年ヨーロッパをはじめアジア各国においても実施されるようになっている。科学技術政策研究所では,ドイツのフラウンホーファー協会システム技術革新研究所(Fhg/ISI)と協力して,我が国の第5回技術予測調査と,この質問票を翻訳して実施されたドイツの予測調査との比較分析を行ったほか,調査研究課題の設定の段階から日独共同で取り組んだ日独技術予測調査(ミニ・デルファイ調査)を1994〜95年(平成6〜7年)に実施する等,技術予測の国際的な比較・検討を行うための手法の開発にも取り組んでいる。

第3-3-5図 第6回技術予測調査における課題例


(5) 先端的基盤科学技術

各分野の科学技術の発展に伴い科学技術が複雑化する中で,異なる分野の間で共通的に利用できる基盤となり,また,それらの分野を一層発展させる鍵となる技術の重要性が認識されてきた。例えば,極微小な物質を高精度で計測・操作する技術,リアルタイム・多次元の観測・表示技術等の計測・分析技術の推進が重要となっている。

1)先端的基盤科学技術の基本的推進方策等

これらの先端的な基盤科学技術は,異分野科学技術の相互乗り入れを促進し,新しい応用分野の開拓や従来の発想では困難であった課題に対してのブレークスルーを提供することが期待されている。

このような状況を踏まえ,先端的基盤科学技術の研究開発を計画的に推進するため,内閣総理大臣から科学技術会議に対して,諮問第21号「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画について」が諮問され,科学技術会議は平成6年12月12日に答申を行い,これをもとに同年12月27日に「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定された。

2)重要研究開発課題

上記のような推進方策の下,先端的基盤科学技術として,例えば,微小要素デバイス技術,微小制御技術,微小設計技術等を総合したマイクロエンジニアリング技術など,既存の分野の科学技術を結合した新しいタイプの基盤科学技術も発達してきている。

さらに,地球環境への影響の少ない永続的な生産活動,複雑な機械でも無理なく操作できるシステム,高齢化に対応した機械システムの構築技術など,自然環境との調和,人間・社会との調和など人類の活動を取り巻く複雑な問題を解決するための,様々な技術領域を融合して問題を解決するための基盤技術が重要となっている。

具体的には,科学技術振興調整費による「3次元電子顕微鏡の研究開発」が,通商産業省の産業科学技術研究開発制度による産業技術融合領域研究所を中心とした「原子・分子極限操作技術(アトムテクノロジー)」の研究開発や機械技術研究所を中心とした「マイクロマシン技術」の研究開発をはじめ,電子技術総合研究所による「量子効果を利用した計測・標準に関する研究」,物質工学工業技術研究所による「特異的作用場を利用した高感度計測技術に関する研究」が行われている。

また,平成10年度に実施された主な先端的基盤科学技術分野の研究課題は 第3-3-6表 に示すとおりである。

第3-3-6表 主な先端的基盤科学技術分野の研究課題(平成10年度)


(6) 宇宙科学技術

1)宇宙開発

宇宙開発は,地球環境問題等の解決(オゾン層観測,熱帯雨林の状況把握等),質の高い豊かな生活の実現(通信・放送,気象観測等),将来の新技術・新産業の創出(材料,エレクトロニクス等)等に貢献するものとして,極めて重要なものである。

我が国は,昭和45年に人工衛星「おおすみ」の打上げに成功して以来,平成10年12月末までに67個の人工衛星を打ち上げており,米国,旧ソ連に次ぐ世界第三の人工衛星打上げ国となっている。今後の我が国の人工衛星の打上げ計画は 第3-3-7表 に示すとおりである。

我が国の宇宙開発は,宇宙開発委員会が定めた宇宙開発政策大綱及び,それに沿って具体的内容を定めた宇宙開発計画に従い,宇宙開発事業団,文部省宇宙科学研究所を中心とする関係各機関の協力の下に,総合的かつ計画的に推進されている。

宇宙開発政策大綱は,昭和53年に策定され,その後昭和59年及び平成元年に改訂されてきたが,国際水準の宇宙開発能力の達成,世界の宇宙開発における民生利用や国際協力の重視,科学技術基本法の制定といつた情勢変化を受け,平成8年1月に3度目の改訂が行われた。新大綱では,これまでの技術基盤確立を主眼とした宇宙開発を一歩進め,本格的宇宙利用時代の実現への新たな展開を目指したものとなっており,地球観測,宇宙科学,宇宙環境利用活動等の充実に取り組むこと,新たな分野として月探査等に取り組むこと,社会の動向を的確に反映し,また,国民の理解と協力を得るため,広報活動の強化等に取り組むことを挙げている。

第3-3-7表 我が国の人工衛星等の打上げ計画


ア.地球観測・地球科学

静止気象衛星「ひまわり4号」の後継機として,平成7年3月に「ひまわり5号」を打ち上げ,現在運用中である。また,その後継の気象ミッション機能に併せて航空管制業務のための機能を持つ運輸多目的衛星をH-IIロケット8号機により平成11年度に打ち上げる計画である。

平成9年11月にH-IIロケット6号機により打ち上げられた(技術試験衛星VII型(ETS-VII)と同時に打ち上げ。),全地球的規模のエネルギー収支のメカニズム解明等に不可欠な熱帯降雨の観測等を行うことを目的とした,日米共同開発による熱帯降雨観測衛星(TRMM)には,郵政省通信総合研究所及び宇宙開発事業団が開発した降雨レーダが搭載されており,現在観測が行われ,平成10年6月からその観測データの提供が開始されている。なお,地球資源衛星1号(JERS-1)「ふよう1号」は平成10年10月に,その運用を終了した。約6年半にわたり取得した地球観測データは,現在も資源探査,環境監視,災害監視等幅広い分野において活用されている。

ほかに,地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)「みどり」の広域地球観測技術の継承,発展等を図ることを目的とする環境観測技術衛星(ADEOS-II)及び地図作成,地域観測,災害状況把握,資源探査等への貢献を図ることを目的とする陸域観測技術衛星(ALOS)の開発等が進められている。

イ.宇宙科学

科学の分野においては,文部省宇宙科学研究所が中心となり,全国の大学等の研究者の参加の下に,科学衛星を打ち上げており,近年においては,火星大気の構造及び運動並びに太陽風との相互作用の研究を目的とする第18号科学衛星(PLANET-B)「のぞみ」を打ち上げた。「のぞみ」は,平成15年末から平成16年初にかけての火星軌道投入に向けて現在火星遷移軌道上を航行中である。また,月内部の地殻構造及び熱的構造の解明を目的とする第17号科学衛星(LUNAR-A),活動銀河核などからのX線の観測を目的とする第19号科学衛星(ASTRO-E),小惑星等から岩石等のサンプルを採取し,地球に持ち帰るミッションの工学的実験を行う第20号科学衛星(MUSES-C),宇宙初期の原始銀河等の解明のための長波長電磁波(遠赤外線)による観測を行う第21号科学衛星(ASTRO-F)の開発等を進めている。

ウ.通信・放送・測位等

放送衛星については,「ゆり」の開発が行われてきたが,平成10年4月に放送衛星3号-a「ゆり3号-a」,同年11月に放送衛星3号-b「ゆり3号-b」の運用を終了し,一連の「ゆり」の開発は終了した。

また,高度移動体衛星通信技術,衛星間通信技術及び高度衛星放送技術等の開発・実証を目的とした通信放送技術衛星(COMETS)「かけはし」については,平成10年2月のH-IIロケット5号機による打上げにおいて,ロケット第2段エンジンの早期燃焼停止により静止軌道投入に失敗したが,その後,宇宙開発委員会技術評価部会及び宇宙開発事業団で事故原因の究明が行われるとともに,同事業団においては,同年3月から5月にかけて軌道変更を7回実施し,実験可能な軌道への移行に成功した。以降,「かけはし」では,可能な限りの通信・放送実験を実施している。

エ.宇宙環境利用の促進

宇宙環境は,微小重力,高真空等の地上では容易に得ることのできない特徴を有している。微小重力下物質科学やライフサイエンス等の実験を行う効果として,1)沈降や対流がないため,高品質・高精度の物質生成が可能,2)流体の容器をなくせるため,不純物が混ざらない,3)生体におよぼす重力の影響が確認できる,などが挙げられる。また,宇宙の高真空場により,1)不純ガスの混入がない,2)広大な真空場が実現される,などの効果が期待される。今後,宇宙環境を利用した極めて広範な分野にわたる研究や実験,観測等を進めていくことにより,例えば,地球上の環境に隠されていた現象の発見や解明など新たな科学技術の展開をもたらす研究が可能となるほか,地球上で進化してきた生命体と重力等の地球環境との関係を問い直し,生命現象を解明し,宇宙スケールで生命の可能性を探求する研究も可能となる。さらに,新材料や医薬品の創製,新たな生産技術や医療法の開発,地球環境保全につながる技術の獲得など,社会の発展や生活の向上に寄与する研究開発が一層推進されることが期待される。

宇宙開発委員会では,宇宙環境の民間参加による応用化研究利用を目指した推進策を検討するため,平成9年10月に宇宙環境利用部会の下に応用化研究利用分科会を設置し,平成10年7月に報告書「宇宙ステーションの民間利用の促進に向けて」を取りまとめた。本報告書では,1)宇宙環境を利用した応用化研究の有効性実証を目的とした先導的応用化研究の推進,2)先導的応用化研究体制の整備等の当面の推進方策を示している。

宇宙開発事業団では,米国のスペースシャトルを利用した宇宙環境利用実験(平成10年4月と10月のニューロラブ計画)において,海水型水棲動物実験装置を搭載し,神経科学分野の実験等を行ったが,10月の実験では,向井宇宙飛行士が搭乗科学技術者(Payload Specialist)として,無重力環境が人体に及ぼす影響の解明等,医学者としての知識と経験を活かした実験も行われた。6月には,実時間放射線モニタ装置(RR MD)を搭載し,将来の国際宇宙ステーションにおける宇宙放射線対策に資する宇宙放射線環境観測実験を実施した。小型ロケットを利用した宇宙環境利用実験については,平成10年11月にTR-IA7号機で,宇宙実験技術の高度化,国際宇宙ステーションの日本の実験棟「JEM(ジェム)」の共通実験装置の要素技術の開発に資することを目的に実験を実施した。

そのJEM与圧部共通実験装置,及びJEM曝露部実験装置については,現在,検討,開発が進められている。更に,JEMを中心とした宇宙環境を利用する準備段階として幅広い分野の研究者に研究機会を提供し,宇宙環境利用に関する地上研究を推進することを目的として「宇宙環境利用に関する地上研究公募」を平成9年度より研究テーマを選定し,研究を開始している。また,先の宇宙開発委員会宇宙環境利用部会報告書「宇宙ステーションの民間利用の促進に向けて」を受けて,民間企業等が主体的に参画出来ることを配慮した新しいシステム作りの策定を行い,平成11年度より「先導的応用化研究」の公募を開始する予定である。

通商産業省においては,宇宙環境の産業利用促進を図ることを目的として,次世代型無人宇宙実験システム(USERS)の構築及びUSERSに搭載する超伝導材料実験装置の開発を進めている。

オ.人工衛星の基盤技術

(ア)技術試験衛星(ETS)

国際宇宙ステーションあるいは将来型人工衛星への物質の輸送及び軌道上作業等,21世紀初頭の宇宙活動に対応するために必須の技術の確立を目指し,これら将来の人工衛星に必要となる共通技術の開発を行う衛星として,技術試験衛星「きく」が開発されている。平成9年11月に打ち上げられた技術試験衛星VII型(ETS-VII)「おりひめ/ひこぼし」(きく7号)においては,世界初の無人機同士の自動制御によるランデブ・ドッキング実験,遠隔制御によるロボット実験等を実施し,将来の自在な宇宙活動に向け大きな技術成果を収めている。

また,大型衛星バス技術,大型展開アンテナ技術,移動体衛星通信システム技術,移動体マルチメディア衛星放送システム技術及び高精度時刻基準装置を用いた測位等に係わる基盤技術の開発並びにそれらの実験・実証を行うことを目的とする技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)の開発を進めている。

(イ)ミッション実証衛星(MDS)

宇宙開発をより一層身近なものとし,また,高度化・多様化するミッション需要に対応するため,先端的なミッションないしミッション機器の宇宙実証を行うことを目的としたミッション実証衛星(MDS)として,初号機としては,民生部品の軌道上における機能確認,コンポーネント等小型化技術確認及び放射線等の宇宙環境の計測を目的とする民生部品・コンポーネント実証衛星(MDS-1)を,また,2号機として,地球温暖化・気候変動等の解明に有効な観測手段であるライダー(レーザー光を用いたレーダ)の実証を目的とするライダー実証衛星(MDS-2)の開発を進めている。

今後のMDS搭載ミッションに関しては幅広く公募することとしており,平成10年度においては,将来の搭載ミッションに資する研究ミッションの公募を行い,8件のテーマを選定した。

力.宇宙インフラストラクチャー

(ア)M系ロケット

科学衛星打上げのため,L(ラムダ)ロケットの開発を経てM(ミュー)ロケットが開発された。M系ロケットは,全段に固体推進薬を用いたロケットで,低軌道へ約1.8トンの打上げ能力を有するM-Vロケットの開発が進められ,平成9年2月に1号機,平成10年7月に3号機の打上げに成功した。

(イ)H-IIロケット

静止衛星等の人工衛星の打上げのため,N系ロケット,H-Iロケットの開発を経て,1990年代における大型人工衛星の打上げ需要に対処するために開発された,2トン程度の静止衛星を打ち上げる能力を有する2段式のH-IIロケットは,第1段,第2段ともに液体酸素・液体水素エンジンを採用した大型のロケットであり,平成6年2月の試験機1号機から,平成9年11月の6号機まで,計5機の打上げに成功した。しかしながら,平成10年2月の5号機の打上げについては,第2段エンジンの早期燃焼停止により失敗したことを受け,現在,この原因究明結果に基づく対策を十分に講じつつ,平成11年度に8号機,平成12年度に7号機を打ち上げるべく高度化開発等を引き続き進めている。

また,効率的な宇宙開発のため,輸送需要に柔軟に対応でき,大幅な打上げコストの低減が可能なH-IIAロケットについて,平成11年度に初号機を打ち上げることを目標に開発を進めている。( 第3-3-8表 )

第3-3-8表 我が国の主な人工衛星打上げ用ロケットの主要諸元

(ウ)宇宙往還技術試験機(HOPE-X)

