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第1部  科学技術政策の新展開-国家的・社会的な要請に応えて-
第3章  これからの我が国の科学技術政策の在り方
第3節  科学技術と人間・社会との調和を図る


科学技術の恩恵を受けるのは,究極的には,現在及び将来の人間である。科学技術が飛躍的に発達した20世紀の末になって,科学技術と人間・社会との調和が課題として認識されるに至った。

1994年(平成6年)に英国サセックス大学科学政策研究ユニットのギボンズ所長が,その著「The New Production of Knowledge」(邦題:現代社会と知の創造〜モード論とは何か)で,科学技術活動が,既存の学問領域内の研究者集団の価値や方法により研究が進められ評価されるモード1に対して,現実の問題解決や社会的応用を指向するモード2という様式が出現したと指摘した。環境問題,医療・保健,南北問題等の研究に該当するモード2では,問題解決・問題指向であり,科学知識の蓄積への貢献だけでなく,目的に対する効果や影響までも含む多様なものが評価の対象になり,財政的のみならず社会的な説明責任が求められるとしている。

人間の活動は科学技術とのかかわりを深めていく方向にあり,科学技術と人間・社会の調和を確保していくことは,今後ますます重要であり,そのアプローチを固めていく必要がある。


1. 経済社会の変革の予測

第一に,科学技術がもたらす経済社会変革を,人間・社会への影響を含めて,予測することである。

情報通信技術は,情報の伝達にかかる費用や時間を大幅に減ずること等を通じて,我々の社会・経済を変革してきている。また,ライフサイエンスは,医療,環境,農林水産業,産業等の広範な領域において,生命現象の科学的理解に基づく革命的な発展を今後もさらにもたらしていく可能性を秘めている。

科学技術が経済社会に与えるこのような影響を,今後の科学技術の発展を展望しつつ,予測していくことは重要である。それは,国や社会が直面する課題に対症療法的に対応するために科学技術を用いるばかりでなく,科学技術が原動力となって社会経済システムが変革していく中で課題が克服されていく可能性にも着目する必要があるからである。そのように科学技術に最大限の役割を演じさせるべく先見性をもって対応していくことが重要である。科学技術の目標設定にも,この先見性は不可欠である。

そのような予測を行う際には,変革が人間・社会に与える影響についてきめ細かく調べる必要がある。科学技術が引き金となって起こる経済社会変革が,人間・社会に好影響を与えるように導いていかなければならないからである。このため,人文科学,社会科学,自然科学の力を結集して,予測作業を行うことが必要である。


2. 科学技術のプラス・マイナス両面を踏まえた対応

第二に,科学技術のプラス・マイナス両面を踏まえた対応をすることである。

前章の国民の受け止め方・期待( 第2章第2節3 )でふれたように「科学技術と社会に関する世論調査」(平成7年2月調査),「将来の科学技術に関する世論調査」(平成10年10月調査)の結果には,科学技術によるマイナスの効果の発生を望まないという国民の意思が現れていると見ることができる。特に,環境に悪影響を与えたり,安全性を損なうことは,マイナスの効果が大きいと受け止めるであろう( 第1-2-37 , 38図 参照)。

科学技術には,プラス・マイナスがある。これは,科学技術は人類の知的活動の最前線に位置するものであるので,避けがたいことであると考えることができよう。重要なことは,マイナスの効果の可能性をきちんと予測し,隠したりしないことと,マイナスの効果が発生しないよう周到な準備をすること,マイナスの効果が発生してい外いか点検をきちんと行い,発生している,あるいは発生の兆候が現れた場合には,抑制し,除去するための対応を速やかに講ずることである。

政府の研究開発については,マイナスの効果の発生の可能性,発生した場合への備え等について,事前評価,中間評価において,評価項目に加えることが考えられる。本年1月,日本学術会議会長は,負の効果の発生あるいはその可能性をできるだけ早期に発見し,研究の方向を変えて負の効果を抑制するか除去する方法をプロジェクトが所期の目的を達成する終了時までに開発しておくことを可能とするひとつの方法として,俯瞰型研究プロジェクトの実施を提案( 巻末参考資料 )しており,このようなものも参考としていくべきであろう。

科学技術の明暗両面を踏まえた対応について大切なことは,やはり,人文科学,社会科学及び自然科学を含む総合的な視点をもち,人間,社会と科学技術の関連を考えることである。


3. 国民一人一人の合理的判断の基礎作り

第三には,国民一人一人が科学技術について考え,合理的な判断ができるようにすることである。

科学技術が生活の隅々まで浸透し,従来の大量生産製品によりもたらされた画一的な豊かさや便益とは異なり,今や,個人が科学技術から得る便益に関して,多様な選択肢が提供されている。環境への低負荷を配慮した製品,インターネットを介した電子商取引,地上波に加え放送衛星,通信衛星を使ったテレビ放送,普通の写真に加えデジタルカメラ等枚挙にいとまがない。