従来のロケット技術による輸送コストと比べ,大幅なコスト低減が可能な再使用型輸送系の技術基盤育成の一環として,無人有翼往還機の主要技術の確立を図るとともに,将来の再使用型輸送機の研究に必要な技術蓄積を図ることを目的とした宇宙往還技術試験機(HOPE-X)について,平成15年度にH-IIAロケットにより打ち上げることを目標として開発を進めている。

(エ)光衛星間通信実験衛星(OICETS)

衛星間通信システムに有効な光通信技術について,欧州宇宙機関(ESA)との国際協力により,同機関の静止衛星ARTEMISとの間で捕捉追尾を中心とした要素技術の軌道上実験を行うことを目的とする光衛星間通信実験衛星(OICETS)の開発を進めている。

(オ)データ中継技術衛星(DRTS-W,E)

地球観測衛星や国際宇宙ステーションの日本の実験棟(JEM)等を用いたデータ中継実験を行うことにより,通信放送技術衛星(COMETS)のデータ中継機能を発展させ,より高度な衛星間通信技術の蓄積を図ること等を目的とするデータ中継技術衛星(DRTS-W,E)2機の開発を進めている。

キ.月周回衛星(SELENE)

月の起源と進化の解明及び将来の宇宙活動に不可欠な月の利用可能性の調査のためのデータを月面全域について取得するとともに,月面軟着陸技術等の月探査に必要な基盤技術を開発することを目的とする月周回衛星(SELENE)の開発研究を進めている。

ク.人工衛星,ロケット等の技術に関する基礎的・先行的研究

科学技術庁航空宇宙技術研究所をはじめ各機関において,人工衛星やロケットの技術に関する基礎的な研究,また,無人有翼往還機や,スペースプレーン等の先行的研究を進めている。

ケ.宇宙開発分野の国際交流

冷戦構造の崩壊に伴う米国,ロシアの協調の動きや,地球環境問題の深刻化に伴う地球観測衛星等による宇宙からの観測の重要性の増大を背景に,近年,宇宙分野における世界各国の協力の必要性が従来にも増して拡大している。

このような中,1994年(平成6年)9月に行われた国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)宇宙利用大臣級会合において開始が決定された「持続可能な発展のための地域宇宙応用プログラム(RESAP)」の運営のために,1998年(平成10年)5月に,第4回政府間諮問委員会が開催され,我が国もこれに参加している。RESAPの下では,1)リモートセンシング・GIS・GPS,2)気象衛星応用・自然災害の監視,3)衛星通信応用,4)宇宙科学・技術応用の4つの作業部会が設けられ,個々のプロジェクトごとに検討が行われている。

さらに,我が国は,宇宙空間の探査及び利用に係る国際的秩序の検討,国際協力の促進等について審議を行っている国連宇宙空間平和利用委員会への参加や,今後のアジア太平洋地域における宇宙開発に関する国際協力の在り方について意見交換を行うアジア太平洋宇宙機関会議(APRSAF)の開催等の多国間協力を行っている。

また二国間協力について,米国との間では,従来より情報交換・意見交換を行うために開催されていた日米常設幹部連絡会議(SSLG:Standing Senior Liaison Group)をより機動的なものとするための調整を行っているほか,1995年(平成7年)7月に発効した日米宇宙損害協定に基づき,日米間の特定の宇宙協力活動に際して生じた損害賠償請求権を相互に放棄することをあらかじめ約束することにより,日米間の宇宙協力活動を円滑に実施している。さらに欧州(欧州宇宙機関:ESA)との間においても,年次的に開催している日・ESA行政官会議が1998年(平成10年)9月に23回目を数えるなど,密接な協力関係を継続している。また,ロシアとの間でも,1993年(平成5年)10月のエリツィン・ロシア大統領訪日に際し締結された日ロ宇宙協力協定に基づき協力を推進することとしており,1998年(平成10年)4月には,第1回日露宇宙協力合同委員会が開催された。

2)航空技術

航空技術は知識集約性,技術先端性が高いため,その開発は単に航空輸送の発展をもたらすのみならず,他の分野への波及効果も高く,我が国が今後とも科学技術創造立国をめざして発展していく上で大きな役割を果たすものである。

我が国では,これまで民間輸送機YS-11等の自主開発,ボーイング777等の国際共同開発並びに民間航空機用ジェットエンジンV2500の国際共同開発を実施することにより技術を蓄積し,国際的な舞台で活躍する技術水準までに成長してきている。民間航空機においては,国際共同による開発方式が今後ますます世界の主流を占める傾向にあり,現在我が国では,小型民間輸送機YSX及び次世代の民間超音速輸送機開発の調査を実施している。

今後の航空機及び航空機エンジンの開発をさらに積極的に推進していくためには,技術水準の一層の向上を図る必要がある。このため,科学技術庁においては,航空・電子等技術審議会の建議や答申に沿って,航空技術研究開発の推進を図るための施策が講じられている。平成6年6月には本審議会によって,「航空技術の長期的研究開発の推進方策について」(諮問第18号)に対する答申が行われた。また,通商産業省においては,航空機工業審議会において民間航空機及びエンジンの国際共同開発をはじめとする航空機産業政策の方向につき議論がなされている。

科学技術庁航空宇宙技術研究所においては,我が国の将来の航空機開発に必要となる技術の確立をめざした研究が進められており,特に,次世代超音速機技術として重要なCFD空力設計技術等の確立を目指して,小型超音速実験機の開発・飛行試験を中核とした研究開発を推進している。このほか,航空安全及び環境適合性技術に関する研究並びに電子計算機による数値シミュレーション等の基礎技術の研究を進めるとともに,各種風洞,エンジン試験設備等の大型試験研究設備を整備し,関係機関の共用に供し,我が国の航空技術の発展を図る上で主導的な役割を果たしている。

運輸省電子航法研究所においては,航法・管制に関する技術について,航空交通の安全性を向上させるための研究等を実施しており,これらの研究は今後の航空輸送の発展を図る上で重要なものとして期待されている。

通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,低速からマッハ5程度までの広範な速度域において高い信頼性等を有する「超音速輸送機用推進システム」の研究開発を行っている。この研究開発には欧米の航空機エンジンメーカーも参加している。大学連携型産業科学技術研究開発プロジェクトにおいては,航空機等への利用が期待される「知的材料・構造システム」の開発が進められている。

また,航空機の航行技術の向上を目指し,「インテリジェント・ナビゲーションシステム基盤技術」の開発を進めるとともに,先進複合材料の高効率製造技術の開発等も実施している。


(7) 海洋科学技術

海洋は生物資源や鉱物資源等,膨大な資源を包蔵するとともに広大な空間を有しており,その開発利用は国土が狭小であり四方を海に囲まれた我が国にとって重要な課題である。さらに,海洋は地球環境変動に大きなかかわりを有するとともに,海洋底プレートの動きは地震や火山活動の大きな要因と考えられていることから,その実態解明は急務となっている。このような背景の下,1990年代に入り,海洋の諸現象を全地球規模で総合的に観測・研究するためのシステム構築をめざした世界海洋観測システム(GOOS)計画が,国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)によって提唱され,1992年(平成4年)6月ブラジルで開催された国連環境開発会議(UNCED:地球サミット)で採択されたアジェンダ21においても,同計画の推進が盛り込まれている。今後,これら国際的な動向を踏まえ,地球環境問題に関連する海洋調査研究などの海洋科学技術に関する研究開発の推進が不可欠である。

1)海洋科学技術の基本的推進方策等

海洋科学技術に関する研究開発を進めるに当たっての基本的考え方は,内閣総理大臣の諮問機関であり,海洋開発に関する基本的かつ総合的事項について調査審議を行う海洋開発審議会の答申に示されている。 同審議会は,諮問「海洋調査研究の展開とそれに関連する技術開発・基盤整備等我が国の海洋調査研究の推進方策について」に対する平成5年12月の答申において,地球環境問題に対応した海洋調査研究の推進方策に関して,

・大型海洋観測研究船の整備等海洋調査研究基盤の充実
・地球規模の海洋調査研究の計画的な推進

等の重要性を指摘している。

我が国の海洋科学技術は,この海洋開発審議会の答申を尊重しつつ,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。各省庁における海洋科学技術に関する具体的施策は,海洋開発を総合的に推進するために関係省庁が緊密な連絡を図る場である海洋開発関係省庁連絡会議が毎年取りまとめる海洋開発推進計画に沿って実施されている。 平成9年5月には,海洋開発審議会に基本問題懇談会が置かれ,平成10年6月に「21世紀の海洋開発に向けて」の報告書を取りまとめた。

報告書では,海洋開発の現状の問題点を整理し,21世紀における新しい海洋開発の基本的な構想について取りまとめている。また,地球規模の海洋の諸現象を解明するため,関係省庁・大学等の連携の下,世界海洋観測システム(GOOS)計画等の国際的な海洋調査研究プログラムに積極的に参加し,さらに,我が国の主導により中国,韓国,ロシアと協力して,GOOSの地域プロジェクトである北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)を推進している。

2)海洋科学技術に関する研究開発の推進

科学技術庁では,海洋科学技術センターが中心となって海洋科学技術に関する先導的・基盤的な研究開発を進めるとともに,関係各省庁・大学等の協力の下,総合的なプロジェクトを推進している。

このうち,海洋科学技術センターでは,海洋調査技術の開発については,地球深部探査船の開発に向けて海底掘削システムの試験機の製作に着手する一方,自律型無人潜水機の開発を東京大学生産技術研究所と共同で行った。

深海調査研究の開発については,平成10年4月に1,000回潜航を達成した有人潜水調査船「しんかい2000」により,平成9年6月から10年5月にかけて10回に及ぶ伊豆・小笠原弧の潜航調査で明神海丘で多金属硫化物鉱床を発見するほか,無人探査機「かいこう」を使いマリアナ海溝チャレンジャー海淵において世界で初めて底生生物(端脚類)の採取に成功するなど,目覚ましい成果を上げた。さらに,平成11年1月から2月にかけて,南太平洋諸国の要請に基づいて平成10年7月にニューギニア島北岸で発生した地震調査のため深海調査研究船「かいれい」及び深海探査機「ドルフィンー3K」による調査を実施し,津波の発生原因となる地殻変動を起こした範囲を特定するなど,社会貢献にも取り組んでいる。

海洋観測研究については,平成10年11月から海洋地球研究船「みらい」で研究航海を開始し国際的な研究計画に基づきトライトンブイを設置した他,海洋の実態解明を進めるため,太平洋熱帯域や北極海域等において総合的な観測研究の実施,海洋レーザーや音響トモグラフィー等の観測技術の開発を行った。

さらに,沖合浮体式波力装置「マイティーホエール」の実海域実験を三重県五ヶ所湾沖で平成10年9月から開始するとともに,駿河湾において深層水の分析装置の整備等を行うなど各自治体と共同で沿岸環境利用の研究開発を推進している。

また,船舶技術研究所においては,海洋技術における安全,環境保全に関する研究を行っている。

一方,関係省庁や大学の間における総合的な連携・協力の下に,我が国及び東アジア地域の水産,気象等に大きな影響を与えている黒潮の変動メカニズムの解明等を行うための海洋開発及地球科学技術調査研究促進費による黒潮の開発利用調査研究,科学技術振興調整費による北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際共同研究等を推進している。

文部省では,平成9年度には,東京大学海洋研究所等が中心となって,海洋環境の変動の解明・予測,保全のための総合的観測システム構築を目的とする世界海洋観測システム(GOOS)に関する基礎研究,深海底を掘削し,海洋底プレート運動・構造等の解明に資する国際深海掘削計画(ODP)及び西太平洋海域共同調査への参加,海洋の物質循環の解明に資するオーシャンフラックス研究等の海洋に関する学術研究を引き続き行っている。

また,NEAR-GOOSについては,気象庁,海上保安庁等と協力し,日本海域を中心とした海洋データの交換を促進するためのシステムの運用を開始しており,海洋研究の一層の推進が図られている。

農林水産省では,平成10年度には,水産関係試験研究機関が中心となって,新技術導入・水産資源の特性の把握等を通じた漁業生産の合理化と資源の持続的利用,養殖業・栽培漁業等つくり育てる漁業の推進,漁場環境の保全,水産物の多面的高度利用のための研究開発等を引き続き行っている。

通商産業省では,金属鉱業事業団,石油公団,地質調査所,資源環境技術総合研究所等が中心となって,海底鉱物資源の開発と環境影響予測,海底地質の調査等を引き続き行っている。

運輸省では,平成10年度には,民間機関が行う超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の研究開発の補助,全国港湾海洋波浪情報網の充実等を行うとともに,海上保安庁において水路業務運営のための水路測量や海象観測等,漂流予測の精度向上を図るための研究等を,気象庁において気象業務推進のための海洋気象観測やエルニーニョ現象の解明等,海洋気象現象の把握及び気候変動の監視・予測に関する調査・研究等を引き続き行っている。

郵政省では,通信総合研究所において,海洋油汚染・海流・波浪などの計測手法の確立と地球環境の変化の予測に資する高分解能3次元マイクロ波映像レーダの研究を行っている。

建設省では,土木研究所において非均衡状態の海浜過程に関する研究等を実施している。また,国土地理院において,沿岸海域基礎調査等を行っている。

なお,海洋開発推進計画に基づき関係省庁が平成10年度に実施した主な海洋科学技術分野の研究開発の課題は, 第3-3-9表 のとおりである。

第3-3-9表 主な海洋科学技術分野の研究課題(平成10年度)



(8) 地球科学技術

近年の人工衛星を用いたリモートセンシング技術等の観測技術の発達や,スーパーコンピュータによる数値シミュレーション技術の発達は,地球に関する科学技術の研究に進歩をもたらすこととなった。また,人類の長年にわたる地球に対する探求を通じ,近年,地球及び地球の諸現象に関する知見の蓄積が気圏,水圏,地圏及び生物圏の各分野において急速に進んでおり,地球を一つのシステムとして把握することが可能な段階になっている。このため,これらの成果を地球の諸現象の予測や人類の持続的発展に利用するとともに,多くの未知の領域への探求を一層活発に行うべきとの要請が高まってきている。また,平成9年12月には,気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議(COP3:地球温暖化防止京都会議)が開催され,地球温暖化防止のために講ずるべき政策措置等が議論されるなど,人間活動の増大が原因と考えられる地球規模の環境問題が世界的に大きな問題となっており,地球は無限であり不変であるとの認識を改め,人間と地球の自然とが調和・共生する科学技術への指向が強くなってきており,COP3:地球温暖化防止京都会議において採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」において,地球温暖化防止のために科学技術の果たす役割への大きな期待が示された。また,平成10年11月にはCOP4がブエノス・アイレスで開催され,条約の履行を強化し,京都議定書の早期発効への条件整備を行うことにより,政治的機運を維持するために,今後の具体的取組を規定した「ブエノス・アイレス行動計画(Buenos Aires Plan of Action)」が採択された。

地球科学技術に関する研究開発を進めるに当たっての基本的考え方は,平成2年8月に内閣総理大臣決定された「地球科学技術に関する研究開発基本計画」に示されている。我が国の地球科学技術は,本基本計画の下,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。なお,「地球科学技術に関する研究開発基本計画」については平成10年8月より科学技術会議政策委員会の下でフォローアップ作業が進められている。

また,平成8年7月,航空・電子等技術審議会地球科学技術部会において,冷夏・暖冬等の正確な予測等の地球変動の解明及びその予測を実現し,社会経済の持続的発展に資するため,地球変動予測研究,地球観測及びこれらに基づくシミュレーションが三位一体となった研究開発の重要性が指摘された。

測地学審議会においては,平成7年6月に,広範多岐にわたる地球科学の諸分野の研究動向等について審議し,将来に向けて我が国の推進すべき研究課題等を示すとともに,推進のための方策について取りまとめ,「地球科学における重点的課題とその推進について」として,内閣総理大臣をはじめ,関係各大臣に建議した。

地球で生じている複雑な現象とそのメカニズムをより詳細に解明し,健全な環境を維持しつつ持続的発展を図るためには,関連する科学技術を統合した研究開発を推進することが必要である。また,常に地球全体に目を向けた巨視的な観点と,長期的な展望に基づいた研究開発を行うことが必要である。

地球科学技術を推進するにあたり,地球に関する科学的知見を深めるだけでなく,科学的知見を得るために観測・解析・予測技術の開発の進展を図るなど,科学的知見の蓄積と技術の開発を密接な連携の下で進めること等が必要である。また,一国で対応できないものが非常に多く,高度な科学技術水準を要するものが多いため,各国の協力の下に実施するとともに,我が国に対する国際的期待を踏まえ,我が国にふさわしい国際的活動をより積極的に実施することが必要である。

1)地球的規模の諸現象の解明に係る研究開発等

地球温暖化,オゾン層破壊,異常気象,地震,火山噴火等の地球に関する諸現象は,我々人類の社会生活と極めて密接な関連を有し,重大な影響を及ぼすおそれがあることから,その現象を科学的に解明し,適切な対応を図ることが強く要望されている。

また,地球科学技術が対象とする事象は,地球温暖化,地殻変動等,時間的にも空間的にも広がりを有し,一国のみの問題にとどまらないものである。このため,研究開発を進めるに当たっては,グローバルパートナーシップを確保することが極めて重要であり,世界気候研究計画(WCRP),地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)等の国際的な研究計画に積極的に参加するとともに,外国の研究機関等と共同研究を進めることが重要である。特に,我が国はアジア太平洋地域に位置し,経済的にも域内の各国と密接な関係を有することにかんがみ,本地域に重点を置いた研究開発を推進することが必要である。

我が国においては,各省庁が自らの予算によって地球的規模の諸現象の解明等に係る研究開発を実施するとともに,科学技術振興調整費,海洋開発及地球科学技術調査研究促進費,地球環境研究総合推進費により,関係省庁の国立試験研究機関や大学,さらには海外の研究機関等の広範な分野の研究能力を結集し,エルニーニョ南方振動現象等の地球的規模の諸現象の解明,人間活動が地球環境に及ぼす影響の評価等総合的,国際的な研究開発を積極的に実施している。

科学技術庁では,宇宙開発事業団及び海洋科学技術センターの共同プロジェクトとして,地球温暖化,異常気象等の地球変動現象の予測に向けて基礎的,学際的な研究を実施する「地球フロンティア研究システム」を平成9年10月に発足させた。「地球フロンティア研究システム」は,地球を一つのシステムととらえその変動と予測に関する研究を行うもので,気候変動予測,水循環予測,地球温暖化予測,大気組成変動予測,モデル統合化の5領域について研究を行っている。同システムの海外との研究協力については,平成9年3月に行われた橋本総理・ゴア副大統領会談により,地球変動研究・予測の分野がコモンアジェンダ(日米包括経済協議・地球的規模に立つた協力)の新規分野として位置付けられたことを踏まえ,平成9年10月からハワイ大学の国際太平洋研究センター(IPRC)及びアラスカ大学の国際北極圏研究センター(IPRC)において,本分野の研究を進めている。

また,地球規模の諸現象の解明のためには,地球観測情報の国際的な流通を促進することが重要である。我が国はコモンアジェンダの1課題として地球観測情報ネットワーク(GOIN;Global Observation Information Network)を積極的に推進してきた。1998年(平成10年)2月に開催された日米共同作業部会においては,これまでの成果を踏まえ,GOIN活動における協力をアジア・太平洋地域へ展開することを含む新実施計画を策定した。しかしながら,1999年(平成11年)の日米合同ワークショップにおいて,GOINが元々日米の2国間で実施されてきたプロジェクトであるにもかかわらずアジア・太平洋地域をはじめ世界各国が対等な立場で協力を行うことが重要となり,また新年の通信情報技術インフラの進展を考慮するとこれがある程度可能であること,更に多国間のプロジェクトとして,Committee On Earth Observaion Satellites(CEOS)が存在しており,この枠組みの中で既にGOINの活動が実現可能であることが確認された結果,GOINとしての活動は終了し,今度は,CEOSに現在のGOINの活動を発展的に引き継いでいくことを目指すこととなった。

地球規模の環境変動に関する研究を促進するため,地球を南北アメリカ,欧州・アフリカ,アジア太平洋の3極に分け,各地域における地球変動研究を推進するための政府間ネットワークが設けられている。このうち,アジア太平洋地域については,「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN:Asia-Pacific Network for Global Change Research)」が設けられ,環境庁がその事務局を務めている。1999年(平成11年)3月には神戸市内において第4回政府間会合が開催され,APNの中長期的な方針を定めるAPN戦略計画,神戸市内に設置されるAPNセンター(仮称)への事務局移転等が決定された。

また,昭和32年の国際地球観測年を契機に開始された我が国の南極地域観測事業は,文部省に「南極地域観測統合推進本部」(本部長文部大臣)を置き,関係各省庁の協力を得て,国立極地研究所が中心となって実施している。南極での観測活動は南極条約に基づいて行われており,国際協力の要素を強く持っている。

我が国は昭和31年に第1次観測隊が出発して以来,オーロラ発生機構の解明,南極隕石の発見等多くの成果を上げている。平成9年度は第38次観測隊が昭和基地を中心に,海洋,気象,電離層等の定常的な観測のほか,地球規模の気候変動の解明を目的とした地球環境のモニタリング研究観測等を行った。第39次観測隊は平成9年11月に南極観測船「しらせ」で出発し,平成10年2月に第38次観測隊と交代し,第38次観測隊は平成10年3月に帰国した。

2)地球観測技術等の研究開発

地球的規模の諸現象の解明を図る上で必要な情報を集積するためには,地球観測により地球に関する情報を得ることが必要であり,地球観測技術の研究開発が重要である。そのため,平成5年1月に,航空・電子等技術審議会より第17号答申「地球環境問題の解決のための地球観測に係る総合的な研究開発の推進方策について」が取りまとめられている。

現在,我が国では,この答申等に基づき人工衛星による地球観測に関する技術の研究開発,海洋観測研究船,深海潜水調査船等による海洋観測技術の研究開発等地球観測のために必要な技術の研究開発を実施している。

ア 人工衛星による地球観測に関する技術

人工衛星による地球観測は,広範囲にわたる様々な情報を繰り返し,連続的に収集することを可能とするなど,極めて有効な観測手段であり,現在,特に地球環境問題の解決に向けて,国内外の関係機関と協力しつつ,総合的な推進を行っている。

科学技術庁/宇宙開発事業団においては,平成9年11月に打ち上げられた熱帯降雨観測衛星(TRMM)からのデータを現在取得しているほか,環境観測技術衛星(ADEOS-II),陸域観測技術衛星(ALOS)の開発を関係機関との協力の下に進めている。なお,地球資源衛星1号(JERS-1)「ふよう1号」については,平成4年2月の打ち上げ以来,約6年半にわたり地球観測データを取得してきたが,平成10年10月,その運用を終了した。

環境庁においては,平成9年6月に機能停止した地球観測衛星「みどり」に,オゾン層等監視センサ(ILAS及びRIS)を搭載しており,このセンサから取得した貴重な観測データは,地球環境の観測,監視やその原因解明等に活用している。また,平成12年度に打上げが予定されている環境観測技術衛星(ADEOS-II)に搭載するオゾン層等の後継監視センサ(ILAS-II)の開発を行った。

通商産業省においては,米国航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星である極軌道プラットフォーム1号(EOS-AM1)に搭載する資源探査用将来型センサ(ASTER)の開発を進め,気象庁は,現在運用している静止気象衛星5号の後継の気象ミッションを有する運輸多目的衛星の調達を進めており,また,郵政省通信総合研究所においては,国際宇宙ステーションの日本の実験棟(JEM)の曝露部に搭載される超伝導サブミリ波リム放射サウンダの開発を進めている。また,人工衛星を用いた地球環境の観測と処理手法を確立するため,科学技術庁において関係機関との協力の下に地球環境遠隔探査技術等の研究等,農林水産省においてリモートセンシング技術を活用した土地利用・作付け状況・生育状況・森林や海洋の資源量の把握等に関する研究開発及び建設省において人工衛星リモートセンシング技術を活用した全国土地利用図の作成等を推進している。

また,こうして得られた人工衛星からのデータの利用促進を図ることが重要であることから,宇宙開発事業団の地球観測データ解析研究センター等において,地球観測データを利用した研究や地球観測情報ネットワークの整備を関係機関と密接に連携をとりながら推進している。

このような地球観測衛星の開発,観測データの流通及び利用の推進は国際協力の下に行うことが重要であり,このため世界中の地球観測衛星開発機関や国際地球科学技術機関等が集う地球観測衛星委員会(CEOS)等の国際調整の場に積極的に参加し,貢献している。

イ.海洋観測技術

海洋は,地球的規模の諸現象に大きくかかわっており,その果たす役割の解明が重要な課題となっている。このため,海洋科学技術センターにおいて,海洋音響トモグラフィー等海洋観測技術の研究開発を推進するとともに,平成10年11月から海洋地球研究船「みらい」を用い,「高緯度域における物質循環の研究」,「赤道域における基礎生産力観測研究」,「西部熱帯太平洋の観測研究」を実施した。

また,通商産業省においては太平洋における二酸化炭素の循環メカニズムの調査研究を推進している。

ウ.成層圏プラットフォームの研究開発

高度約20kmの上空(成層圏)に滞空させ,搭載する観測センサー,無線局等により,地球観測,通信・放送等に利用するための成層圏プラットフォームの研究開発に平成10年度から着手した。

現在,関係省庁において進められている地球科学技術に関する研究開発のうち主なものは 第3-3-10表 のとおりである。

第3-3-10表 主な地球科学技術分野の研究課題(平成10年度)



2. 人類の共存のための科学技術

人間活動の拡大に伴い,地球環境問題その他の地球の有限性に起因する問題が顕在化している。これらの問題を解決し,地球と調和しつつ,人類が共存し得る新たな手段を提供するため,平成4年4月に閣議決定された科学技術政策大綱において,「地球・自然環境の保全」,「エネルギーの開発及び利用」,「資源の開発及びリサイクル」,「食料等の持続的生産」の各分野を,人類の共存のための科学技術と位置付け,その積極的な振興を図っている。


(1) 地球・自然環境の保全

近年,地球温暖化などの地球的規模での環境問題が顕在化しつつあり,国際的に協力してこれらの問題の解決を図っていくことが強く求められている。また,潤いのある生活環境を整備するため,地域において公害を防止するとともに自然環境を保全していくことが重要である。このため,地球的規模の環境問題への対応,公害の防止,自然環境の保全のための研究開発を推進していくことが必要である。

1)地球環境保全に係わる法制面の整備等

我が国としては,地球規模で深刻な影響を与える環境問題に対応するための施策に関し,関係行政機関の緊密な連絡を確保し,その効果的かつ総合的な推進を図るため,「地球環境保全に関する関係閣僚会議」を設置し,地球環境問題に積極的に取り組んでいる。・平成元年10月に開催された「地球環境保全に関する関係閣僚会議」(平成元年5月設置,平成5年8月廃止,平成5年12月閣議了解により再設置)において,「地球環境保全に関する調査研究,観測・監視及び技術開発の総合的推進について」の申合せが行われ,この申合せに基づき,以降毎年度,同会議において「地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定している。また,平成2年10月に開催された同会議において二酸化炭素排出量等の温室効果ガスの排出抑制目標等を定めた「地球温暖化防止行動計画」が決定された。

平成5年11月,地球化時代に対応し,今日の環境問題に対し適切な対策を講じていくために「環境基本法」が公布,施行された。同法においては,環境の保全に関する科学技術の振興を図ること及びそのための試験研究の体制の整備,研究開発の推進及びその成果の普及,研究者の養成等の措置を講じること及び地球環境保全等に関する監視,観測等に国際的連携の確保等が定められている。また,平成6年12月,同法に基づき環境保全に関する総合的・長期的な施策の大綱等を定める政府全体の計画である環境基本計画が閣議決定された。本計画では,環境への負荷の少ない循環を基調とする経済社会システムの実現,自然と人間との共生,あらゆる人々の環境保全の行動への参加,国際的取組を長期的な目標として掲げ,その実現のための施策の大綱等を定めている。調査研究,監視・観測等の充実,適正な技術の振興等については1節を設け定めている。特に地球環境問題の解決に向け,十分な科学的知見の蓄積による解明の推進が必要であるとしている。

また,環境基本法の制定を契機に,平成9年3月には「環境影響評価法案」が閣議決定され,同年6月に「環境影響評価法」が成立した。同法には,規模が大きく,環境影響が著しいものとなるおそれのある事業について,その実施前に事業者自らがその環境影響を調査・予測・評価することを通じ,環境保全対策を検討するなど,その事業を環境保全上より望ましいものとしていくための具体的な手続き等が規定されている。

また,地球温暖化対策に関し,国,地方公共団体,事業者及び国民の責務を明らかにすること等が盛り込まれた「地球温暖化対策の推進に関する法律」が平成10年10月9日に公布された。

その他,南極の環境保護を図るため,原則として南極での全ての活動に対し,事前に環境への影響を検討することを義務付ける等の「環境保護に関する南極条約議定書」が平成3年に採択され,平成9年5月にその国内担保法である「南極地域の環境保護に関する法律」が成立した。平成10年1月に議定書の発効とともに,国内法も施行されている。