社会全体が科学技術を賢明に使いこなすとともに,個人レベルでも,自らの目的達成のために科学技術をどう使うか,選択の幅が広がっており,その中から最適なものを選ぶ判断が求められる。その際,脳死による臓器移植のように,選択の判断に倫理・価値観が大きな役割を占めるものもある。,一人一人が,科学技術について,単にその科学的,技術的な内容だけでなく,その応用からもたらされる様々な便益,倫理・価値観への意味合い,社会や環境への影響なども含めて考えて,それを使うか判断することができることが求められる。

学校教育や生涯学習の中では,このための土壌を一人一人の中に形成していくことが求められるし,理解増進活動においては,一人一人がそのように考えるベースとなる客観的な情報を分かりやすく伝えることを重要視すべきである。ここで「伝える」というのは一方的に情報を流すだけでなく,国民の側からの反応も得て,ともに考える過程を設けることが重要になってこよう。,そこでは,国民一人一人は単に情報を与えられるのを待って受動的に振舞うのではなく,情報を求め,積極的に意思表示することが期待される。

国民との接点となる理解増進の担い手には,学校の教員,研究者,科学館等の学芸員,マスコミ,行政など様々ある。

国民の科学技術に関する知識の情報源は,圧倒的にテレビ,新聞であり,理解増進に関して影響力が大きいと言える。

また,科学者や技術者の話についての国民の関心は高くなってきており,約57%の人が科学者や技術者の話を聞いてみたいとしている。研究者の側でも,7割以上の者が,自身の研究を一般国民が理解できるようにしたいと思っている。国民が話しを聞いてみたい分野としては,地球環境問題,生命に関する科学技術や医療技術が多いが,研究者の方では,自分の専門外のことを説明することには躊躇する傾向がある( 第1-3-8 , 1-3-9図 )。

研究者は,研究という仕事の面白み,研究の現場の雰囲気といった科学技術の魅力を伝えることができる存在である。このようなことが伝わることが,国民が人間の活動としての科学技術,知識を生み出しそれを役立てようとする活動に興味を持つ第1歩ではないだろうか。その意味で,研究者が,その顔の見える形で国民に語りかけることはきわめて重要である。

平成10年11月,スペースシャトルディスカバリー号での飛行中の向井宇宙飛行士からの短歌の下の句の呼びかけに応えて,14万点を超える応募があったことは記憶に新しい。

また,研究者が国民に語りかけるときには,双方向のコミュニケーションを取り入れることで,世の中が科学技術に何を求めているかに直接触れることができ,それは研究活動の糧になるに違いない。

第1-3-8図 国民は科学者の話を聞いてみたいか,研究者は話をしたいのか

第1-3-9図 国民が研究者の話を聞きたいと考えている分野

14万人がこたえた宇宙からの短歌下の句の呼びかけ

向井千秋宇宙飛行士は,日本人で初めて,2回目の宇宙飛行を行った。平成10年10月30日(日本時間)打ち上げられ,11月8日帰還したスペースシャトル「ディスカバリー」号に,ジョン・グレン前米国上院議員(1962年(昭和37年)に宇宙船「フレンドシップ」7号で宇宙飛行)とともに,搭乗科学技術者(ペイロード・スペシャリスト)として乗り組み,生命科学,宇宙医学等の分野の実験を実施した。

そのフライトの中で,小渕総理,竹山科学技術庁長官(当時)とのVIPコールにおいて,宇宙における無重力の不思議さを短歌の上の句「宙返り 何度もできる 無重力」として詠み,続く「下の句」を呼びかけた。

この呼びかけには,5歳から101歳までの幅広い年齢層から,また,日本国内のみならず海外からも,総数14万を超える応募があった。

応募された作品の中から,審査の結果選ばれた受賞作品のうち,内閣総理大臣賞・向井千秋賞は,以下のとおりである。

一般の部 内閣総理大臣賞・向井千秋賞
宙返り何度もできる無重力 湯舟でくるりわが子の宇宙東京都 坂本 一朗(68歳)
小・中学生の部 内閣総理大臣賞・向井千秋賞 宙返り何度もできる無重力 水のまりつきできたらいいな長野県 丹野 真奈美(小4)

このフライトの直前1週間の間に行われた将来の科学技術に関する世論調査では,宇宙開発への期待として,「夢とロマンの実現」を挙げた者が49.0%,「技術の進歩」を挙げた者の割合が47.1%あった。


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