2)地球環境保全に係わる国際的取組等

近年における国際的な地球環境問題についての取組としては,1992年(平成4年)6月に,ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED:地球サミット)が挙げられる。同会議においては,21世紀に向けての国家と個人の行動原則である「環境と開発に関するリオ宣言」,同宣言の諸原則を実行するための行動計画である「アジェンダ21」等の採択,気候変動に関する国際連合枠組条約等への多数国による署名等多くの成果が得られた。

我が国は,アジェンダ21を踏まえ,1993年(平成5年)12月,地球環境保全に関する関係閣僚会議において「『アジェンダ21』行動計画」を決定した。また,1997年(平成9年)6月には国連環境特別総会が開催され,「アジェンダ21さらなる実施プログラム」について採択され,これらの計画等が着実に実施されるようフォローアップを行う場として,毎年,国連持続可能な開発委員会(CSD)が開催されている。

ア.気候変動枠組条約に係わる取組

1994年(平成6年)3月に発効した気候変動に関する国際連合枠組条約に基づき,同年9月に,温室効果ガスの排出及び吸収の目録,科学的調査研究,観測・監視の推進等地球温暖化防止のための政策及び推進等を内容とする日本国報告書を地球環境保全に関する関係閣僚会議で決定し,条約暫定事務局に提出した。さらに,温室効果ガスの排出及び吸収の目録作成に当たって各国が採用すべきIPCC/OECDガイドラインの改定(1996年(平成8年))等に伴い,1997年(平成9年)12月には第2回日本国報告書を条約事務局に提出した。

1995年(平成7年)3〜4月には,本条約の第1回締約国会議が開催され,条約上の明確な規定のなかつた2000年(平成12年)以降の取組を規定する議定書を第3回締約国会議において採択すべきことが合意された(ベルリンマンデート)。その後8回にわたる準備会合を経て,1997年(平成9年)12月に京都において開催された第3回締約国会議において,「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」が採択された。本議定書において,削減の対象とすべき温室効果ガスの種類(二酸化炭素,メタン,一酸化二窒素及び代替フロン等3種の合計6種),吸収源の扱い,削減の数量目的(先進国及び市場経済移行国全体の対1990年比-5.2%),主要各国の削減率(日本:-6%,米国:-7%,EU:-8%等),削減目標期間(2008年〜2012年)の5年間),削減目標の達成のための新たなメカニズム(先進国間の共同実施,排出量取引,クリーン開発メカニズム等),議定書の発効要件等が規定された。

京都議定書の着実な実施に向けて,地球温暖化防止のための具体的で実効のある対策を総合的に推進するため,1997年(平成9年)12月の閣議決定により,内閣に地球温暖化対策推進本部が設置され,同推進本部は,平成10年6月に地球温暖化対策推進大綱- 2010年に向けた地球温暖化対策についてーを策定した。同大綱には,1.地球温暖化対策の総合的推進,2.エネルギー需給両面の対策を中心としたCO2排出削減対策の推進,3.その他の温室効果ガスの排出抑制対策の推進,4.植林等のCO2吸収源対策の推進,5.革新的な環境・エネルギー技術の研究開発の強化,6.地球観測体制等の強化,7.国際協力の推進とともに,ライフスタイルの見直しに関する施策が盛り込まれている。

また,1998年(平成10年)11月には,「気候変動に関する国際連合枠組条約第4回締約国会議(COP4)」がブエノス・アイレスで開催され,条約の履行を強化し,京都議定書の早期発効への条件整備を行うことにより,政治的機運を維持するために,具体的取組を規定する行動計画(いわゆる「ブエノス・アイレス行動計画(Buenos Aires Plan of Action)」)が採択された。

イ.その他

首相が主導する21世紀地球環境懇話会(座長:近藤次郎中央環境審議会会長)において21世紀へ向けての地球環境問題に対する取組方について,平成7年1月,地球環境戦略機関の設置,地球環境理論に基づいた環境教育・学習と実践,地球環境国民会議の設立を内容とした「新しい文明の創造に向けて-21世紀地球環境懇話会提言-」が報告された。

この報告を受けて,環境庁の[総合的環境研究・教育の推進体制に関する懇談会」(座長:加藤一郎成城学園名誉学園長)は,平成8年4月,地球環境問題に対処するための新たな文明の枠組みづくりなどの政策研究・提案を行う機関の設立に関する最終報告を取りまとめた。これを受け,「地球環境戦略研究機関」が平成10年6月に神奈川県(湘南国際村)に設立された。

また,学術審議会は平成7年4月「地球環境科学の推進について」を建議し,同建議では地球環境に関連する幅広い分野の科学における研究を推進するとともに,地球環境問題の解決を目指し,総合的なプロジェクト研究を推進する中核的研究機関の設置について検討することを提言している。これを受け,文部省では,平成10年度に地球環境科学研究所(仮称)の創設に向けた準備調査を行っている。

3)地球環境保全に係わるその他の取組等

ア.生物多様性に係わる取組

人類は,地球生態系の一員として他の生物と共存している。その一方で,人間活動による生物の生息環境の悪化等を背景として,野生生物の種の絶滅が過去にない速度で進行している。このような状況の下,地球上の多様な生物をその生息環境と共に保全し,生物資源の持続可能な利用を行うことを目的とした国際的な枠組みとして,「生物の多様性に関する条約」が採択され,我が国は1993年(平成5年)5月に本条約を受諾した(1993年(平成5年)12月発効,1998年(平成10年)3月現在,締約国(EUを含む)172か国)。これを受けて,関係省庁を中心として,生物の多様性の保全と持続可能な利用を図るための施策を講ずる等,積極的な取組がなされている。1995年(平成7年)10月には,同条約に基づき,我が国における生物の多様性の保全とその持続可能な利用という観点から各種施策を体系的に取りまとめた「生物多様性国家戦略」が地球環境保全に関する関係閣僚会議において決定され,生物多様性に関する情報の的確な把握と研究の充実が必要とされた。

さらに,環境中で人を含む高等動物から微生物までの多様な生物が変動しつつ共存する秩序の本質を解明する包括的な研究も必要となっている。

農林水産省では生物資源・環境の質的量的把握手法の開発,地球環境の変動が農作物の収量等に及ぼす影響の解明,植物の環境ストレス耐性機構の解明,農耕地,森林等における物質循環の解明,森林・海洋・農耕地等の気候緩和機能や水質浄化機能等の解明などに関する研究等が進められている。

イ.公害防止に係わる取組

公害の防止については,「公害の防止等に関する試験研究の重点的強化を図る必要がある事項について」(毎年度環境庁)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。特に,近年,ダイオキシン,内分泌かく乱物質(環境ホルモン)等化学物質の環境リスク対策に資するための研究に関心が集まってきている。それらの,試験法・測定法の開発等,現在,関係省庁を中心に積極的な調査,研究開発が行われている。

平成10年度に実施された主な地球・自然環境の保全に関する保全技術の研究課題をまとめると 第3-3-11表 のとおりである。

第3-3-11表 主な地球・自然環境の保全に関する研究課題 (平成10年度)



(2) エネルギーの開発及び利用

エネルギー研究開発は,広範な分野を対象とし,長期にわたり膨大な研究開発のための資金及び人材を必要とするため,研究開発全般を計画的・重点的・効率的に推進することが重要である。このため,政府が中心となって推進するエネルギー研究開発について,昭和53年8月に「エネルギー研究開発基本計画」が定められ,その後,エネルギーを巡る情勢の変化を踏まえて数度の改定を行い,その着実な推進が図られてきている。また,世界的なエネルギー需要の増大の見通しや,地球環境問題に関する議論の高まり等近年のエネルギーを巡る情勢変化を踏まえ,平成7年7月,政府は新たな「エネルギー研究開発基本計画」を決定し,今後おおむね10年間に推進すべき,重要研究開発課題等を提示した。

1)原子力の研究,開発及び利用の推進

エネルギー分野において原子力発電は,供給安定性の面のみならず,発電過程において二酸化炭素,窒素酸化物等を排出しないことから,地球環境保全の面でも優れており,我が国のエネルギー供給構造の脆弱性を克服するための主要なエネルギー源の一つとして安全性の確保及び平和利用を前提としてこれまで着実にその開発利用が進められてきている。また,放射線利用についても,医療,農業,工業,環境保全など広範な分野で普及している。このように我が国の原子力開発利用は我々の生活に密着しており,エネルギーの安定確保と国民生活の質の向上に大いに貢献している。

我が国の原子力の研究,開発及び利用を,総合的かつ計画的に推進するため,原子力委員会は,「原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画」(以下「原子力開発利用長期計画」という。)を策定している。一般からの意見も踏まえて平成6年6月に改定された原子力開発利用長期計画は,グローバルな視点,長期的な視点を踏まえて,21世紀を展望した原子力の役割を明らかにしており,それに示された方針の下に我が国全体の原子力開発利用が進められている。また,現行の原子力開発利用長期計画の策定以来約4年が経過し,この間に原子力を巡る情勢は大きく変化してきている。このため,原子力委員会は,今後適切な時期に長期計画の見直しを行う必要があると考えており,そのための調査審議に備えて予備的検討を実施している。

なお,平成7年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」の2次系ナトリウムの漏えい事故や平成9年3月の東海再処理施設における低レベル放射性廃液のアスファルト固化処理施設での火災爆発事故及びその後の不適切な対応等によって,国民に原子力に対する不安感,不信感を与えた動力炉・核燃料開発事業団については,経営,組織,事業等を抜本的に見直し,安全確保の機能を強化するとともに,経営体制の刷新,職員の意識改革,地元重視を基本とした社会に開かれた体制づくりを実現し,真に国民の負託に応えることのできるよう,平成10年10月に核燃料サイクル開発機構に改組した。現在,核燃料サイクル開発機構においては,改革理念を定着させ業務運営を軌道に乗るせるべく努力を傾注しているところである。

ア.原子力発電の現状

我が国の原子力発電所は,平成11年1月末現在,52基が運転中で,発電設備容量は4508.2万kWであり,平成9年度実績で一般電気事業用の総発電電力量の35.6%(3,191億kwh)を賄っている。

我が国の運転中の商業用原子力発電所の立地地点は,16サイト(51基)であり,今後,既存サイトの増設に加えて新規サイトの確保が重要であり,また,核燃料サイクル施設及びその関連施設の立地対策も重要な課題である。

これら原子力施設の立地促進については,国,事業者,地方公共団体による立地促進活動を引き続き実施していくとともに,立地円滑化の観点から地元と原子力施設が共生できるような地域振興などを進めている。

現在の我が国の主流の原子炉である軽水炉については,政府,電気事業者,原子力機器メーカー等が協力して,自主技術による軽水炉の信頼性,稼働率の向上及び従業員の被ばく低減をめざし,技術開発を実施してきたところであるが,現在の軽水炉の技術水準に満足することなく,信頼性,安全性を確保しつつ経済性の向上をめざした軽水炉技術の高度化が進められている。

原子力発電の燃料である濃縮ウランについては,核燃料サイクル全体の自主性を確保する観点から,経済性を考慮しつつ,国内でのウラン濃縮の事業化を推進している。青森県六ヶ所村においては,民間濃縮工場が1,050トンSWU/年の規模で操業中であり,最終的に1,500トンSWU/年の規模とする計画となっている。

さらに,今後のウラン濃縮の経済性の向上のため,レーザー法ウラン濃縮技術等の開発を進めている。

イ.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

原子力平和利用を円滑に推進していくためには,国際的な核不拡散体制の維持・強化は極めて重要であり,核兵器の不拡散に関する条約(N PT)に基づき,核不拡散へ向けた国際的信頼の確立に努めることが不可欠である。我が国は,原子力基本法にのっとり,厳に平和の目的に限り原子力開発利用を推進しているところであり,従来から,国際原子力機関(IAEA)と締結した保障措置協定,核物質の防護に関する条約,米国をはじめとする各国との二国間原子力協力協定などに基づき,すべての核物質について平和利用を担保するための「保障措置」及び「核物質防護」を実施しているほか,これに必要な技術開発を進めるとともに,IAEA保障措置の強化・効率化のための追加議定書に署名し,その実施に向け国内法の改正手続きを進めている。また,NPT上要求される義務に加えて,余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ,合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めることが重要であり,我が国のプルトニウムの管理状況について公表しているほか,核燃料サイクル計画の透明性をより高めるための国際プルトニウム指針を採択している。さらに,核不拡散関連の技術開発を積極的に進め,先進的リサイクル技術の研究開発など,核不拡散にも配慮した研究開発に取り組んでいる。

このほか,我が国は,平成9年7月,核兵器のない世界に向けた歴史的な一歩となる包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准を行っており,現在,同条約の発効に向けて国際監視制度の整備等に取り組んでいる。

ウ.安全の確保

原子力開発利用は,当初から安全性の確保を大前提にして行われてきており,他の産業分野には見られない国による厳しい安全規制をはじめ,環境放射能調査や,万一をも考慮した防災対策等各般の安全確保対策が講じられている。

原子力の安全確保に当たっては,安全規制等において常に最新の科学技術的知見を反映することが重要である。このため,原子力安全委員会は,安全研究年次計画を5年ごとに策定し,安全研究の総合的・計画的な推進を図っている。

平成10年度には,原子力施設等安全研究年次計画,環境放射能安全研究年次計画及び放射性廃棄物安全研究年次計画に沿って以下の安全研究が実施された。

原子力施設等安全研究については,日本原子力研究所において,軽水炉に関する燃料の高燃焼度化,高経年化,シビアアクシデント,事故・故障の評価分析等の研究が実施されたほか,核燃料施設の臨界安全性の研究等が実施された。また,核燃料サイクル開発機構においては,高速増殖炉(FBR)の事故防止・緩和,事故評価,シビアアクシデント等の研究及び核燃料施設の臨界,遮へい,閉じ込め等の安全性の研究が実施された。さらに,国立試験研究機関においては各種の基礎的研究がそれぞれ実施された。

環境放射能安全研究については,放射線医学総合研究所を中心に,日本原子力研究所,核燃料サイクル開発機構,国立試験研究機関等において,低レベル放射線の人体に及ぼす影響の研究,環境中に放出される放射性物質の挙動に関する研究等が実施された。

放射性廃棄物の安全研究は,日本原子力研究所,核燃料サイクル開発機構等において,浅地中処分に関する安全研究,地層処分に関する安全研究並びに規制除外・規制免除及び再利用に関する安全研究が実施された。

また,原子力施設の老朽化,安全性向上対策も重要な課題であり,核燃料サイクル開発機構をはじめ,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所においても安全比についての総点検が行われた。これらの結果を受けて,安全上重要な機器の更新等が重点的に行われている。

エ.国内外の理解の増進と情報の公開

原子力開発利用の円滑な推進のためには,まず国,原子力事業者に対する国民の信頼感,安心感を得ることが極めて重要である。

このため,平和利用の前提の下,安全確保や核不拡散の実績を着実に積み重ねることが第一であるが,国民参加型の意見交換の場等を通じた国民の理解が得られる形での行政運営に努めるとともに,国民が判断する際の基礎となる情報を適時的確に提供するよう努めることとしている。

情報公開については,核不拡散,核物質防護,外交交渉等に関する情報など慎重に取り扱わざるを得ないものを除き,原子力委員会及び原子力安全委員会の本会議及び専門部会等の会議を原則公開するとともに,情報公開請求に対しても迅速かつ適切に対応するための体制整備を進めている。

さらに,従来より,インターネット等を活用した情報提供,勉強会への講師派遣等の「草の根」的な広報,簡易放射線測定器の貸出等の体験型の広報など実効性のある事業の体系的な実施も行っている。

また,核不拡散や原子力の安全確保に関する関心は国際的にも高く,我が国の原子力開発利用の円滑な推進にとって国際的な理解と信頼を得ることは重要である。そのため,我が国の原子力の平和利用や安全確保に関する情報などを積極的に広く海外に発信することが必要である。

オ.核燃料サイクルの技術開発

エネルギー資源に恵まれない我が国は,将来を展望しながらウラン資源の有効利用を図っていくという観点及び放射性廃棄物の環境負荷を低減する観点から,使用済燃料を再処理して,回収したプルトニウム等を再び燃料として使用する核燃料サイクルの実用化を目指して着実に研究を進めてきた。

核燃料サイクルを進めるに当たっては,核不拡散についての国際的な疑念を生じないよう,核物質管理に厳重を期すことはもとより,我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム,すなわち余剰のプルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ,合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めていくこととしている。具体的には,毎年の我が国のプルトニウム管理状況を公表するとともに,プルトニウム利用の透明性向上のための国際指針を採択している。

原子力発電所から生じる使用済燃料の再処理については,現在,核燃料サイクル開発機構の東海再処理施設並びに英国核燃料会社(BNF L)及び仏国核燃料会社(COGEMA)への再処理委託契約(こより実施している。また,青森県六ヶ所村に民間再処理施設(年間再処理能力800トン)を2005年(平成17年)7月の竣工をめざし建設しており,その順調な建設,運転により商業規模での再処理技術の着実な定着をめざしている。

平成9年3月に発生した動燃東海再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故については,科学技術庁の事故調査委員会において,事故原因等について検討を行い,同年12月15日に報告書が取りまとめられた。現在,報告書において指摘された教訓と提言等について具体的対応が進められているところである。また,原子力安全委員会においては,事故発生直後より現地調査を行うとともに,科学技術庁から報告を聴取し,事故に関する調査審議を独自の立場から積極的に実施した。平成9年12月22日には,事故調査委員会の報告書を踏まえて,本事故と安全規制(安全審査,設計及び工事方法の認可等)との関係,事故の教訓等について原子力安全委員会としての考え方を委員会見解として取りまとめた。

現在,計画停止中の東海再処理施設の運転再開に向けて,地元を始めとした国民の理解を得るため,科学技術庁においては,自治体,議会関係者への説明等を行い,核燃料サイクル開発機構においては,地元理解促進のためのフォーラムの開催等を行っている。

再処理によって回収されるプルトニウムを軽水炉においてウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料として利用すること(プルサーマル)については,海外において多くの実績があり,我が国において実施された少数体規模での実証試験においても良好な成果が得られていることから,特段の技術的問題はなく,現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法である。

平成9年2月に公表された電気事業者の計画においては,まず,海外再処理で回収されたプルトニウムを用いて平成11年に2基で開始し,その後,国内外でのプルトニウムの回収状況や個々の電気事業者の準備状況等に応じて平成12年頃までに16〜18基程度にまで拡大することとしている。

高速増殖炉は,発電しながら消費した以上の核燃料を生成することができる原子炉であり,軽水炉などに比べてウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができることから,その開発を官民協力して着実に行ってきた。

実験炉「常陽」は,昭和52年4月の初臨界以来運転を続けており,今後,照射性能を向上させ,引き続き燃料・材料開発等の開発のための高速中性子照射炉として活用していく。高速増殖原型炉「もんじゅ」については,平成7年12月,使用前検査中に発生した2次系ナトリウム漏えい事故に関し,平成10年4月原子力安全委員会においては,ナトリウム漏えい事故及びその背景の調査審議を終え,再発防止対策として最終報告書を国民からの意見と反映し,取りまとめた。現在,同委員会の下に「もんじゅ安全性確認ワーキンググループ」を設置し,もんじゅの安全性の確認に積極的に取り組んでいるところである。

他方,「もんじゅ」の扱いを含む将来の高速増殖炉開発の在り方については,原子力委員会に設置された高速増殖炉懇談会が,平成9年12月に報告書「高速増殖炉研究開発の在り方」を取りまとめ,高速増殖炉を,将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として,その実用化の可能性を追求するために研究開発を進めることを妥当とし,「もんじゅ」をその研究開発の場の一つとして位置付けた。同年12月,原子力委員会は,今後の高速増殖炉開発について,本報告書を尊重して進めていく旨を決定した。

現在,「もんじゅ」の運転再開に向けて,地元を始めとした国民の理解を得るため,科学技術庁においては,地元説明討論会の開催等を行い,核燃料サイクル開発機構においては,関係市町村での説明会の実施,もんじゅ見学会の実施等を行っている。

また,高速増殖炉の使用済燃料の再処理については,核燃料サイクル開発機構において,このための技術実証等を行うリサイクル機器試験施設の建設を進めている。さらに,経済性の向上や,環境への負荷の低減,核不拡散性等に配慮した先進的な核燃料リサイクル技術について,長期的な研究開発に取り組むこととしている。

新型転換炉は,プルトニウム,回収ウラン等を柔軟かつ効率的に利用できるという特長を持つ原子炉として自主開発が進められてきたが,平成7年8月,原子力委員会において,青森県大間町における実証炉建設計画は中止が妥当との結論が得られ,実証炉に代わる計画として,全炉心にMOX燃料の利用を目指す改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)が適切であると判断された。原型炉「ふげん」については,「立地地元自治体等とも協議し,適切な過渡期間をおいて運転を停止し,廃炉研究に活用する」とした動燃改革検討委員会報告書を受け,地元とも調整した結果,運転期間を5年間とすることとなつた。

原子力委員会は,平成10年2月,運転期間の活用方策として,過去20年間の技術開発成果を含め,現在実施中のプルトニウム利用技術やプラント管理技術の研究開発成果の集大成を行うとともに,海外のニーズに応じ,圧力管型炉の運転管理技術の取得の場として活用していくことが適当とし,また,廃止措置技術の開発及びそれに必要な研究等を実施し,得られた成果については,効果的に技術移転を行っていく旨決定した。現在,核燃料サイクル開発機構においては,新型転換炉技術の集大成を図るべく成果の取りまとめに着手している。

我が国のMOX燃料加工の研究開発は,核燃料サイクル開発機構を中心として実施されており,その加工実績も平成10年3月末までの累積で約155トンMOXに達している。また,軽水炉用MOX燃料については,海外再処理で得られたプルトニウムを基本的に欧州でMOX燃料に加工して返還して利用するとともに,国内においても六ヶ所再処理工場の操業等に合わせ年間100トン弱程度の国内MOX燃料加工の事業化を図ることが必要であり,電気事業者が中心となって加工事業体制を早急に確定することとしている。

力.バックエンド対策

放射性廃棄物の処理処分及び原子力施設の廃止措置(バックエンド対策)は,整合比のある原子力開発利用の観点から残された最も重要な課題であり,原子力発電による便益を享受する現世代として,責任ある対応をしていくことが重要である。

原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物については,平成4年12月より青森県六ヶ所村の日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて埋設処分を安全かつ円滑に実施しており,平成10年12月末までに200リットルドラム缶約11万7,000本が同センターに受け入れられている。

一方,使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物については,安定な形態にガラス固化し,30年から50年程度の間冷却のための貯蔵をした後,地下深い地層中に処分(地層処分)することを基本方針としている。原子力委員会では平成7年9月から専門部会等を設置し,処分の技術的側面,社会的・経済的側面に関する審議を公開の下で進めてきた。

このうち,技術的側面については,平成9年4月,原子力バックエンド対策専門部会において,報告書「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発等の今後の進め方について」を取りまとめた。現在,当該報告書に従い,2000年(平成12年)前までに,地層処分の技術的信頼性を明示し,処分予定地選定及び安全基準の策定に資する技術的拠り所を提示する「第2次取りまとめ」の作成に向け,核燃料サイクル開発機構を中核的推進機関として,日本原子力研究所,工業技術院研究所,大学等の関係研究機関の密接な協力の下,着実な研究開発に取り組んでいるところである。今後の研究開発を進める上で,技術的,社会的に重要な施設として早期実現が望まれている深地層の研究施設については,核燃料サイクル開発機構が,岐阜県瑞浪市における超深地層研究所計画を着実に推進しており,さらに,平成10年10月に取りまとめた北海道幌延町における深地層研究所(仮称)計画について,北海道及び幌延町に対して申入れを行った。

一方,社会的・経済的側面については,平成10年5月,高レベル放射性廃棄物処分懇談会において,報告書「高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方について」を取りまとめた。当該報告書では,実施主体の在り方,事業資金確保方策,処分地選定プロセス等について基本的な考え方が提言されている。当該報告書を踏まえ,処分費用の見積もりや処分事業の在り方については,総合エネルギー調査会原子力部会において検討が進められ,平成11年3月に中間報告がまとめられている。

また,安全確保の基本的考え方については,平成10年6月から,原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会において,検討が進められているところである。

今後とも,2000年(平成12年)の実施主体設立,2030年代から遅くとも2040年代半ばまでの操業開始に向けて,政府一体となって積極的に取り組んでいくこととしている。

原子力施設の廃止措置に関しては,日本原子力発電(株)の東海発電所が,商業用の原子炉としては初めて平成10年3月に営業運転を停止したことを受けて,国民の関心が高まっている。廃止措置に係る技術開発については,昭和61年度から日本原子力研究所において進めてきた動力試験炉(JPDR)の解体実地試験が平成8年3月に安全に終了し,これにより解体に必要な技術等大きな成果を得ており,今後の原子炉の解体にも活用されることとなる。また,解体に伴い発生する放射性廃棄物については,JPDRの解体に伴い発生した極低レベルのコンクリート廃棄物を地中に埋設し,その安全性を実証する埋設実地試験が実施されている。

キ.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化

核融合は,将来の有力なエネルギー源の一つとなる可能性を有していることから,国内外において積極的な取組が行われている。我が国の核融合の研究開発は,平成4年に原子力委員会が策定した「第三段階核融合研究開発基本計画」及び平成6年に原子力委員会が策定した「原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画」に基づいて進められており,現在,日本原子力研究所の臨界プラズマ試験装置JT-60による臨界プラズマ条件の達成(平成8年10月)等の成果を踏まえ,次のステップとして実験炉の開発を行うことを主な目標としている。

日本,米国,EU及びロシアの4極により推進されている国際熱核融合実験炉(ITER)計画は,そのような実験炉の開発を目指した研究開発を国際協力の下で進めるものであり,我が国は日本原子力研究所を実施機関として,主体的かつ積極的に取り組んでおり,1992年(平成4年)7月から6年間の工学設計活動(EDA)の成果として,1998年(平成10年)6月には最終設計報告書が取りまとめられたところである。しかしながら,各極の厳しい財政事情等を背景として,建設段階へのスムースな移行が困難であることが判明したため,参加各極はEDAを3年間延長することに原則的に一致していた。その後,1999年(平成11年)7月以降米国がITERから撤退するという状況となり,国際協議を経て,日本,EU及びロシアのITER関係者の間で,米国が撤退した後も,3極によりEDAを3年間継続する意向を確認した。我が国においては,このような状況を受け,原子力委員会核融合会議における審議の結果,3極によりEDAを継続・完了すべきとの結論が取りまとめられ(1998年(平成10年)11月),原子力委員会において同結論は適切であるとの見解が取りまとめられた(1998(平成10年)12月)。今後はこの方針を踏まえ,EDAと並行して,ITERの建設に関し具体的な判断が出来るよう,その要件(コスト分担,建設/運営主体の在り方等)の明確化等について国際協議を進める予定である。

また,これらITERに係る研究開発に加え,日本原子力研究所,大学,国立試験研究機関等においては,様々な形態・連携の下に核融合研究開発を行っており,二国間,多国間の国際協力も積極的に進められている。

日本原子力研究所は,ITERに関しては,国際設計チームである共同中央チームと日本国内の設計チームの活動との連携・協力による設計活動や,プラズマ加熱のために必要とされる負イオンビームや高周波発振器の開発等の工学R&Dに主体的に参画している。また,JT-60に関しては,新しい運転方式と新方式のダイバータ(プラズマ純化装置)等の知見により,プラズマの総合性能を表す指標であるエネルギー増倍率(外部からの加熱入力エネルギーと核融合反応により生じる出力エネルギーの比)の世界最高記録1.25を達成する(1998年(平成10年)6月)など世界に先駆けた成果を挙げており,更なるプラズマ閉じ込めの性能向上によるトカマク定常運転を目指した炉心プラズマ研究を行っている。さらに,中規模装置JFT-2Mを用いた先駆的な実験研究,理論・シミュレーション研究,核融合炉材料研究や核融合炉の安全性に係る試験等を実施している。

大学共同利用機関である核融合科学研究所においては,全国の研究者の交流,研究の場を提供するとともに,共同研究・共同利用を積極的に推進している。平成9年度末に完成した大型ヘリカル装置(LHD)に関しては,本格的な実験を開始しており,平成10年10月にはヘリカル方式としては世界最高性能のプラズマ閉じ込めを達成している。この他,大学・国立試験研究機関等においては,各種磁場閉じ込め方式及び慣性閉じ込め方式による基礎的研究,炉工学に係る要素技術等の研究が進められている。

各種分野における放射線利用の状況としては,まず,医療分野において,X線CT等による診断やX線,ガンマ線等を利用したがん治療が既に実用化されており,現在,陽子線,重粒子線等によるがん治療の研究が行われている。

特に,放射線医学総合研究所においては,がんに対する高い治療効果が期待される重粒子線によるがん治療の研究に取り組んでおり,平成6年6月より,患者に照射治療を行う臨床試行が開始され,おおむね良好な成果が得られている。

大学においても,筑波大学陽子線医学利用研究センター等において陽子線等によるがん診断・治療の研究を行っている。農林水産業の分野では,品種改良,害虫防除,食品照射等に放射線が利用されている。工業分野では,非破壊検査,各種高分子材料の改質などに放射線が用いられている。研究利用では,日本原子力研究所のイオン照射研究施設において,バイオ技術や新機能材料等に関する研究が進められている。

また,平成9年10月に,日本原子力研究所と理化学研究所が兵庫県播磨科学公園都市に建設した大型放射光施設(SPring-8)が供用を開始した。

さらに,文部省高エネルギー加速器研究機構においては,大強度放射光実験設備による研究を行っている。

理化学研究所においては,すべての核種についての放射性同位元素(RI)を世界最大強度,最高エネルギーでビーム化する次世代加速器施設「RIビームファクトリー」の建設に着手した。

また,日本原子力研究所では,平成10年11月に初臨界を達成した高温工学試験研究炉(HTTR)において,高温の熱供給を図り,将来のエネルギー供給の多様化の可能性を探る高温ガス炉技術の確立及び高度化,水素製造等の熱利用の研究開発等を推進している。

さらに,日本原子力研究所,理化学研究所,大学,国立試験研究機関等において,炉物理・核物理に関する研究,放射線に関する生理学研究,燃料・材料の照射試験等の基礎研究を幅広く行っている。特に日本原子力研究所においては,平成5年に設置された先端基礎研究センターにおける放射場科学等の領域の先端基礎研究,また,平成7年に設置された関西研究所におけるX線レーザー開発等の光量子科学研究や,中性子科学研究等を中心に,原子力の新たな展開を図るための基礎研究の充実を図っている。また,基盤技術開発としては,原子力用材料技術,原子力用人工知能技術,原子力用レーザー技術,放射線リスク評価・低減化技術,放射線ビーム利用先端計測・分析技術,原子力用計算科学技術,原子力分野における人間の知的活動支援技術の計7技術領域について,日本原子力研究所,理化学研究所及び国立試験研究機関において研究開発を進めている。

ク.国際社会への主体的貢献

原子力の国際協力に当たっては,原子力の開発利用や核不拡散の面で,各国共通の課題への取組を国際協力の下に進めていくとともに,開発途上国等からの期待に積極的に応えていくことが重要である。

原子力委員会国際協力専門部会では,原子力開発利用を巡る国際協力の一層の推進を図るため検討を行い,平成10年9月に報告を取りまとめ,公表した。同報告では,今後の国際協力の在り方として,「近隣アジア地域との協力」,「旧ソ連,中・東欧諸国との協力」,「核不拡散に関する我が国の対応」を柱として協力を進めるべきとの提言が行われており,我が国としては,これらを踏まえつつ,原子力の平和利用分野における国際的協力を積極的に推進している。

近隣アジア地域との原子力協力については,平成2年より開催されてきたアジア地域原子力協カ国際会議の下,研究炉,放射線の医学利用及び農業利用,PA,放射性廃棄物管理について協力事業を進めている。

他方,旧ソ連,中・東欧諸国との原子力協力については,我が国としても原子炉廃止措置に関する研究協力,原子炉運転支援システム構築に関する技術的協力,研修事業による運転員の資質向上等の二国間協力,IAEA(国際原子力機関)及びOECD/NEA(経済協力開発機構・原子力機関)への特別拠出金事業などを通じた多国間支援を実施している。

ロシアの余剰兵器プルトニウム管理・処分に関しては,核燃料サイクル開発機構とロシアの物理エネルギー研究所や原子炉科学研究所との研究協力に着手している。

そして,欧米との原子力協力については,原子力の平和利用のための専門家や情報の交換,原子力資機材や役務の受領,供給などの協力を行っており,具体的には,日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構と米国エネルギー省やフランス原子力庁との研究協力,理化学研究所と米国ブルックヘブン国立研究所やイギリス・ラザフォードアップルトン研究所との研究協力等を実施している。

2)自然エネルギーの研究開発

エネルギーの安定供給の確保及び地球環境問題への対応の観点から,太陽エネルギー,地熱エネルギー,風カエネルギー,海洋エネルギー,バイオマスエネルギー等の自然エネルギーの利用の拡大をめざした研究開発を推進することが必要である。このため,通商産業省におけるエネルギー・環境領域総合技術開発推進計画(ニューサンシャイン計画),農林水産省におけるバイオマスエネルギーへの取組をはじめ,海洋科学技術センター等で以下のような積極的な研究開発が進められている。

太陽エネルギーは,枯渇することのないエネルギー源であり,地球環境問題への対応においでも重要な役割を果たし得るものである。一方,エネルギー密度が低く,自然条件によって出力が変動するという性質も有しており,このような太陽エネルギーの特性を考慮しつつ,研究開発を進めることが必要である。太陽エネルギーの具体的な利用用途としては,太陽熱利用及び太陽光発電等が考えられ,既に民生用給湯システムについては,技術開発を終了し,一般家庭に普及している。このため,産業用ソーラーシステム等の技術開発を積極的に推進するとともに,太陽光発電については,太陽電池・システムの一層の低コスト化,高効率化等をめざした研究開発を進めている。

地熱エネルギーは,資源量が豊富な純国産エネルギーであるとともに,非枯渇性であるという特徴をもつており,その利用の拡大に向けて研究開発を進めることが重要である。このため,地熱探査技術,掘削・採取技術,バイナリーサイクル発電の開発,高温岩体発電の要素技術の開発等を進めている。

風カエネルギーは,環境負荷が少なく,潜在的に資源が広範に賦存するエネルギーである一方でエネルギー密度が低く,変動が大きいことなどから,その実用化のためには,コストの低減,長期安定運転の確保,システム化等を図ることが重要である。欧米においては,既に電力供給の一部を担うものとして導入・普及が進んでいる。我が国においては,集合型風力発電システム及び風力エネルギーの利用拡大の観点から重要となっている大型風力発電システムの研究開発等を進めている。

海洋エネルギーは,エネルギー密度が低いことなどにより,現状では航路標識等による利用に止まっていることから,経済性と信頼性の向上に向けての研究開発を進めることが重要である。このため,沖合浮体式波力装置高効率波カエネルギー利用システム,海洋深層水高度利用システム等についての研究開発が進められている。

バイオマスエネルギーは,主として太陽エネルギーを固定化する生物の機能を利用して得られる再生可能エネルギーであり,エネルギーの固定,変換,利用,再生という一連のエネルギー利用システムが確立されれば,大気中の二酸化炭素を増加させることはない。このようなシステムの確立のため,農林水産物等のバイオマス資源の有効活用システムの確立のための研究,二酸化炭素を高効率で固定する植物から炭化水素を製造する研究,微生物を利用して水素を製造する研究等が進められている。

3)化石エネルギーの研究開発

一般に,化石燃料といわれているものは,石炭,石油,天然ガス,オイルシェール及びオイルサンドで,炭化水素系の地下資源である。産業革命以降,この化石燃料を利用することによって,人類は現在の高度な文明を築き上げてきたが,一方で,資源の有限性,地球環境問題などの課題に対応することが必要となってきている。このため,地球環境への影響に配慮しつつ,世界的なエネルギー需要の増大の見通しに対応し,エネルギーの安定供給を確保する観点から,通商産業省において,化石エネルギーの高効率な利用技術等の研究開発を推進している。

我が国のエネルギーの中核である石油については,新規開発油田の中小規模化等探鉱・開発条件の悪化傾向等に対応し,石油開発技術の研究開発が推進されている。また,日本周辺における賦存状況の把握とその活用に係る研究開発も進められている。

石炭は,石油などに比べ供給安定性に優れており,原子力と並ぶ石油代替エネルギーであるが,液体燃料と比較した場合,取扱いが不便な面があることなどから,石炭液化・水添ガス化技術等の研究開発が推進されている。これらの技術は,石炭の利用分野の多様化や利用の効率化を図り,石油に代替し得る燃料を製造する上での重要な技術であり,かつ,硫黄酸化物等の公害物質,粉塵等の排出の低減のためにも有効な技術である。

また,石炭は化石エネルギーの中でも燃焼時の単位エネルギー当たりの二酸化炭素の排出量が多いことから,地球環境問題に対応しながら石炭利用の円滑な拡大を図るためには,二酸化炭素等の環境への負荷低減を図るための革新的な技術開発が必要である。このため,高効率石炭燃焼技術を中心とするクリーン・コール・テクノロジーの実用化開発及びより革新的な次世代クリーン・コール・テクノロジーの調査研究が推進されている。

天然ガスは,他の化石エネルギーと比べて,燃焼時の単位エネルギー当たりの二酸化炭素の排出量が少ないなど,環境負荷が小さいといつた特長を持つており,今後とも重要なエネルギー源として,その開発利用に係る研究開発を進めることが重要である。このため,天然ガスの賦存状況の把握・採取に関する研究とともに,液体燃料等への形態変換により利用範囲の拡大を図ることをめざした天然ガスの液体燃料化等に関する研究が行われている。また,平成7年度からは非在来型天然ガスとして,我が国周辺に賦存が見込まれているメタンハイドレードについて,その探鉱・開発・生産技術の研究開発を実施している。

4)エネルギーの供給及び利用効率の向上のための研究開発

地球環境問題への対応,有限なエネルギー資源の有効活用などの観点から,個々の機器,要素技術の効率の向上とともに,分散型システムの導入・活用・未利用エネルギーの活用など社会システム全体においてエネルギー供給及び利用の効率の向上等を図るための研究開発を推進することが重要となっている。また,各種製品の生産,利用,再利用,廃棄,各種サービス等で直接・間接に消費されるすべてのエネルギー(ライフサイクルエネルギー)の低減を視点とした研究開発を推進することが必要である。このため,通商産業省等において以下の研究開発を進めている。

発電効率の高い燃料電池やコージェネレーションの普及拡大に資するセラミックガスタービンなどのエネルギー変換効率の向上をめざした研究開発,送電系統の安定化や効率の向上が期待される超電導線材・超電導発電機等の超電導電力応用に関する技術,産業部門・民生部門・輸送部門・農林水産部門等でのエネルギー利用における効率の向上をめざした研究開発といつた各要素技術の研究開発が推進されている。

また,工場や都市ビルから捨てられている廃熱,河川水等の未利用エネルギーの有効利用技術の研究開発,中小規模での電力の効率的貯蔵の可能な蓄電池である分散型電池による負荷平準化等のエネルギー貯蔵技術の研究開発が推進されている。

さらに,高いエネルギー効率で,熱と電力を同時に供給できるコージェネレーションシステム,工場等の産業分野から徘出される未利用の低温排熱を高効率で回収し,都市部に低損失で長距離輸送し,民生分野等の需要地で需要形態に応じて種々の温度を供給する広域エネルギー利用ネットワークシステム,水力・太陽光・地熱・風力等の再生可能エネルギーを利用して,水素を製造し,輸送に適した形に転換した後,輸送・貯蔵し,発電・輸送用燃料・都市ガス等の広範な分野で利用する水素利用国際クリーンエネルギーシステムなどの研究開発が進められている。

5)基礎・基盤科学技術の推進

エネルギー研究開発の飛躍的な進展を図るためには,独創的な基礎研究の成果によるブレークスルーに期するところが大きい。

このため,科学技術庁,文部省,通商産業省等において,新材料の開発,生産・加工プロセスの研究開発,及び,プラント等の制御技術の高度化にかかわる研究開発を進めている。

平成10年度に実施された主なエネルギーの開発及び利用に関する研究課題をまとめると 第3-3-12表 のとおりである。

第3-3-12表 主なエネルギーの開発及び利用に関する研究課題 (平成10年度)


(3) 資源の開発及びリサイクル

鉱物資源等の天然資源の有効利用のため,資源の探査,採取・処理,資源量の評価に基づく管理システム等の研究開発を推進するとともに,資源のリサイクルをめざし,廃棄物の資源化,水資源の循環利用,リサイクルしやすい製品の生産等に関する研究開発を推進することが必要である。

このため,通商産業省では,リサイクル技術の抜本的な促進を図るための研究開発として,1)廃プラスチックの液化等の容器包装リサイクル関連技術,金属スクラップの高度リサイクル技術等のリサイクル能力の拡大のための技術開発,2)高効率廃棄物発電,RDF(固形燃料化した廃棄物)の利用拡大等サーマル・リサイクル(廃棄物の焼却熱のエネルギー利用)関連技術開発,3)都市ごみ焼却灰等のセメント原料としての利用技術開発,4)廃家電製品,廃自動車等の適正処理・リサイクル技術開発をはじめとして,幅広い分野における廃棄物処理・リサイクル技術の開発を積極的に展開している。その他,有機資源の環境調和型リサイクルシステムを確立するための基礎技術として,再生可能分別不要型プラスチック原料の製造技術の研究開発が進められている。

科学技術庁においては,波のエネルギーを吸収して,後背海域を静穏化して養殖漁業に利用したり,圧縮空気を作りだし海水が汚濁した湾内において曝気(エアレーション)を行うことにより海域を浄化するなどの特徴を持つ,沖合浮体式波力装置「マイティーホエール」の開発が進められている。

厚生省においては,廃棄物の減量化を図り,リサイクルを推進する観点から,ごみの固形燃料化施設の標準化に関する調査やプラスチック油化処理実証事業を通じたリサイクルシステムの研究が進められている。また,水道水の安定供給を図るための膜処理等の高度浄水技術や発生汚泥のセメント原料等への利用技術の評価が行われている。

また,農林水産省においては,環境保全対策及び有機物資源の有効利用を進めるため,家畜排泄物中の未利用資源の高度回収・利用技術の確立,有機性廃棄物のリサイクル等に生態系の持つ機能を高度に利用した生態系調和型農業システムの開発,食品産業の製造工程全般について,環境への負荷を低減するための食品産業における生物活性利用等再資源化技術の開発,食品容器包装のリサイクル技術の開発が進められている。さらに,建設省においては,植物の維持管理により発生する剪定枝等のリサイクル技術の開発,運輸省においては,各種廃棄物を母材とした土質新材料の開発と港湾施設への適用に関する研究などが進められている。

平成10年度に実施された主な資源の開発及びリサイクルに関する研究課題をまとめると 第3-3-13表 のとおりである。

第3-3-13表 主な資源の開発及びリサイクルに関する研究課題(平成10年度)


(4) 食料等の持続的生産

食料等の安定的確保は世界各国の共通した重要課題である。また,今後世界人口の増加等を背景として世界の食料受給は,中長期的にはひっ迫する可能性があると考えられる。このような観点から,育種・増殖技術の開発,農用地・林地,漁場等の生産力の増強と施設の開発,栽培・飼養管理技術の高度化,貯蔵・流通システムの合理化,遺伝子資源の収集と保存,未・低利用資源の用途開発等に係る研究開発を推進し,食料をはじめとする農林水産物の安定的・持続的な生産システムを構築していくことが必要である。

このため,農林水産省においては,生産性向上の観点から,省力的な直播栽培技術の改良や高品質多収品種の育成等次世代の稲作技術の開発,省力化・軽作業化を可能とする形質等をもつた果樹・野菜品種の開発,繁殖技術の飛躍的高度化を図る畜産技術の開発,新たな自給飼料給与技術の開発や高度な放牧システムの開発,資源の持続的利用と増養殖のための水産技術の開発等が進められており,高品質農林水産物の生産・流通加工の観点からは,麦・大豆等の実需者ニーズに対応した新用途・高品質開発,環境ストレスの低減化による高品質乳生産技術の開発,新しい機能を有する食品素材の開発等が進められている。さらに,これらに関連する基礎的研究開発として,イネ・ゲノムの高密度遺伝地図の作成・利用技術の開発,組換えDNA等の先端技術を活用した育種技術の開発,ルーメン共生微生物の機能や遺伝情報の解析等が進められている。また,先進国と共同で基礎的先導的研究を推進するとともに,開発途上国に対して,国際農林水産業研究センター (JIRCAS)を中心とした共同研究,国際協力事業団(JICA)を通じた研究者の派遣及び研修員の受入れ並びに国際農業研究協議グループ(CGIAR)傘下の国際研究機関に対する研究者の派遣等を行っている。

平成10年度に実施された主な食料等の持続的生産に関する研究課題をまとめると第 3-3-14表 のとおりである。

第3-3-14表 主な食料等の持続的生産に関する研究課題(平成10年度)


(5) 科学技術による世界の原子力平和利用や核不拡散・核軍縮への貢献

1)包括的核実験禁止条約(CTBT)

CTBTは,核不拡散・核軍縮の観点から,あらゆる場所における核爆発を禁止する条約である。我が国は,1996年(平成8年)9月にCTBTに署名し,1997年(平成9年)7月に世界で4番目に批准を行った。CTBTの発効には,本条約が指定する44ヶ国の批准が必要で,1999年(平成11年)4月現在,署名国152,批准国33であるが,我が国は,今後,本条約ができる限り多くの国々により署名・批准され,可能な限り早期に発効することを強く希望している。

また,CTBTにおいては,核爆発の禁止という条約上の義務の実施を確保するための措置として,地震,放射性核種,水中音波及び微気圧振動に関する核爆発の国際的監視網(世界中で337ヶ所の監視施設からなる)を整備することになっている。これらは,現在まで世界中で蓄積されてきた,地震波,放射性核種,音波及び超低周波の測定技術や遠隔地間のデータ転送技術,そしてデータ解析技術を結集して,核爆発の監視網を構築する取組であり,人類の平和共存のために,科学技術が核不拡散・核軍縮に対して貢献するものであるといえる。我が国としても,これまで培つた高度な技術や知見を利用して,放射性核種監視施設を3ヵ所,地震学的監視施設を6カ所,微気圧振動監視施設を1ヵ所整備する予定である。

具体的には,放射性核種監視施設とは,大気を常時モニタリングし,核爆発に伴い放出される放射性物質を監視する施設であり,我が国では,日本原子力研究所がこれを整備する予定である。地震学的監視施設とは,地震波を常時観測し,核爆発により発生する地震波を監視する施設で,これまでGSETT-3という国際的な地震データの交換の枠組みが関係国の協力により実施されてきたが,今後CTBTの下での国際・監視制度に組みこまれることとなっている。我が国では,気象庁の有する地震データを,CTBTの地震学的監視に活用する予定となっている。水中音波監視観測所とは,水中音波の観測により,主として水中における核爆発を監視する施設であり,我が国において整備される予定はない。微気圧振動監視観測所とは,大気中を伝わる微気圧振動(超低周波音)を常時測定し,核実験による微気圧振動を監視する施設であり,我が国においては,茨城県に整備予定である。さらに,CTBTに基づく,世界中の監視施設から集まるデータ処理や核爆発が実施されたかを明らかにする現地査察の運用についても,現在,国際的検討が行われており,我が国はこれらにも参画している。

このように我が国は,CTBTが実際に機能するよう国内の国際監視制度施設の整備にかかる協力をはじめ,その運用に向けて積極的な貢献を行っていくこととしている。

2)保障措置技術(微量核物質検出技術の開発)

1991年(平成3年)のイラクにおける秘密裏の核開発計画の発覚等を契機として,未申告の核物質や原子力活動の探知能力向上の必要性が国際的に認識され,国際原子力機関(IAEA)の保障措置の強化・効率化計画「93+2計画」が取りまとめられた。この中で,原子力施設内外から採取した拭き取り試料,土壌,水,植物等の環境試料中に含まれる極めて微量(例えば10-15 gのレベル)のウラン,プルトニウム等を高い精度で分析し,その同位体組成比等から施設の核物質の使用状況を確認する環境試料分析法が,未申告の核物質及び原子力活動の探知に有効とされ,IAEAは,米国,イギリス,欧州原子力共同体(ユーラトム)の分析所とネットワークを構築して,1996年(平成8年)から順次環境試料分析を開始している。

環境試料分析では,極微量の核物質を対象とするため,試料に核物質等の混入を防ぎ,極めて清浄な状態において分析する高度な技術とそのための施設が必要となる。我が国でも自ら環境試料を分析・検証する能力を確立するとともに,欧米の分析所とともにIAEAのネットワーク分析所として国際的に貢献することを目指し,平成10年度から日本原子力研究所においてクリーン化学分析所の整備を開始した。

3)余剰兵器プルトニウムの管理・処分への協力

冷戦の終了と旧ソ連の崩壊は,核不拡散・核軍縮の国際的諸情勢に,非常に大きな影響を与えた。米露の核軍縮交渉により,1994年(平成6年)にはSTARTI(戦略兵器削減条約)が発効し,また,STARTIIについては,1997年(平成9年)に署名され,現在ロシアの批准による発効が待たれている。

この米露における核兵器の削減・解体に伴い,米露両国では,いわゆる余剰兵器プルトニウムの在庫が相当量生じる。このため,これら核物質が再度軍事目的に転用されないよう適切に管理・処分することが緊急の課題となっており,国際社会の大きな関心を集めている。

これに関しては,1996年(平成8年)4月のモスクワ原子力安全サミットにおいて議論され,その結果,余剰兵器プルトニウムについては,1)安全に管理され,核兵器に再利用不可能な形態に変えられ,安全かつ恒久的に処分されることが極めて重要である,2)安全な管理の責任は各核兵器国が負うが,必要な場合には,他国や国際機関の支援を歓迎する,との国際的共通認識が確認された。

我が国は,核不拡散・核軍縮への貢献の一つとして,当事国である米露やその他関係国と緊密な連携を図りつつ,これまで我が国が培つてきた平和利用技術を活用して,余剰兵器プルトニウム処分への協力を行うこととしている。また,このような協力は,これまで我が国が推進してきた高速炉関連の研究開発により蓄積された技術的知見の維持・向上にも資すると考えられる。

具体的には,科学技術庁では,核燃料サイクル開発機構(JNC)において,1)ロシアの高速炉BN-600の炉心をMOX化するための臨界実験装置(BFS)を用いた炉物理実験,2)振動充填法により余剰プルトニウムから製造した燃料を用いた,ロシアのBN-600での照射試験,3)C ANDU炉での余剰プルトニウム燃焼に係るデータを得るための「ふげん」の使用済燃料の照射後試験データの提供,を進めている。


3. 生活・社会の充実のための科学技術

社会の成熟化や高齢化が進み,また,国民の意識が,ゆとり,潤い,快適さといつた精神的あるいは,心理的な豊かさを求めるものに変質してきている状況を踏まえ,人間が個人として,また,社会の一員として,快適で充実した生活を送るためには,健康を維持・増進するとともに,安全性を確保しつつ,生活環境や社会経済基盤を向上させる展開が従来以上に求められている。このような認識の下に,科学技術会議第18号答申(平成4年1月)において,生活・社会の充実のための科学技術の推進の重要性が指摘され,この答申を受けて,科学技術政策大綱(平成4年4月閣議決定)が策定され,健康の維持・増進,生活環境の向上,社会経済基盤の整備,防災・安全対策の充実のための研究開発が関係省庁において推進されている。さらに科学技術会議政策委員会による「平成7年度科学技術振興に関する重点指針」においても,新たに「生活者の視点にも配慮」する必要性が指摘されたことを踏まえ,科学技術庁においては,平成7年度に科学技術振興調整費を活用した「生活・社会基盤研究」を創設し,生活者の立場を一層重視した科学技術の振興を図っている。


(1) 健康の維持・増進

ゆとりと豊かさを実感できる生活を実現していく上で,国民の健康の維持・増進を図ることは基本となるものである。このため,日常生活において,肉体及び精神の健康を維持・増進するための多様な技術の研究開発の推進,さらには,人体に有毒な各種物質の発生防止・処理技術,人体への影響を低減する技術等の研究開発を進めることが必要である。また,完治困難な疾病,社会問題化している疾病等の原因究明,診断治療法の開発,そのための医薬品の開発等,医療技術の高度化・総合化を図ることが必要である。その際,人間の尊厳や生命倫理に関する多方面からの議論を十分に踏まえることが重要である。

本分野については,「がん研究推進の基本方策に関する意見」(昭和58年7月科学技術会議),「免疫系科学技術推進の基本方策について」(昭和62年8月科学技術会議),「エイズ問題総合対策大綱」(昭和62年2月エイズ対策関係閣僚会議決定,平成4年3月改正),「創薬基礎科学研究の推進について」(平成2年10月日本学術会議),「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」(平成9年8月13日内閣総理大臣決定)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。

がん研究については,平成5年度をもつて終了した「対がん10ヵ年総合戦略」(昭和58年6月がん対策関係閣僚会議決定)によって,がん遺伝子の発見やウイルスによる発がんのメカニズムの解明,抗がん剤の開発などの成果が得られている。今後ともこれまでの研究成果を踏まえて,がんの本態解明とその成果の臨床・予防への応用を促進していく必要があるとの認識の下,平成6年度から新たに「がん克服新10ヵ年戦略」をスタートさせている。この戦略においては,関係省庁の緊密な連携の下,1)がんの治療成績の面上,2)がん患者や家族の立場に立つた医療の展開,3)有効な予防法の実行による,がん発生頻度の減少,4)がんに関する情報ネットワークの整備をめざし,具体的には,がんの転移メカニズムの解明,遺伝子を用いた正確な診断法の確立,重粒子線がん治療装置を用いた治療をはじめとする新しい治療方法の確立,コンピュータ・テクノロジー等の進歩を取り入れた先端的な診断機器の開発,がん患者のQOL(生命・生活の質)の向上等を進めることとしている。また,近年世界的に患者数が増加しているエイズに関しては,昭和62年にエイズ対策関係閣僚会議により「エイズ問題総合対策大綱」が策定され,さらに,平成4年3月にはエイズ対策の一層の充実を図るため改正されており,同大綱に基づき,科学技術庁,文部省及び厚生省において研究が進められている。なお,「経済構造の変革と創造のための行動計画」第2回フォローアップ(平成10年1月閣議決定)において,疾病対策等健康関連科学技術については,関係省庁の連携体制を整備して推進することとされている。

科学技術の研究開発とその活用は,高齢化に伴う課題の解決に大きく寄与するものであることから,「高齢社会対策大綱」(平成8年7月閣議決定)に基づき,高齢者に特有の疾病に関する調査研究,福祉用具及び医療機器の研究開発を推進している。また,「長寿社会対応科学技術推進の基本方策に関する意見」(昭和61年科学技術会議)に基づき,厚生省の長寿科学研究推進十か年事業等関係省庁における老化等の問題に関する研究開発が進められている。

このほか,本分野の研究開発として,科学技術庁,厚生省,文部省,農林水産省,通商産業省,建設省等により,新興・再興感染症や循環器系疾患その他難治性疾患の原因解明,予防・治療法の確立,医薬品開発に資する研究開発,心身障害,精神・神経疾患の発生機序の解明,診断・治療法の開発,先端技術を用いた診断治療機器の研究開発,市場性が乏しく民間企業による研究開発の遅れている医薬品の開発,新たな機能性を有する食品・食品素材の開発,食物アレルギー発症機構の解明とその予防治療に関する研究開発等が推進されている。

平成10年度に実施された健康の維持・増進分野の研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-3-15表 のとおりである。

第3-3-15表主な健康の維持・増進に関する研究課題(平成10年度)


(2) 生活環境の向上

生活そのものの質的向上,人口構成の高齢化,出生率の低下,内分泌かく乱物質問題等への対応については,個人,家庭,地域社会等の主体的な活動にゆだねられる部分もあるが,科学技術面での対応を適切に図ることによりこれらの諸問題の解決に向けて大きく寄与することが期待されている。

このため,個性を発揮し,文化的な生活を送ることを可能とする豊かな生活環境を整備するために,衣食住等の生活技術,精神的充足やコミュニティー形成を支援する技術等の研究開発を推進することが必要である。

また,高齢者,障害者等が大きな不便を感じることなく生活し,また,積極的に社会参加することが可能になるように多様な要請にきめ細かく応える福祉技術の研究開発を推進することが必要である。

本分野については,「長寿社会対応科学技術推進の基本方策に関する意見」(昭和61年5月科学技術会議),「障害者プランーノーマライゼーション7か年戦略」(平成7年12月障害者対策推進本部)等が策定され,研究開発が積極的に推進されている。

本分野の研究開発は,科学技術庁,厚生省,農林水産省,通商産業省,運輸省,郵政省,労働省,建設省等により推進されている。具体的には,高齢者・障害者用情報通信システムの研究開発,高機能製品や機能的生活空間の開発に資する人間感覚計測応用技術の研究開発,農村アメニティの維持・増進に関する研究,木材揮発成分が持つ生活快適性等の評価研究,交通機関におけるヒューマンエラーの防止技術確立のための基礎研究,高齢者向け機器等各種福祉技術の研究開発,障害者のニーズに適合した生活支援システムの研究開発,高齢化を支える保健・医療に関する生活情報システムの構築と効果的な活用に関する研究,効果的な交通安全対策に関する研究等の研究開発が推進されている。また,良好な沿道環境の保全技術の開発も行われている。

平成10年度に実施された生活環境の向上分野の研究の主要なものを各省庁別にまとめると第3-3-16表のとおりである。


(3) 社会経済基盤の整備

都市化の進展,交通・運輸や通信システムの発達等社会全体が高度化,複雑化していく一方で,農山漁村地域においては,人口流出や高齢化が進展し,産業・生活両面にわたる活力の低下に加え,公共交通・輸送機能の低下,国土保全,水源かん養,自然環境保全等の多面的で重要な機能の低下等の問題が生じており,社会経済基盤の整備が内外から求められている。このため,総合的な国土の利用を図るための技術,公共的施設等の土木・建築に関する技術及び交通・輸送に係る研究開発,高度な情報通信システムの確立を目指した技術及びデータベースの構築に関する研究開発並びに廃棄物処理技術の研究開発を推進することが必要である。また,環境に対する負荷の低減に留意しつつ,消費者要請の多様化,労働力の不足等に対応するための生産活動に関する技術の研究開発を推進することが重要である。

第3-3-16 表主な生活環境の向上に関する研究課題(平成10年度)

本分野については,「建設省技術五箇年計画」(平成7年9月:建設省),「運輸省研究計画」(毎年度:運輸省),「21世紀を展望した運輸技術施策について」(平成3年6月運輸技術審議会運輸省),「情報通信研究開発基本計画」(平成9年4月郵政省電気通信技術審議会),「公害の防止等に関する試験研究の重点的強化を図る必要がある事項について」(毎年度:環境庁)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。

具体的な研究開発については,建設事業の品質管理体系,構造物安全性向上技術の開発などの総合的な国土利用や建設技術等に関する研究開発が,建設省等により推進されている。また,超電導磁気浮上方式鉄道技術開発,超音速輸送機用推進システムなどの高度な交通・輸送システムの開発のための研究開発が運輸省等により推進されている。さらに,超高速ネットワーク技術や高度情報資源伝送蓄積技術の研究開発などの高度な情報・通信システムの開発のための研究開発が郵政省等により推進されている。

平成10年度に実施された主な社会経済基盤の整備に関する研究課題をまとめると 第3-3-17表 のとおりである。

第3-3-17表 主な社会経済基盤の整備に関する研究課題(平成10年度)


(4) 防災・安全対策の充実

1)防災科学技術

我が国はこれまで数多くの自然災害を経験し,これに対し各種の防災対策を講じてきているところであるが,平成7年1月に発生した「阪神・淡路大震災」は,6,400人を超える死者を出すなどその被害は甚大なものとなつた。今後とも,災害から人命・財産を守り,被害を軽減していくためには,国土全体のより高度な防災化を指向した努力を継続していくとともに,災害に強い生活習慣を工夫していくことが必要である。このような防災対策をより効果的に講ずるためには,災害の未然防止,災害が発生した場合における被害の拡大防止,災害復旧という一連の過程において,科学技術上の知見を十分活用することが重要である。

防災に関する研究開発は,災害から人命・財産を守るための効果的な対策を実現していくための科学技術体系を確立し対策に反映させることを目的としており,今後とも,防災上の要請を踏まえつつ,防災に関する研究開発を体系的かつ計画的に推進していく必要がある。このようなことから,社会環境の変化及び科学技術の発展を考慮しながら,長期的視野に立って,今後10年間程度を展望して我が国全体として取り組むべき研究開発の目標を明らかにした「防災に関する研究開発基本計画」(昭和56年7月内閣総理大臣決定,平成5年12月同改定)が策定されている。特に,地震防災については,科学技術会議政策委員会の「阪神・淡路大震災を踏まえた地震防災に関する研究開発の推進について」(平成7年5月決定)において,「防災に関する研究開発基本計画」の点検を行い,本計画の地震防災に関する内容について今回の震災を踏まえてもなお適切であるものの,本計画の効果的な実施を図ることが重要な課題であると考え,そのための必要な方策を取りまとめている。現在,各研究機関において研究の充実強化,体制整備等も図り,この決定に沿った研究開発が進められている。

また,阪神・淡路大震災を契機として,地震防災緊急事業5箇年計画の作成及びこれに基づく事業に係る国の財政上の特別措置や,地震に関する調査研究の推進のための体制の整備等を定めた「地震防災対策特別措置法」(平成7年6月公布,平成7年7月施行)が成立し,本法に基づき総理府に新たに地震調査研究推進本部が設置された。

また,中央防災会議では,平成9年6月に「防災基本計画」の改訂を行った。さらに,阪神・淡路大震災は戦後我が国の大都市直下を襲つた初めての大震災であり,大都市地域における震災対策をさらに積極的に推進する必要があることが再認識されたため,平成4年に策定された「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」をより効果的なものとするための検討が行われ,平成10年6月に本大綱を改訂した。

一方,測地学審議会においては,平成9年6月にはこれまで実施してきた地震予知計画及び火山噴火予知計画について総点検を行い,「地震予知計画の実施状況等のレビューについて」及び「火山噴火予知計画の実施状況等のレビューについて」を取りまとめ,その評価を踏まえ,平成10年8月に,今後5年間を通した,「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」及び「第6次火山噴火予知計画の推進について」を建議した。

今後,地震防災科学技術の一層の高度化を図り,多分野の研究者等の協力の下で総合的な推進を図っていくためには,関係研究機関相互の連携強化を図るとともに,共同利用実験施設等を中核とするような地震防災に関する研究拠点を設けて,地震防災科学技術の推進に力を注いでいくことが重要である。このことを踏まえ,平成9年9月に,航空・電子等技術審議会において「地震防災研究基盤の効果的な整備の在り方について」が取りまとめられた。

各省庁における防災科学技術分野の研究課題は,第3-3-18表に示すとおりであり,その内容は地震防災研究,火山災害対策,雪氷災害対策,気象・水象災害対策,地球科学技術など多岐にわたり,かつ,宇宙開発技術,海洋開発技術等先端科学技術を駆使しているものもかなりある。特に,地震防災研究については,科学技術振興調整費を活用した「大地震時における構造物等の破壊過程解明のための試験体設計及び解析に関する調査」及び「都市基盤施設の地震防災性向上に関する調査」を実施しているほか,科学技術庁防災科学技術研究所において全国1,000か所の強震計による地震動観測を実施するとともに,実大三次元震動破壊実験施設の整備等を実施している。また,科学技術振興調整費による緊急研究「岩手山の火山活動に関する緊急研究」を実施している。さらに,平成9年度に科学技術振興調整費を活用して実施した,「火山ガス災害に関する緊急研究」,「八幡平地すベり及び出水市土石流に関する緊急研究」について,それぞれ平成10年9月,平成11年3月にシンポジウムを開催した。

第3-3-18表 主な防災科学技術分野(自然災害を中心とした)の研究課題(平成10年度)

国際協力については,米国,ロシア等との間の科学技術協力協定,日米包括経済協議,天然資源の開発利用に関する日米協力(UJNR)の枠組みの下で,防災科学技術に関する二国間の研究協力が進められている。特に,地震防災に関しては,平成8年4月にコモン・アジェンダに新たに追加された自然災害軽減の分野の枠組みの下,日米地震被害軽減パートナーシップによる協力が推進されている。平成9年には共同調整委員会において約40の研究課題が共同プロジェクトとして位置付けられた。

平成11年2月には第2回共同調整委員会が米国で開催され,双方がそれぞれのプロジェクトについて現状報告等を行った。また,平成10年10月に米国において第1回日米地震防災政策会議が開催され,地震防災対策について意見交換がなされた。

このほか,国際協力事業団(JICA)を通じ,研修員の受入れや専門家の派遣等の技術協力を実施している。

さらに,1989年(平成元年),我が国等が共同提案した「国際防災の10年(IDNDR)」の決議が第44回国連総会で採択され,特に途上国における自然災害による人的損失・物的損失及び社会的混乱を国際協調行動により軽減することを目的として「国際防災の10年」が開始されたが,これに先立ち我が国の推進母体として,1989年(平成元年)5月に「国際防災の10年推進本部」(本部長内閣総理大臣)が組織され,平成元年11月,事業推進の基本方針が決定された。この趣旨に沿ってワークショップ等を開催している。

IDNDRシンポジウムとして,平成11年2月には,愛知県名古屋市において,科学技術庁,防災科学技術研究所が共催で「IDNDR水災害防災シンポジウム」を開催した。

また,阪神・淡路大震災の経験を踏まえ,災害の形態や防災対策に共通点を有する地域レベルにおける国際協力の重要性にかんがみ,特にアジア地域の国際防災協力の推進を図ることを目的として,平成7年に神戸にてアジア防災政策会議が開催され,アジア地域における防災センター機能を有するシステムの創設等の検討を行うことで参加国各国が一致した。

同システムの具体化に向け,平成8年にアジア防災専門家会議,平成9年にアジア防災協力推進会合を東京にて開催した。平成10年7月には同システムの事務局として,防災情報の収集・提供,防災協力の推進に関する調査等の多国間防災協力を行うアジア防災センターが兵庫県神戸市に開設された。さらに,アジア防災センターは平成11年2月に「アジア防災センター国際シンポジウム」を兵庫県神戸市で開催した。

2)地震調査研究

我が国は世界有数の地震多発地帯に位置しており,有史以来,数多くの地震被害を経験している。このため,地震災害の軽減を図るため,地震に関する調査研究の推進が重要な課題である。

特に,平成7年1月の阪神・淡路大震災は被害が甚大であり,我が国の地震に対する体制にも大きな教訓を与えた。我が国における地震調査研究は,昭和51年に内閣に設置された地震予知推進本部(本部長:科学技術庁長官)の下で関係省庁が連携して進められてきたが,阪神・淡路大震災を契機に,地震に関する調査研究の一元的な推進のための体制の整備等を目的とした地震防災対策特別措置法が成立し,同法律に基づき,平成7年7月18日付で,地震調査研究推進本部(本部長科学技術庁長官)が新たに総理府に設置され,同時に地震予知推進本部が廃止された。

地震調査研究推進本部は,地震に関する調査研究に関し,

ア.総合的かつ基本的な施策の立案
イ.関係行政機関の予算等の事務の調整
ウ.総合的な調査観測計画の策定
エ.関係行政機関,大学等の調査結果の収集,整理,分析及び評価
オ.上記評価を踏まえた広報

を行うこととしている。同本部の発足により,我が国においては,地震調査研究推進本部を中心に,科学技術庁,文部省,通商産業省,運輸省,建設省等の関係省庁が,密接な連携・協力を行いつつ,地震調査研究を進める体制となった( 第3-3-19図 )。

地震調査研究推進本部には,第3-3-19図に示すとおり,政策委員会及び地震調査委員会を設置しており,政策委員会は上記の地震調査研究推進本部の業務のうち,ア.イ.ウ.及びオ.に関する調査審議を担当し,地震調査委員会はエ.を担当している。

政策委員会は,予算小委員会を設置し,関係省庁の地震調査研究に関係する予算等の事務の調整を実施しているほか,平成9年8月には,5年から10年を見通して,「地震に関する基盤的調査観測等の計画について」を取りまとめた。これを受け,同年8月には地震調査研究推進本部が

第3-3-19図 地震調査研究推進本部の体制

「地震に関する基盤的調査観測計画」を決定した。また,平成9年10月より,政策委員会の下の総合的かつ基本的な施策に関する小委員会において,地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について,総合的かつ基本的な施策の検討を行っており,平成11年1月に案を取りまとめ,意見募集を行った。寄せられた意見についての検討を行った後,報告書改訂案を取りまとめ,推進本部において決定する予定である。

地震調査委員会は,平成7年7月の発足以来,毎月1回の定例会のほか,被害地震等の発生の状況に応じて臨時会を開催して地震活動の総合的な評価を実施しており,平成11年3月までに併せて53回開催している。

同委員会では,平成9年8月に,これまで日本で発生した被害地震に関する情報及び最新の地震調査研究の成果を取りまとめた報告書「日本の地震活動-被害地震から見た地域別の特徴一」を公表するとともに,平成11年3月には同報告書追補版を取りまとめた。また,活断層の評価を実施しており,これまで糸魚川-静岡構造線活断層系(平成8年9月),神縄・国府津-松田断層帯(平成9年8月)及び富士川河口断層帯(平成10年10月)について,評価結果を公表した。これらの評価結果は,毎回報道機関,インターネット等を通じて広報するとともに,地方公共団体等にも説明している。

さらに,平成9年6月より地震発生後の余震の発生確率の評価手法について検討を行い,平成10年4月に「余震の確率評価手法について」を取りまとめた。さらに平成9年11月より地震発生の長期的な確率を評価する手法の検討を行い,長期評価部会では,その試案を公表し,意見募集を行い,その意見に対する考え方及び試案の改訂を行い,平成11年1月に報告書を公表した。

各省庁の地震調査研究関係の主な施策は, 第3-3-20表 に示すとおりである。科学技術庁では,「地震に関する基盤的調査観測計画」に従い,高感度地震観測施設,広帯域地震観測施設,海底地震観測施設等の整備を進めるとともに,都道府県及び政令指定都市が行う活断層調査等に地震関係基礎調査交付金を交付している。また,科学技術庁防災科学技術研究所において,広域深部観測施設,全国1,000か所の強震計ネットワーク等による地震に関する基礎的な調査研究を実施している。文部省では,国立大学等における地震予知に関する基礎的研究を推進している。通商産業省工業技術院地質調査所では,活断層等による地震発生ポテンシャル評価の研究を推進している。海上保安庁水路部では,海域における測地,海底地形や活断層等の地震予知の基本となる調査研究を推進している。気象庁では,全国における地震観測等を行うとともに観測施設の整備,地震予知研究等を推進している。また,大学等関係機関の地震観測データを収集し,科学技術庁と協力してこれを整理し,分析した結果を地震調査委員会及び大学等関係機関に提供している。建設省国土地理院では,全国約1,000箇所のGPS連続観測のほか,VLBI(超長基線電波干渉計)など最先端の測量技術を用いて地殻変動やプレート運動の観測を行い,その成果を地震調査委員会等に提供している。また,観測施設の充実に努めるとともに,観測データを分析し,地震予知に関する研究を推進している。

第3-3-20表 各省庁の地震調査研究関係の主な施策(平成10年度)

3)労働衛生,安全の確保等

自然現象に起因する災害やこれに伴う一般的な二次災害に関する研究開発以外にも,火災・危険物災害,大規模油流出等に対応するための技術及び巨大構造物・システムの運用・保守管理技術の研究開発を推進することが重要である。

また,ハイテク化や情報化が進展した結果として,日常生活や職場環境において増大しつつある新たな危険に対処する技術の研究開発を推進することが必要である。

このような,火災・危険物災害対策技術,大規模油流出対策,労働衛生・安全の確保等の研究開発が,農林水産省,通商産業省,運輸省,労働省,建設省,自治省等により推進されており,関係省庁が平成10年度に実施した主な研究開発課題は, 第3-3-21表 のとおりである。

第3-3-21表 主な労働衛生,安全の確保等に関する分野の研究課題(平成10年度)


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